極東の城塞   作:アグナ

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カンピオーネSS、増えろ……増えろ……!
エタ作者成らざる真のSS創作者来たれり……!

そう、エタ作者に期待してはならないのだから(戒め)




世間は意外と狭い 下

 その日──彼らは『運命』に出会った。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 ──猛暑、八月のある日。

 

 その日の都心では毎年聞いているような記録的暑さとやらのせいで茹だるような暑さが蔓延していた。灰の塔に囲まれた魔都では熱の逃げ場がなく、加え蔓延する湿気と交わって、半自然のサウナと化している。

 

 時としてクーラーさえも暑さの前に白旗を揚げる環境はでは発達した文化圏ならではの切り離せない熱場。まさに人類文明が築き上げた人工の地獄である。

 加えて、トドメとばかりに魔都に突き刺さる直射日光はアスファルトの床を熱に染め上げ、自動車の排気と交わり、砂漠でもないのに陽炎を立ち上らせている。

 

 この外に出るのも億劫な超過酷環境下で就業やら学業やらに従事しなければならないのだから、日本の国民性と社会制度は業が深い。

 果たして、熱地獄の先に何が待ち受けているのか、学び、働き続けた最果てに何が待つのか、日本の夜明けはいつなのか……そう考え始めたサラリーマンたちは正しく現代を生きる哲学者(アリストテレス)に相違なかろう──。

 

 だが、そんな道行く賢者(サラリーマン)たちとは対照的に、夏の長期休暇にも関わらず態々、この地獄に付き合う勇者のように魔都を征く男たちが三人。

 それぞれ彼らの名を高木、名波、反町と言う。

 場所はオタクたちが聖都(メッカ)と崇める都心の片隅に佇む萌える街、秋葉原。猛暑という過酷な環境下にも関わらず、命知らずの馬鹿野郎共は今日も今日とて夏の長期休みを利用したアニメorゲームorラノベのイベント消化のため、吹き出る汗を拭いながら必死に街中を歩き、時に走る。

 

 それは最果ての海を見据えるイスカンダルのように、新大陸を目指すコロンブスのように、正気に戻れば虚無感しか残らないだろうイベントを若さと萌えで乗り切らんとするその意気はバカとしか言い様がないが、それでも敬意を払わざるを得ない類いのバカだった。何故なら彼らのお陰で将来市場、数兆の日本経済市場の一角は今にも守られてきたのだから。

 

 大人の事情と個人の欲望が交わるそんなカオスな街。

 彼ら三人は街角の一つ、雑居ビルの前で足を止める。

 

 目前には六階建てほどの雑居ビル。

 見上げる先、ビル三階には可愛い女の子の写真がプリントされた看板。

 

「遂にこの日が来てしまったな……」

 

 とは、高木。

 

「高校一年……ふ、長かったぜ……」

 

 とは、名波。

 

「中学生では流石にヤバいと無念の断念から三年。この時を夢にまで見たぞ……」

 

 とは、反町。

 

 ゴクリと生唾を飲み干して、逸る気持ちを抑えつける。

 ──学校では妙なカリスマを持ち、クラスの中心人物として毎回馬鹿な騒ぎを起こすことから三バカとまで呼ばれた三人をして戦慄と畏怖、歓喜と緊張を隠せない。

 

 そう、此処はメイド喫茶。英国の侍従的要素から都合の良い部分だけ抜き出してもはや語義的なメイドから袂を分かって久しい日本のメイドさんたちが御座す場所である。萌えの中でも取り分け、メイド道を征く者として名高い三人の取っては真に聖域に等しい場所だが、実の所、実際入るのはこれが初めてだったりする。

 

 これは行動力の高い三人にしては珍しい事だ。彼らの被害に会う某女垂らしの神殺しにしてみれば「考えられない」と口にすることだろう。

 しかしこれには大して深くない訳があった。単純な話、中学生では流石に尻込みしていたというだけ、つまりヘタレていただけである。

 

 中学生はヤバくて、高校生は何故良いのか?

