極東の城塞   作:アグナ

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FGO、Zeroイベ復刻ですね。
初日に輝く貌のセイバーを手に入れたせいかイマイチやる気が湧かない……。
或いは既にクリア済みのイベントだからか?

なんにせよ片手間に更新っと。


女神襲来

──衛がアテナと邂逅している頃。

 

 時を同じくして東京駅から北陸新幹線に揺られ約二時間半、前田家加賀百万石と有名な加賀藩が治めた土地、石川県は金沢市。その中でも古き伝統を今に語り継ぐ街並み、文化財の一つにも数えられる観光名所ひがし茶屋街。

多くの外国人含む観光客が嘗ての文化を堪能する傍らで、彼らは密会を開いていた。

 

「おのれ……沙耶宮の女狐め!」

 

「あの王を座位につけてから九州の連中はつけ上がるばかり! 所詮は山暮らしの猿共に過ぎんだろうがッ!」

 

「それだけに飽き足らず、王の威光を脅しに我らから次々と中央集権を称して権利を剥奪しおってからに」

 

「所詮は新参者の王! 一体我らが何百年の歴史を誇っていると思っている!! ポッと出の王風情に奪われる筋合いはないわ……!!」

 

「王に尻尾を振る売女どもめ…!!」

 

 彼らは正史編纂委員会に属する『官』の人間。

 正史編纂委員会という組織そのものを成立させた沙耶宮家を初めとした重鎮四家を頭に据える一派である。

 

少なくとも、表向きは。

 

 というのも今の呪術界ひいては裏社会における権利の殆どは『官』。

 即ちは、国家に尽くす公務委員としての顔も持つ正史編纂委員会が持っており、そのため少なくとも日本の呪術界に属するものの多くは正史編纂委員会と共にならなければ生きてはいけない。在野の呪術者である『民』として生きにくい業界になっているのだ。

 

 そのため、内に不平不満を持っていても権利諸々の多くを掌握する正史編纂委員会に従わざるを得ないというのが今の呪術業界の現状だ。

 ましてや、極東に王が誕生し、それがバックにあると考えれば今まで『民』を気取っていた強情なものらもある程度協調性を見せなければ成らなくなっている。

 

 しかしそれを気に喰わぬとするものらが居た。

それが彼ら『官』でありながらも正史編纂委員会とそれを率いる王に不満を持つ家格の高いルーツに武家を持つものたちである。

 

 『公家』と『武家』の仲の悪さは歴史からして言うに及ばず、正史編纂委員会を率いる沙耶宮家を筆頭に『公家』を多くに構成される委員会に対して『武家』がモノを申すのはある意味、当然の帰結であった。

 

 特に実戦呪術の使い手が多かった(・・・・)彼らは如何な神を殺す偉業を遂げた神殺しであろうとも討伐することが可能だと本心から考える者たち。

 

 つまりは沙耶宮馨ならば「足を引っ張ることしか考えていない連中」甘粕に言わせれば「ただのバカ」と侮蔑されるだろう者たちである。

 

「最近ではまたも我らの土地に誕生した新たな王を仰ぐ西洋の白人共が我らの神州で幅を利かせ始めたというではないか!」

 

「やはり神殺しなど所詮、災厄を持ち込むばかりの疫病神に過ぎぬ!」

 

「我らが総力を持って誅罰せしめん……!」

 

 罵詈雑言──委員会に対する積もりに積もった不満がここぞとばかりに爆発する。

 

 特に若い衆、世間を知らぬ身の程知らずたちは「罰」と称して仕切りに王をも愚弄する。それを止める者は無く、本来は諌めるべき「大人」たちはそれでこそ武家に連なる武士(もののふよ)、と火に油を注ぐばかり。

 

 ──そんな熱狂する周囲よりほんの少しばかり醒めた……本当に少しばかり冷静な列席者の数人が意見する。

 

「しかし、罰をと言っても一体どうするのだ? 如何に我々が優れた呪術の使い手とは言え、相手はあの神殺し。呪の一切を無効化するという獣であるぞ。アレではまこと、我々の攻撃は通じんだろう?」

 

「西洋の薫陶を受けた王については知らぬが、九州を統べるあの若造めは王の中でもこと守りに富んでいると聞く。武力を持って尚、征することが出来るかどうか……」

 

