或いはフローエ・ヴァイナハテン!
もしくはジョワイユ・ノエル!
エタ作者からの楽しい
……言ってて哀しくなってきた(誤字に非ず)。
ロンドン、ハムステッド。英国有数の高級住宅街にゴドディン公爵家令嬢、アリス・ルイーズ・オブ・ナヴァールは邸宅を構えている。その庭園、昼食時も終わり、一息ついた昼下がり、ふと―――気分転換と戯れを兼ねて張り巡らせた感応の触手を掠めた反応にアリスは虚を突かれたように顔を上げた。
そして、嘆息するようにして来客に声を掛ける。
「―――今日はアポイントメントすら無しですか。探求も結構ですが、一度、礼節と言うものを一から学び直したらどうですか? アレクサンドル」
「―――急用だ。事前に連絡する手間すら惜しかっただけだ。しかし、その反応を見るにどうやら耳はこちらの方が早かったようだな」
何処か皮肉気に言うアリスの言葉に鼻を鳴らしつつ、アリスの反応に何処か勝ち誇った声を返す来客……もとい侵入者が姿を現す。
優美に整った顔立ちと黒髪、白皙の肌、高身長に加え、引き締った体付き。ダークグレーのジャケットで着飾った様は正しく貴公子然としたもの。しかし、整った容姿に反するように態度は親しみに欠け、顔には仏頂面を浮かべている。
不機嫌なのかと彼の人となりを知らない者は誤解するが、これが彼―――英国に住まう
「それで、本日はどのような用件でこちらに? 急用とのことですが、察するにまた騒ぎの火種を置きに来たのでしょう?」
その勝ち誇ったような反応に微かにムッとしながら優美な態度で毒を吐くアリス。
「……毎度、俺が騒ぎと混乱を齎しているかのような言い様は心外だな。少なくとも貴様もその類の人間だろうが。違うのは堂々とするか隠れてするかの誤差でしかない」
「
アレクの返しにわざとらしく口に手を当てて反応してみれば、案の定、苦虫を潰したような表情をアレクが浮かべる―――アリス・オブ・ナヴァールとアレクサンドル・ガスコイン。両者の関係を一言で述べるならば政敵だ。
ともに英国に拠点を構え、組織を構える長。最もアリスの方は立場を引いて久しいが、その功績と発言力は引いた今でも健在である。そして同じく組織の長として頂点にありながら同時に世界で七人しか居ない神殺しであるアレクの方もまた然り。
通常、神殺しであるアレクと敵対などして無事で居られるはずがない。力比べをすれば神殺しに勝ることなどそれこそ同族かまつろわぬ神ぐらいしか出来ないことだからだ。だからこそ、二人の戦いとは必然、政治になる。
武力を持って立ち塞ぐのではなく、政治、駆け引き、交渉―――時として武力も交えつつ知略を労して、多面的に対抗する。それがアリスとアレクの戦いであった。
そういった意味で今回は完全にアリス不利での戦いになっている。察した通り、アレクが何らかの情報を得て、それを元にアリスの下にこうして現れたであろうことに疑いは無いが如何せんその内容に心当たりがない。情報の不利はそのまま交渉の不利に繋がる……今回は骨が折れそうだと内心構えるアリスだが、どうやら先方は今回、戦うつもりはないらしく呆気なく情報を披露した。
「例の神祖が動いた……どうも共に『まつろわぬ神』を連れてな」
「まあ、それは実に嵐の前の前触れといった情報ですね」
「まったくだ。流石にまつろわぬ神を伴っていたとなると接近は難しかったらしいが、場所の特定は済んでいる、ジョージア。カスカフ山脈の膝下だ」
「ジョージア……ですか」
ジョージアは南コーカサス……アゼルバイジャン、アルメニア、ジョージアと三国括りで呼ばれる国の一つで、古来から多くの民族が入り乱れた国である。日本だとジョージアよりもグルジアの方が聞き覚えがあるかもしれない。一度はロシアがソビエト時代に連邦構成国として組み込まれていたが、その後、独立した国で、日本ではグルジアの名の方が親しいかも知れない。ワイン産業が盛んであり、古くから他民族入り乱れたことで多くの伝承、信仰が息づくコーカサス山脈の膝下の国だ。
「狙いは知らんが、碌なことにはならないだろうな。アジアとヨーロッパの折衝地点。数多くの民族とそれによって流れた神話が息づく土地だ」
「キリスト教、イスラム教は勿論、ギリシャ神話の舞台となったり、過去には宗教争いでゾロアスター教もキリスト教と凌ぎを削った土地です」
