極東の城塞   作:アグナ

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ラノベ作家の作者たちのツイッターを見ると僅かな文章からも教養の高さが垣間見えますよね。特に榎宮祐先生とか(親ばかも凄いけど)
ああ、いうの見ると何故ブレイクするのかよく分かる気がする。

つまり何が言いたいかって言うと、
ライトノベル作家スゲエ、ということです。


by教養もヘッタくれもない前書きを書く趣味二次創作家より


雨降って地固まる…?

 東京、千代田区の三番町。そこに《正史編纂委員会》を取り仕切る四家が一つ、沙耶宮家別邸が存在した。そして書斎にいるのは二人、この別邸の主たる《正史編纂委員会》東京分室室長、沙耶宮馨と懐刀の甘粕冬馬だ。

 

「いやあ、前回もそうだけど今回も凄いね。ご老人たちの何人かは被害を聞いて本当に倒れたそうだよ」

 

 朗らかに言ってのけるのは沙耶宮馨。手元には今回の事件に関する報告資料が存在した。

 

「そりゃあそうでしょう。結論から言って神殺しが三人と『まつろわぬ神』が一柱。東京の一角で大決戦を繰り広げていたんですから」

 

 困りましたねー、と棒読みで同調する甘粕。双方が話題と取るのは言わずと知れたヴォバン侯爵襲来の顛末である。―――ことは既に三日前のこと。東京の一角を舞台に壮絶な戦いを繰り広げた王たち。その決着は最古参の王を撃退するという結果に終わった。

 

 これを以って衛はまた新たな戦歴を積み、共闘とはいえ、最古参の王とも渡り合った草薙護堂の評価もまた国内で上がっている。だが、それはそれとして戦いの後には後始末と言う仕事がある。二人が態々、東京分室ではなく沙耶宮邸に集まっているのもそれが関係していた。

 

「舞台となった青葉台は文字通り吹き飛んだ(・・・・・)上、その周辺にある同目黒区の東山や上目黒も住宅が何棟か崩壊し、さらには陸上自衛隊三宿駐屯地も同様の被害を受けて一時大混乱に陥ったとか。舞台となった目黒区青葉台を周辺にとんでもない被害ですねぇ」

 

「しかも近くにあった山手線は渋谷駅とお隣、恵比寿。東急東横線は祐天寺から同渋谷駅にかけて線路が一部吹き飛ばされて現在まで超ピッチで復旧中。中心地である青葉台を中心に落雷(・・)が多数落っこちた影響で停電+電線が焼け落ち、こっちも同様に復旧作業中、と」

 

「目黒の川が何本が氾濫を起こしたようですよ?」

 

「事件後の交通不良も含めると諸々で三桁に届く億単位だそうだ」

 

「ああ、京王井の頭線も断線しているみたいですね。渋谷から駒場東大前辺りまで」

 

「というより青葉台近くの交通は壊滅状態だね。青葉台の住宅街みたく全滅じゃあないところがせめてもの情けと考えるべきかな?」

 

「首都高もやられてましたからねえ」

 

 電車、車という交通の要に加え、警察庁第三方面本部を始めとし、既に挙がっている陸上自衛隊三宿駐屯地及び、目黒の航空自衛隊含む自衛隊目黒基地は半壊。日本経済大学の東京渋谷キャンパスを始めとして学校も幾つか同様の被害を受けた。因みに挙げた経済大東京渋谷キャンパスは半壊ではなく全壊だ。同じく全壊した産能能率大学代官山キャンパスと仲良くなれそうだ。

 

 さらに始末に終えないのはエジプト大使館やセネガル大使館、渋谷のギニア大使館もまた同様に被害を受けているということだ。青葉台にある二つの大使館は住宅地同様に壊滅、ギニアの大使館は半壊の被害で済んでいるが全く良くない。漏れなく国際問題である。

 

「セネガルとギニアからは早速、どういうことだと問い合わせが相次いでいるそうだよ? いやあ外交官も大変だ」

 

