僕と優子と短編集   作:鱸のポワレ

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高校二年生で明久と優子は付き合っている設定です。明久の誕生日なので書きました!


僕と優子と誕生日

アタシ、木下優子は去年の夏に明久に告白されて、付き合い始めることにした。一緒に登校して一緒にご飯を食べて一緒に帰る。毎日が充実していた。

しかし、そんなアタシに今、人生最大の壁が立ちはだかっている。それは、明久への誕生日プレゼント。

実は二ヶ月前から内緒で手編みのマフラーを作っていたのだが失敗してしまい、今やペラペラの布となってしまっている。明日が明久の誕生日。このままじゃまずい。本当にまずい。

 

「はぁ」

 

もう、何度目かもわからない溜息をつく。

放課後にどっかで買って来なきゃいけない。何にしようかな……。

誰かに聞きたいけど、誰かに聞くってなると思いつくのは愛子と代表ぐらいだ。

不幸中の幸いというやつか、二人が丁度やってくる。

 

「優子ー、次は体育だから更衣室行こ」

「うん」

「……優子、何かあった?」

「なっ!?なんでわかったの」

「……優子のことなら分かる」

「流石代表だね」

 

代表には敵わないな……。

アタシは抱えていた悩み、明久の誕生日プレゼントについて二人に打ち明けることにした。

 

「実は、明久にあげる誕生日プレゼントを考えてて…」

 

愛子は、ふむふむと頷き話し出した。

 

「それならさ、プレゼントはわ・た・し、っていうのはどう?」

「な…何言ってんのよ。できるわけないじゃない」

「ゴメンゴメン。代表はどう思う?」

 

今度は、無表情ながらも真剣に考えてくれているであろう、代表に愛子が聞く。

代表は一拍おいて問題発言。

 

「……婚姻届?」

「十年後に参考にさせてもらうわ……」

「……そう?」

 

そういえば、この二人は少しずれていたんだった☆

誰か、ちゃんとしたアドバイスをくれる人はいないのだろうか。

 

「しょうがない。アイツに聞くか」

 

アタシは、ある教室に向かって歩き出した。

 

 

「秀吉はいるかしら?」

 

Fクラスの田中君?だか横山君?だかに言うとすぐに呼んできてくれた。それにしても、本当にここはAクラスと比べて酷い設備だなと毎回思う。

明久もよくこんなとこで勉強できるな。ていうか明久は勉強してないんだった……。

ガラガラガラ。ドアが勢いよく開き、秀吉が教室から出てくる。

 

「何じゃ、姉上?」

「ちょっと来てくれるかしら」

「ウム、問題ないのじゃ」

 

 

秀吉と共に学校の屋上にやって来た。

なぜ、屋上なのか。それはもちろん、誰にも聞かれたくないからだ。

実際、アタシと明久が付き合っていることを知っているのは、代表と愛子と秀吉だけだ。Fクラスの人達にバレてしまうと、明久は襲われてしまうのだ。

 

「何の用じゃ?姉上」

「急に呼び出して悪かったわね。実は明久の誕生日プレゼントなんだけど…」

「手作りマフラーはどうしたのじゃ?」

 

くっ!秀吉のくせに鋭い……。

 

「実は、失敗しちゃったのよ。代わりになるものを探しているのだけど、明久が好きなもの何か知らない?」

「別に失敗しても明久なら喜ぶと思うのじゃが?」

「ダメに決まってるでしょ!」

 

そんなのは有り得ない。失敗したのを渡すなんて頭のおかしい子だ。明久も困ると思う。

でも、彼ならそれでもアタシに優しくしてくれるだろう。アタシは明久の、そういう所が大好きだ。だからこそ、喜んでくれるちゃんとしたプレゼントを買いたいのに……。

 

「で?明久の好きなもの知ってる?」

「一番好きなのは姉上じゃろうな」

「な、何言ってんのよ!」

「本当のことじゃろ?」

「………」

「後は、ゲームとか料理とかじゃな」

「うーん。やっぱりその二つよね」

 

昨日もゲームと調理道具は考えたが、ゲームのカセットとか調理器具とかをあげるのって彼女らしくない気がする。

……うーん。

正直、参考にはならない我が弟。それでも、ここまで来てくれたことには、お礼を言うべきだろう。

 

