語彙力崩壊するほどヤベェ。
まだ行っていない方は是非に劇場へ!
但し行くなら一人か同性の友人がよろし。
間違っても両親や兄弟、恋人と入ってはならぬ()
―――ふと、誰かの夢を見る。
頬撫でる穏やかな風、朗らかな日の輝き、そして心落ち着く潮騒。
蒼穹の青空は天高く、此処が異国の地であることを示している。
そこに二人の人影がある。片方は少年。片方は女性。
年の差は遠く、顔立ちも異なるのに何処か似た雰囲気を纏っている。
ともすれば母と子のように。
見覚えのある少年が口を開く。
『アルマテイア……いや、女神―――』
言葉が風に攫われる。
或いは、少年が知るその名こそがかの女神の真の名。
彼と彼女の絆なのだ。
☆
「……あれ?」
目が覚める。いや、眠った記憶は無く、かといって現実に起きていた記憶も無い。ただ気がつくと己が数瞬前まで無意識であったのだと自覚した。そういった意味では目が覚めるという表現より、覚醒するという表現の方があっているかも知れない。
「ここは……」
「ロンドン市内の病院です。全く……驚きましたよ? 直前まで呪力の消耗や多少の手傷はあれど寝込む兆候を見せなかった貴女が突然倒れるなど、呪いか何かか少し肝を冷しました」
茫洋とした気のまま右往左往と顔を向ければ、掛けられる穏やかな声。目を向ければそこにはベッドの横にある椅子に座り、こちらに目を向ける女性……『賢人議会』の重鎮、アリスが困ったような微笑を浮かべている。
「それで大丈夫ですか桜花さん。お抱えの医者曰く大事無いとのことでしたが……」
「えっと……はい、特に異常は。身体の節々が痛むのと少し呪力を消耗していますが……でも、ベッドの上? 倒れた……?」
考えが纏らない。というより感覚がどうにもふわふわしている。桜花は何となくそれを自覚しながら何がどうして今に至ったのか思考を回して、
「―――――あ」
思い出す。剣の神バトラズとの死闘。その最後に現れた新たな『まつろわぬ神』、そして激情のまま雷火に直撃し、地に墜ちていった衛。
「そうだ! 衛さん! 衛さんはご無事なんですかッ!?」
「開口一番に話題がそれとは、ふふ……微笑ましいですね。彼ならば既に回復しておりますよ。まだ目は覚ましておりませんが、傷や呪力自体は貴女が目覚める一日前に完治しておりましたので流石は神殺しといった所でしょうか」
「そうですか、良かった……」
ほっと息を吐く桜花。無防備な状態で二度もかの大神の一撃を受けたのだ。万が一が有り得たがためアリスの言葉に安心する。
「さて、本来ならば彼に直接言うべきですが、先に功労者たる貴女に言っておきましょうか―――この度は我が愛国を『まつろわぬ神』の脅威から救ってくれたことに感謝を。賢人議会を代表して此処に感謝の意を述べさせていただきます。本当に、ありがとうございました桜花さん」
「そんな! 私は何も……直接矛を交えたのは衛さんですし……」
流石は
「いいえ、彼ら
「ええっと……はい、分かりました」
これ以上はかえって失礼に当たると穏やかな表情でアリスの感謝を受け入れる桜花。衛の補佐という甘粕に近い立ち位置であった桜花にとって、こういった公式の場でお礼を言われるのは経験の無いことだったので、戸惑いを隠せない。
「そ、そうだ! 私、倒れていたみたいですけれど前後の記憶が曖昧で……アリスさんは私が倒れたって言いましたけれど……?」
困った桜花は話題を変えるため、気になっていた自身についてをアリスに問いかける。
「ええ。こちらに貴女とアレクで際に突然、貴女が倒れたのです。何ら兆候が無いものですからもしや呪詛か何かを受けたのかと思い、こちらの呪術者に検査してもらったのですけど、原因が分からず……ですからこうして貴女が目を覚ましてくれて安心しました」
「私が……倒れた?」
改めて言われて見れば途中気を失った気がしなくも無い。だが、前後の記憶が自分で言ったように曖昧にボヤけたままだ。『まつろわぬ神』との戦いや、衛が重症を負った事や、かの大神の登場などで思っている以上に消耗していたのだろうか。
「夢、そういえば、寝ている間に誰かの夢を……」
アレは何だったのだろうか。
「何か思い当たるところが?」
「……強いて言うならば権能を人の身で行使した影響かも知れません。衛さんが持つ第四の権能。その力によって人の身で有りながら権能を振るうことが出来ましたけど……もしかしたら何か副作用があったのかもしれません」
「権能の共有化……ですか。それはまた珍しい力を……。確かにそれならば合点がいきます。如何に王の力といえど人の身で権能を行使するわけですから何らかの影響が出てもおかしくはありませんね」
納得したようにアリスは頷く。