「インド・ヨーロッパ語族は勿論のことコーカサス諸語系、チュルク語族系と民族系譜も豊かだ。特にインド・ヨーロッパ語族は……コーカサス地方ではバルト・スラヴ語派に派形する」
「スラヴ系、農耕スキタイの系譜……ですか」
「ああ、スキタイの系譜だ」
遊牧民族スキタイ、或いは騎馬民族スキタイとも呼ばれるこの民族は知っての通り、《鋼》の発祥と伝播に深く関わっている。
「コーカサス地方は入り組んでいるからな。南と北でそれぞれ違う発展をしている。南はカスピ海を望む平原の遊牧系民族が、北は山岳地帯を中心にイラン系、テュルク系が発展した」
「彼女が絡んでいる以上、恐らく狙いは《鋼》でしょうが、さて……」
一度言葉を切り紅茶を口に含んで一息吐く。その間もアリスの脳内では情報の整理が成されていた。神祖グィネヴィアの狙い……『最後の王』と呼ばれる最強の《鋼》の復活こそが悲願ならばジョージアに足を運んだのは何らかの足跡を見出したからだろう。しかし、それだけでは対象を絞りきれない。言ったようにジョージア含むコーカサス地方は多数の民族が入り乱れており、必然的に神話・宗教もその数だけ多くある。
すると、特定が難しくなるのだ。《鋼》の特性から軍神・戦神の類だろうが、まさか《鋼》の発祥に深く関わるアーレスでも召喚するつもりなのだろうか? ならば『最後の王』の正体がギリシャ神話に名高きアーレス? 在り得ない話ではないが、可能性はゼロに近いほど低いだろう。
「もう一つ気になる点として彼女と共に行動しているという『まつろわぬ神』です。如何に神祖とはいえ、彼らの性質を考えるに大人しく従っているとは到底思えませんが……或いは今回の騒動、そちらの方が関係しているのか。アレクサンドルは何か掴んでいて?」
「……そちらに関しては何も。同行しているのは間違いないが、それがどんな神かは何も掴んではいない」
「まあ、そうでしょうね。そこまで踏み込めば流石に気付かれてしまうでしょうし……太陽神などの目が良い神でしたらもしくは、そもそも此度の一件が判明する前に物理的にもみ消された可能性が高いですから寧ろ、『まつろわぬ神』が同行しているという情報を得られている時点でこれ以上を望むのは我が侭ですか」
「ただ状況証拠としてあの女が動いたというより例の『まつろわぬ神』があの女に何かを齎した可能性の方が高いと考えられる。その場合、目的を探るには『まつろわぬ神』の方を探った方が早いだろう」
「そうですが……ああ、なるほど。それで私にも態々情報を齎したのですか」
胸に秘めた突っ掛かりが取れて納得の表情をするアリス。アレクを代表格に興味と好奇心と闘争心の趣くまま火種に向って独走する気質が多かれ少なかれどの神殺しにも存在する。取り分けアレクは自身の掴んだ情報と嗅覚を元に部下すら放り出して目的に遁走する。ゆえに今度の一件もアリスに接触するよりもさっさとグィネヴィアが向かったというジョージアに走る方がらしいと考えていたのだが……。
どうやら先方の目的は『まつろわぬ神』の正体、ひいてはアリスの『霊視』を頼りに来たということだ。
「しかしこれだけの情報で見るのは難しいかと。それにそもそも『霊視』は見ようと思って見れるものではありませんし……」
「フン、だろうな。それぐらいの知識は弁えている。そちらはせいぜい聞ければ良い程度だ。俺が此処に足を運んだのは暫く此処を空けるからだ」
「……アレクサンドル、他に何か掴んで、いえ思い当たるところがあるのですね?」
その言葉は疑問系だったが、殆ど断定するような口調でアリスは言う。というのも目ざとい目の前の男のことだ。空けるというならば掴んでいなくとも思い当たる節はあるのだろう。『まつろわぬ神』の方か、はたまたグィネヴィアの方か。
「何、昔『魔導の杯』が
そういって獰猛に嗤うアレクサンドル。その瞳には多大な興味と好奇心があった―――闘争に熱を上げるのが他の神殺しならば己が興味と好奇心が趣くまま混乱と混沌を齎すのがアレクサンドルの神殺しとしての由縁なのだから。
「―――ああ、有事の際はアイツを頼れ。出来の悪い生徒ではあるが、守戦とあれば右に出るものは居ないだろう。少なくとも他の連中よりかは役に立つ」
その言葉を最後に黒王子は神速と化した。彼の王としての気質、怪盗という側面を現すが如き神出鬼没の権能《
「……相変らずですこと」