「魔術結社多くあるエジプト辺りは憐憫の抗議文が届いていたそうですね。別筋で聞いた話ですが、以前かの国もヴォバン侯爵によって……」

 

「憐憫の抗議文って、なにそれ読んでみたい」

 

「後で取り寄せますよ」

 

 アッハッハ、と笑う二人だが、その笑いはもうどうとでもなれという笑うしかない笑いだった。なるほど、ご老公が何人か倒れても仕方がない凄惨たる被害だ。ニュースは引っ切り無しに取り上げているし、ネットもまた大騒ぎ。

 

「さて、甘粕クン。カバーストーリーはどうするべきだと思う?」

 

「普通に「超局地的嵐が~」で良いんじゃないですか? いっそ、どっかの国が作った気象兵器がどうのと、ネットに匿名で書き込んで見るとか」

 

「いいね、それ。陰謀論者がいかにも好みそうじゃないか。表向きには」

 

「ガス爆発とか」

 

「爆発の被害じゃあないねえ」

 

 神殺しがどういうものか。二人は日本が誇る代表的な神殺しのお蔭で嫌と知っていると思っていたが今回の被害で日本に住んでいた『一人目』の王がどれだけ稀有な存在かを痛感していた。

 

「しかし、我らが先王には多大な借りを作ってばっかりだね。『女神の腕』が動いてなかったら今回、人的被害も馬鹿にならなかったはずだ」

 

「そこら辺幸いでしたね」

 

 そう、被害を考慮してくれる王というのが彼を扱う上で組織として最も貴重な存在であると思い知ったのである。そんなこと知らんと暴れまわる二人の王のお蔭で。

 

「流石は有言実行で専守防衛を務めるだけあると喜ぶべきかな? まあ、彼の身内にいざこざが存在していない限りは、と付くけど」

 

「過去の出来事であろうが一度傷つけられれば、相手が存命である限り徹底して報復するとも分かりましたからね。何分、争いごとを嫌うだけあって有事の際、衛さんがどういった行動を取るかはデータに欠けますからね。『賢人議会』ならばその辺りも詳しいんでしょうが」

 

「他国で誕生した王の弊害だね。しかもその間に自分で組織を立ち上げちゃったもんだから僕らの入る隙間もなかった上、先行してやらかす(・・・・)馬鹿が何人か居た所為で印象も悪かったからね。考えるとよくもまあ『同盟』出来たものだ」

 

 感心するように馨は言う。こうして改めて口にすると『一人目』がどれだけ温厚で稀有な王かがよく分かる。そして、にも関わらず彼に関する知識を《正史編纂委員会》が思いの他有していないことも。

 

「甘えすぎ、ということもあるんでしょうが一番は……」

 

「『女神の腕』かい? 噂通り、情報の取り扱いは世界でも五指に入る結社だね。間違いなく。ヴォバン侯爵襲来の件も完全に《正史編纂委員会》は出遅れたのに彼らは事前に動けたし、これで内外問わず組織力の印象的な上下付けが済んでしまったわけだ」

 

 ここから見える結果は《正史編纂委員会》と閉塚衛は『同盟』しているのであって、仲間ではないということだろう。甘粕や沙耶宮、それから桜花と友人である恵那辺りまでならば身内と見て個人的に動いてくれそうではあるが、やはりそれでも繋がりが薄いと考えてしまう。

 

「よくも悪くも他人に超絶無関心ですからねぇ、衛さんは。テレビの向こうの悲惨な事件にも素で「それで?」という反応する勢いで」

 

「流石に自ら人死にをさせる行為には出ないし、一応考慮してみせる行動はするけれどやっぱりその辺りは他の王と同じく身内以外は例外なしのようだから」

 

「金沢の件ですね。桜花さんは多少響いていたようですが、衛さんは平時変わらず。衛さんもまた『王』であるということですか。まあ本来、そこら辺を考えるのは私たちの仕事なんですが……ああ、こういうことですか?」

 

「そういうことだね。僕らも無意識で彼に求めすぎていたようだ」

 

