極東の城塞   作:アグナ

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総話数四十話……!
あれ? ワンチャン完走いけるか……!?

此処までエタらず来れるとは。
我がことながら快挙では?(問題発言)


神殺しなれば

「ぐぅ!?」

 

 甲高い音を立てて絶断されるエリカの魔剣クオレ・ディ・レオーネ。

 既に都合七回、恵那と開戦して以降、その刀身は真っ二つに切断されていた。

 それも当然、エリカは才媛としてイタリアで、また草薙護堂の愛人として既に界隈では名を轟かせている才女であるものの、流石に神刀の巫女が相手では分が悪すぎた。

 

「獅子の鋼よ。不滅にして不朽の権威の徴よ!」

 

 結合、溶接、再構築。

 エリカが言霊を唱えると刃の半ばから切断されたクオレ・ディ・レオーネは再び壊するより以前の姿を取り戻した。

 不滅属性を持つ魔剣は幾度破壊されて尚健在だ。しかし……。

 

「流石、エリカさん。此処まで食い付いてくるなんてね」

 

「……己を神格の加護で満たし、神具を扱う。貴女たち委員会の戦力を軽く見ていたわけじゃ無いけれど神がかりの巫女だなんて、極東は予想以上に人材の宝庫ね」

 

「それ、エリカさんが言う? 個人の力量のみで恵那に食らい付いてくる人なんてそれこそ《撃剣会》のご老人か、桜花ぐらいだからねー。まだ立っているなんてエリカさんも相当だよ」

 

「それは光栄……と、言えばいいのかしらッ?」

 

「うん、素直に喜んでくれていい、よッ!」

 

 ぶつかり合うは鋼と鋼。魔剣と神刀。

 幾度と刃を交錯させながらエリカは恵那の力量を見極めつつあった。

 

 まず、呪術は殆ど用いない。

 使えないわけではないだろうが、基本的には神刀が持つ異能とそれを振るう純粋な剣術のみを頼りにした正道の戦闘スタイルである。

 

 リリアナのように魔女たる異能を絡めた魔術戦がほぼ発生しないため、呪術に対する警戒はそれほど必要ないだろう。

 寧ろ、その手の技術で比べ合うならエリカとしては負けるつもりはないし、リリアナを相手取るより遙かに楽であると言えよう。

 

 故に問題は余りに完成され尽くした正道の剣の方だ。

 

「……ッ!」

 

 痺れるような衝撃が両手に奔る。

 ……決して剛力な訳ではない、早いわけではない。

 

 ただ年不相応に巧すぎた。

 人間の視覚視点上発生する死角からの切り込み、刀の切っ先を利用した視線誘導、足さばきからの陽動、体捌きを用いた間合いの攪乱……。

 

 一つ一つの小技が綿密に絡み合い、目の前に確と相対しているのに時折、その姿すら見失ってしまう。いっそ魔術的なまでの剣才。

 純粋に剣術の腕において恵那はエリカの遙か上をいっていた。

 

「ハァァ────ッ!」

 

 大上段からの振り下ろし。

 エリカの剛力と大剣故の得物の有利。

 二つの脅威が恵那を強襲する。

 

 しかし恵那は薄ら笑いを浮かべたまま神刀の真芯でエリカの剣を受けた。

 通常はそんなマネをすれば得物の差で恵那の刀がへし折れるだろうが、恵那が持つそれは本来、神々が振るう神刀である。如何な魔剣の強烈な一振りであろうと傷一つ付けられる訳がなかった。加えて振るう者の腕も尋常じゃない。

 

 恵那は刀の真芯で受けると同時、手首を僅かに動かし、刀身に伝わる衝撃を流す。さらに受ける衝撃を利用してそのまま刀を下段の構えに持ち込み、一歩間合いを詰める。

 

 刀を庇うように半身を乗り出した体勢である……この瞬間、エリカの視界からは神刀の姿が完全に隠れ、消えた。

 刹那、繰り出されるは視覚外からの鋭い一閃。

 それをエリカは恵那の腕の動きから軌道を読み切り応対してみせるが、

 

