……失礼、ただの私事です。
今回はオリ主は出ません。ただの説明回です。
さて、私の文才(うで)で再現できるか……?
幕間・王を知る
衛らが丁度、鬼の居ぬ間にサボりをかましている頃、東京を襲った『まつろわぬアテナ』を見事迎撃せしめた八番目の神殺し、草薙護堂はつかの間の休息に心身ともに休まって―――いなかった。
「あら? 思いのほか肌寒いわね……。護堂、もうちょっと寄ってくれるかしら? 寒さを凌ぐには人肌で暖め合うのが早いでしょう?」
そういって撓りかかってくるのはエリカ・ブランデッリ。自称、護堂の愛人を名乗る少女である。王冠を思わせる金髪に外国人特有の素晴らしいプロポーションを誇る彼女は口元に小悪魔的な笑みを浮かべつつ、護堂の片腕を取る。そうしてそのまま腕ごと護堂の身体を引き寄せ、顔と顔が接するほどの至近距離で、
「公共の場で何をしていらっしゃるんですかエリカさん! それに草薙さんも!」
咎める声。エリカとそれから護堂を怒鳴りつけた彼女は万理谷祐理。『媛』と呼ばれる高位の巫女であり、『まつろわぬアテナ』の一件より知り合った少女である―――此処は私立城楠学院高等部……その屋上。お弁当を傍らに彼らは集まっていた。
「違う! これはエリカが勝手に……ていうかお前少し離れろよ! その、こういうのは不健全だと思うんだが!」
「ふふ、この程度のスキンシップ、
「何処がだ!? 大体、寒いなら何で態々、屋上に来たんだよ!?」
何がとは敢えて言わないが、むにむにと腕に当たる感触。思春期も真っ只中の非常によろしくない状況である。だが、離れられない。というのも純粋に腕力を競うならエリカに軍配が上がる。『怪力』の権能を持つ神殺しである護堂だが、それを発動させる条件にエリカの力は満たしていない。そのため振りほどくには自前の腕力が頼りなのだが……結果はごらんの通りだ。我ながら悪魔に遊ばれる己が情けない。
「いい加減にしてください、昨日といい今日といい! そのような破廉恥な行為……注意したはずです!」
「それに対する回答を昨日もしたはずよ? 私たちは恋人同士の仲。愛を確かめ合う行為の一体何処が破廉恥なのかしら? 日本の文化にはまだ疎いから」
と、いいながら雌豹の如く獲物を逃がすまいといっそ腕を抱き寄せるエリカ。どうでもいいが当たっている。さっきよりさらに。しかも極至近距離で接している所為でなんか甘い匂いまでしてくる始末。
「離れてくれエリカ。こういうのはホント、よくないと思うんだ!」
「―――謙虚は日本人の美点と言うけれど、もう少し積極性があってしかるべきだと私は思うわ。まあ、その辺りはこれからに期待ね」
流石にマズイと感じた護堂の否に大人しく引き下がるエリカ。物凄く聞き逃せない不穏を呟いた気がするが今いいだろう。
「それで? 用ってなんだよ、こんな人気の少ない場所まで俺たちを呼び寄せて」
エリカが言ったようにまだまだ肌寒い季節。特に今日はいつもに比べ駆け抜ける風も冷たい。外で食事と言うにはあまり環境が適していないため屋上の人も疎らだ。そして此処に護堂らが揃っているのは他ならぬエリカの一声によるものだった。
「そうね。時間も限られているし、護堂と愛を確かめ合うのは放課後でもいいでしょう。それと、今日の用事は貴方にあるのよ万理谷祐理」
「……なんでしょうか? エリカさん」
まだ知り合って日も経っていないことと、慎ましい大和撫子と情熱的なラテン系少女では些か組み合わせが悪いこともあって両者の言葉は護堂から見て些か険悪だ。と言っても態度の堅い祐理と違い、エリカは軽いものだが。
「アテナの一件、『堕落王』は如何なる見解を示しているのか聞いておきたくてね。正史編纂委員会に所属している貴方なら何らかの情報を持っているんじゃないかと思ったのよ」
「成る程……そういうことでしたか。ですが、すいません。正史編纂委員会の事情は私も存じておりません。甘粕さんならばかの王に関する情報も持っているでしょうけど……」
「アマカス、確かアテナの一件で動いたっていうエージェントだったわね……。やっぱり日本の組織に直接、顔を通した方が早いかしら? でも交渉をするにしても幾つか手札は欲しいところよね……ねえ、他に何か知ることはないかしら?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
護堂を傍目に勝手に知ったるかと話し始めた二人に待ったを入れる。二人の視線が同時に護堂の方へと向く。
「どうしたの護堂?」
「どうかなさいましたか草薙さん?」
「いや、二人とも何の話をしてるんだよ?」
全く事情についていけなかった護堂が至極、初歩的な質問をするとああ、という顔をしたエリカが答えてくれた。
「護堂の立ち位置についての話よ。ほら、日本には既に七人目の
「俺は、その『堕落王』? って奴と喧嘩する気はないぞ。それなのに何の準備が必要なんだよ?」