 ヴォバン侯爵、襲来。この件でよく分かったのは沙耶宮や甘粕含み、大小の差違はあれど『一人目』の王の存在に甘えすぎていたことだろう。致命的なのはこの一点。それに比べれば周辺被害など大したことではないと言い切れるほど。

 

「認識の誤差は時に仲たがいの原因を作る。このタイミングで気付けたのは本当に幸いだったよ」

 

「その辺り衛さんは知っていたのかもしれませんね。真っ先に自分の組織を頼る辺り特に。いやまあ、自分で創った組織ですから使うのは当然でしょうが、同じ『同盟者』としては不甲斐無いというしかありませんね。国内の問題ですし」

 

「彼の組織に国籍という考えがあるかはともかくとして、僕らからすれば外国の組織だ。つまるところ、僕たちは自分たちの問題にも関わらず外様にことの始まりから終わりまで頼り切っていたというわけだ」

 

 情報の取り扱いは世界随一。そう称するのは彼らもまたその恩恵を与ったことがあるからに他ならない。国内で起こる『まつろわぬ神』の案件。『一人目』が関わった事件の隠蔽工作の裏には彼ら『女神の腕』が影として存在していた。

 

「さて、このまま行くと借金が果たして幾らになると思う?」

 

「もう既に微妙な状態ですけどねぇ。力の差はこれ以上となく見せ付けられましたし、主導権は最早、あっちに傾いています。情けでこちらに渡されているものの、外の組織から見れば下に見られるほど支えられてますし」

 

「うん。それが一番の問題だ。僕らが此処にいるのも即ちそこに帰結する」

 

 以前、新たに誕生した『二人目』を利用し、組織の整理を行なうと馨は言った。その政策は現在も裏で動いており、風見鶏と不穏分子らのあぶり出しは済み、順調に整理は進んでいる。しかし、

 

「行動が遅すぎたね。これは貧乏くじを引いたかな?」

 

「どうします? 今からでも『二人目』に付きますか?」

 

 馨は憂うような顔で言い。甘粕は逃げを口にする。そう―――甘えすぎていたのもわかった。頼りすぎているのもわかった。だからこそ、借りを返済するためにも組織の風通りをよくするよう行動を起こすのは良い。

 

 だが果たしてそれを以って今までの借りを返済できるだけの組織力を発揮できるかといえばそれは否だろう。身動きが未だしにくいことを考慮しても国内の問題を他人任せも同然に済ませていたという結果は既に消せるものではない。

 

 これで内外問わず力の上下が出てしまった。貧乏くじとはそういうこと。一度出た結果から脱却するには相当以上の労力を有することになる。まして組織の能力で劣ってしまう以上、彼の組織とは別の視点から『一人目』と援助できる体勢を作る必要があるのだ。

 

「まさか。それをすればいよいよ以って致命的だし、何より僕個人として嫌な逃げようで趣味じゃない。僕は追うのも追われるのも嫌いじゃないが、逃げるなんてとてもとても。君もそういう口だろう?」

 

「いやあ私としては逃げたい気分なんですがね……。でもまあ、王だのなんだと色々ありますが、それを差し置いても同好の士を失うのは気分的に嫌ですねえ」

 

「その言葉が聞けて良かったよ。では、失点を返していくとしよう。これまで以上に働く破目になるけど頼むよ」

 

「まずは即急に組織を整え、次いで『二人目』との関係も表しに、『女神の腕』という情報操作に卓越した組織を相手に王に有用性を示しつつ、組織の立場を作っていく……口にするのは簡単ですけどこれとんでもなく難しくありません?」

 

「うん、難しい。だからこそ出来ることからさっさと片付けていくべきだ。組織の再編は今一番やりやすいだろうし、まずは此処から片付けよう。幸い、というべきか目端の効く聡い連中は既に『二人目』に言い寄っているからね。これを期に一気に組織図を塗り替えようか」

 

