やったぜ。
ハーメルンは色んな投稿サイトでも結構な時間、ユーザーですが、これほど長く(エタらず)続いている作品は我が事ながら中々ないので嬉しい。
ともあれ、これからも精進しながら頑張ります。
応援よろしくぅ!
そしてすまない。まだ戦闘じゃないんだ……。
──最悪の展開だ……!
正史編纂委員会の東京赤坂分室。
齎された報告に甘粕は頬に冷汗を流す。
極東に住まう二人の神殺しの激突。
今まで実現することのなかった事態が遂に実現してしまったのだ。
それもよりにもよって護堂からでは無く、衛の手によって。
──神殺し……閉塚衛。
彼と委員会の付き合いは長いようで実は短く、遡ること一年前に始まる。
衛という少年が神殺しを果たし、七番目の覇者として君臨したのは六番目の王たるサルバトーレ・ドニが出現したのとほぼ同時期。約五年前のこと。
だが、すぐに彼が覇者として世界に名を響かせたと言えば否である。
彼が神殺しを遂げた地は地中海に浮かぶクレタ島。
護堂と同じく遠い異国の地であり、神々の出現情報こそ委員会は手にしていたものの出現から消滅に至るまでの経緯は情報が遅れていた。
というのも仕方が無いだろう。
日本国内では圧倒的権力を保有している正史編纂委員会であるがその権力は国内に限られるのだ。
無論、委員会とて外国に通じるルートや一定の影響力を持っていないわけではないが、他の、それこそ欧州の顔ともいえる『賢人議会』や強大な力を持つ騎士や聖騎士号を賜る存在を生み出してきた《赤銅黒十字》らには後塵を拝する。
そもそも日本という国自体が世界に垣根を無くしたのは近代に入ってのこと。
第二次世界大戦以前には鎖国をしていた時期もあったり、或いは単に島国というグローバル的観点に劣る地形が影響したのか、ともかく他国との文化交流の機会に余りにも欠けていた。
だからこそ独自の文化を発展させてこれたという面もあるが、同時にそれは国際交流に疎いという弱点を生み出してきた、それは無論、呪術界においてもだ。
だからこそ、アジア圏内ならいざ知らず、異国の地で誕生した初となる神殺しの存在を委員会は確認できなかったのである。
また、外因として、誕生した衛がその当時、英国に身を置いていたというのもある。
クレタ島での一連の騒ぎは『賢人議会』も知るところであり、また二柱の神の出現と言うことで事態の長期化を見た議会は騒ぎを収めるために『黒王子』アレクサンドル・ガスコインに事態の収束を要請し、派遣した。
しかし、奇しくもアレクが到着したその時には既に二柱の神は島から姿を消し、代わりに彼と並ぶ七番目の王の誕生が成されていた。出会った先達の王と新生した王がそこでどんなやり取りをしたのかは委員会も未だに知らないが、結論として七番目の王はイギリスは『賢人議会』の庇護の下、一定年数その存在を隠された。
神が二体出現していたという事実も王の存在を隠す隠れ蓑として機能した、委員会含む『賢人議会』のレポートを読んだ組織らは『まつろわぬ神』同士で潰し合ったものだと疑わなかったのである。
そんな衛が本格的に脚光を浴び、名を轟かせたのは遂、四年前。
サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン侯爵が起こした大事件『ジークフリート招聘の儀』での事だった。
当時は委員会勢力下でも万里谷祐理や姫凪桜花といった何人かの巫女が攫われており、委員会としても独自の網を張り巡らしていた。
そのため委員会はヴォバン侯爵の事件で一体何が起こっていたか正確に把握する事に成功、そしてそこで齎された内容に激震が奔った。
七番目の王、閉塚衛の存在。
彼が他ならぬ日本人であること。
そして……新参の覇王がヴォバン侯爵を撃退したこと。
その報告に委員会は……日本呪術界は大混乱を引き起こした。
僅か数人しか存在しない神殺しが新たに誕生したこと、その王が他ならぬ日本人であると言うこと。さらに王は既に独自の人材網で自前の組織を構築しており、『賢人議会』並びに『黒王子』と同盟していると言うこと。
委員会にとっては痛恨の極みであろう。自国の王が誕生したというのに周知するまで一年という少なくない時間がかかっている上、肝心の王は既に自ら庇護の組織と友好を結んでいるというのだ。出遅れるという一言で済ませていい話ではない。