 それは彼らにしか分からない事情である。

 

 ただ参考にするならば、「アダルトゲーム? ……十八才未満は駄目だろ? え? 俺はどうだって? Fa○eは文学っしょ」と同年代の頃に某ゲーマー神殺しは言葉を残した。……要はそういう事である。

 高校生という中学生と比べれば、精神的に自立したがりなこの頃。大人の定めた正義とやらに刃向かってみたいお年頃なのだ。

 

 もっとも、今回に限っては明確に年齢制限と法律の定められたアダルト路線ではないので、セーフと言えるだろう。メイド喫茶が健全な高校生が入って良い場所かを大人がどう判断するのかは別として書面上に何ら問題は無い。

 

「しかし反町、本当に征くのか?」

 

「まさか怖じ気づいたのか? 同士・高木」

 

「見損なったぞ同士・高木! いつか俺らもあそこへ行くんだ──そう誓ったあの日の誓いを忘れたか!」

 

「忘れちゃいないさ……忘れるかよ、あの誓いを。俺は片時も忘れた事なんて無かったさ!」

 

 二人の批難に高木はぐっと拳を握りしめ、強く熱く雄々しく言い切る。反町が持ち込んだメイドアニメを前に三人で誓い合ったシーンを脳裏にリフレインさせながら、それでもしかしと首を振る。

 

「だが、俺たちはメイド喫茶初心者……言うなれば選定の剣を抜く資格を得たばかりのアーサー王に等しい。そんな初心者だけで果たして聖域に踏み入って良いのだろうか」

 

 三バカはそれぞれ各カルチャーにおいてメイドというものについて学び、メイド喫茶に関しても初心者ながらに見聞を深めている。

 選択時も予算に関して調査済みだし、予め初回料金の掛からない店をチョイスしているし、その店もチャージ料が些か掛かるが萌え萌え系の店をキチンと選択している。

 準備万端、完璧とも言えず最善は尽くしてある。

 しかし……

 

「俺たちは実際にこれが初入店……どう振る舞えば良いのか、そういったマナーについては文字通り最低限だ、此処はやはり玄人意見を要求すべきではないだろうか……俺はどうしてもそう思っちまうんだ」

 

「……くっ、確かにヘマをして出禁など笑えんか……!」

 

「一理ある。だがしかし、此処まで来ておいて「ちょびっと怖かったので返りました」ではクラスで宣誓した意味が無い! 俺たちは必ず凱旋するという約束に反する上、嘗ての俺たちの誓いにも反する……! 征くしかないだろう!!」

 

 相当にバカをやらかさない限り、利益を取る店側が早々に出禁など言い渡すわけがないのだが、長年の目的地を前にテンションがハイになっている上、夏の暑さで頭をやられている三人に、そんな論理は通用しない。

 

「クソッ! こんなことならば聖地に詳しい先達を雇うべきだったか……!」

 

「どうする? 今から誰かを雇いに征くか?」

 

「バカ言え、目的地を前に一度でも後退するなど、メイド道に反する!」

 

 悶々と苦悩する三バカ。傍から見れば不審者である。

 もしもこの場に一般人が居合わせれば通報待った無しだ。

 

 だが、此処はオタクたちにとっての聖なる都。ならばこそ、苦悩する彼らに共感して彼が引き寄せられたのは自明の理か。

 ──蜘蛛の糸は、王の降臨と共に垂らされた。

 

「お困りのようだな」

 

 そういって現れた一人の青年、赤いレザージャケットを身に纏い、スーツ姿の緑色の髪を持つ中性的な人物を引き連れるその様は彼ら三人に負けず劣らず不審者である。

 何故かPS3のリモコン片手にキザな口調のまま彼は続ける。

 

「見れば、メイド喫茶を前に尻込みしているという様子……ハハン、どう見るハザマ」

 

「ええ、正しくラグナくんの言う通りでしょう。というか見たままですかねェ」

 

 フッと強者感を出しつつ笑う、ラグナ使いの閉塚衛。

 全身から胡散臭いオーラを放ちながら同調するハザマ使いの結城硲(IT系企業所属・嫁と娘二人あり)。

 

 つい先ほどまで徹夜で熱狂の格ゲー大会を行い、栄養ドリンクでガンガンに決まっている二人組はいつも以上に可笑しなテンションで見かけた青少年に絡んでいた。

 

「貴方方は一体……?」

 

「通りすがりの蒼い深淵を知る者とだけ。察するにメイド喫茶に入りたいが入れないと言ったところだな……まあ、気持ちは分かる。俺も嘗てはサークルメンバーの一人に強引に連れ込まれて緊張していた頃があった」

 

「はい、何事も未知というのは恐ろしい。給料が良いからと碌に調べず就職したらブラック企業さえ真っ青になる超ブラック企業だった。などという事もあります。未知はそれはそれは恐ろしい。百聞は一見にしかずという言葉を残した先達者は正に世界の真理を突いている」

 

 フッと遠い目をする衛とフッと遠い目をする硲。

 全く別の事情なのに笑みは驚くほど同質で似通っていた。

 

「だが、恐れることはない同士よ。此処がどこだか忘れたか?」

 

「そうです。此処は天下の秋葉原。ツンデレ好きだったり、人妻好きだったりと何かと業の深い連中が多い街……言わば我ら虐げられし者の最後の楽園!」

 