「ふっ……!」

 

「な……ッ!」

 

 迎撃の魔剣が逸らされる。

 魔剣の腹を打ち据えたのは恵那が持つ神刀の柄の先(・・・)

 視線を受けてエリカの意図を悟っていた恵那が読み切った結果である。

 

「釣られた……!?」

 

「ふふん、桜花の剣に比べたら悪辣さがないからね。エリカさんって意外と素直?」

 

 魔剣とすれ違うようにエリカの懐に踏み込む恵那。

 慌ててエリカは後ろに飛び退こうとするが、しかし遅い。

 閃光のような突きが回避の先を行った。

 

「痛ッ……!!」

 

 エリカの肩を神刀が突き刺す。

 幸い、回避運動のお陰で深手となることはならなかったが……。

 負傷した肩を押さえながらエリカは頬に冷汗を流す。

 

(全く、神刀もそうだけどそれ以上に恐るべきは剣才ね……)

 

 近接戦闘における極意と言えば先の読み合い。

 言わば詰め将棋の腕である。

 

 こと達人同士の仕合において即座に戦いが終わるというのは稀だ。

 十合から二十。少なくない激突が発生する。

 故に大切なのは敵の一手、二手先を読み切り、一撃一撃を伏線として勝利の布石を打ち込み。確実に討ち取る一手を構築する絵図を描き出すこと。

 

 刹那に行う思考の早さ、直感による無意識の勝機への鼻。

 取り分け、槍、剣などの武器を扱う場合はそれが勝敗を分ける大要因となる。

 

 目の前の少女、清秋院恵那は一見してその知恵、政略の腕からなる思考などはエリカより下であり、直情的なリリアナを思わせるが、戦闘における剣の冴えは全く別物であった。

 まるで海千山千の達人を相手取っているかの如く、読みが深く、技が冴えている。

 

 その年に見合わぬ老練な手練手管に加えて時として大胆に身を危険にさらす獣が如き奔放さ……ああ、腕の差違はあれ戦い方には見覚えがある。

 これは正しく。

 

「まるで『獣』ね」

 

「はは、恵那は山育ちだからね、騎士様には無作法に見えるかな?」

 

「いいえ、それもまた剣の道でしょう。これほどの腕ならば一つの技として見下げ果てることなんて出来ないわよ。綺麗なだけの装飾剣に比べれば遙かにマシ」

 

「まあねェ。結局剣術は勝ち負けだから。要らない技に頼った挙げ句、負けるのは一番どうかと恵那も思うし」

 

 そう『獣』……勝つために最善を尽くし、勝利をもぎ取る神殺しらの戦い方に類似している。生来か、或いは後天的なのか、どちらにせよ厄介極まりない。

 聖ラフェエロ、叔父パオロ……或いは故国の『剣の王』か。

 

 それに等しい怪物性が恵那の剣には垣間見える。

 

「ふーん、実戦志向なのね」

 

「まあね。桜花と戦ってから尚のこと小細工の重要性に気づかされてねー。恵那としてはもう少し素直に戦うのも良いし、真似事ばかりも好きじゃ無いんだけど、その小細工だけで恵那を一方的に封殺できる様を見せられたら、ねぇ?」

 

「……貴女が手も足も出ないってどんな怪物よ」

 

「はは、今じゃ三割だから安心してよ。天叢雲があれば七割は固いんじゃないかな?」

 

 油断なく構えながらも嘯く恵那にエリカは驚きと共に半ば呆れながらため息を吐く。

 

「本当に、人材の宝庫ね……」

 

 神刀を手にし、これだけの技量を持つ者を相手に純粋な剣術だけで勝ち目を残せる剣術家などもそれこそ『剣の王』と同格の怪物である。

 桜花……かの王の従者については甘粕ら委員会から又聞いたり、調査により見聞を深めているが改めて聞くに滅茶苦茶が過ぎる。

 