そのため委員会は何とか彼に接触しようとしたものの、彼はイギリス、ギリシャ、エジプト、ドバイ……と仮にも活動地域というものがある神殺しにあるまじき放浪ぶりで世界中を股に掛け、日本に戻ることは極めて少なく、接触出来なかった。
衛自身が言うように彼が日本の地に落ち着いたのはそれこそつい最近、義務教育を終え出席日数なるものを気にしなくてはいけなくなった高校生になってからのことであり、そんな高校生の間でも暇を見ては世界中を渡り歩いていた始末だ。
挙げ句、委員会が接触するよりも先にあろうことか九州の『民』。
『官』も時折、人材の貸し出しや協力を要請する委員会ならざる呪術者集団に接触を先んじられ、側近の枠を取られ、まさに踏んだり蹴ったりの有様である。
なので本当に委員会と衛が顔を合わせ、《同盟》し、隣人として認識するようになったのは最近の事なのである。
だが、接触までのその年数は全てが無駄では無かった。
寧ろ精力的に活動してくれていたお陰と、様々な結社の評価から委員会らは彼の気質について十分な理解をしていけたと行って言い。
曰く、弱者の守り手。
曰く、敵対者には苛烈なる王。
曰く、『守護聖人』と並ぶ社会性を有する王。
曰く、別名『黒王子の外付け後処理装置』等々。
名誉なものから不名誉なもの、畏敬を多分に含んだものと様々な評判と声を調査の中で獲得していった。その中で委員会が理解した衛の気質とは即ち「身内に甘く、敵対者には容赦なし」という二極に単純化され振り切れた性格だ。
一度、身内と認識したものは遮二無二如何な困難があろうとも救う手を惜しまず、対して敵と認識したものは撃滅するまで追撃をする容赦のなさを披露する。
実際、誕生してから暫くの間は衛が神殺しを成した日から生き残ったゼウスと各地で苛烈な戦闘を行っており、それが沈静化したのは他ならぬゼウスが雲隠れしたからであり恐らく、今も接敵すればその苛烈さを披露するだろう。
だからこそ委員会はその総意として利用するにしても庇護を求めるにしても一丸に一つの意見を纏めていた、決して悪印象を持たれぬ事と敵対するような真似をしないこと。この全体方針もあって《同盟》は出会ってすぐに滞りなく成されたといって言い。
以後、委員会と七番目の王は取り立てて波立てるほどの騒ぎ無く順風満帆に両者協調路線で共存の道を辿っていたのだが……此処に来て最悪が訪れる。
委員会すら口出し不能の御老公。
彼らが後押しした清秋院の存在である。
御老公──嘗ては『まつろわぬ神』として君臨していた神に加え、彼らはその殆どが人外へ至った存在であり魔人、精霊、大呪術師などなど、発言力は勿論、実力も現代呪術師の及ぶところではない。だからこそ委員会は彼らに逆らうことが絶対に出来ず──恵那を使い、エリカら外国の魔術師を払いのけるという行動に口出しできなかった。
またエリカらに干渉するに当たって、草薙護堂を如何に口出しさせないかという事に関して衛をぶつけるという意見も彼らのもの。委員会としてはこれまでの関係を台無しにしかねないその方針に反対であり、その役を買って出ろと言われた沙耶宮は何とかなあなあで済ませる方向で行動しようとしていたのだが……。
「あろうことか衛さんから仕掛けるとは……衛さんの気性を逆に利用しましたね」
苦虫を噛みつぶすが如くパソコンに向き合い、今も各方面に緊急事態を告げる報告を送る甘粕。委員会内では沙耶宮と同等に衛との付き合いが長い彼は一体、何が起きているのか考察の域だが、大まかに把握していた。
──恐らくだが、御老公たちは直接委員会の水面下の動きを衛に伝えたのだ。護堂の周りに居るエリカたちを排斥するため、衛に護堂の動きを封じる役を命じたいこと。そして、役を担うのが他ならぬ沙耶宮であるということ。
身内へ甘い衛の事である。命じられた沙耶宮が逆らえないだろうことと彼女の性格をして嫌がるだろう事、そして委員会全体の意見から大きく逸脱すること、どれも正確に把握したはずだ。そして身内に甘い彼がどういう行動を起こすかなど目に見えている。
敵対者は、あらゆる障害は苛烈なまでに粉砕しにかかる王。
彼は原因を破壊するために行動を起こす。
「幸い、二人はアストラル界……現実世界までその戦闘被害が及ぶことはないでしょうがしかし……」
