極東の城塞   作:アグナ

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絶対魔獣戦線バビロニアのアニメ化
何というか凄まじかったですね。

……ところで下半身フォーカス多くありませんでした?
アレですか、制作陣にその手の趣味の人でも居るんですか……。


それはさておき、今回から新章開始です。
拙作も遂に三十話越え……ここからは私にも未知の領域だぜ……。
というわけで感想・評価くれると作者も気合い入れちゃうゼ。
できれば感想の方がありがたいゼ!



覚悟の在り処
束の間の平穏


 文京区湯島。

 かの高名な神田明神を置く、その場所に彼女はいた。

 メジャーな神社のそれとは異なる湯島の路地裏にひっそりと存在する小さな社。それこそキチンとした神主や巫女で管理するようなものではなく、周辺住人によって管理されるようなこじんまりとした社を置くその場所が、今の彼女の借宿であった。

 

「──わかってるって、おじいちゃま。大丈夫だよ多分……もー、しつこいなぁ」

 

 人の目などないが、育ちの良さか。態々、拝殿の床に正座をしながら彼女は携帯電話で話し込む。

 外では轟々と凄まじい強風が吹き荒れている。

 

「え、男のたぶらかし方? いいよ、そんなの。どうせおじいちゃまから教わったって役に立たないに決まってるよ。どうせ時代遅れの奴でしょ? それなら桜花に聞いちゃった方が早いし。「盾の王様」と恋仲だって聞いてるしね」

 

 からからと懐かしげに笑う彼女。昔から唯一、自分と同等の剣技、同等の術理を手繰る少女の名に過去を思い出したのだろうか。

 

「それより、さ。面白そうな子を見つけたんだ。うん、「剣の王様」の方の愛人のひとりだよ。負ける気なんてないからね。絶対日本から追い出してみせるよ」

 

 三尺三寸五分……およそそれぐらいの寸法だろう包みに覆われた棒状の物体を片手で遊びながら、その横、床の上に散乱する資料を見る。

 ……資料には「剣の王様」と呼ぶ少年の周囲を取り巻く二人の少女に関する調査報告が記されている。そのうちの──特に金色の髪が印象的な美少女の写真資料を眺めてにんまりと笑った。

 

「相手にとって不足なし。この子ならきっと──恵那たちを楽しませてくれるよ」

 

 ──この国には荒事にも耐えうる卓越した『媛』の格を持つ巫女が二人居る。

 一人は彼女が……恵那が「盾の王様」と呼ぶ少年の従者『刀使の巫女』と呼ばれる『正史編纂委員会』とは懇意ながらも別の派閥に属する少女。

 そしてもう一人、『正史編纂委員会』を取り仕切る沙耶宮と同等の格を有する『四家』が一つ、清秋院の娘……『太刀の巫女』たる──清秋院恵那である。

 

 恵那が相棒……包みに覆われた棒状の、己が得物たるそれ(・・)を撫でる。

 ふと、外に目を向ければ吹きすさぶ嵐は影も形も無く、すっかり静まりかえっている。のみならず、晴天と呼ぶに相応しい青空が顔を見せていた。

 

「あの風、やっぱりおじいちゃまのせいか。ほんと、迷惑しちゃうよねェ」

 

 言って恵那は携帯電話を閉じ、ポケットにねじ込む。

 ──そこで己の携帯電話の充電が切れているのを思い出し、バッグのなかにあるはずの乾電池式充電器を探し始めた。

 

 清秋院恵那は電源の切れた携帯電話で、何者かと話していたのだったのだ。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 高校三年の秋ともなればやはり少年少女が気になるのは進路についてだ。

 日本において高校までの進学は半ば義務教育と化しているが、その先についてはそれこそ本当の意味で個人の選択の自由。

 就職するにしても進学するにしても何かと本格的な忙しさを見せる頃合いだろう。

 そしてそれは例え、神すら殺した戦士であろうと日本屈指の巫女であろうと、世界中にネットワークを持つワールドワイドな組織の幹部であろうと例外はない。

 

「う……衛さんこれは?」

 

「それはさっきやった数式の応用。ほら、二ページ戻って」

 

 神奈川某所の高校。

 その食堂に居るのは衛と桜花とそして連の三人だ。学校内のグループとしては一番、共に過ごす時間が長い組み合わせである。

 そのうちの桜花は教科書とノートを開いてうんうん唸っていた。

 