「まあ、ありがとね秀吉」

「どういたしましてじゃ」

 

アタシ達は屋上から出てそれぞれのクラスに戻る。

もうすぐ放課後、本格的に時間がなくなってきた。

 

 

アタシは、校門の前でいつものように明久を待つ。

友達とふざけ合っている人、一人で黙々と歩く人、彼女とイチャイチャしている人、それを追いかけているFクラス。

様々な人が校門を抜けていく。そんな人達を眺めているとアタシは何故だか、自分がちっぽけに感じてしまう。アタシはこの人達の中の一人で、ただの生徒dぐらいでしか無いのではないかと。でも、それはアタシを知らない人が見た場合だ。明久から見たらアタシはたった一人の彼女なのだ。それだけで十分だ。明久にとってアタシが大事な人ならそれで。それ以外の人はどうでもいい。

それにしても明久遅いな……。

そう思ってから数分後、予想通り明久からメールがきた。

 

『ごめん優子。鉄人に捕まっちゃって、まだ帰れそうもないや。悪いけど先に帰ってくれる?』

 

正直、ラッキーだと思ってしまった。これでプレゼントを買いに行ける!

 

『わかったわ。じゃあお先に帰らせてもらうわね』

 

いや待て?こんなメールでいいのだろうか。彼女らしくもっと可愛いメールを送ろう。

 

『わかったわアッキー♡今日はもう会えないけど、後で電話いっぱいしようね I love you♡」

 

………。

一人で何やってるんだアタシは!!

結局、最初に書いたメールを送って、早急にショッピングセンターへ向かった。

バスに乗って十五分ほどで、目的の場所に。

さてと、雑貨屋さんやおもちゃ屋さんなど、色々あるがどこにいこうか。

店内案内地図と睨めっこをしていると、知った顔が横を通る。

 

「坂本くん?」

「おお、木下姉か。奇遇だな」

 

坂本くんだ。これは丁度いい。坂本くんは明久と一番仲のいい友達だ。明久の好みは把握しているだろう。というか、坂本くんも明久にプレゼントを買いに来たのかもしれない。

 

「じゃあ俺はもういくぞ。翔子に見られたら面倒だからな……」

「あの、ちょっとまって」

「ん?なんだ」

「実は……」

「ん?」

「いえ、やっぱり何でもないわ」

「そうか?じゃあ俺はいくぞ」

 

危なかったー!そういえば明久と付き合ってることは、秘密にしてたんだった。危うく、口を滑らしてしまいそうになった。

 

「もうここでいいや!」

 

半ば、やけくそ気味に目の前の店に入る。アクセサリーのお店パイナップル。ネーミングセンスは置いておいて、商品は中々のものだった。

 

「あっ、これ」

 

店の商品の棚には、ハート型のアクセサリーが置いてある。漫画とかでありがちな、半分に分けられて恋人同士で持つやつだ。

何故かはわからないが、これにピンと来た。

 

「すいません。このハートのアクセサリーください」

 

思ったよりも早く買い物が終わり、その分、家でのお楽しみタイムが増え、HPを回復することに成功した優子であった。by木下優子

 

 

ついに明久の誕生日がやってきた。プレゼントも用意してあるから大丈夫!今日は、久々のデートを楽しもう!

 

「ご、ごめ〜ん優子。ちょっと姉さんに捕まっちゃって」

「別に大丈夫よ?」

「よかった。じゃあ行こっか」

「ええ」

「はい」

「え?」

 

明久はアタシに右手を差し出してくる。

 

「手、繋がない?」

「ごめんなさい。今日はちょっと」

 

アタシはとっさに手を隠す。

裁縫で失敗をしてボロボロになった手を見られたくなかったからだ。

 

 

それから、私達は遊園地に行き一日中遊び、明久の家に来た。

 

「適当に座ってて。ご飯作るよ」

「いや、私も手伝うわ」

「お客様にそんなことはさせられないよ」

「いいの。明久の隣になるべくいたいから」

 

明久が赤くなって止まっている間にエプロンを持って隣に並ぶ。もちろんアタシの顔の方が赤い。

台所に並んで二人で料理を作る。

こんな時間が一生続いてくれたらいいのに、という希望はやはり叶わずものの数分でクライマックスを迎える。

お皿を取ろうとしたら明久も同じ事を考えていたらしく、手と手がぶつかる。

 

「ごっ、ごめんなさい!」

「ここっ!こっちこそ!!」

 

今度は二人の顔は、梅干しのように赤くなる。いつも手は繋ぐが不意打ちはずるい!