 状況は前以上に厄介だ。それこそ甘粕が言うよう『二人目』に身を寄せ、非道と取られようとも一度、形だけでも対等な関係として関係を再構築したくなるほどに。しかしそれは関東で舵を取る馨の趣味じゃないし、甘粕もそこまで非道になりたくはない。

 

 甘えないと口にしたばかりで申し訳ないが、幸い仰ぐべき王は温厚。『女神の腕』も権力とは皆無の組織であるから向こうからの口出しはない。第一、不利有利もこっちが考えていることであり、向こうは全くといって気にしていないだろう。

 

 だが、それは《正史編纂委員会》と『女神の腕』に限っての話。別の組織から見れば『同盟』にも関わらず完全に《正史編纂委員会》が足元に縋り付く形になっているし、そんな組織は足元を見られて当然だ。その辺り察しがいいものは既に『二人目』に乗り換えだしている。正しくどこもガタガタ。我ながら酷い状況だ。笑ってしまうほどに。

 

「……もういっそ、僕も『女神の腕』に入ろうかな?」

 

「それやったら色々お終いですけどね。その時はお付き合いしますよ」

 

「まあ最終手段の一つとしてとって置こうか。まずは動いてやってみて、それでも駄目なら仕方がない。では駄目になる前に地道に点数稼ぎをしていこうか」

 

「休みが欲しいところですけどねえ」 

 

 舞台役者が大物だと裏方も寝ていられない。受難の日々は暫く続きそうだと二人は同時に苦笑してから行動を開始する。点数稼ぎの前の整理整頓。もはや、時間は掛けられまい。幸い、移り変わりの激しい風見鶏もまた、今は『二人目』の王に擦り寄っている。相手方には優秀な才女エリカという宰相もいる。

 

「向こうとも一度会合の場を持つべきだね。それと『女神の腕』とも」

 

「さてエリカ嬢はともかく『女神の腕』が応じるかどうかまでは。あそこ機密性が高いですからね。お家芸が情報操作だけあります。ついでに主と似通って、概要は知れどそれ以上のことは私たちも詳しくありませんからね」

 

「君でも影は踏めないかい?」

 

「踏めないというより個人的印象を言うならば『無い』というのが正しいでしょう。聞く限りハッキリとした組織としてあるのではなく相互補助団体であり個人の友好という糸で繋がったネットワークですから。本人に聞いて、幹部ないしはそれに順ずる人間を紹介してもらったほうが早い気がしますよ」

 

「では、それで行こう。とはいえ、まずは再三のことだけど片付けるところから始めよう。形を整えないと会議も何もないからね」

 

「そのように」

 

 そう言って二人は解散した。甘粕は馨の懐刀として諸々の実働を。馨は各方面と連絡を取り合いながら駆け引き及び今回の一件で出た被害に関する事務作業を。余りにも栄えすぎる舞台役者を傍目に、その流れに付いて行く為、舞台裏のスタッフもまた必死に行動するのであった―――。

 

 

 

 戦いは終わった。『二人目』とは既に後日再び会う事を約束し、限界を超えた疲労を癒すために家に帰ろうかという道中のこと。嵐が去った空の下で二人の男女が無言で路を行く。

 

「………」

 

「………」

 

 ―――さて、舞台裏の者たちが仕事で修羅場同然になっている頃。一通りの事件を終えた主役の一人である衛もまた修羅場の真っ只中にいた。落ちる沈黙、それは衛と桜花、二人の間に作られたものであった。

 

「………」

 

「……ふう、衛さん」

 

「ッ!」

 

 息を吐き、衛の名を口にする桜花を前に衛は引き攣った表情でビクリと震える。その様子に最古参の魔王や『まつろわぬ神』と激戦を得た魔王の貫禄は無く、ただひたすらに情けない。が、かといって堂々とする胆は衛であれ持ち合わせていない。特に大切な身内が相手だと、この魔王は途端に弱くなってしまうのだ。

 

「……そこまで弱気な反応をされると「された」側として複雑ですが。少なくとも私は気にしていませんよ。死にかけたのは自業自得ですし、それを助けて頂いた私が貴方に言うべきことなど感謝か謝罪か二つしかありませんし」