用件だけ伝えてさっさと行動する。基本、周りにお構いなしなのは他の神殺しと遜色が無い。残した情報少なくこれではアレクと同じく自らの考察でことに当たらなくてはいけない。とはいえ、心当たりはある、いや出来た。少なくとも此度の件で必要なカードは帰り際のアレクが十分に残していったからだ。
後は対応を考えるだけだが、とそこまで考えてアリスはアレクが最後に言い残した言葉を思い出して苦笑する。
「それにしてもアレクサンドル。貴方達の関係は私から見るに『教師』と『生徒』というより、『先輩』と『後輩』の方が的を射てると思いますよ? 今まで会った王の中でも取り分け貴方達の気質は似通っていますから、興味外のことには無関心な所や面倒見が妙に良い所など、特に」
最早、聞こえていないだろうことを確信しながら敢えてクスクスと去った男に声を掛けるアリス。脳裏に描くは少し前の光景、七人目の王が極東へ帰還する前の話だ。
「さて、こちらも事に当たらなくては行けませんね。まずはグィネヴィアについての詳細な情報を警戒から始めるべきでしょう。無いとは思いますが封印されたアーサー王の封を解きにかからないとも限りませんし、別の『まつろわぬ神』の襲撃に対する警戒も発せねば」
既に議長を止めたとはいえ、未だ特別顧問として『賢人議会』の重役にあるアリスはその義務を果たすべく思考を切り替える。対策もそうだが、アレクの残した情報を元手に、今度の一件に関する考察もしなければなるまい。やる事は色々とある。だが、まあ……。
「いざとなれば……先輩に事の次第を丸投げされた後輩に依頼するとしましょうか」
悪戯を考案する少女のようにその一言を付け加えて、アリスはお目付け役のエリクソンを呼び出し、各界への働きかけを始める……この数日後、『まつろわぬアーサー』と思わしき影が英国各地で確認されるようになり、一週間後。丸投げされたという後輩は事の次第に当たるため英国へと渡英するのであった―――。
☆
「―――以上がこれまでの経緯です」
「…………本当に丸投げじゃねえか」
後輩、もとい衛は実に楽しげに語るアリスの言葉が終わるなり、顔を引きつらせて言った。
「ええ、私としてもアレクサンドルの言う通りにして極東の王へ、苦労をかけることは心苦しかったのですが、何分、我々に頼れる王は他に居なく、ひいては我が国の王と《同盟》をなすもう一人の王を頼った次第にございます」
「せめて笑顔を隠せ、笑顔を」
「これは失礼をば」
さり気無く全責任をアレクに丸投げしながらいけしゃあしゃあというアリス。こういうところを見ると、何故あの王と対等な関係に在れるのかがよく分かる。
「ともかく了解した。同盟者としての義務は果たそう。『まつろわぬ神』は俺が殺す……で? その肝心のターゲットはどういう状況だ。事の経緯は分かったが、肝心の神に関する情報がまだだ」
アレクサンドルが英国を不在にしている経緯と事の発端は先の話でよく分かった。だが、今英国で確認されているアーサー王と思わしきまつろわぬ神に関しては聞いていない。衛の言葉にアリスは小さく頷き、一つ、資料を差し出した。
「これは……」
「例のまつろわぬ神が確認されている地域と今現在、我々の手元にある情報です」
A4のプリントにはそれぞれ観測員が齎した情報と英国地図に乗っ取って確認地域の所在に関するデータが記載されていた。衛は素早く視線を走らせ、必要な情報だけ抜き出していく。
「……へえ」
「なんて書いてあったんですか?」
衛が声を洩らすと隣の席から身を乗り出しながら桜花が問いかけてくる。それに合わせて桜花にも見えるよう資料を向ければ桜花もまた目をパチパチとさせながら声を発する。
「グランストンベリー、コーンフォール、ウェールズ……どれもアーサー王に縁のある土地ばかりですね」
「アーサー王の墓と考えられている修道院があるグランストンベリー。円卓があったと思われるセント・マイケルズ・マウント。魔術師マーリンが住んでいたと考えられるバージー島、ねえ。なあ、アリス嬢。思うにこれはアーサー王というよりは……」
アーサー王縁の土地に関する話を思い出しながら視線をアリスに振ると暗に衛が示す可能性に関して、同意見とばかりにアリスも同調する。