お互い照れて余り喋らなかったが、なんとか料理が完成した。

 

「じゃあ食べよっか」

「ええ、頂いたきましょ」

「「いただきます」」

 

私達は、お互いのことやAクラスのこと、Fクラスのことなどほかにも、たわいもない話をしながらご飯を食べ進めた。

 

「それにしても流石の腕前ね、明久」

「そうかな?ありがと」

 

パエリアにサラダにスープ。どれを食べても、十分店を出せるぐらいおいしかった。アタシも手伝ったが、ほとんど明久だ。本当にアタシは彼女らしくない。

 

「優子、今自分のこと攻めたでしょ?」

「え!?どうしてそう思ったの?」

「そりゃ、その、か、彼氏だから」

 

明久は照れて下を向き、テーブルに向かってそう喋った。うん、アタシも照れる。

二人の沈黙が続くと、耐えかねて明久が話し出す。

 

「で?ど、どうしたの」

「アタシ彼女らしくないなと思って」

「え?」

 

ポカンと口を開けていた。バカだけど可愛い。バカわいい。そんな言葉を発明しているうちに明久は言葉を発した。

 

「優子は十分最高の彼女だよ!」

「そう?」

「うん。その証拠にキスをする時だってちゃんと……」

「って!何を言おうとしてんのよ。恥ずかしい」

「ご、ごめん」

 

その後は無言となり、静かに晩餐は終わりを迎えた。

 

「そろそろ帰ったほうがいいんじゃない?」

 

お皿を洗いながら明久が言う。

 

「そんなに出てって欲しいの?」

 

少し意地悪に返すと、明久は困った顔をしてから喋りだした。

 

「いや、夜になると危ないかなって」

「じゃあ泊まっていい?」

「ええっ!?」

「彼女が止まるのって、そんなに驚くことかしら」

「いや、まあどうだろうね」

「で?泊まっていいの?」

「まあ、優子がいいなら構わないけど」

「じゃあお言葉に甘えて」

 

その後アタシ達はお風呂を済ませて、談話をしたりゲームをしたりした。

 

「ふぅ。そろそろ寝よっか」

「そうだけど、その前に少しいいかしら」

「何?」

 

アタシは鞄の中からプレゼントを取り出す。

 

「はい、誕生日おめでとう」

「ありがとう。忘れられてたかと思ったよ」

「彼女よアタシは……」

 

明久は、ごめんごめんと言いながらプレゼントを開けて行く。

 

「えーっと、これはハートのストラップか。ありがとう大事にするね」

 

明久が笑顔を作る。何というかぎこちなかった。

 

「あんまり気に入らなかった?」

「え!?そんなことないよ。でも、優子手を怪我してたからプレゼントは編みものだと思ってたんだ。だから驚いちゃって」

「ああ、それね」

 

痛いところを突かれたな……。気づいていたなんて、アタシのことよく見てくれてる証拠だと思うとすごく嬉しかった。

 

「実は、失敗してただのペラペラの布になっちゃったの」

「それって、今持ってる?」

「あるけど……」

 

アタシは再び鞄の中に手を入れ、失敗したマフラーを出した。

 

「これなんだけど」

「もらってもいいかな?」

「別にいいけど、そんな物どうするの」

 

そう問いかけると今度は、純粋な笑顔で明久は答えた。

 

「優子が頑張って作ってくれたからね。大切に使わせてもらうよ」

「そんなペラペラなの使えないわよ」

「でも全然寒くないよ。優子の愛情がたっぷりで暖かいからね」

 

明久は、なんてバカなんだろうと呆れてしまう。でもそんなことより、明久の優しさが凄く嬉しかった。アタシは、彼のこんなところに惚れたんだろうと思う。

 

「バカ。でも……ありがと」

「うん」

 

明久が返事をすると同時に彼の胸に飛び込み、耳元で囁いた。

 

「大好き」

 

 

 




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