 

「それは違うだろ。『まつろわぬ神』に関してはこっちの不手際だ。それに第一、お前が俺を不安に思わなければ起きなかった事態だからな。普段の振る舞いが悪い俺に責任がある。後……お前の内心まで気が回らなかったのは友人としての失態だな」

 

 桜花の言葉に衛が即座に返す。その様変わりは劇的で、先ほどの弱気は何処へやら口調も視線もハッキリしている。

 

 瞳は何処までも誠実に、普段とは打って変わった表情だ。身内を大切にするがゆえの礼儀。親しきものにも礼儀ありとは国境の垣根を越えて同じ趣味を愛する多くの友人と、それらを組織する組織の長として相応しいものだった。

 

 こういうところを見るとこの人もまた『王』なんだな、と桜花は内心思った。

 

「いえ、それでも勘違いをして『まつろわぬ神』を呼び込んでしまうという愚行は誰かに押し付けられるものではありませんし、押し付けるものでもありません。何せ、そうなると分かって個人の私情で災いを呼び寄せたんですから。仮にそれを以ってヴォバン侯爵を撃退していてもどのような被害が起こったか。ですから謝るべきは私です」

 

 しかし礼儀ありとするならばこちらこそキチンとしなくてはいけないとも桜花は思う。『まつろわぬクリームヒルト』の襲来。それは桜花自身が乞い願ったからこそ起こってしまった最悪であり、ことの次第を広げてしまった原因でもある。

 

 街を壊したことに付いてはあの場に集い戦った皆の責任であるが、少なくとも不用意に『まつろわぬ神』というガソリンを注ぎ込んだのは桜花であり、彼女を置いて責任者はいない。起こりうると分かって引き金を引いたのは彼女なのだから。

 

「謝るべき相手はもっと他にいますが、まずは貴方に謝らせてください。―――この一件、我が身の不徳が成したところなれば、親愛なる君に多大な迷惑をかけた事、本当に申し訳ございません」

 

「……謝罪、しかと受け取った」

 

 三つ指をついて丁寧に謝罪する桜花に対して、衛もまた複雑な感情を追いやり、謝罪される側としての了承を返す。これにて両者の「礼」はしかと交わされたことになる。

 

「それと命を助けてもらったことに感謝を。……ということですから、気に病むほどに気にしなくてもいいんですよ? 仕方がない救命行為だったんですから」

 

「……いや、それにしてもアレだろ。ここは人として、というか男として無視してはいけない責任と言うか、筋は通しておくだろう的な」

 

 転じて緩くなる雰囲気。しかし、衛的には薮蛇だった様子でみるみるうちに小さくなっていく様子が幻視できる。原因はハッキリしている、救命行為、口付けに関してである。

 

 衛がここまで恐縮する原因は寝ている相手に了承も、「そういった関係」も無いにも関わらずキスしたこともそうだが、衛が権能を流し込むため桜花にキスをした直後に彼女の眼が覚めたことにもあった。

 

 起きた直後、桜花はパニックになった。我が事ながらあれほど取り乱すとはと思うが、何せ起きてみればどこぞの童話同然、眠り姫を起こすような状況だったのだ。そりゃあパニックにもなる。……色々な意味で。

 

 だが、その反応を相手はどうも自分が思っている以上に悪く受け取ったらしく、あの場では別件を最優先に収めていたがいざ、事が終わるなりこれである。

 

「……まあ、でも一応ファーストキスだったんですけどね?」

 

「うがッ!?」

 

「……今時、進んでますから別にキス一つで嫁に行けないのだのどうのと騒ぎませんけど、一応私は呪術の名門、令嬢なわけでして」

 

「はうあッ!?」

 

「……しかも付き合ってもいない殿方相手ともなれば外聞も宜しくないですし」

 

「ぐはッ!?」

 

「……意外とお嫁にいけないかもしれませんね」

 

「………(返事がない。ただの屍のようだ)」

 