「えっと、これがこうでこれが……」

 

「くくっ、相変わらず姫さんは理数系苦手だよな。後一、二ヶ月もすりゃあ中間テストだが、その調子で大丈夫なのか? その辺どうよ? ミスタ、神殺しティーチャー」

 

「なんだ、その馬鹿みたいな呼び方は……まあ、何とかするしかないだろ。手遅れ感が否めないけど。このまま順当に行けば仕上がるだろうが、それは順当に勉強が続けられればの話だし」

 

「あー、それ? ナイナイ、超ナイ。神殺しの大将が平和に一、二ヶ月過ごせるとかないぜ。てか先々月から先月まで英国旅行に行ってきたばっかじゃん。ものの見事に夏の祭典は愚か、夏休み叩き潰れたじゃん。いや? ある意味堪能してきたのか? そこんところどうよ? シャーロックに曰く、デートとかしてきたんだろ?」

 

「煩いぞデバガミ、リリーじゃあるまいし」

 

 ニヤニヤとする連を鬱陶しげに払う衛。

 因みにシャーロックとはオズワルドの呼び名である。

 

 ──季節は既に秋。

 いよいよ持って間近に控える進路を眼前に浮き足立つクラスメイトらを傍目に衛たちは殆ど平常運転だった。最も、完全にいつも通りとはならないのはやはり今なお数学に齧り付く桜花の存在故か。

 

「……ていうか衛さん。そんな私に教える側に徹したり、雑談してて良いんですか。ご自身の勉強も大事だと思うんですけど」

 

「ん。問題ない。教科書は読み込んでるし、授業も……別件で明けている時は連のノートをパパッと見させて貰っているからな。応用問題関係さえやっとけば他は大丈夫だろ、少なくとも校内平均は取れる見立てだ」

 

「うちの大将は不真面目のために真面目だからなー」

 

 暢気に此処間違えとシャーペンで指しながら言ってのける衛に連はコーヒーを飲みながらくぐもった笑いを見せる。

 そう、この男。普段はニートだ、オタクだ、ゲーマーだとのたまっておきながら勉強は人並みに、否、神殺し関連で国内を奔走したり空けたりしていながら平均をキープする辺り、人並み以上に勉強が出来る。というのも……。

 

「ただでさえ嫌な勉強を学校外でもやるとかないだろ」

 

 ゲームの時間も潰れるし、と続ける。

 不真面目のための真面目とはこういうこと。

 面倒ごとを学校外に持ち込まないためにキッチリ真面目に授業を受けて、内容を覚えておいているからこその成績であった。

 

「……なんか不条理です」

 

「それな。コイツに勉強できる属性とかマジ無いわー」

 

「おい、失礼だぞ。てか桜花、お前もか」

 

 連の侮辱に珍しく桜花も乗っかる。

 流石に自分と同じく安定して授業に出られない上、ニートだオタクだ言っている人間が自分以上の成績を自分以下の労力で得ていると思うと腹立だしかった。

 

「普通アレだろ。此処は成績ピンチで姫さんや俺が笑いながら教えてお前が唸るってのがテンプレだろ? だのにこの王様と来たら……空気を読めよ」

 

「なに、どうでも良いときだけ容量の良さを見せちゃってるんですか……そんな所を見せつけられても魅力的じゃないです。モテポイント零です」

 

「理不尽すぎる!? お前ら俺をなんだと思ってやがる……!」

 

「クソニートオタクの神殺し大将」

 

「……放っておけば引きこもってゲーム三昧の要介護者?」

 

「じゃあな桜花、勉強は連に教えて貰え」

 

「わー、わー! 嘘です冗談です! ちょっと私怨が混じってましたー!?」

 

「うははは、今日も今日とて仲良くて結構結構」

 

 珍しく毒を吐く桜花はしかし次の瞬間、人質ならぬ教師質を取られて呆気なく陥落する。その様を連は爆笑しながら爆発しろリア充と茶化す。

 ……連はともかく、周辺の主に男子生徒からマジモンの爆発しろオーラが出てたような気もしないが、彼と彼女の仲は半ば学校で有名なので大概の第三者はいつものことと聞き流していた。

 

「──にしてもマジで何かあったか? 大将。随分と二人、親しげだが」

 

「まだやんのかよ」

 