「あ、そういえばアリスさん。英国の神殺し……《黒王子》アレクサンドル・ガスコインさんはどちらに? 私共々衛さんを助けてもらいましたからお礼を言いたいんですけれど……」
最後、大神ゼウスによって追い詰められた衛と桜花の窮地に登場した英国に根を張る神殺し。彼の存在がなければ衛も桜花も危うかったかも知れないのだ。
「ああ、アレクサンドルですか、彼ならば……」
………
……………
………………。
「《鋼》とは英雄神、戦神、闘神、武神、そして軍神の中でも取り分け外敵をまつろわぬ不死の神々を指す言葉だ。蛇と竜の征服者。お前の戦ったバトラズ然り、バルカンの老害が呼び出したジークフリート然り」
竜を殺して自身の血肉に変えたバトラズ。悪竜ファフニールを殺し不死性を得たジークフリート。人の世を脅かす竜を下ろして何かを得る。そういった典型的な英雄譚、ペルセウス・アンドロメダ型神話と呼ばれる神話体系を逸話に持つものは《鋼》に数えられる。
「貴様が覚えていること前提で話すが『最後の王』とやらが実在するとした場合、《鋼》の英雄、その何れかが該当すると見て間違いないだろう『この世最後に顕現する王』などと眉唾な話ではあるが、救世の英雄、ということならばその属性が《鋼》であることにも納得はいく」
グィネヴィアのことと自身の興味、そのことから『魔導の杯』に関する研究や組織運用の傍ら『最後の王』とやらに関する調査を行なってきた。今回の一件……ナルト叙事詩の英雄バトラズに関しても実のところ、少なからず可能性のある候補として調査していた。
「元々、ナルト叙事詩は神話ではなく民話だが、その価値は神話に匹敵する重要さを持っていた。ギリシャ神話とのパラレルもそうだが、これを謡った遊牧騎馬民族スキタイは《鋼》を広く伝播させた重要な民族だ。ともすれば神話の原型にかの民族が謡った民話が重要なものと見なされるのは当然の話だ」
加えて、彼らは生活習慣に武功を立てたものだけが酒宴において酒を飲めるという独特の文化を持っていた。各地首長の判断により酒宴において酒を飲めるか否が決められ、飲めるものは真なる勇士として、飲めぬものは未熟者と恥辱を飲む嵌めになる。ナルトの伝説に記された魔法の杯の原型はこの酒宴、酒が飲めるか否かで真なる勇士を定める生活習慣に求められるとされる。
「他にも黄金の杯と連中の伝説には聖杯の影が踏めるが……まあいい貴様には関係の無いことだろう。話を戻すと、つまるところバトラズとは最源流。最も忠実な《鋼》の一つと言える」
その逸話は生涯を通じて剣の
「不死にして《蛇》の征服者。剣神という特性に加えて、「石」「火」「風」「水」の神話的共生関係の手順を踏んで完成する英雄。しかも《鋼》の伝播に関わったスキタイの者共が謡った英雄ともなれば、或いはとも考えたが違ったようだ。だが、これで一つ分かったこともある。『最後の王』とは《鋼》だけでは……」
「あー、アレク先輩」
「何だ……?」
衛の声にやや不機嫌そうな声音で答える男……アレクサンドル・ガスコインその人。大方、考察の言葉を途中で食い止められたのが気に喰わなかったんだろうが、どうでもいい。
「さっきから聞いていると、気のせいか先輩は事の顛末を把握しているどころか、今回英国に襲来した『まつろわぬ神』の正体も特性も十分以上に理解しているみたいだけど?」
「ふん? 知っていたとも。そもそもグィネヴィアの奴は『最後の王』とやらを追っている。あの女が目に付けるところで《鋼》……スキタイの英雄については可能生として考えていた。奴がジョージアに動いたと聞いた時にな。今更アレスに『最後の王』は求めまい、ならば候補としてスキタイの英雄が上がるのは当然だろう」
何を言っているのだお前は、とでも言いたげな表情で馬鹿を見る目で衛を見るアレク。その言葉に遂に衛は爆発した。
「そういう大事なことは予め伝えとけよ! お前が知っていることを知っていれば態々、あの神に関する考察で悩むことも無かったんだけど!?」
「必要な情報は伝えた。ならば後は勝手に辿り着くと考えたまでだ。事実、お前たちは正体に辿り着いただろうに」
「ああ、辿り着きましたとも! だが、それは結果論だろうが。先輩がもっと早く伝えていれば事はもっと早く済んだだろ! ていうか人に丸投げしておきながらよくもまあ厚顔無恥な!」
「それは貴様の手際の問題であり俺の関与するところではない。それに俺は先を見通して動いたまで、手前の脅威を払ったところで元凶が居る以上、事件は続く。その連鎖を断ち切る上の計画的な行動だ。厚顔無恥の謗りを受ける謂れはない!」
「良くいうぜ、口では計画いうくせに何時も最後は条件反射の行き当たりバッタリじゃねえか。大体、今回だってその元凶を逃がしたみたいだし? 寧ろ、英国をキッチリきっかり護った俺と違って先輩は問題起こすだけ起こすだけ起こしておいて何も解決できてねえじゃねえか!」