 冷静な見解は流石、歳を重ねた武家老のものだったが、熱狂する者たちには届かない。

 それどころか、それら諫言、不安に対して怖気付いたか、それでも戦国を生き抜いた武士の末裔かと怒声が飛ぶ。

 怒号飛び交う会議の場。

 混沌する会議に、列席者達でも重鎮に位地する者がそれらの混乱を一喝で諌める。

 

「静まれぃ! 冷静に具申する者らの意見を圧することなどそれこそ委員会共のやっていることと同じぞ!」

 

 既に七十を越えた老人のものとは思えぬ声の大きさと通りは騒ぎ立てる者たちの声を黙らせる。

 そして静まり返った場に一つ、満足げに肯いた後、彼は不敵な笑みを浮かべ、懐から一つの呪具……一見して神道の祭具「御幣」に見える代物を取り出す。

 

「お前たちの不安もよく理解できる。だが、これを見よ」

 

「それは? 何らかの呪具のようですが一体……?」

 

「これこそ我が家に秘されてきた委員会連中も知らぬ秘宝よ。これはな──かつて道摩法師が手にしていた呪具の一つよ」

 

「なんと! 道摩法師の!?」

 

 皆一様に驚愕を浮かべている。

 ──道摩法師、多少、歴史をかじった者、或いは小説などの物語を好むものならば一度は聞いたことがあるだろう。

 かの高名な陰陽師安倍清明と並び称される彼のライバル。

 またの名を蘆屋道満……と。

 

「くく……この「御幣」は道摩法師が安倍清明を呪わんとして《蛇》の神力を封じ込めた呪具よ。これを霊脈に潜り込ませれば瞬く間と呪力を吸い、何処かの女神を呼び寄せよう。その女神を以って我等は今こそ王を討たん!!」

 

「おお、それがあれば!!」

 

「正しく勝利の女神を、というわけですな……!!」

 

 一同は嬉々として呪具を持ち込んだ老人を褒め称え、己が勝利を確信したように笑みを浮かべる。

 現界した女神が果たして自分らの言うことを聞くかなど頭に無いかのように。

 

 まあ、それも当然か。

 そもそも神殺しをどうにかできると確信している者らに『まつろわぬ神』の脅威が如何ほどのものであるかなど理解できるはずもなし。

 

 不平不満を言うばかりで今まで行動してこなかった彼らは所詮、零落した(・・・・)歴史のみの武家が末裔。

 本当に恥知らずなのはどちらか彼らは終ぞ知らなかった。

 

 ────そう、終ぞ(・・)

 

「──池田屋を襲撃した新撰組の気分ってこんな感じでしたんでしょうか、なんて。それはともかく、直接出張ってきて正解でした。まさか女神に縁のある呪具が持ち込まれようとは。馨さんが私に頼んできたのは偶々でしょうが、この上なく最良の判断でしたね」

 

 鈴、と澄み切った声。

 身の程知らずの反逆者たちはその声に忘我するように静まり返る。

 

 そうして──現れる招かれざる客にして、いつかの新撰組のように謀議をする者らを討たんと彼女は現れた。

 

 亜麻色の髪を桜の意匠の簪で押さえ、その身に纏うは喪服を思わせる菱形と桜のデザインで彩られる黒い和服。

 華奢ともいえる少女の身に凛々しい顔立ちはその手に持つ打刀と相まって女武者を想起させる──彼らは彼女を知っていた。

 

 紛れも無い、彼らが猿と見下す九州の術者たち。

 その中でも若手筆頭。

 高千穂の土地が平成に生み出した剣の達人。

 清秋院の『媛巫女の筆頭』と同じく「神がかり」を体現する世界有数の巫女……!

 

「な、何故貴様が此処にいる、『刀使の巫女』姫凪桜花……!?」

 

「愚問です。貴方方に誅罰を齎すためですよ。ご老公」

 

 純粋な剣の腕ならば清秋院恵那を上回るという撃剣会らの凄腕をして天才と呼ばれた魔人が王の障害を払わんと剣を構えた──。

 

 

 

………

 

……………

 

…………………。

 

 

 

「静観ならば何も言わなかったでしょう。恭順ならば臣として迎えたでしょう。鞍替えするというならば黙して受け入れたでしょう……ですが、歯向かうというならば話は別だ。その切っ先、無傷で引き下げられると思うな」

 