神殺し同士の戦闘……果たしてそれが両者ともに無事で終わるなどあり得ない。規格外の力を有する両雄、まして片翼に至ってはこと戦いに手加減などとても持ち込むとは思えない気勢の持ち主である。
万が一にどちらかの王を失うなどという事態が起きれば日本にとっては大きな損失であり、最悪の想定として相打ちなどもあり得るため、嫌な想像は止まらない。
「とにかく、今は事態の収束を図るのが先決ですか……」
魔王両名を止めることも大事だが、特に今は城南高等学校の校舎を今も現在進行形で粉砕しながら戦っているエリカと恵那を止めなくてはならない。
ただでさえ面倒な事態にこれ以上の面倒を引き起こすわけにはいかない、しかしエリカや恵那を止めるとなるとそれこそ相応の人材による仲介が必定で……。
「──もしもし、祐理さんですか?」
甘粕は懐から携帯電話を取り出し電話をかける。
通話先は七雄神社、相手は万里谷祐理だ。
恵那、エリカ両名と顔見知りであり護堂の女の一人である彼女ならば戦闘面の実力はどうあれ、彼女らに対する一定力の発言効果を発揮する。
また電話先の祐理からは同伴の条件にリリアナの同行を提示されるが、いっそ好都合だ。彼女の戦闘能力ならば恵那とエリカの間に割っては入れるだろうし、祐理をある程度危険から保護することが出来る。
彼女らの力を借り、まずは現実世界での面倒ごとを片付ける。その後、祐理の霊視能力を使いアストラル界に飛んだ二人の魔王の居場所を特定しつつ、乗り込む。
護堂はともかく、今回の衛の動機は身内に降りかかる火の粉を払うこと、甘粕の言葉ならば或いは矛を収めてくれる可能性も少なからず存在する。
何はともあれ、ことは迅速に運ばなければならない。
ただ一つ、懸念があるとすれば……。
「馨さん……一体何が起きているのやら」
この非常事態に彼女に連絡がつかない。
それに対してこの上なく嫌な予感を覚えながらも行動を起こす甘粕。
……行動は最善なれどしかし、甘粕には致命的な見落としがあった。
神殺し、
その意味を正確に理解していなかったのだ。
見落としを把握するのは彼が祐理、リリアナと合流してからの事だった……。
………
……………
…………………。
約一時間後、三人は城南学院の近くまで辿り着いていた。
学校方面では轟々と巨大な力がぶつかり合う気配が鮮烈なまでに感じ取れる。
今も現在進行形で激突する恵那とリリアナによるものだろう。
二人の激突は周囲へ多大な影響を齎し、神力と呪力をまき散らす。
だからこそ祐理は現場に訪れるまでも無く、その気配と正体を霊視していた。
「速須佐之男命……それに、これは恵那さんの神がかり」
「ふむ。祐理さん、草薙さんと衛さんの方は?」
「……駄目です。恵那さんの力の影響か、二人に関しては何も見えません。とにかく、二人を御収めした後、見ないことにはなんとも……」
「ならば、話は簡単だ。早くエリカと清秋院恵那を止めればいい」
幾ばくか冷静さを残している甘粕や祐理とは別に今にも飛び出しそうな勢いでリリアナは結論を急く。
「意見そのものには賛成ですが、仮にあの二人の激突に割って入って無事にことを諫められるとでも? エリカさんは勿論のこと恵那さんもあの通りなのですよ?」
冷静になれと言わんばかりに甘粕が二人に目を向けつつ告げる。
眼前では魔術と剣術を全力で賭して戦うエリカと神がかりという超希少能力を用いて莫大な戦闘能力を発揮する恵那の姿がある。
確かにリリアナもまた実力者であるものの、二人の激闘に割って入って無傷とは行かないだろうし、彼女の直情的な性格を考えればこれ以上に騒ぎを大きくして仕舞いかねない。
理屈はそうだろうが、しかしリリアナは納得出来ないとばかりに甘粕を睨んだ。
「ならばどうするのだ! こうしている間にも既に草薙護堂と堕落王は戦っているのだぞ! 第一、そもそもの原因として清秋院恵那のパトロンが事の発端なのだろう!? 本来ならば今すぐにでも貴方たちが何とかするべき問題の筈だ!」
「それが出来ないからこうして三人集まっているんでしょうに。それに御老公たちに頭を悩ませているのは我々、委員会も等しく同じ。いわば被害者ですよ……」
些か感情面に走りやすいリリアナは自身が王と仰ぐ思慕の念を抱く存在の行方不明に案の定、冷静さを欠き、甘粕もまた普段ならば柳と受け流しているだろうに、不測の事態の連続と不安に若干、苛立たしげに反論する。