 巫女として世界レベルの祐理。

 神がかりという超希少能力者の恵那。

 それに加えて神殺しに匹敵する地力を持つ巫女。

 

 これだけ多くの才女を生み出すなど極東は魔境と言う他ない。

 

「さて、恵那としてはこのまま剣術で競い合うのも良いんだけど……お互いに余り時間をかけられないしね。そろそろ決着といこうか」

 

「……そうね。功を焦るつもりは無いけれど気がかりはお互いにあるでしょうし」

 

「そいうこと」

 

 そう──この戦いはただ恵那がエリカを倒すか、エリカが恵那を倒すかではすまない。恵那の手腕か、はたまたかの王独自のネットワークか、本来は二人で雌雄を決すべき舞台はあろうことか極東二王の格付け決戦と化した。

 『堕落王』閉塚衛の乱入によって。

 

 護堂を信じるエリカではあるが、だからといってかの王相手に常勝無敗を信じれるほど夢見がちではない。あの『堕落王』といえば寧ろ欧州では有名な御仁だ。

 

 曰く、弱者の盾。曰く、本当の意味での神敵。

 

 まつろわぬ神との闘争を楽しむでは無く彼らを撃滅することを意思とする最も苛烈な神殺し。こと外敵廃滅にかけてはヴォバン以上に恐ろしい王である。

 件のヴォバンとて未熟な内に一度は下している。

 

 護堂一人に任せっきりにしていい相手ではない。しかも今回に至っては自らのフィールドに護堂を誘い込んだ上での戦いである。圧倒的不利は間違いない。

 

 憂慮するエリカに対し、一方の恵那もまた懸念はある。

 神殺しと神殺し、であるならば勝機は両名に存在しており、万が一にも護堂が勝利し、地上に帰還すればその時点で恵那がエリカを倒し、国外へ追い払うことは敵わなくなる。如何に神刀を携え、剣の道に通じる恵那とて相手が神殺しでは太刀打ちできない。

 

 またエリカと親しい関係にある草薙護堂であればこの局面で必ず妨害に掛かるはず。よって既に開戦より半刻、これ以上の戦いは望ましくなく……。

 

「──天叢雲劔よ。願わくば我が身を贄とし、荒ぶる御霊を鎮めたまえ」

 

 儚く敬虔な囁くような言霊。

 来る! ……とエリカが身構えると同時。

 

 ──漆黒の神刀が真なる権能を発現する。

 

「ちはやぶる神の斎垣も越えぬべし──今は吾が名の惜しけくもなし!」

 

 紡がれた呪文、既に恵那からは飄然とした平時の態度は抜け落ち、瞳には殲滅を誓うような鬼の瞳。立ち塞がる全てを蹂躙せんと恐るべき殺気が宿る。

 

 神速の踏み込み。そこに先の術理技巧は皆無。

 純然たる異常な身体能力便りの突撃。

 その様、疾風迅雷……されど単調故に読みやすく、ならば見切りは可能!

 

「そこ……!」

 

 激突する鋼。

 エリカは見事迎撃の一撃を合わせて見せた。

 

 しかし……それが死地であると誰が気づけようか。

 

「か……はぁ……ッ!?」

 

 窒息でもするかのようにエリカは思わず苦悶を漏らし、膝を突く。

 鋼が激突すると同時にまるで自身から生命力が抜き取られるような感覚が襲い、全身を強制的に脱力させた……いや、これは……。

 

「じゅ、呪力の吸収……! それがその神刀の力なのねッ!」

 

「………夷狄の威をも奪い、我が物とする。まつろわす(・・・・・)劔。それが天叢雲劔の力だよ」

 

 声音に宿る恵那の地金。

 流石に力を露わにしては余裕が無いのか、言葉は固く余裕はない。

 

「だから、比べ合いは此処まで。勝ちに行かせて貰うよ──エリカさんッ!!」

 

「ぐ……ハアアアアアアッ!!」

 

 ──そこから先は怒濤だった。

 

 技を捨て、交わす剣の回転速度を両者跳ね上げる。

 防御すらも殴り捨て、攻撃と回避のみが攻防を構成する、波濤が如き勢いで剣戟が調べを奏でる。

 

 十一、三十五、六十七、百八合──!