 己の首丈と水平になるように刀を構え対峙する──いわゆる霞の構えで愛刀を構えた、桜花は普段の様子とは、余りに乖離した言い様で言った。

 

 

 ──彼女は性善説でものを考える暴力や争いを嫌う善人だ。

 暴力でモノを語ることを良しとせず、根気よく言葉で分かり合おうとするが、しかし、か弱いということは断じてない。

 寧ろ、彼女は他ならぬ暴力の天才だった。

 

 達人をして隔絶したと言われる、武侠にして神をも殺した中国の神殺し・羅翠蓮。

そんな彼女に比するという日本が誇る帝都古流を修めた武道の達人をして天才と称されるほどに桜花は剣術に優れていた。

 

 それつまり暴力(ぶじゅつ)に訴えればそれこそ彼女に手を付けられるものなどそう居ないだろう。彼女はそれをよく理解している。

 

 幼き頃から大人たちにも引けを取らない剣の使いだった彼女は自身が、か弱き被保護者ではなく民草を守る庇護者に属する強者であることを漠然と理解していた。

 ゆえにその武技は極めれど向けるものに在らず。

 常に弱きを守るため強きに振るうものだと自戒した。

 

 ……彼女自身、誰かに守って、支えて欲しいと思うことがなかったわけではないが、それについては閑話休題。

 後に現れる一人の例外にして彼女の王との出会いに纏わる話だ。

 

 だからこそ彼女は二重の意味で暴力剣を使わない。

 一つは剣など使わずとも人は理解できると信じているから。

 

 そしてもう一つは──強すぎる(・・・・)己が暴力剣を使えば、その結果は見えているからという人によっては傲慢ととれる理由から彼女は剣を抜かなかった。

 ……例外事項を除いて。

 

「ええ、本当は暴力こんなものなんか使いたくありませんでしたよ。本当に……ですが、貴方方はやってはいけないことをした。静観するでもなく恭順するでもなく鞍替えするでもなく、不遜にも我が王に裏切りの刃を向ける? 庇護されながら裏切りを以ってして恩を仇で返す? そんな行為、私が許すはず無いでしょう」

 

 静かな声音にしかし激情を抑えて桜花は言う。

 

 ──これが挑戦であったならばまだ救いはあった。

 

 それは相互了解の下、対等に行なわれるもの。

 絶対強者たるものは、ただそれだけで挑まれるに値する存在であり、ゆえにその挑戦を事情なくして拒むことなどあり得ない。

 生まれつき徹底して「強者」であった彼女にも理解できる話だ。

 

 だが、彼らは裏切った。

 差し出された右手を払い除けるのでもなく、友好の意を表す相手に刃を以って不意討ちをしようとしている。

 

「戦の作法も忘れた零落者共め。構えろ、真っ向から切り伏せる真剣勝負こそが、せめてもの慈悲であると知れ」

 

 武人として殺してやると、彼女が吼えたと同時、傲慢な反逆者たちの堪忍袋の緒も切れた。

 

「小娘が言わせておけば……!!」

 

「その鼻、へし折ってくれる!!」

 

 若い衆の中でも取り分け王に「罰」をと吼えたものたちがそれぞれ、剣を、呪符を構えて戦意を見せる。

 だが……刃を見せた瞬間、それを見取った彼女が動いた。

 

「フッ──!」

 

 限りなく無音に近い足捌きに僅かな気合を乗せ、彼女は即座に往く。

 

 ──一手。

 

 消し炎刀を得物とする短髪の男、得物を振り上げた瞬間に手元に向けて無呼吸で突きを放つ。

 対人の際、視界を奪うことに重きを置かれた霞の構えからの突きは振り上げることも振り下げることもせずにただ僅かな高さを調整するだけで構えられた手先に飛ぶ。

 最速の太刀は最短の道で駆け抜け剣を振り下ろす間もさえ与えず男の手の腱を切り飛ばした。

 

「い、つぅ!?」

 

 切られた片手を抱えて、男は蹲った。

 

 ──二手。

 

 腱を切られた痛みと一瞬で成された技巧に対する驚愕とで蹲る男に桜花はいっそ深く踏み込み、呼吸が感じ取られるほどの距離に肉薄する。

 そのため男の影に潜り込んだ桜花に呪術をかけようとした術者は男の影に彼女を見失い、組み上げた呪術は行き先を失う。

 その隙に彼女は素早く目配せをする。

 