「ならばこそ、此処ではノリこそ全てだ! 応とも! 当たらないデッドスパイクさんだってとりま叫んでれば当たるときもあるんじゃい!」

 

「ええ! 第666拘束機関解放すれば如何な締め切り前(デッド)超過労働(ヒート)とて恐れるに在らず!」

 

「そういう事だ! 分かったか初心者(ニュービー)! メイド喫茶を前に何を迷うか。聖域に御座すは何もお前たちだけじゃあるまい!」

 

「此処は敵地でなく聖域。お前たちのようにメイドを愛する同士だって必ずいるでしょう!」

 

 励ましの言葉らしい檄を飛ばす二人組。

 半ば本題には関係の無い内容も混じっていたが、対する三バカは背後に『ズガガーン』という効果音が付くだろう、ほどに戦慄と衝撃を受ける。

 そう、この時三人は運命に出会った。

 熱く語る先達の姿、それは正しく歴戦の王者の如し。

 

「そ、そうか……俺たちは俺たちだけじゃない!」

 

「みんなが、みんながいるんだ!」

 

「そうだ……忘れていた、この街は……!」

 

 此処は家族の冷たい目線がある家でも、女子の冷ややかな目線がある学校の教室でもない。此処はジャンルは違えど、等しく己が趣味を愛し、趣味に愛される変態(同士)たちが手を取り合って築き上げた趣味と萌えと大人の黒い策謀が蠢く街。

 秋葉原──メイド道を征くものは決して一人ではないのだから。

 

「おお! ありがとう先輩! ありがとう秋葉原!!」

 

「俺たちはようやく目が覚めたぜ!」

 

「俺、帰ったらメイドな妹と結婚するんだ!」

 

 ハイテンションな三バカ。

 

「気にするなよ、後輩君。迷える若き同胞を導くのが先達の役目ならば」

 

「私たちも戦場に同行しましょう。メイドジャンルはラグナくんも共にジャンル外ですが、偶にはこういうのも悪くはないでしょうしね」

 

 歴戦面するバカな二人組。

 

「「「「「いざ、我らメイド喫茶に征かん!」」」」」

 

 ツッコミ不在、常識人不在の中、テンションのぶっ飛んだ五人の馬鹿は、雄々しい背中を見せながらメイド喫茶の中へと消えていったのだった……。

 

 

 

 

「ま、そんな感じで俺たちは知り合ったらしい」

 

「………」

 

 そう言葉を締めくくった衛に護堂は言葉もなかった。

 脳裏に描くはクラス内で騒ぐいつもの三バカと、同調する目の前の神殺しの姿。この時点で護堂の先輩に対する評価はドニと同列なものに成りつつあった。

 

「まあ、当時の記憶は俺も何故か曖昧でな。……確か、ニート先輩がニューを持ち出した辺りまでは覚えているんだが……」

 

「そうか……」

 

 ブツブツと呟く衛に護堂は遠い目をする。

 そのニート先輩ってのもきっと碌な人物じゃないのだろうなと。

 

「しかし、あの時に出会った反町たちがまさか後輩君の知り合いだとはな。世間は意外と狭いというべきか。ま、お陰でそっちの個人周りの情報はよく調査できたから幸運な話だった。書面上ならともかく、個人的なものはどうしても周りに居る人間じゃないと傍目からは分かりづらいからな」

 

 思い出せないと悟ったのか、衛は話題を諦め、代わりに望外の幸運を思い出して肩を竦める。……実の所、『女神の腕』の情報収集にはあの反町たちの書簡も護堂に関する情報として盛り込まれていたのだ。

 故に彼らとの出会いは衛が護堂と対したときに有利を保つための言葉選びに十分役立てるに足りた。

 

「……お前、アイツらを利用したのか?」

 

 肩を竦めながらそんな発言をする衛に護堂は不快げな反応をする。 

 あの三人はバカだが、護堂の友人である。そんな三人を利用したとばかりの発言は護堂をして黙ってはいられないものだ。

 

「まさか、同士を前にそんなマネが出来るかよ。情報云々はただの幸運。お前と友達だからとか言うつまんない理由で近づいたわけじゃねえよ、第一、一年前はお前が神殺しとして生まれる前だ。生憎、俺は未来視なんか持ってねえ」

 

 護堂の反応に呆れると言った態度で衛が応じる。

 衛は確かに歴戦の神殺しだが、未来視などという権能も異能も持っていない。 

 

「……ああでも、もしかしたらこれも運命。お前が生まれる予兆だったのかもな」

 

「え? どういうことだよ、それ」

 