 

 瞬きすら許さぬ剣間合いでのインファイト。

 交わされる三桁を優に超す鋼の激突。

 一見して互角の有様を見せる壮絶な剣舞はしかし……。

 

「はぁ……はぁ……ぁあああッ!!」

 

 内情は余りにも一方的なものだった。

 ぶつかり合うたび、剣を交わすたび、エリカは活力を失う。

 

 恵那が振るう神刀が彼女から呪力を簒奪するがために。

 それでも何とか気力で振るってみせるのは才女が成す偉業であったが、如何な気力で保とうとも現実は根性論ではまかり通らない。

 

 全身から力が抜ける、愛剣が余りにも重い。

 もはや何もかもが限界だった。

 

「くッ、ぁ……!」

 

 遂に力の乗らない刃を恵那の神刀が弾き飛ばした。

 それを契機にエリカは乱れに乱れた呼吸で両膝両手を突いた。

 

 ──愛剣は手元から失われた。

 ──身体はもはや限界だった。

 

 出来る反撃はせいぜい顔を上げて眼前の敵手に倒れぬ意思を向けるだけ。

 対して相手は健在のまま刃を上段に構えて……ああ不味い。

 

「寸止め、では済まなそうね。今の貴女は」

 

「………」

 

 妖しく光る紅の瞳。

 殺気混じりの其処には微かな知性が残っているものの、それ以上に暴力的な意思が恵那の意図を塗りつぶしている。

 

 よって今の彼女に容赦などない。

 眼前には敵手。

 それが手負いで限界、隙だらけを晒しているならば。

 

 獲りに来るのは道理だった。

 神刀が振り下ろされる。

 

「……ッ!」

 

 防御不能、回避不能。よって絶体絶命。

 刹那に過る走馬灯染みた感覚。

 

 護堂は果たして負けないだろうか、だとか。

 此処で死んでしまうかも知れない、だとか。

 嗚呼、護堂を悲しませることになるかも……など。

 

 心配、諦観、無念──それらが胸に過って。

 

「……ごめんなさい、護堂──」

 

 そんな言葉が口から漏れたものだから────。

 

 

「エリカ────ッッ!!」

 

 

 巫山戯るなと──一切合切の道理を神殺しは殴り飛ばしていた。

 

「なっ!?」

 

 神刀の軌道が逸らされる。

 突如より虚空から現れた人影が神刀を殴り飛ばしたのだ。

 代償に鮮血が舞うが人影は一顧だにしない。

 

 彼は恵那に視線を固定したまま、しかし背後の相棒を気にかけるように。

 

「大丈夫か、エリカ」

 

 無骨にそんな言葉(すくい)を投げかけた。

 

「……遅いわよ、馬鹿」

 

 飛来した様々な想いの丈をプライドで捻じ伏せ、エリカは微苦笑しながら、いつも通りの声音で頼れる恋人に言葉を返す。

 

 ──草薙護堂、推参。

 

 勝敗の天秤は此処に覆った。

 

 

………

……………

…………………。

 

 

「……草薙さん、「盾の王様」に勝ったんだ」

 

「ああ。……だからもうこんな喧嘩は終わりだ、清秋院。その物騒な刀を仕舞うんだ」

 

 現れた護堂に恵那は茫洋と言葉を紡ぐ。

 制御できていないのか今も荒ぶる殺気を受けながら険しい顔で護堂は言う。

 

「アイツはもう手を引いたみたいだし、これ以上の戦いは意味ないだろ。それに清秋院がどんなに強くても……俺は負けるつもりはない」

 

「はは、流石に恵那も王様に勝てるとは思わないよ」

 