首を傾げる護堂……神殺しになる前は一般人だったゆえの弊害だろう。呪術界に関する事情を護堂は詳しく知りえないのだ。すると、エリカは一つ、指を立てて教え子に知恵を授ける教師のように今度は丁寧に語りだした。
「いい? 日本には元々、『堕落王』が神殺しとして呪術界を治めていたの。だけど護堂が『まつろわぬウルスラグナ』を殺し、神殺しとなったことで、今の日本には仰ぐべき王が二人居るという状況なわけだけど……」
「それの何処がいけないんだ?」
「いけない、という言葉より上手くないという言葉の方が適切かしら。元々の統治者が居る場所に新たな統治者が現れた……組織として混乱するのは当然でしょう? 頭が二つもあるんだから」
神殺しは魔王である―――それぞれの国はそこに属する神殺しに隷属するのが当然なのだ。人類を代表して天災に抗う彼らを王として崇め、その戦いを全力でサポートするのは最早義務と言っていい。そうでなくとも絶大な力を持つ彼らの庇護下にあるとなれば、それだけ発言力も高まる。
『堕落王』の場合は正に正史編纂委員会がそれに当たる、否、当たっていたというのが正しいか。
「だからまずはその辺りをハッキリさせないといけないでしょうっていう話よ」
どちらが長となるのか……それによって立場も変わってくる。最悪、護堂は『堕落王』という王の下につかなければならなくなる。隷属するなど護堂の望むところではないしエリカ自身、仰いだ王が別の王に跪くなど在ってはなら無いと思っている。同盟を結ぶにしてもあくまで対等で在らねばなるまい。
「外交交渉の前に少しでも有利な条件を引き出すために手札を揃えておくのは基本も基本よ。私の方でも情報を集めているんだけれど、どうも集まりが悪いのよね。組織立った隠蔽、というよりは単純に表に出ることが少ないからか……守りの王というだけはあるってことね」
「ふーん、その『堕落王』? って奴はどういう奴なんだ?」
事情は何となく分かったが、相手の情報は不明瞭だ。エリカ自身、情報が少ないというが護堂はそれ以上にかの王について情報を持ち合わせていない。それに、『堕落王』の名乗りもそうだが、守りの王……という言葉に感心を持った。
「あら護堂? もしかして戦いのための対策を」
「まさか、草薙さん!?」
「違う! 単純に気になっただけだって! 同じ神殺しだと俺はドニの奴しか知らないかったし、できれば仲良くしたい相手だっていうなら気になりもするだろ」
「ふーん、まあそういうことにしておきましょうか。『堕落王』ね、といっても私も詳しく知っているわけではないのだけれど……万理谷は? 詳しくなくとも自国の王として性格ぐらいは知っているでしょう?」
「はい、一度だけお会いしたことがございますから」
「へえ、万理谷は会った事があるのか……どういう奴なんだ?」
この中で恐らく一番、詳しいだろうと思っていた万理谷の思いがけない言葉で護堂もエリカも関心を寄せる。すると、祐理は困ったような表情で己の印象を言葉にする。
「不敬と思いましたが、その……不精の方であると私は思いました。桜花さんや甘粕さんなら否というかも知れませんが……」
「不精って……」
神殺しといえば迷惑を考えずに火種に飛び込みさらに迷惑を広げる傍迷惑という印象を持っていた護堂としてはその対極にあるような不精の神殺しという言葉にいまいち相手のイメージを抱くことが出来なかった。が、エリカはそうではなかったようで成る程と肯いている。
「噂通りの御仁というわけね」
「噂?」
「ええ、そもそも『堕落王』という字自体、かの王の気質に応じて当てられた名乗りだとね。曰く、神殺し屈指の穏健派、明確な騒ぎが起こるまでは決して行動せず、内々に引きこもるような仙人のような性格の持ち主とね。とはいえ、『まつろわぬ神』が現れれば真っ先に代表して民を守るために討伐に動くという。神殺しとしてはアメリカの王、『守護聖人』と名高いジョン・プルートー・スミスが近いのかしら?」
気質、極めて受動的。『まつろわぬ神』相手ですらやる気を見せない嫌戦の徒と、エリカはおよそ信じられないような逸話を語る。その言葉を聞いて、護堂は驚くと同時に、一種感動を抱いていた。
「お、おお。そんな奴がいるのか。カンピオーネなんてどいつもこいつも碌でもないなんて印象を持ってたけど、そんな平和主義者の仙人みたいな奴もいるんだな……」
「仙人……?」
感心する護堂を傍目にエリカの評に微妙な顔で首を傾げる祐理。……一度、会った者としてあれが果たして彼らのイメージに乗っ取った仙人であるか疑問である。まあ、ある意味、仙人に似通っているには違いないが。
「尤も、その護堂が感心した平和主義者の仙人でも無理なものは無理みたいだけれどね」
「へ? 何がだよ」
「今朝のニュースを見たかしら? ほら先日から連日放送しているじゃない? 石川県を震源とした北陸地震のニュース」