「ええ。まるでその足跡を辿るかのような行動をしている、でしょう? 不確定ですが、かの王に縁のある神がアーサー王の足跡を辿っているとも考えられます。ただ一つ、分かっているのは光り輝く剣を携えた戦士然とした男がアーサー王縁の地に忽然と現れては消えるという行動を繰り返していることです」
「
「流石に安直な発想というべきでしょう。少なくとも今日日アーサー王として伝わる『まつろわぬ神』は封印されています。破られた形跡はありませんし、可能性として同一の存在が顕現したと考えられなくもありませんが、可能性としては低いかと」
同じ神が同じ時代に呼び込まれる。可能性としては無いに等しいが在り得ない話ではない。彼ら『まつろわぬ神』は神話自体が本体であるが故にその神話が消失しない限り、消滅しない。例え、神殺しという大偉業を遂げても彼らは生体として死んでも霊体として消えることはないのだ。
ゆえに何かの弾みで同時代に同じ神が再び召喚されるという事例も過去にはあったらしい。だが、流石に同時に存在した事例は聞いたことが無い。
「殺すではなく封印と言う処置を取った以上、またも顕現するとは考え難いな。アリス嬢の考えは? 悪いが神話の考察は門外漢だ。アレク先輩ほど精通して無い」
「承知済みです。こちらも既に色々と調査を進めていますが、まだ名前に繋がりそうな発見は。剣の名が分かれば良いのですが……ただ気になる点が一つ」
「気になる点?」
「はい、これは調査員らが気付いたことらしいのですが、『まつろわぬ神』が出現した地域はその全てが高気温を記録しているのです。これは英国の気象を鑑みても異常と呼べる変化です。地方ごとに五度ほど、特にその姿が確認された場所では例年の気温と十数度の誤差が見られます」
「温暖化は高緯度ほど変化が効くらしいが……そこまではっきりと分かる異常気温だと十中八九『まつろわぬ神』が関わっていると分かりやすいな。ていうか、気温? 太陽神でも顕現したか?」
「円卓のサー・ガヴェイン卿が顕現しているというならば考えられなくもありませんが……ただアレクサンドルの事に偽りが無いならば、件の神は騎馬民族スキタイに関わり深い神です。《鋼》の特性を考えれば火に縁のある神でも不思議は在りません」
「なんであれ、今のところは正体に辿り着ける札は無いか。……アレク先輩め、思うところがあるならば予想する神の名ぐらい置いていっとけよ……」
「確信が無いと口にしたがりませんからね。予測段階で言葉に出すのを嫌ったのでしょう」
衛とアリスは同時に嘆息した。共通の知り合いの困った気質に思わず息を吐く。
「先輩、体面とか気にするからなァ」
「貴方のように気にしすぎないのもどうかと思いますが。間違った解答を提示するのが許せないのでしょう。確信があれば、恐らく自慢げに講義してくれるかと」
「さらっと皮肉るなあアリス嬢……。ただ先輩のドヤ顔は目に浮かぶ」
「あ、あの衛さん。話が逸れていますよ?」
「姫様、心中お察ししますがその辺で」
二人の話題が完全に関係の無い方向へと走り出しているのを桜花が申し訳なさげにエリクソンが冷静に口を挟む。
「おっと、失礼。ともかく『まつろわぬ神』に関しては分かった。次に出てきたら俺がやる。地球温暖化が騒がれる昨今だが、英国温暖化で熱中症患者が大量に出るのも忍びないし、アレク先輩のこともあるし、出たとこ勝負で対応するさ」
「よろしくお願いします。こちらも『まつろわぬ神』に関して調査を続けます。心当たりが無くもありませんしね」
「ん、アリス嬢も思うところが?」
「ええ、幾らか前にアーサー王の伝説に関するランスロットの考察で興味深いものがあったのを思い出しまして。今はそちらから追っています」
「ランスロット……? ……まあいいか、じゃあそっちの調査は任せた俺は『まつろわぬ神』に備える。資料を見るに今後、出没すると考えられている場所は絞られている見たいだしな」
資料に書かれたカンブリア州……湖水地方で有名な土地の名を指で引いて衛は肩を竦めた。
「さて、じゃあ話も終わったことだし……俺はシャーロキアン、もといオズワルドの所に……」
「ええ、話も終わったことですし、
席から立ち上がろうとした中腰姿勢で固まる衛。
ニコニコと笑うアリス。
静寂が、落ちる。
「……あ、あのすいません。自己紹介遅れました、私は桜花。姫凪桜花といいます。プリンセス・アリスの御噂はかねがね、我が王との会談が優先と思ったこととはいえ、こうして名乗り遅れたことを誠に……」