そんな二人を諫めるのは意外にも普段はお淑やか且つ積極性に欠ける祐理だった。
「二人とも落ち着いてください! 此処で不平不満を騒いだところで事態は好転しません! 今、考えるべきはあの二人を止め、そして護堂さんたちを止めることでしょう!」
「万里谷祐理……すまない、少し熱くなっていた」
「……いやはや仰る通りですね。私としたことが」
「いいえ、冷静さを欠く御二人の気持ちはよく分かります。私も同じですから」
この事態に不安を覚えるのは三者共に同じだ。
かく言う祐理もまた、親しい少年の行方不明に心憂いている。
「今やるべき事は、エリカさんと恵那さんを止めることです。そのためにもまずはあの二人の戦いを何とかしないと……」
一番懸念される舞台はやはり草薙護堂と閉塚衛の両者が激突するアストラル界の戦況だろう。最優先に止めねばならない戦場がある以上、まずは障害となるエリカと恵那の戦闘を止めさせなければ話にならない。
が、神殺しのような規格外に及ばずとも、人知及ぶ範囲においてエリカと恵那もまた強大な使い手である。
リリアナをしても無事ではすまない戦闘を一体全体どうやって止めるか、取り分け、甘粕やリリアナのように荒事向きでない祐理には到底思いつかない。だからこそ彼女は二人に意見を求めた。
「甘粕さん、リリアナさん、どうすればあの二人は止まるでしょうか……?」
「そうですね……エリカさんの方は話を通せば何とか剣を収めてくれるでしょうが、恵那さんの方はどうでしょうね、特に今は神がかりを行っているようですし」
「極東の降臨術士か。伝説的とも言って良い、素養の持ち主も在籍しているとは、思いの外、そちらの人材も層が厚いな」
困ったように思案する甘粕の言葉にリリアナもまた二人の戦闘に目を向けつつ、油断なさげに呟いた。
エリカと戦う清秋院恵那という少女の術。神がかり。
それは霊視術を遙かに上回る巫女の素養を必要とする希少な能力であり、騎士であると同時に魔女であるリリアナもまたその希有については周知のことだ。
恐らく、世界に数人と居ない例。
それを前にリリアナは己が戦った時の仮想戦況のほどを割り出す。
……業腹ながら大きく見積もって四割、実状は三割と言ったところか。
割り込むまでならまだしも正面切って相手取るとなると彼女をして苦戦は免れないであろう。
「…………万里谷祐理、それから甘粕冬馬」
考えること数瞬、リリアナは二人に己の意見を口にした。
「悔しいが割って入るまでならばともかく私一人では清秋院恵那を止めることは出来ない。だが、エリカと協力すれば可能性はあると思う」
普段、何かと対抗心を燃やすエリカとリリアナ。
取り分けリリアナに至ってはエリカを苦手としており、自分から共闘を申し出るなど彼女の性格を知るならば珍しい事だと瞠目するだろう。
だが、この非常時に、優先すべき別の事柄がある彼女は此処に居たってプライドよりも事態の収束を優先した。
「今戦っているエリカに何とかそれを伝えられれば、機を窺って二人で清秋院恵那を止められるはずだ」
「成る程、恵那さんに気取られずに、エリカさんに我々の意図を伝えられれば、そういうわけですか……それはまた難儀な」
激戦を演じる二人に目を向ける甘粕。
互いに一挙一動を深く観察しながら戦っており、どちらかに隙や変化があれば即応する構えである。この状態下で普通の方法を用いてエリカに意図を伝えれば恵那に気取られる上、逆にエリカの不利を齎しかねない。
半ば拮抗しているとは言え、戦況はエリカの不利。場合によっては事態解決の策が一転してエリカを敗走させ、余計に収束が困難な状況に陥る。
恵那に気取られず、かつエリカにこちらの存在と意図を伝える方法……ぱっと浮かぶのは直接思念を送るテレパシーと言った方法だろうか。
だが、甘粕はその手の能力に対する素養は皆無。
魔女たるリリアナもまた秘薬の調合等、魔女の術全般に通じるものの精神感応に属する異能の素養はない。
となれば……。
視線は自ずと一人に向く。
「これには貴方の協力が必要だ、万里谷祐理。私もサポートする、だから貴方の力でエリカに私たちの策を何とかして伝えて欲しい」
「わ、私が……!? ですが、私にそんなことは……」
