極東の城塞   作:アグナ

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やあ、相変らず更新ペースが駄々下がっている駄作者ダヨ。
執筆しだすと半日近く掛かるから休日しか更新できないでござる。

書き溜め? 途中で書くのを止めると前と後ろで矛盾したりキャラがおかしくなるので無理なのだ。自分、不器用なもので。中途半端にやめるとやる気も消し飛ぶし。

以上、作者の言い訳終了。
英国編開始、デス!



『鋼』の英雄
蠢く策謀


 どこかにある人里離れた夜の森。人が手付かずの自然が支配する領域、そこで人ならざる超常の力を有する両者が相対していた。

 

 片や完璧の比率で構成される肉体をギリシャの古き服装、トーガで包む若い男。片や白人の十二、三かの年頃と思わしき少女。金の髪は緩やかなカーブを描き、その身には黒いドレスを身に纏っている。両者共に想像を絶する美男美女である。

 

「『鋼』の神を探索する神祖とは汝であろう? グィネヴィアよ」

 

 ―――動乱の先触れはその言葉から始まった。

 

「黄金の雷、神々の王、御身は……」

 

「然り。己はゼウス。全ての神々を治める者なり。そして再び問おう、グィネヴィアという神祖は汝のことか否かと」

 

 神祖グィネヴィア。それがゼウスが接触した人物の名であった。《神祖》とは嘗て地母神でありながらもその神格を失い人の姿に墜ちた女神を差す言葉だ。とはいえ、人に墜ちたとはいえ、神なる者を祖とする者らである。その力は才媛と呼ばれる魔女巫女たちの異能を簡単に上回る。

 

 取り分け、神祖グィネヴィアはその中でも格別の能力を誇っている。その身は女神で無いにせよ、神殺しとて彼女が持つ力を前に油断できるものではない。特に謀略、という方面では元女神は伊達ではなく、有する知識はずば抜けている。

 

 そんな彼女に接触する理由はゼウスの目的を知っていれば当然の帰結だと言えよう。全ては神殺しとそれを容認する人々に再び神の威光を思い出させるがため。仰ぐべき『鋼』の王を求める神祖と同じく『鋼』を求めるゼウスは此処に接触した。

 

「……失礼しました。確かに神祖グィネヴィアといえば我が身をおいて他にないと存じ上げております」

 

「フム。では間違いあるまい。探していたというのは他ならぬ神祖グィネヴィアであるゆえな。その身が神祖で名がグィネヴィアであるならば他一切を問わぬよ」

 

「探していた? 神々の王ゼウス様が私を?」

 

 ゼウス神が言い放った想像外の言葉にグィネヴィアの口調が一瞬砕けたものとなる。

 

「然り。聞いておるぞ、汝、グィネヴィア。その身が『獣』を殺す至上の『鋼』。『最後の王』なる存在を捜し求める神祖であると」

 

 『最後の王』……ゼウスが言うこの存在とは巷でまことしやかに囁かれるまつろわぬ神の指す言葉だ。曰く、一世代に神殺しが揃うたびにその全てを殺害してきた最強の『鋼』。その多くが戦場で死ぬのが神殺しであるが、神殺しと戦い、最も多くを殺してきたものこそ『最後の王』である。

 

「……神々の王に隠し立ては出来ませんわね。如何にもその通り。私は私が仰ぐべき主を探しております。今は眠り、そして再び地上に顕現するまでを微睡む主を」

 

「それだ。我もまた、『最後の王』なる存在を求めているのだ。あらゆる神殺しを駆逐する『鋼』の英雄。正に我が目的を遂げるに相応しい存在であろうが」

 

「では、私を探していた用件とは……」

 

「応とも。我が手ずからその悲願に手を貸してやろうと思うてな。『最後の王』なるものの復活は我も同じく望むところ。ならば、既に幾年と地上を歩き、かの王を探す汝こそ、かの王を復活させる手がかりとなろう」

 

 悠然と言い切るゼウス。その言葉にグィネヴィアは思わず瞠目する。……地上に出でた神々は多かれ少なかれ、歪むもの。その身はまつろわぬ故に、一度地上に顕現すればその人格は歪み、神話無き時代の古き性……荒ぶる者としての神性に近づいてゆく。だからこそ、『まつろわぬ神』とは総じて天災なのだ。

 

 しかし、このゼウスの理知的な物腰といい、言ってしまえばたかだか(・・・・)神祖であるグィネヴィアに対する厚遇といい、とても『まつろわぬ神』のそれだとは到底思えない。

 

「……疑惑の目を向けるか」

 

「ッ!? 申し訳……」

 

「良い」

 

 疑念と困惑をするグィネヴィアにゼウスはさして気を害された風も無く淡々と、興味のない事実だけを述べる言葉を返した。

 