 不思議そうに踏み込んでくる連に衛は嫌な顔をする。

 だが、それに悪い悪いと全く悪びれず連は続けた。

 

「嫌なに、親しいのはいつも通りだが距離が近いというか、気安いというか……んー、なんて表現したら良いか。アレだ、テオとの距離感に似てる」

 

「……そんなにか?」

 

「結構わかりやすいと思うぜ? なあ皆」

 

 連がふと聞き耳立てる周囲の生徒たちに聞けば、うんうんと頷き返すクラスメイト含む顔見知りの生徒たち。気にしない振りして聞いていたらしい。

 

「何だろう。何故、俺は知らない仲の筈の第三者にすら桜花との仲を追求されねばならないんだろう?」

 

「そりゃあ初々しいカップル未満を見守りたいデバガメが多いからじゃね。後、桜花ちゃん挺身追跡援護隊のせい?」

 

「……ちょっと待ってください、何ですかその怪しい組織は!?」

 

 ガバッと桜花が顔を勢い良くあげて連に噛みつく。

 それに対してああ、と特に何でも無いように連は、

 

「主に三年三組(隣のクラス。衛らは二組)の生徒によって構成された集団だな。活動内容は「桜花ちゃんへと容姿目的で近づく連中の排除」「衛君と二人っきりになれる状況作り」「衛君と桜花ちゃんの周辺被害者にコーヒーを売ること」という三つを主に活動する馬鹿共のことを言う。因みにオリジナルブレンドの売れ行きは上々らしい」

 

 中々美味いぞ、と手に持つカップのコーヒーを翳す連。

 ……妙に美味そうな匂いを漂わせていると思ったら食堂のおばちゃん作では無く、どうやら件の変態集団の作だったらしい。

 ちょっと飲みたいなと蚊帳の外の衛は内心思った。

 

「知りませんよ!? ていうか余計なお世話の極みじゃないですか!?」

 

「だから本人たちに知られないのが鉄則なのさ……あ、俺がリークしちまったからアウトか。まあ直接的な害になるわけでもなし、基本的に見守るがモットーらしいから放置してたけど……要るかこれ?」

 

 言って連は紙切れをひらひらとする。

 見るに三組の生徒の名前が羅列された用紙らしいが……恐らく挺身なんたら隊の構成員だろう。

 これで『サークル』の情報担当だけあって、事前に周囲を嗅ぎ回る怪しい組織はバックボーンはどうあれ暴いているらしい。

 その紙を桜花は見事にかっさらう。何の目的かは言うまでも無い。

 

「ふふ、ありがとうございます連さん」

 

「毎度、今後ともご贔屓にー」

 

 随分と攻撃的な笑顔を浮かべる桜花に連は投げやりに返す。

 これから起こることを思い、馬鹿共には同情するが、自業自得である。

 

「──そうだ、情報と言えば大将。ご同輩も夏休みの間にどんちゃん騒ぎをしていたみたいだぞ」

 

 携帯を弄って表示した画面を笑いながら連は衛に見せた。

 その……日本に住まうもう一人がやらかしたであろう、夏休み期間に起きたイタリアでの騒乱を記した現地新聞の内容に衛は指して興味なさげに相づちを打つ。

 

「ふーん。向こうも向こうで忙しいことで。ていうかヴォバンのクソジジィみたく、餓えてる奴に行けば良いのに、なんで『まつろわぬ神』ってのは空気が読めないかねえ」

 

「さて所詮人の身の俺にはなんとも。それに侯爵様に関しちゃあただ『まつろわぬ神』ってだけじゃあなぁ。俺が思うに侯爵様は「強い奴と戦うぜ」っていう格ゲー嗜好だろ? 相応の敵とぶつからないのは必然なんじゃ無いのか?」

 

「だろうな。チッ、そんなに戦いたけりゃあ『夫人』の傍迷惑喰らって古代ギリシャにでも飛ばされりゃあ良いのに。そして二度と戻ってくんな。出来れば『夫人』ごと」

 

「あー、そういや大将。何時ぞや巻き添え喰らってたな……古代ギリシャつーとアレか? トロイアの防衛戦線」

 

「神話の時代じゃ無くて都市トロイア侵攻の逸話(元ネタの世界)であったのが救いだったけどな……それでもヘルメスとやらされたから迷惑度は変わらんが」

 