 神殺しと神刀の巫女。

 ならば恵那にも勝機が無いわけでは無いが、神殺しの理不尽さと強さを知る者ならば手段があることと出来るかは全く別問題だと断言するだろう。

 

 まして先ほどまで同族と交戦していたためか今の護堂は完全に戦闘態勢の準備が完了している。こうなった神殺しは、もはや只人ではどうにも出来ない。

 

「それに今ので勝ちは逃しちゃったし、恵那としては……うん、悔しいけど負けを認めて良いんだ──」

 

 トドメと確信した一撃をはね除けられた。

 それは護堂という第三者の手による者なれど、彼が現れるまで耐えきって見せたエリカの戦果でもあるだろう。だからこそ、決めの一撃を逃した時点で、此処まで戦いを引き延ばして見せた時点で、恵那はエリカに勝ちを譲っても良かった。

 ────恵那は(・・・)

 

「だけど……ごめん。おじいちゃまに何かあったのかな? いつもなら……こんなことにはならないんだけれど……!」

 

「……清秋院?」

 

 神気が満ちる。呪力が荒ぶる。

 ──宿敵(・・)を前に殺意が暴走を開始する。

 

「もしもの時は容赦なくやっちゃって(・・・・・・)よ。流石にそこまで迷惑はかけられないしね……」

 

「──清秋院!!」

 

 不味い、と護堂が直感して手を伸ばす。

 だが、その手恵那に届くことは無かった。

 

 よって……神威抜刀。

 神がかりの媛巫女は己の制御を失った。

 浮上するは神なる意思。

 まつろわぬ神格。

 

 その名は──!

 

『応とも! 此処から先は容赦など要らぬ! 神殺しとは即ち神敵なれば神の佩刀たる我の敵である。構えよ、仇敵』

 

「お前……清秋院じゃないな!?」

 

『いかにも! 我が主と巫女は我を天叢雲と呼ぶ! 見知りおくが良い……神殺しッ!』

 

 まつろわぬ神、顕現。

 剣の巫女を拠り所に、神殺しは宿敵と相対した。

 

 

 

 

 ──アストラル界。

 

 未だ混迷極まる事態を引き起こした元凶たる御老公。

 衛は一人、彼らと相対しながら、彼らの一人が口にした予想だにしない質問を受けて眉を顰めた。

 

「全ての弱者を守るため、俺が国難の前に立つかだと?」

 

「はい──どうなのですか? 羅刹の君よ」

 

 玻璃の姫君の言葉は真剣だ。

 真意はともかく必要な質問なのだろう。如何にも茶化しそうな黒衣の僧も、駄神も黙って衛の返答を待っている。

 

「……その質問が出るって事は、つまり今この国に国難が迫っている、という認識で間違いないのか?」

 

 考えること数秒。

 衛は質問には答えず、予想した疑問の真意を逆に問い返した。

 

 自分を謀り、この事態を意図して起こし、そして今、自分を目の前にその問いを投げかけるのは即ち、羅刹王……強大なる神殺しでしか対処できない事態が生じているからでは無いかと。疑問は果たして……。

 

「その問いは合っているとも、同時に間違っているとも言えます」

 

「左様。より正確に申し上げるのならば国難になり得るものがこの国には潜んでいるというべきでしょうな」

 

「なに?」

 

 玻璃の姫の言葉に黒衣の僧が同調する。

 ……国難になり得る者が潜んでいるとはどういうことか。

 

 いや、考えるまでも無いことか。

 神殺しでなくば対応できない、国難呼ぶべき事態。

 この国に潜む脅威とは即ち。

 

「……なるほどまつろわぬ神か。察するにお前らが封印した何処ぞの神格。それがお前らが憂慮する国難という訳だ」

 

「そう。この国には眠れる虎が今もその脅威のままに眠りについておられます。ですが、二人目の羅刹の君が誕生して以降、この国では幾度となくまつろわぬ神々と羅刹の君による死闘が行われました」

 