 一人、式符。

 一人、指揮棒タクト。

 一人、無手。

 

 そうして術者の得物を見分け、まずは式符の男から襲撃した。

 

「ごふッ!」

 

 ──三手。

 

 身隠し兼盾として利用した短髪の男の腹部を蹴り付け、式符の男目掛けて蹴り飛ばす。

 蹴りつけられた男は息詰まった悲鳴を上げながら式符の男へと吹き飛んだ。

 剣を振るうために鍛えられたであろう肉体が吹き飛んでくるなど、男としてはやや痩身に過ぎる式符の男には鈍器が襲い掛かってくるに等しい。

式符の男は驚きながらも慌てて身を引く。

 

 そうして式符の男が注意の削がれた隙に彼女は低い姿勢から二歩の距離をつめて式符の男を強襲。

 下から掬うように……その際、刃から峰に返しつつ……式符を構えた男の手を跳ね上げる。さらに続けざま、式符を奪い、それが迦楼羅天に纏わる呪符であると見取るや否や、術を奪って無手の男に喰らわせる。

 

「なっ、ん!?」

 

 ──四手。

 

 唵蘇(オン)迦楼羅(ガルダヤ)婆訶(ソワカ)──。

 燃え広がる迦楼羅の浄化の炎を前に無手の男は焦り攻性呪術を変更し、防御のための術を練る。攻勢呪術からの変更により、一時的に無手の男を脅威から外した桜花は猛然と指揮棒タクトを構える女へと迫った。

 

 西洋かぶれなのか、女は頬に汗を浮かべつつ、異国の言語で呪文を唱えると中空に三つの氷柱を形成する。

 そして氷柱は術への号令とともに獲物を仕留めんと飛び出した。

 銃弾もかくやと音の速度を越える氷柱は最早、槍だ。

 

 子供が振るっても十分と鈍器になる氷柱は音の速度で放たれれば当然、凶器であり当たれば文字通り蜂の巣にされるだろう。

 しかし、桜花は刀を奔らせ一つ、二つと軌道を逸らし、氷柱の凶器群を簡単に凌ぐ。

 

「嘘でしょ!?」

 

 癇癪じみた悲鳴を上げる女。

 仕留めるための一撃がこうもあっさりと対応されたことに、彼女は現実を認められないのだ。最後の三つ目に至っては刀から手を離した右手の裏拳で退けられた。

 

 凌いだ切った桜花は驚愕に硬直した女の襟元を掴んで引き倒し、刀の柄先を首元に叩き付けて落す。

 

 以って──五手。

 身内を全員倒され、唖然とする無手の男に正拳突きを喰らわせて終。

 

「終わりました。そちらは来ないのですか?」

 

「馬鹿な……!」

 

「四対一だぞ!? それを一瞬で……!」

 

 ヒュン、と剣を払いつつ、つまらなさ気にする桜花に一同は驚愕する。

 強い、強いと聞いていたが、碌な行動すら許さずにしかも、切りつけることなく制圧するとは。

 技量の差が明確なものであったとはいえ、技らしい技も見せずに終わらせられてしまうなど誰が思うか。

 

「……はあ、武家の血も堕ちたものですね。全員が全員というわけではないのが救いですが、なんにせよ。若手とはいえ今ほどの使い手が標準ならば大人しく投降することをおススメします。彼らも何れは次代を背負う使い手、凡夫であろうと無傷で制圧しようと心がけましたが──次は血を見ますよ」

 

 手元で刀を遊びながら剣呑な光を瞳に宿す桜花。

 その威圧と彼女の刃に映った己の姿に老いた権力者達は身を縮める。

 

 そもそも、彼らは表立って反抗できないからこそ、こうして影で謀略に耽るものたち。

目の前で圧倒的な暴力を見せられれば、この通りだ。

 

 そういう意図も含めて彼女は彼らを無傷で制圧したのだが……。

 力量の差を刻み付ける効果は十分にあったようだ。

 

「この手の反乱は首を挿げ替えれば済みます。言っていることは分かりますね?」

 

 先までの血気盛んさは何処へやら、今や戦慄で静まり返る場で桜花は凛と告げ、眼先に反逆を目論んでいた武家衆のリーダー格らしい人物に刀を向けた。

 曰く《蛇》に纏わる呪具を持ち込んだ老人は恐怖を浮かべて叫ぶ。

 