「ああ、事前に予兆も何もなかった唐突に起こったあれだろ? 震度七にも関わらずけが人は多かったけど幸い死者は居なかった奇跡の―――ってまさか……?」
「ええ、そのまさかよ。どうやらアテナ以外にも『まつろわぬ神』が出現していたらしいわね。『堕落王』がこれを迎撃してこと無きを得たみたいだけれど。私も情報を集める最中に知ったことよ。アテナの騒ぎでこっちも混乱していたから情報が遅れてしまったみたい」
つくづく騒ぎに愛されているというか、やはり神殺しの宿痾か、問題に巻き込まれることには事欠かないらしい。しかも、先日の地震がそうであるならば東京以上の凄惨な被害を出したことになる。
こちらも大規模停電と高層建築物溶解という怪事件で巷をにぎわせ、経済的損失を大きく齎したが、ニュース通りならば大規模災害と言うことで特に震災の中心地となった富山県の被害は目も当てられないものだと聞いている。
ひがし茶屋街は殆ど壊滅。加賀藩は前田氏が居城、金沢城は半壊。他にも曰く、作業中の工場からもれ出た化学物質の影響で体調不良に陥るやら、地震の影響で河川の流れが変わるやら、眉唾ものだが、太陽が消えた……などというオカルト話まである始末。
「神々の戦いで何も壊さずに済む、なんてことは無理という良い一例ね。特に護堂は平和主義者なんて自称なんだから素直に認めればいいのに」
「自称じゃない! 俺は平和主義者なんだ! 誰が好き好んで出鱈目と戦うようなマネをするか、アレは仕方がなくであって……」
「あら? 真に平和主義者を名乗るのなら仕方がなくがあっていいのかしら?」
「そ、それは……」
「エリカさん、草薙さんだって望んで被害を出したわけではないでしょうし、そこまで言わなくてもよろしいのではないでしょうか」
旗色が悪い、と思っていると護堂を擁護するように発言する祐理。―――被害を出したときこそ鋭く叱責、もとい説教をした祐理であるが反省した相手に同じことをいつまでも引きずるほどの陰湿さは持ち合わせていない。キッチリ反省したならば次に活かせば良い……果たして活かされるかどうか甚だ疑問であるが。
「万理谷……分かってくれるのか」
度々批判される平和主義者というポリシーを擁護してくれた祐理に護堂はキラキラと恩人を見るような目を向ける。
「護堂さんも反省しているようですし。日々の生活態度が相変らず破廉恥極まるものだとしてもそこはきちんと分かってますから」
「そうか、ありが―――いや、分かってない! 俺は断じて健全だ! 大体さっきみたいなことは元はといえばエリカから……」
「私のせいにするの護堂? 私は遠く離れた頃を思い、ようやく出会えた恋人との再会に宿して、寂しさを紛らわそうとしているだけのに……そう、釣った魚にエサをあげないというのね護堂は」
しくしく、と泣く(振り)をする悪魔。すると、擁護に回っていたはずの祐理がいつの間にかカッと覚醒したように態度を変え、般若面を背後に幻視するほどの剣幕で詰め寄る。
「エリカさんにも原因はあると思いますが、だからと言って安易に流される護堂さんに一切責任がないわけではありません! 元はといえば貴方が簡単に応じてしまうことが問題なんです! それに愛人なんてとても不健全極まりない関係を持っていることこそが日々のふしだらな振る舞いに繋がっているんです!」
「だからエリカは愛人じゃないって! それはこいつが勝手に言っていることであって―――」
夜叉姫の怒涛の勢いに護堂は何とか弁明を返すが旗色が悪い。『堕落王』をして天敵と言わしめる彼女の剣幕は如何な神殺しであっても対応しきれない。特に事実無根とは言え、傍目から見れば彼女の意見が正論極まりないがために。そして押しに押される護堂を追撃するようにエリカはまるでハリウッド映画の主演女優のような見事な演技で火に油を注ぎ込む。
「酷いわ護堂。あんなにも熱烈に愛を交し合った中なのに貴方はもう忘れてしまったというのね。私は貴方に純潔も心も捧げたというのに」
「護堂さんッ!!」
地獄の鬼も裸足で逃げ出す気迫に護堂はたじろぐ。―――古来、男性が弁説で女性に勝てることは少ない。特にこれが外交やら交渉やらが全く関係ない極めて私的な事情であるならば尚更のこと。『まつろわぬアテナ』から既に四日。されど護堂に安息の気配は無く……。
「……勘弁してくれ」
俺が何をしたって言うんだとの悲鳴は夜叉姫と優美に微笑む悪魔の前に儚く散っていった。―――彼が解放されたのはそれから十分後。昼休みが終わる頃。休み時間にも関わらず全く休めなかった彼はその後、授業に全く身が入らなかったという。
だから女性キャラは書くのが苦手だと……。
マジ尊敬するわ完璧に再現する人たち。
性格知っててもだから書けるというわけじゃあないだろうに。
さて、次回も幕間です。
本編を望む人には悪いですがもう少し付き合いをば。