 同情するような目を向ける連と壮絶嫌そうな顔の衛。

 ……聞き覚えのない話だから、どうやら桜花が衛と共に過ごすようになる前の話らしいが、それよりも気になった内容を桜花は思わず問うた。

 

「あのヴォバン侯爵は衛さんと草薙王が倒したんじゃ……」

 

 そう──遡ること三ヶ月前。

 襲来したヴォバン侯爵を衛は半ば、もう一人の日本の神殺し、草薙護堂と協力し、撃滅したはずだ。

 なのにまるで二人はまだヴォバン侯爵が死んでいないように話している。

 

 その事に疑問を思って問えば、衛はやはり嫌そうに、連は肩を竦めて返す。

 

「死んでねえよ」

 

「死んだないだろうなぁー」

 

「そんな……でも、あの時確かに……」

 

「肉体は破壊した、が。アイツはアレで蘇りの権能も持っている」

 

「《冥界の黒き竜(アザーランズ・ドラゴン)》──噂じゃどっかの竜をぶっ殺して手に入れた権能で五体を破壊しても然るべき代償を払えば蘇るっていう理不尽の極みみたいな能力だな」

 

「そういうことだ。だからあの時、確かにクソジジィは死んだが消滅してはない。もうあれから三ヶ月、とっくにどっかで復活してるだろうさ。……まあ暫くは満足して動かないだろ」

 

 アレは生粋の戦闘狂だが、同時に桁外れの生き汚さを持つ戦士である。

 万全に戻るまでは動かないだろうし、回復しても暫くは先の戦に満足して館にでも悠然と構えていることだろう。無論、他に興味を燻られる戦乱があれば食いつくだろうが、ヴォバンが興味を持つほどの強大な敵は早々に現れないはずだ。

 

「……改めて聞かされると規格外ですね神殺し(カンピオーネ)は」

 

「そりゃあうちの大将も大概だしな。寧ろ、大将に関しちゃあ大小の差はあれ、一応神殺しの間じゃあヴォバン侯爵や噂に聞く中国の魔人殿に比する戦闘経験の持ち主なんだぜ? だろ? 守りたがりの我らが偉大なる大将」

 

「基本、七割方はアレク先輩のせいだけどな」

 

 疲れたように息を吐く衛。

 後始末を後輩にぶん投げる困った先輩のせいで強敵かはともかく、衛は神殺し内でも不本意ながら戦闘経験は多い方に当たる。本当に不本意ながら。

 

「そもそも神を殺すって時点で神殺し(カンピオーネ)っつうのは際限なく理不尽なんだよ。レベル百までしか無いゲームで、バグかなんかでまかり間違って二百レベオーバーしてもまだ尚止まらない恐れ知らずの馬鹿者が大将含む連中だからな」

 

「連、そこはかとなく馬鹿にしてないか?」

 

「してなーい、してなーい」

 

 カラカラと笑ってごまかす連を衛は憮然と睨んだ。

 と、これまた気になることを今度は衛に桜花は聞いた。

 

「そういえば衛さんって今までどういった相手と戦ってきたんですか? 私も戦歴については詳しく知らないので……有名どころは委員会経由で聞いていますが」

 

 彼とヴォバンの仲の悪さを筆頭に、アルマテイアやヘルメス……クリームヒルト。

 連のように神殺しとなる以前から交友があるわけではない桜花が知るのはその辺りの有名な戦歴だけで小さな戦闘、事件、至るまでの経緯などは特別詳しく知っているわけでは無かった。

 

 桜花の質問に衛は眉を顰めながらも少し思案するように黙り込み、次いで。

 

「そう、だな……多かったのは神獣か。人の手には厳しく、『まつろわぬ神』以上には頻繁に出没するからな『賢人議会』と後は『サークル』経由で交戦経験は多い。後はなり損ないの『まつろわぬ神』やら、アレク先輩が中途半端に起こした遺跡とか怪物の後処理……後は同族とのやり合いぐらいか、まあ同族って言ってもクソジジィぐらいだが」

 

 指折り数えていく戦歴は神殺しということを加味すれば、手厳しい相手とまでは行かないがそれでも一般的な魔術師観からすれば歴戦も歴戦である。若くして数年も神殺しとして活動しているだけはあって、壮観だ。

 

 と、衛の挙げた内容に疑問を覚えたのか、連が口を挟む。

 

「あれ? 『夫人』とはやんなかったのか? ギリシャで一悶着あったって聞いているが……」

 