 桜花が言葉を紡ぐたび、さながら切りつけられたかの反応を返す衛。最後の一撃に関しては致命傷だったらしく胸を押さえて崩れ落ちた。……今にもクスリと笑いそうな桜花の表情を見ていれば気にしていないことは明らかだったが、平時とは程遠いほど余裕がない衛は気付けなかったようだ。

 

「まあでも、救命処置(・・・・)ですし。仕方がない(・・・・・)ことです」

 

「すいまっせんしたー! マジで本当にッ!!」

 

 最後の一撃が良心を抉る。刹那、それはもう見事な、流れるような動きで土下座を敢行する衛。甘粕辺りが見ていればその美しさに爆笑しながら十点満点の評価を送ろう。果たしてそれが名誉かどうか定かではないが。

 

「悪いと思ってくれているんですか?」

 

「当然だろ、救命とか理由になん無いだろ女子的に。いや、まあ助ける手段がアレしかなかったというのもあるけれど、人として男として、やらかして無責任は駄目だろう」

 

 身内を大切にするから何処までも誠実に、言い訳をせずひたすらに謝罪を。それは口に出せば簡単なことだが、素直に実行できるものがどれだけいよう。そういった意味でも衛はやはり誠実だった。

 

「そうですか、じゃあ責任取ってくれますか?」

 

「そりゃあ、もう出来ることだったら何でも」

 

「じゃあ大丈夫ですね」

 

「……うん? 何が……ッん!?」

 

「……ん」

 

 流れるような会話の中に混ざった違和。それに気付いた衛は思わず首をかしげたがそれを掻い潜って反応されるよりも早く、桜花は衛に顔を近づけ……キスをした。

 

 驚愕で固まる衛。そのまま数秒、永遠に続くかのような錯覚を感じながらも続けて、やがて、唇同士が離れるや否や衛は、

 

「な、何してんのォ!?」

 

 見事にパニックに陥っていた。

 

「何って責任ですよ? とってくれるんでしょう?」

 

「当然、そこはきちんと。……じゃなくて、今のどこがッ!? どういう因果でああなるわけ!?」

 

「行為の通りですよ。それともこれでも分からないほど鈍感ですか?」

 

「…………いや、え?」

 

 再度停止する衛。今度は別の驚愕で固まったようだ。なのでこの際、ハッキリ口にする。

 

「第一、嫌いな人と今の今まで同棲同然に過ごすわけないじゃないですか。しかも相手は私の命を二度も救ってくれた恩人。加えて年頃の同級生さんですよ? 察せ無くてもひょっとして、ぐらいの勘違いの一つぐらい起こして欲しかった所です」

 

 ―――こういう形で暴露する羽目になるとは思わなかったが、不思議と悪い気分ではなかった。というより、過去を乗り越え、もはや気にならなくなったというのが正しいか。返事を思えば今でも不安だし、罪悪感に託けているようで良心も痛む。

 

 だが、口にしたかった。第一、男としてとまで言ったんだから応えてほしい。責任とか下らない言い訳じゃなくて、本心から。育んだ絆が嘘じゃ無いというならば。

 

 四年前。一人孤独に死せる筈だった。神と魔王。人ならざる強大を前に抗う術など無く、その声は、その叫びは届かないが道理のはずだった。助けてと、そんな都合の良い救いなど有り得ないはずだったのだ。

 

 だから―――応えた黄雷の輝きは今の瞳に焼き付いている。『まつろわぬ神』も最古参も魔王も恐れることなく、見ず知らずの少女の叫びにたった一人、命も顧みずに駆けつけた一人の少年。その雄々しい背中を今も覚えている。だからこそ、隣に立ちたいと思ったのだ。だからこそ、助けになりたいと思ったのだ。

 

 つまるところ帰結するのはたった一つの思い。義理とか、恩義とか、そんなものは後付けの理由に他ならない。即ちは……。

 

「―――好きです、衛さん。他ならぬ貴方のことが。四年前より、私の命を助けていただいたその時からずっと、お慕いしておりました」

 