「それに共鳴してかそれがしが施した呪法にも影響が出て参りましてな。今はまだ地上の巫女の尽力、この国の呪法を司る者どもの尽力により眠れる獅子のままでいるものの、もはやいつ目覚めても可笑しくない」

 

「つまり少なからずテメエらが巻いた種っていうわけだよクソガキ。後先考えず暴れ回るテメエらが居たお陰でこっちが施した仕掛けに傷が付いたって話だ」

 

「黙れ駄神。お前には聞いてない」

 

 口を開いたスサノオとの間に殺意が交錯するが、衛は怒りを理性で抑え込みつつ、思考を深めた。

 まつろわぬ神。只人ではおよそどうにもできない存在であるが、なるほど人外の者どもであれば取れる手段もあるだろう。彼ら御老公の力添えにより日本に封印されているという謎のまつろわぬ神。国難とはそいつのことで。

 

 それを退けられる戦力、国難を征する人物として自分を槍玉に挙げたというわけだ。いや……自分だけじゃないだろう、そもそも今回の騒動。

 

「ああ、なるほど。つまりお前たちは大上段から俺らの戦力を見極めていた訳だな。俺か後輩、お前たちの封印したまつろわぬ神を果たして打倒して見せるだけの戦力を有しているかどうかを」

 

「……仰る通りです」

 

 そう言って申し訳なさげに頭を下げる玻璃の姫君。

 殊勝な態度に多少不快な気分の溜飲は下がるものの、飄々とした様子の黒衣の僧と傲岸不遜なままの駄神に至っては論外だ。

 

 そして玻璃の姫にしてもこの事態の首謀者であり、止める立場にいられたにも関わらずこうして事態の引き金を引いている以上、同罪である。

 

「で、目に止まった結果。改めて問うわけか。……俺に、この国に生きる弱者を守るため例のまつろわぬ神の傘となり得るか否かと」

 

「はい──此度の事態に関しては我らに弁明の余地もないところ。しかしそれでも我らは貴方方の力とその心を確かめねばならなかった」

 

「大義のためか。フン、まあいいさ。貴女に(・・・)関しては問題ない」

 

 不快で、不愉快だ。

 しかしこうして言葉を交わし、その誠実な態度の気性から衛は既に見切りをつけていた。彼女は本命(・・)ではない。少なくとも衛の気性を知って尚、琴線に触れるようなマネをして一方的にこちらを謀ったりしては来ないだろう。

 

「まつろわぬ神に呪法とやらを施したのは自分だといったな。仏教の者だろうに大した破戒僧だな。お前も、神殺しに勝るとも劣らない不敬だ」

 

「はは、耳の痛い言葉ですな。この通り、この身は解脱に至れども仏の御心はまだ遠い。何せ、未だ地上の者の行く末を憂慮し、手を加える次第でありますが故に」

 

「憂慮ね。如何にも我道を突き詰めただろうお前がか?」

 

「それがしもまた、人の身であったればこそ」

 

「さよけ。まあ、お前の信念などどうでもいい(・・・・・・)

 

 必要とやればやらかす(・・・・)だろうが、進んで地雷を踏み抜くほど阿呆ではないだろうと衛は察する。些か、反骨心が強いとも思うが、だからこそ敢えて気を逆なでさせることはあっても、意図せずそう言ったマネをする愚者ではないはずだ。

 

 ならばこそ、ああ、やはりそうか。

 なまじ絶大な力を持つ分、どうせさして考えもせず命じたのだろう。

 その光景が簡単に思い浮かび、衛は思わず笑った。

 

「──ああん? なんだクソガキ」

 

「いや、何でも無いさ御老公(・・・)。ただちょっと、予想通り過ぎて嬉しくてな。オーバーキルは主義じゃないし、敵は絶対に見誤らないようにしているから自分の目が正しかったことに安堵しているのさ。特にさっきは間違えたからな」

 

 くつくつと衛は笑う。

 確信に安堵した衛は一転して態度を改め、泰然と言葉を続ける。

 