「今の我が現状は、我が目的に由来するものよ。神祖の娘、貴様にも覚えがあろう? 至上なる神々に愚かしくも挑み、そして噛み砕きに掛かる手癖の悪い獣共を」

 

 そこでふと、思い出す。当代七番目の王。グィネヴィアを宿敵と追う《黒王子》と友好深い王が他ならぬゼウス神と引き分けた、そんな話があったことを。

 

「忌々しき哉。その折に我が雷は掠め取られたのだ……ふん、獣に情を向けた愚かな女め。奴さえ居なければ今頃、獣風情一ひねりだったであろう。とはいえ、だ。今の我では圧倒的に不足していることは重々承知。ならばこそ、我が手ずからではなく、出来るものが獣を誅せばよい」

 

 つまりは……。

 

「私は私の目的のためにお前はお前の目的のために、手を組もうではないか」

 

「成る程、そういった事情でしたのですね。御身が不快を思い出させた非礼を詫びましょう。―――ええ、その提案は私としても喜ばしいことですわ。是非にその御力ををお貸しくださいませ、ゼウス様」

 

 神殺しに神性を掠め取られたゼウス。『最後の王』の拝謁を願うグィネヴィア。求めるところは別であっても求める者は同一であるということだ。故にこそ、ゼウスはグィネヴィアを探し、提案を持ちかけたのだ。つまりは神祖と神による《同盟》。それこそゼウスが求めるものであり、またグィネヴィアとしてもその提案は悪くないものだ。

 

 例え神性が奪われていようと目前に立ちはだかる威光は紛れも無くゼウス神の、『まつろわぬ神』が性に飲まれぬ神のそれだ。グィネヴィア自身、卓越した異能者であるが、彼女は戦闘者ではないのだ。『最後の王』を求める以上、それを望まぬ者共との敵対は必然。ならばこそ、強力な護衛となるものは望ましい。

 

「良し良し。これで《同盟》は成立と言うわけだ。共に望むべき所へ至るため『最後の王』を探そうではないか。聞けば、汝は獣に追われる者。我が目よりも先に獣の牙に喰われずして、幸いよ」

 

「それは……我が身を案じていただいたこと。まこと光栄にございます」

 

 グィネヴィアを追う獣。それは当代は英国に君臨する《黒王子(ブラックプリンス)》の異名を取るアレクサンドル・ガスコインのことである。八年来の宿敵としてあるかの王にグィネヴィアは追われていた。

 

 特大の異能を有するグィネヴィアであるが、最速の足と特上の嗅覚を有するかの王が相手では謀略一つ打つにせよ、油断できるものではなく、実際、一度はかの王によって己が移住を追われている。

 

 ゼウスの提案を了承したのは相手が神であることや目的を同じくすること以外にもそう言った思惑があった。

 

「そして我らが《同盟》を記念し、一つ、土産話としてくれてやろう。わが身は神々の父なれば、何の手持ち沙汰も無く、女を寄る辺とするなど矜持に反するが故にな」

 

「土産話……で御座いますか」

 

 相変らず尊大な物言いのままゼウスは小首を傾げて問うグィネヴィアにニヤリと笑いかけながら。

 

「―――一つの可能性の話よ。ふふ、存外、当たりやもしれぬぞ?……英国に住まうアーサー王なる者。かの者の神話を紐解こうではないか、我が目が探り当てた『鋼』が眠る地でな」

 

 そう、全てはこの言葉を発端として動き出す。嘗て七人目が取り逃がした『まつろわぬ神』ゼウス。その思惑が遂に動き出した瞬間である。この後日、英国を賑わせる『鋼』の神を始めとする戦いの日々。

 

 聖戦(ティタノマキア)の序章が始まる。まずは『鋼』の英雄。胸に秘す真の思惑を隠しながら甘言囁く悪魔の如く、ゼウスはグィネヴィアをかの地へと誘った―――。

 

 

 

 

「では―――聖戦前の会議を始めよう」

 

 東京・秋葉原―――ファミレスの一角に物々しい様子で、さながら国家の安寧を考える重鎮会議が如き様相を放つ一団がいた。その一団が頭……閉塚衛は何処かの司令官のようなポーズ―――両肘をテーブルに付き、重ねた両手に顎を乗せ、安物のサングラスを掛けながら低いバリトンボイス(っぽい)口調で言った。

 

 七月の上旬。多くの学生らが長期休暇、即ちは夏休みと言う学校生活ならざる青春に思いを馳せている中、今年が高校最後となる夏休みを前に、されど青春ではなく戦争を望むが如く構えるものたちが此処に在った。

 