「無茶は承知だ、だが可能性があるのはこの三人では貴女だけだ」
「……ま、祐理さんの巫女としての能力を考えれば同意見ですね」
万里谷祐理の巫女としての素養の高さはそれこそヴォバンが目を付けるほどだ。通常は霊視能力といえば的中率はいいとこ一割未満、リリアナをして二割ほどだ。
しかし万里谷祐理の霊視は六割超と極めて高い的中率を誇り、それだけでも彼女の霊能の高さは疑うべくもない。
そんな彼女であれば或いは精神感応の領域たるテレパシーをも体得できるのでは無いか……そして事ここに至ってはその可能性に懸けるほかないだろう。
「わ、分かりました……私に出来るかどうかは分かりませんが──やってみます」
瞳は不安げに揺れながらも奥に確たる意思が窺える。
二人の期待とやらねばならないと言う意思が彼女に決意させた。
また、ここ最近の護堂に対する思いの念、周囲の動きも影響しているのだろう。この間のイタリア旅行で感じた男女の仲に関する念、そして恵那との会話で改めて感じた護堂への好意……大人しい彼女が初めて誰にも譲れないと感じた思い。
“私は……無事な護堂さんにもう一度会いたい”
アストラル界……日本では幽世とも言われるこの世とは異なる別世界。
護堂はそこに飛ばされ今も内情は不明のままだ。
さらには引きずり込んだのが他ならぬあの堕落王。その気性については幾らか面識のある祐理は理解している。
敵対者への容赦の無さ。嘗て、ヴォバンに囚われた折、遠目に垣間見た赫怒と雷熱の凄まじさは今も目の裏に畏敬の念とともに残っている。
本音を言えば今も心配でたまらない。
あの王を一人相手取っているであろう護堂。
その安否を思うと居ても立ってもいられない。
決然と祐理は顔を上げ、二人の顔を正面から見た。
「リリアナさん、御力をお貸しください。私が、何とかやってみせますから」
「ああ、こちらも助力は惜しまない」
ともに護堂を助けたい気持ちは同じで偽りない。
巫女と魔女はどちらからとも無く同時に頷いた。
そう──護堂と親しい彼女たちだからこそ彼女らは少しでも彼の力とならんと決意した。
草薙護堂に思慕する少女らが居るように。
閉塚衛にもまた──。
共に歩みたいと願う少女と信頼するべき臣下がいるということに。
「──決意の最中、水を差す無粋を申し訳ない。そっちに余計なことをされると困るわけだなこれが。草薙王が勝つということはうちの王様が負けると言うことだからさ」
「──はい。恵那さんか祐理さんと贔屓するつもりはありませんが……我が王が決めた道なら是非もありません。貴女方が草薙王を思うように、私にも大切な相手はいますから」
暗がりから二人──若い男女が現れた。
突如として降りかかった第三者の声に三人は身構え、リリアナと甘粕は臨戦態勢を整えるが……現れた二人を視認した瞬間、甘粕が戦慄を奔らせた。
「嘘でしょう……まさか
「おいおい、今更過ぎるだろ甘粕サン。アンタらだって、自分とこの贔屓の王に力貸してるだろ? ならこっちが同じ事をしない道理はないだろうが」
甘粕の言葉に──『女神の腕』春日部連はせせら笑うように答えた。
その姿は平時の飾らない服装と圧倒的に異なっている。
黒いジャケットと黒いズボンという夜の闇に溶け込むようなまるでスパイか何かのような目立たない服。
その癖、目には真っ黒いサングラスをかけ、首には赤いマフラーと要所要所の装飾は激しく、黒地に限りなく目立っている。加えて、両手の黒いグローブには、手の甲に怪しげな印が浮かんでおり、仮に平時に見たならば「中二乙」と笑い飛ばすだろう。
さらに首から下がるネックレスも相まって衛辺りだったら『派手な007ごっこ』とでもいうかもしれない。
だが、甘粕は理解した。
首から下がるネックレスは護符。グローブの紋様はルーン文字のそれ。
サングラスは幻惑や催眠、魔眼をはね除けるものであり、微かながらも呪力を感じるマフラーに至っては何らかの呪具であろう。
明らかに荒事向けの装備……春日部蓮は戦闘装飾に身を纏っている。
そして連の隣に立つ少女、姫凪桜花もまた黒地の桜の意匠が散りばめられた着物姿に打ち刀を差したこれから戦に臨むと装備であり……。
外れて欲しいと思いつつ、甘粕は愚問を敢えて口に出した。
「……二人は一体どんな用事でこちらに?」