 仄かに赤らむ頬、はにかむような笑みとそれに反するような何処までも静謐な瞳。口にした思いと共に衛は初めて圧倒されていた。それは申し訳なさやら良心の痛みとかではなく、一人の少女に向けられた真っ直ぐな思いに。

 

「……それ、今言うの卑怯くさくない?」

 

「思いましたけど、でも、これが私の本心です。包み隠さず語る本当の」

 

 真っ直ぐと射抜くような視線。それを向けられた衛は思わず肩を落とすように脱力し、内心で一つ覚悟を決める。―――これは駄目だ、逃げられない。

 

 もとより、逃げる選択肢などないが。こうなれば己もきちんと応えなくてはなるまい。ぶっちゃけ口にするのは酷く躊躇われる。桜花と違い、こちらはそこまで大層なものではないから。

 

「そうかい……ならこっちも返事を返さなくちゃならないな」

 

 思い浮かぶ返答に我ながら苦笑する。身を捩り、僅かに緊張する桜花には悪いが、元より好き嫌いで地を往くロクデナシだ。強い思いの桜花と違い、なんと軽く浅慮な理由か。されども告白された側の責任だ。どれだけ陳腐な回答であれ、返すことにこそ意味がある。

 

「俺も桜花のことは好きだよ。第一、嫌いなら直ぐ傍に置かないし、何より年頃の男子としては今時見かけない大和撫子の女子なんて美人さん、ましてそれが気が同級生ならば嫌いになる理由なんてないだろ。……ああ、ホント。お前に比べりゃ陳腐も陳腐だが、俺はお前が好きだ、桜花」

 

 ああ口にするのは柄ではない。ほら、今にも顔が熱くて死にそうだ。でも、それでもその返答に満足してくれたのだろう。桜花は目を見開いた後、桜咲くような笑みで、

 

「じゃあ―――これから改めて宜しくお願いしますね? 衛さん」

 

「今までとあんまし変わらないだろうケドな。まあ、宜しく桜花」

 

 なにやら気恥ずかしい思いのまま握手を交わす二人。赤くなる互いの顔にお互い苦笑を洩らす。手に触れる熱さと胸に射す思い。より深い絆を得て、今回の事件はようやく幕となった。さて、このあといよいよ気まずいぞ、なんて情けないことを思いながら、衛は空を見上げる。

 

 ―――嵐は去った。美しい青空が彼らの明日を示すように輝いて見えた。




無理だ……書けない……!(訳:恋愛とかマジ無理ッスわー)


そんなわけで結果書かれた一人称だか三人称だか分からん地の文と私の妄想。
イチャラブとかピュアな恋愛とか私には無理だわー。
人間関係廃れ過ぎてるし、一人が好きな間抜けですし。

ともあれこれで今章終了。次回二つほど幕間挟んで次章へ行きます。
せっかくなんで次回予告風を最後に書いておきました。酒呑ちゃんイベントの影響で暇な人はどうぞ。


※因みに作中で使った三つ指を付くとは比喩表現であって現実でやるとマナー違反なのでご注意を。


次回予告(風)

「アーサー王が出現しただァ?」

 それは一本の電話から巻き起こる次なる騒乱の気配。英国に住まう『賢人議会』が重鎮、アリス・ルイーズ・オブ・ナーヴァラルより齎された知らせ。タイミングが悪いことに不在である英国の神殺し、『黒王子』ことアレクサンドル・ガスコインに変わり、衛は日本を渡り英国へと向う。

 一方、神殺しアレクもまた雪降る山脈で一人、この次第の元凶を幻視し、闘志を燃やしていた。暗躍するは宿敵たる神祖グィネヴィア。『最後の王』求むる彼女が呼び起こした神の名は―――。

 そして……。

「私は私の目的のためにお前はお前の目的のために、手を組もうではないか」

「ええ、その提案は私としても喜ばしいことですわ。是非にその御力ををお貸しくださいませ、ゼウス様」

 様々な思惑が交錯する中、遂に最源流に類する『鋼』が目を覚ます―――。
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