「それは貴様の尻拭いをする嵌めになったせいだ! 貴様が四年前にあの神を仕留めなかったがために俺があれと交戦する嵌めになったのだ! 第一、貴様がアレを仕留めていればグィネヴィアが唆されてあの《鋼》の英雄を蘇えらせることも無かったろうに! 戦犯を挙げるならばそれは貴様だ!」
「ハァ!? 自国を他国の王様に守らせといてよくもそんな口が聞けたなオイ! しょっちゅう何かにつけては後始末を俺に回しやがって! 傍迷惑さではヴォバンのクソジジィと変わらないっつうの! この放蕩王子!!」
「貴様……! 貴様こそ、護ったと口で言う割には随分な被害を出しているようだな、自然公園の壊滅的被害を抑えるどころか増長した時点で貴様も『まつろわぬ神』と変わらんな! 周囲への配慮なしにただ暴れるからこうなるのだ! 護ると口ずさむならばもっと上手くやって見せるのだな!!」
「っざっけろ! 周囲への配慮とかどの口で言いやがる!!」
ギャーギャー喚く神殺し二人。周りからすればどっちもどっちという言葉が送られるのだが、俺は悪くねえという意識が共通している二人からすれば、必然、お前のせいだという水掛け論になる。そのまま、二人は軽く十分ほどブーメランを投げ合ってからようやく落ち着く。
「チッ、まあいい。俺の代理を務めたことに関しては礼を言ってやる。後で『正史編纂委員会』に正式な書状を送りつけてやるからそれで満足しろ」
「うーわ。超上から目線。コイツ本当にどの口でいうんだろうな」
「黙れ。そもそもこの一件に貴様を関わらせたのはあの女の意思によるものであり、俺が関与するところではない」
「本人は先輩が俺に任せればと丸投げしたと言ってたけどなァ」
「…………」
この時、アレクの脳内にニコニコと嫌らしい笑みを浮かべるアリスが現れた。二割ぐらい本気で『賢人議会』を吹き飛ばそうか迷った。
「で? 話をだいぶ戻すが、ここは何処だよ」
病院であることはわかるけどと周囲を見渡す衛。起きがけに軽い挨拶をするや否やバトラズに関する薀蓄と事の顛末を語りだすアレクのせいですっかり忘れていたが、気絶した衛からして今の状況は把握できていない。
「ロンドン市内の病院だ。あの女が手配した……フン、文句をいう力があるところを見るにもう全快した様だな」
「俺の権能は回復にも使えるからな……何? 態々心配してきたのか? まさか、先輩が?」
「俺は偶々立ち寄っただけだ。それにお前に同行していた娘の容態も気になったからな」
「はっ? 桜花がどうかしたのか?」
アレクの言葉に途端鋭くなる衛の目つき。瞳に輝く剣呑な輝きは何かがあったならば加害者はただでは置かないという無言の圧力が見え隠れする。
「貴様の思っているようなことは何も無い。寧ろ何も無いからこそ、気になったのだ。だが、まあ大事に至るほどの問題はあるまい」
「……ま、アレク先輩がいうなら大丈夫か。俺はもう回復したし、後で顔を出せば良いし」
「部屋は階段を上がって奥だ」
「了解」
端的に言うアレクに端的に返す衛。流石は先輩と後輩などとアリスに称されるだけ合って、お互いの一線に触れなければ他の神殺しらと違い友好的で在れる。
「じゃあ、アレク先輩が今まで何をやっていたかでも聞こうか。実のところ、気になる所が多くてな。グィネヴィアとの因縁やアレク先輩の追っている『魔導の杯』やらはともかくとして、あの駄神に関するところを特に詳しく、こっちは俺の個人的な事情だし、桜花もいないし、丁度良い」
言うと衛は普段の衛からは考えられない冷酷とも取れる表情をする。そんな衛を見て、何か思うところがあったのだろうアレクは一度、衛の顔を見てそれから一つ、鼻を鳴らす。
「……フン、良いだろう。此度の一件の報酬代わりに聞かせてやる。俺も二度と邪魔されるのはゴメンだからな。そちらで始末するというならば一向に構わん」
普段のアレクならばレポートにでも纏めて丸投げするところだろうが、一応借りを返すというつもりもあるらしく衛の言葉に応じる。変なところで律儀であるのだ、この先輩は。
「あれはコーカサス山脈でのことだ―――――」
そうして話題はかの神に関して。衛と因縁深い『まつろわぬ神』、ギリシャ神話に名高い偉大なる大神ゼウス。かの神と交戦することとなった顛末をアレクは語りだした……。
ところで、Fateはもうすぐ十五周年だが。
月姫は……まだか………(血涙)
グランドオーダーが流行っているからそっちに力を入れるのは企業として当然なのはともかくとして、昔からの型月ファンに対するサービスがあってもいいんじゃないかと私は個人的に思うのですがそれは。
まほよ続編でも良いのよ?