 そう、彼らはサークル『女神の腕』。年に二度ある聖戦(コ○ケ)を前にした彼らに青臭い青春に馳せる思いなど皆無、戦場を主催する者(サークル)として、また戦い抜く者(オタク)として目前に迫った戦がための会合を行なっていた。

 

「さて、今日皆に集ってもらったのは他でもない。進捗に付いての話だ……武。報告せよ」

 

「ハッ、では、僭越ながら私、斉藤武(さいとうたける)が報告させていただきましょう」

 

 席の奥でポーズを取る衛の背後。両手を後ろで組んで静かに立っていた『女神の腕』のメンバー、武が応じる。サークルが同人誌部門を勤める男である。

 

「現在、萌え、燃え、そして腐女子向け共に八割と終わっており、戦争に挑むには十分に間に合うかと。ただシリーズ「クーデレちゃんと○○」は作者がスランプに陥ったために今回の戦に間に合うかどうか」

 

 苦虫を噛み潰したように報告する武。「クーデレちゃんと○○」シリーズは『女神の腕』発足当時から続く看板同人誌だ。

 

「馬鹿な。武、お前何をやっていた。梓の奴がスランプだったことは元より承知だったはずだ! 憎きフランスのリリーが仕上げた悪魔の薄い本に毒され、百合(あっち)方面に傾倒していたのは周知のこと。引き戻すために行動していたのではないのか!?」

 

 詰るのは一之瀬遊衣(いちのせゆい)。他ならぬ萌え部門の同人誌の書き手にして、プロの業界でも活躍する古強者。因みに「クーデレちゃんと○○」シリーズでファン以上にファンをやっている。

 

「仕方がないでしょう! リリーの毒は異常だ! 最近だとあろうことか同じ学校の男装系女子に告白かましてマジに百合(あっち)方向へ走っているのですよ? もう彼女に通常恋愛が書けるはずがない……!」

 

「おいまて、武。男装女子だと!? リアルに存在するのか!? あの伝説の究極二次元ヒロインが……!?」

 

「湊、それ今関係ない」

 

 くっ、と反応する武に『男装女子』の部分で驚愕を浮かべた燃え部門里原湊(さとはらみなと)。そしてバッサリ切るのは腐女子部門担当の久那橋燐火(くなはしりんか)

 

「確かに「クーデレちゃんと○○」シリーズの欠けた穴は大きい。だけど、あの人気同人誌を埋める穴を私たちは知っている……」

 

「ま、まさか、燐火。あのリリー以上の毒を持つ悪魔の書を……」

 

「おい馬鹿マジ止めろ!? つーかアレは全部、焚書したはず……!?」

 

 燐火の言葉に戦慄する湊とゲンドゥポーズは何処へやらガチトーンで反応する衛。言って彼女が不敵な笑みを浮かべつつ取り出したのは、彼らが保有する究極の黒歴史……薄い本(腐)、バージョン・衛×蓮……!

 

「これを出版すれば……」

 

「絶対させるかぁあああああああ!?」

 

 瞬間、髪の毛レベルで調整した雷撃が迸る。問答無用で使用される権能。間違いなく世界一しょうもないレベルで神殺しが由縁の権能が使用された瞬間だった。

 

「ぁ、あああああああ!? 何すんのさ! リーダー!! せっかく焚書の悲劇から逃れた観賞用の奴だったのにぃ!?」

 

「お前が何してんだ、ざっけんな! てか、待て! 観賞用? 観賞用と言ったな貴様ァ!! 残りは何処にある!?」

 

 判明した黒歴史の生存の可能性にブチ切れる衛とそれを守らんとする燐火がぎゃあぎゃあと騒ぐ。因みに二人はすっかり頭から抜け落ちれて居るが、此処はファミレスである。

 

「さて、あっちはあっちで放って置いて。同人誌部門は概ね問題ないと」

 

「あれ? 蓮くんは混ざらないのですか?」

 

「ん、問題ないだろ。いざとなれば俺がやるがウチのリーダーは敵対者にはとことん苛烈だから一冊足りとして今度こそ残さないだろ。製造元(朱里)が既に制裁を受けている以上、再発行は在り得ないだろうし。次、ゲームの方の報告だ」

 

 後ろで燐火の首根っこを掴みヘルメスの権能で消えた衛らを放置して平然と蓮は進行役に徹する。

 

「リリーが担当しているいつもの特殊性癖アダルト系(ガチ方面のヤバイ奴)はともかくとして、他メンバーからなんか報告無かったか? 俺担当の奴は次の冬までだからともかく、シャルルがやらせてくれって言った奴は夏じゃなかったか? そこんとこどうよ副指令()

 

「ふむ、シャルルさんからは特に……」

 