「くくっ、最低な気分はお察しだがな。現実はきっちり見るべきだと俺は思うぜ? 草薙王とうちの王様が戦っている……だったら、なあ?」
「私たちが黙していることなど無いと、そういうことです」
蓮の方はまだ友好的な雰囲気を浮かべているが、笑みを浮かべる顔にはしかし微塵の油断はなく、寧ろ獰猛な気配を窺わせるそれは悪童が喧嘩に挑む前のそれに似ている。
そして平時はもの穏やかなはずの桜花は刺すような緊張を身に纏い、透徹した瞳を三人に向けている。蓮とは異なり友好的な気配は無く、ただ黙して構えている。
疑うまでもない、この二人は敵対者だ。
「貴方たちは……」
「おっとクラニチャールの令嬢とは初対面だったな。俺は蓮、春日部蓮だ。一応、日本における『女神の腕』を仕切っているもんだよ。で、こっちの姫さんが」
「姫凪桜花です。自己紹介は略式にて御免。我が王の命にて貴女方の介入を阻止させていただきます──ご容赦の程を」
「──とのことだそうだぜ?」
「ッ! 『女神の腕』──伝え聞く堕落王の配下か!」
流石に神殺しが直接率いている『女神の腕』については既に知っていたのだろうリリアナは二人に一層の警戒を向けた。
そんなリリアナを傍目に祐理は心痛むような顔で桜花の名を呼んだ。
「桜花さん……!」
「祐理さん、私は別に貴女の邪魔をしたいわけじゃないし、私も貴女の気持ちはよく分かります。或いは力を貸してあげたいとも。ですが、私は貴女の友である前に大切な
一瞬、儚げな地金を見せつつもすぐに情は消失する。
祐理が護堂を思うように、桜花もまた衛を思慕していた。
だから──譲れるはずなどありはしない。
「なるほど──」
祐理を庇うように、或いは彼女に代わってリリアナが進み出る。
「貴女方は堕落王の臣下……我々と敵対するのは必然か」
「ああ、エリカ嬢が敗走するまでそっちの王様には黙って貰う。ま、うちの大将はあんなだからただ足止めって訳にはいかないだろうが、そこはまあドンマイとしか言えないけど」
リリアナの言葉に蓮が応じる。
肩を竦めながら同情するように言った。
その様を一瞥し──リリアナは話し合いを諦める。
相手に引き下がる意図もなければ妥協する気配もない。
ただ黙してことの成り行きを見ていろと。
エリカの援護も護堂の救援もさせるつもりは無いとしている。
ならば言葉にした通り、待ち受けるのは必然の結果だけだ。
甘粕を含めれば二対二だが、仮にも委員会に身を置く彼がどう動くかはリリアナにも読めないため実質戦況は二対一で数的不利だ、だが──。
「貴方方がそうであるように、私も草薙護堂の近衛だ! 邪魔するというのならば嫌がおうにも押し通らせて貰うぞ! 『女神の腕』!」
「ええ、抵抗はご自由に。絶対に行かせませんので」
「右に同じく──ハッ! せっかくの久しぶりの火事場だッ!! 趣味を兼ねて実用的にやらせてもらうぜ……!」
同時に、譲れぬ思いを胸に、王の従者は地を蹴った。
「騎士リリアナ・クラニチャールが我が君の障害を打ち払おう──勲を示せ! イル・マエストロッ!!」
名乗り上げた少女の手に銀のサーベルが顕現する。
対する堕落王旗下、二人の臣下もまた。
「征きます──!」
「じゃ、俺はこっちか?」
迎撃するように打って出る桜花。
それを傍目に蓮は甘粕と祐理に目を向けにやりと笑う。
曇天の下、三つ目の戦場が幕を開く。
壮絶な剣戟の音色が暗い黄昏時に響き渡る。
次回、遂に開戦。
つーか、三戦場とか地獄だなこれ。
誰だこんな無茶考えたの……私でしたね。
やったろうじゃねえかあああ!(『』並感)
あ、参考までにアンケート設けます。
入れるも入れないも、ご自由に。
1話ごと文字数はどれくらいが読みやすいでしょう?
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5000文字程度
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8000文字ぐらい
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1万字程度あると嬉しいな
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いや二万字いけるっしょ