「疑問、俺が関係ないヤツだろうが守るかだっけ? 答えるよ──そいつが弱者なら何が何でも守るだろうよ」

 

 黙して三者は続く言葉を待つ。

 衛はそれを見て、己の信念を他人事のように口にした。

 

「俺にとって大衆なんぞどうでも良いんだ。どいつもこいつも好き勝手、世の中の不平不満やら好みやらを勝手に定めて思って何となくダラダラと平々凡々に。別に攻めやしないが単純に興味が無い」

 

 俗に言う世間一般が言う善良な無辜の民。

 超常を担う強者として、最低限社会に生きる人間として、天災が如き同族や神々から守ろうという意思はある。だが、言ってしまえばそれだけだ。

 仲間と天秤にかければ比重は遙かに傾くし、誰か千のために仲間の一人の犠牲が必要だというならばいっそ千を切り捨ててやるという意思さえある。

 

 顔も知らない誰かより、大切なのは常に身内。

 その信念に揺るぎはなく。

 

「だから俺の食指が動くとするならそいつは大衆から炙れた何者か。仲間も無く、縁も無く、ただ理不尽に殺されんとする誰かだろう。必要な犠牲だの、こぼれ落ちる少数だの俺は昔から嫌いでな。仲間で無くとも助けようと思える」

 

 大衆は大衆。社会が、誰かが、どうせ守ってくれるのだ。

 だから手を差し伸べるならそこからこぼれ落ちたささやかな誰か。

 元よりこの身は魔王なれば世界の道理に刃向かって見せよう。

 

 その命、誰も救わないというならば。

 

俺は誰も見捨てない(・・・・・・・・・)。それだけだ」

 

 社会に馴染めぬ、混ざれぬ、日の光に当たらぬというならば黄雷の輝きを持ってしてその身を照らし、慈しもう。城塞は常に弱者の味方で在るが故に。

 そして城塞とはただ守るだけではない。

 外敵を、脅かす侵略者を怒りと愛護心で弾き飛ばす剣でもあるのだ。

 

「疑問には答えたぞ? 満足か?」

 

「はい──羅刹の君よ。弱者を庇護する盾の城塞……貴方ならば乞わず、求めずとも在るが儘に庇護者たり得ると」

 

「過分な評価をどうも。……だったら分かるよなァ、この後俺がどうするか」

 

 莫大な呪力が渦巻く、殺意が爆発する。

 解放される赫怒に嬉々とした笑みを浮かべて、衛は怒りながら喜んでいた。

 

言い訳(・・・)はよく分かったがそれとこれとは話が別だ。俺は宣告を翻すつもりはない。──安心しろよ、運が良ければ片腕で済む。なあ……駄神」

 

 視線を送る先に居るのは御老公……スサノオ。

 まつろわぬ身を捨てた神が一柱。

 されどその身が神だというならば所々の事情は問答無用。

 手を出してきたならば殺すだけだ。

 

 対して……。

 

「……運が良いな」

 

 スサノオは笑う。

 そう──運が良い。

 この国には二人の神殺しが居るのだから。

 ならば。

 

「クソガキ一人、消えても替えは効く」

 

 先に手を出したのは事実。

 だが、不遜が過ぎるぞ獣畜生。

 この身は定住を得て尚、神々に列席するに変わらず。

 

 ならば相応の礼を払うは当然のものであり──。

 先ほどからの無礼不敬の釣瓶打ち、相応の報いを受けるものと知れ。

 

「死ねよ老害、報復の一撃にて苦悶しろ」

 

「死ねやクソガキ、上下の差を思い知れや」

 

 嵐が吹きすさぶ────。

 この世ならざる人外坐す領域で、激怒する神敵神仏が剣を抜いた。




衛「仲間に手ェだしたな死ね」

ス「お前生意気過ぎワロタ。死ね」


短気かお前ら……。
最近の若者とヤンキー怖いッスね。

それはそうと護堂さんが主人公っぽい(小並感)

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