何か別の受け取り方をしたらしい桜花が席を立ち丁寧に礼をする。その礼に柔らかい態度で返答するアリスだが、瞬間、瞳の奥に好奇心と言う名の獣が宿った。
「いえいえ、大丈夫ですよ。桜花さん、とお呼びしても?」
「あ、はい。大丈夫です」
「ふふ、では私のこともアリス、と。ところで桜花さん、我が王、ということは桜花さんは……」
「日本の呪術組織《正史編纂委員会》の重鎮の友人だ」
アリスが何かを言う前に口を挟む衛。その瞳にはそれ以上聞くんじゃねえという神をも殺すプレッシャーが込められていた。エリクソンは密かに背筋が凍った。
「なるほど、そうでしたか……しかし意外ですね。親しい人間を除いて基本的に他人に無関心な貴方が国内組織の重役が友人とは言え、こうも傍に置いておくとは(意:ヘイユー! この娘とは一体どんなご関係で?)」
「政治は面倒くさいが俺だってある程度は仕切るさ。無関心には無関心だが、無辜の民を見殺しにするほど俺は冷血漢じゃないよ(意:向こうの組織を仲間外れにしないための人員だぜ。他意はないぜ)」
「ほうほう、では。桜花さんとは政治上のご関係で(意:本当に面子のための人員なのですか)」
「ああ、そういった意味では政治上の関係だな(意:
「そうですか。立場が立場とはいえ桜花さんも大変ではありませんか?(意:馬脚を露わすならこっちから落す)」
「いえ! 全然! 寧ろ色々と面倒を見てもらっていますし(意:英国行きの旅費とか、自身の立場を知った上での対応とか)」
「そうですか
「例えば、ですか……そうですね、同棲にも関わらず―――」
「オッケ! 分かったアリス嬢! 遠回しじゃなくて正面から来いやァ!」
「はい! では、ぶっちゃけお二人はどのようなご関係で!? 見るにとてもとても親しいご様子で!」
「遠慮もねえし楽しそうだなァ! この
逃げられないと早急に悟った衛がやけっぱちに問うとノータイムで楽しげに質問を投げかけてくるアリス。神殺しのプレッシャーを物ともせず、他人の恋愛事情に踏み込むは、流石は賢人議会特別顧問、音に聞こえし、プリンセス・アリスといった所か。傍でエリクソンが青い顔をしているのも気にせず、好奇心に身を任せた結果、望みの答えを引き出した。
「それでご返答は如何に?」
「恋人だけど? 戦いでも頼れる俺の相棒だけど? 文句あるかこの野郎」
「やはりそうだと思いましたわ!」
「ハッハー! ざまあみろアリス嬢! ニート王だとか堕落王だとか好き勝手ダメ人間呼ばわりしてくれたが社会的勝者の代名詞たる恋人を掴んでやったぞゴラァ! 見ろやこの大和撫子な和風美人を! そのまま耳年増のまま伴侶無き三十路の海に沈みやがれ」
「ええ、羨ましい限りですわ。ただ恋人の方には少しばかり同情を禁じえませんね。アレクサンドルと似通って貴方もベクトルの違いはあれど同じ穴のロクデナシ。これからのご苦労を考えれば……自然と涙が」
「なんだとこの野郎ー!」
堅苦しい話題が終わるなり雰囲気も台無しに話す二人。苦手な恋愛方面の話題をそれも自身で「この人、俺の恋人です」発言するハメになった衛は半ば自棄気味に言い、そんな衛をニヤニヤしながら経験と達者な口で恋愛事情を引き出すアリス。両者とも此処が高級料理店であることを忘れている。本来ならば諌めるべき立ち位置の二人がこの場に同席しているのだが……。
「び、美人、ですか。そうですか……」
片方は顔を赤くし、何が熱いのかソッポを向いて手で顔を扇ぎ、
「神殺しでも恋人……伴侶無き……三十路…………」
片方は蒼かった顔を灰のように白くして胸を抑えてブツブツ言う。
それぞれ別の理由で戦闘不能になった諌める立場の副官無き二人はそのまま場所も弁えず街角のおばさんが話題に取りそうな他人の恋愛事情と言う話題で盛り上がる。話の流れも、店の雰囲気も台無しに、話題そのままに喋り耽る二人、結局、話が終わり、この場を後にしたのは日が沈む寸前のことだったという―――。
クリスマスだから、ちょいキャラ崩してふざけて見た。
演出過度なだけでキャラクターは間違えてないからセーフだと私は思っている。
深窓令嬢なアリスを見たい人は、取り合えず諦めよう。
ところでクリスマスはキリストの誕生日でね!?
(非リアの聖夜とかいうクソイベに対する常套句)
怒りの日、終末の時! 天地万物は(ry