「『夫人』に関しては戦うとかとは違う方面の面倒ごとだ。アレ、ベクトルは違うがアレク先輩と同じ、いや先輩以上に面倒くさい傍迷惑だぞ。今は現世にいるか知らんが出来れば一生どこか知らない場所に迷子になっていて欲しい」

 

 本気で嫌がる衛。

 ……何があったかは知らないが、ここまで衛が嫌がるとは本当に何があったのだろうか。気になったが桜花はそれを置いて、別の疑問を投げた。

 

「じゃあ同じ神殺し同士で争うことは余りないんですね……良かった」

 

 ほっと息を吐く桜花。

 ──彼女が気になったのは歴戦ということだ。

 

 日本に戻ってきた今、現状、二つの神殺しが日本には同席している。

 夏休み前の同盟、そして夏休み中の海外訪問で忘れられていたが、日本に帰って改めて思うのはその危うさ。

 神殺しが同じ国に二人も存在している。一応は委員会預かりの桜花としては衛の性格を知っているとは言え、気になるところ。なので、こうして過去の戦歴を聞いて早々に神殺し同士で激突しないということに安堵する、だが。

 

「いやいや、そうでもないんじゃね?」

 

 桜花の安堵に水を差すように、連がそんな不穏なことを口にしていた。

 

「理由さえあれば激突するのが神殺しだからな。案外、同じ神殺し同士、国内で激突ってのもあるかも知れないぜ? あの女好きの王様、俺の直感だが大将とは平時はともかくなんかきっかけさえあれば激突する程度に相性が悪いと見てる。なんせ如何にも向こうは騒乱に愛されているって感じだからな」

 

 冗談のように笑いながら口にしつつも、しかし目は笑っていない。

 そして連の評価に衛は関心無く欠伸を漏らすのみ……或いは言外に連の評価が間違っていないと言っているのか。

 

「それにイタリアじゃあ決闘染みたこともやってるし? 意外と気質は戦闘好きなのかもな。そういった意味じゃあヴォバン侯爵に似ててうちの大将嫌いそうだし」

 

「……決闘、ですか?」

 

「………」

 

 連の言葉に桜花は首を傾げ、我関せずという態度であった衛も聞いていないと視線で訴えながら連に問う。

 

「あぁ、向こう経由の情報でなペルセウス……向こうで出現した『まつろわぬ神』相手一度は観衆を前に戦ったとか? ……筋は確かだから間違いないだろ」

 

「成る程、確かに相性が悪い」

 

「あ、あの……衛さん?」

 

 一言言って黙り混む衛。その様子に桜花は不安げに、連はくつくつと笑う。

 付き合いの親しい二人だからこそ分かる、感情の動き。

 衛の態度が如何にも不愉快と示していた。

 

「──ま、そういうことだ。神殺し同士どう転ぶかなんて運と状況次第。それを心に弁えておくことが付き合いの長い先輩からの教えだぜ姫さん」

 

「……分かりました、肝に銘じておきます」

 

 連の忠告に桜花は神妙に頷いた。

 そう、神殺しは気質の差違によりけりとはいえ全員が騒乱の申し子。

 仲親しげなアレクとですら場合によっては戦闘に発展するのだ。

 

 故に神殺しが同じ場所に住まうと言うことはそれだけでいつ暴発するともしれない爆弾を抱え込むようなもの──いざという時、自分は何を優先しどう動くか……その覚悟を桜花は静かに決めながら改めて胸に刻み込む。

 

 そんな決意をしている横でふと、衛は不愉快だという感情を払い、顔を上げ、桜花を見ながら首を傾げる。そして──何を言い出すかと思えば……。

 

 

 

「ところで──桜花、数学の課題は?」

 

「……………………………あ」

 

 キーンコーンカーンコーン────。

 無常に響く昼休み終了のお知らせ。

 それに桜花は似合わない悲鳴を上げ、連は腹を抱えて爆笑し、衛はやれやれと首を振った。

 

 こうして夏休みの戦場を乗り越えた戦士たちは一時の休息を甘受していくのだった。それが一時のものだと直感しながらも。

 

 ──遠雷の音が聞こえる。嵐の前触れは、すぐそこに。




暫くぶりの学園描写。
いやぁ、書いてて何故か懐かしかった。
英国騒乱で離れている話ばっかり書いていたからかな……。

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