「あ、それならウチが聞いとるよ。なんでも、メインはともかくサブは延期するー言うてたで?」

 

「何? いつの間に……ホントかよ、美波」

 

 蓮の問いに反応したのは穂高美波(ほだかみなみ)この場に集ったメンバー最後の一人にして、大阪出身の『女神の腕』の売り子である。

 

「うん。なんでもデバッグでミス見つけたとか。ほんで、直ぐに直せるものでも無いから言うてたんよ。今回は告知と体験版の頒布だけやっといてー、て昨日電話が掛かって来たんよ」

 

「そうか。ま、直してフランスからじゃあ間に合うかどうか微妙だしいいか。だが、目玉の奴は……」

 

「あ、ロンドンのじいちゃん監修のミステリノベルゲーなら、完成したって連絡が昨日届いたんよ。ウチも試しにやってみたけど中々おもろかったで? なんでもアガサ・クリスティー? をイメージしておるとか何とか?」

 

「舞台はマルセイユだっけ? 流石シャルル。どっかの百合(馬鹿)と違って、仕事はキッチリこなすか」

 

「リリーさんのアレは一種病気ですから……」

 

 蓮の言葉に困ったように笑う武。

 

「じゃあ同人誌もゲームも概ね、問題ないな。後はクリアファイルの方だが……湊!」

 

「僕も抜かりはないよっと。それより僕としては男装女子の方をだね」

 

「うわー、まだ言っとるの? きっしょいわー」

 

「そこ、煩いぞ。東京に魂売ったエセ関西弁系女子め! 博多弁でやり直せ、萌えないんだよ!!」

 

「何やと!? 誰がエセ関西弁系やねん!!」

 

「あー、あー、もうそこ喧嘩すんなって」

 

 騒ぎ始める湊と美波の二人を蓮は呆れたように仲裁する。そうこうしていると、フッとヘルメスの権能を使い、黒歴史の抹消に向った衛が帰還する。

 

「あ、リーダー」

 

「悪夢はきっちりきっかり抹消した」

 

「うぅ……私のコレクションがあぁ……ヘタレリーダーの攻め同人がぁ……」

 

「何ちゅーか、哀れやね」

 

「知るか」

 

 一仕事終えたとばかりに額を拭う衛とこの世の全てに絶望したとばかりに咽び泣く燐火。その様に一言と共に思わず美波は憐憫の視線を送る。が、衛はバッサリだった。

 

「で? 俺がいない間に何処までいった?」

 

「今回の目玉の同人ゲーが完成したってとこまでだ。ま、どれも問題やら不足は無さそうだぜ? ただ在庫が足りるかは確認できてないな。例年、来場者も増えてるから可能な限り行き渡るよう合わせて調整してるんだが……」

 

「持ち込む分にも限りがあるからな。ま、そこら辺は去年のジャンル別売上と調整してやり繰りしてくれ。何だったら委託もあるし」

 

「そうだな。各員と調整してみるさ」

 

「ん、頼んだぞ蓮」

 

「あいあい、任されましたっと」

 

 各陣の大まかな進捗が知れた以上、後は例によって、サークルの取り纏めを仕切る蓮の仕事だ。衛は委細を任せて話題を終わる。

 

「じゃ、主催者側(サークル)としての報告会は以上だな。次は、注目の作品についてだが……」

 

 ―――そんな時だった。まるでタイミングを見計らったように鳴る衛の携帯。手に取るとそこには随分の珍しい連絡先の電話番号が浮かび上がっている。連絡先が先なだけに一瞬嫌な予感に駆られ、思わず顔を顰めてしまう。

 

「どうしたん? リーダー?」

 

「いや……」

 

 その反応を見ていた美波が首を傾げて問うのを手で制し、衛は意を決して……。

 

「もしもし?」

 

 電話に出た。数秒のやり取り、相変らずの調子で話す相手に衛も簡単に応じる。と、先方が件の目的を口にした瞬間、衛は驚愕と共に相手の台詞を繰り返した。

 

「はッ―――? アーサー王が出現しただァ?」

 

 それは次なる戦いの幕開けを告げる一報。

 ―――英国の地にアーサー王の出現。衛の夏休みの行き先は此処に決する。望まざる聖戦、その始まりとも言えるゼウスの暗躍によって……。




英国編始まりとか抜かしといてほぼ関係ない話って言う。
……ぶっちゃけいうと調子が出なかったのだ。
スランプじゃないが、筆が乗らないというか……。

ということで次回から本当に英国編です。
ちょっと普段と違い、原作の神話を謎解く感じの仕様でお送りします。

最も分かる人には一瞬で分かるんでしょうが。
私、謎解きも作りも苦手ですし。

P.S
例によってオリキャラは多いが、今後出る予定はない。

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