「い、嫌だ! 死にとうない! ワシはまだ死にとう無い!!」

 

「事ここに至って誰も切らずに厳罰だけ、で済む話ではありません。衛さんならば聞いたところで気にすらしないでしょうが委員会としての秩序としての責任があります。お覚悟を……」

 

 王が許すからと言って、甘い罰に留めるのは組織の面子に関わる。

 親しきものにこそ礼儀あり、と元よりまだ教育の余地がある若手ならばともかく、組織を率いる年長者たちには責任がある。

 責任者の立場である者たちの反逆は責任者としての終わりを迎えなければならない。

 

 ……見せしめ、という意味もあるが今後、もう二度と同じような輩が現れないようにも、沙耶宮ら一派は既に彼らを見捨て(・・・)ていた。

 

「始めに言いましたよ──構えてください、真剣勝負で散ることこそ、貴方に対する最後の慈悲です、と」

 

「お、おのれぇ!!」

 

 懐から取り出した小太刀を振りかぶり、飛びかかる老人。

 それを前に桜花は一度、短く瞑目した後、

 

「……御免」

 

 斬、と一刀の下に斬り捨てた。

 

「ひ、ひぃぃぃ!」

 

 舞い散る血飛沫に爺婆たちは悲鳴を上げる。

 そして口々にお助けを慈悲をと命乞いをした。

 

 反逆を目論んでいながら事ここに至って尚、我が身を案ずる浅ましさ。

 その無様さに思わず桜花は……。

 

「──本当に、堕ちた」

 

 あまりの様に切なさにも似た胸の痛みを覚えつつ、彼女は刀についた血を払って踵を返す。

 ──制圧も見せしめも済んだ。後の領分は組織の領域。

 ゆえに仕事を終えた彼女は緊張を解き、帰路に着こうとして……。

 

「……え?」

 

 ゾクリ、と嫌な寒気を覚えて振り返る。

 ……そこにあったのは血に濡れた黒い「御幣」。

 

 まるで老人の血を浴びたことに喜悦を抱いているかのごとくカタカタと不気味な光を纏って脈動している。

 

「──しまった……!」

 

 元の任務遂行を心がけるあまり、老人に曰く「道摩法師」縁の品というそれを軽視した。否、人斬りを意識しすぎたか……!

 不覚と、破壊のための一手を打つ前にそれは現れる────。

 

 

 

 

 ──本来、彼女は目を覚まさなかった。

 彼女は旧き女神。零落した《蛇》にして豊穣の母、神々の母。

 最古の神話群に名を連ねながらも神々の王に討たれ、沈んだ者。

 

 遙か遠き極東の地にて、本来はとある狐神に通ずる道摩法師の《幣》の呪力に感応し、彼女は縁無きこの地に降誕する。

 

 

 ──彼女が望むは怨敵への復讐。

 

 

 我が顕神した姿である《蛇》を殺した忌々しき《鋼》の神々。

 

 

 「運命」の母たる己を追い落とした愚かしい英雄神どもへの復讐。

 

 

 

「く、く、クハハハアハハハハハハハ!! 感じるぞ、感じるぞ。欠けた蛇。私と同じく旧き時代の《蛇》の気配を……! 今こそ、母として人の世に返り咲く時よ!」

 

 因は三つ。

 

 一つ、この地に欠けた《蛇》、ゴルゴネイオンが存在したこと。

 二つ、膨大な呪力を身に宿す獣と神が三人も存在したこと。

 三つ、依代と成り得る後天的(・・・)に神がかりの力を得てしまった(・・・・)巫女がいたこと。

 

 よって目覚める。

 旧き時代の女神────『まつろわぬ神』が!

 

 

 

「──我が名はダヌ! 生命と死を統べる運命の母なり! この世に蔓延る《鋼》ども! 我が名を我が怨嗟と復讐と共に永劫その身に刻み付けろ!!」

 




桜花ちゃんの『刀使の巫女』に関しては何も言わなくていい。
パクリじゃないから事実だから。偶々、同じになっただけだから(逸らし目)

ともあれ『まつろわぬ神』降臨。
観光客を傍目にサシで女神と出会ったしまった桜花ちゃんの運命やいかに。

──尚、今回は一回も登場しなかったオリ主(笑)も次回は活躍します。


改行弄り(2019/12/26)

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