 しかし続けた言葉に護堂は訝しむ。

 運命などと、そんな言葉がこの男の口から出るのは違和感があったから。

 対して、目の前の先達はどこか悟ったような口調で、

 

「この世に意味の無い因はないって事だよ。そりゃあ反町のような連中と知り合うのはそう珍しくないが、それが神殺し(お前)と繋がっているなんて出来すぎだろう。つまり今回の件がある前、もっと言えば神殺しとして前に会議で相対するより前からお前と俺が何らかの関わりを持つことが決定づけられていたわけだ」

 

 ──仮に衛が日本でなく外国へ移住した未来であっても、彼らは共通の友人の存在によって何らかの関わりを持つことがあっただろう。

 衛が彼らから護堂を知らされるか、護堂が彼らから衛を知らされるか、どちらであるかは定かじゃないが、何らかの形で、縁遠い彼らを巡り合わせた事だろう。

 

「お前だけじゃない。お前の所の夜叉姫が、ヴォバンを呼び寄せたように。或いはエリカ嬢と関わったがため、お前が『剣の王』に目を付けられたように」

 

「……恵那が、アンタを呼び寄せたように、か」

 

「そうだ。神殺しは混沌と騒乱を呼ぶ……ふん、どうにも嫌な感じだ。もしかして、アレク先輩が『最後の王』を見つけられないのもその辺りが関わってくるのか?」

 

 眉をつり上げ、再び思案に耽る衛。

 一方の護堂は衛の言葉に不吉な予感を覚えていた。

 

 運命染みている……それはただの直感。それこそ朝のニュースか何かで見るような今日の占い染みた根拠のない推測であるものの、何故か護堂はこの時、衛の感想を聞き流すことが出来なかった。

 意味の無い因はないと衛は言う。

 ならばそれが齎す結果とは……。

 

「ま、その辺りは俺の領分じゃないか。俺はいつも通り、降りかかる火の粉を払うだけだしな。さてと……」

 

 言って衛は手元の教科書を閉じ立ち上がる。

 

「帰るのか?」

 

「ああ、お前と話していて全く中身が入ってこなかったしな。これ以上、居ても雑談するばかりで意味なんか無いだろ」

 

「む、俺のせいかよ」

 

「してねえよ。単に他人がいたら勉強なんて出来るかという話だ」

 

 面倒くさそうに顔を歪めながら言う衛。

 確かに衛は万事面倒くさがり屋な上、護堂との関係も良くは無いため、本人に意図はないとは言え勉強の邪魔をされたことに思うところがないわけではないが。

 

「話を振ったのは俺だしな。何でも人のせいにする程に器は小さくねえ積もりだよ」

 

 護堂のレシートも手に遊びながら、護堂に背を向ける。

 

「おい待て」

 

「先輩からの施しだ。涙流して感謝しろよ苦学生」

 

 そういって、殺し合った仲の神殺しは呆気なく護堂に別れを告げることもなく、さっさと言いたいこととやりたいことだけやって去って行った。

 

 ……やはり自分とアイツの関係はこう(・・)なのだろう。サルバトーレ・ドニのように相手を何処かライバル視するようわけでもなく、ヴォバンのように決して交わらない相手として敵対するでもなく、付かず騒がず関わらず、されど交わったならば何処までも同族同郷の敵として相対する。

 

 草薙護堂と閉塚衛の関係など、そんなものだ。

 

 だから今回の方がイレギュラー。

 親しくもない中、こうして出会い、日常染みた会話を交わし合う方が珍しい事なのだ。先達の言葉を受け入れたわけではないが、予期せぬ出会いというものはなるほど、どうしても運命染みたものを感じてしまう。

 

「ていうか、一息つこうと思って喫茶店に来たのにな」

 

 これでは落ち着かない家に居る以上に落ち着かない。

 結局、少なくない時間を衛との会話に費やしてしまっている。

 そろそろ昼食時も通り過ぎ、ゆるりと間食を楽しむ頃合い。

 

 実際、店内の客層もがらりと変わっている。

 全く昨日の敵と出会うなどとんだ休日である。

 

「…………………まあ、こういう日もあるか」

 

 憮然と護堂は呟き、冷たくなったコーヒーを飲み干すのであった。

 奴に同調する訳ではないが、世間は意外と狭い、と。

 そう思う休日だった。




これでようやく幕間含めて一区切り。
次章に取りかかれるぜ……。

次章から一応、本編と逸れてオリジナル要素が強くなる予定なので、よろしくお願いしまする。……そろそろ空気のゼウスくんも出さないとネ。
まあスサノオ退場させといて今更何言ってるの感パナいけどね。

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