極東の城塞   作:アグナ

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閃の軌跡最終章、楽しみだなー。
……まだⅡ中盤だけど。

いやあ、受験が悪いよ、受験が。
アレの所為で私、三十ぐらいのゲームストックを溜めてしまったのだから。
その所為で二年、三年ペース遅れでクリアしていくという自体が発生してしまった。
まだ、正田崇卿のワールドボックスが開封できていないのだ……おっふ。

相変らずの意味の無い前書きはともかく、幕間はこれにて終了。
次回からは通常運転に戻します。狼さんこっちですよっと。

あ、時間軸的には護堂くんとアテナが戦い終わって一、二時間後ぐらいです。


大戦序曲~ティタノマキア~

 朝焼けと共に都市はその顔を変えていく。夜を照らす欲望の輝きは日の明かりと共に沈み、代わりに街を雑多な人の歩みが満たしてゆく。一時の快楽に耽る退廃的な魔都は気だるげな過去も未来も見ない、現在だけを見据えたつまらないものへと様変わり。日々の希望も、絶望も無く、停滞した雰囲気だけが漂っている。

 

 安定を得たからこそ、人は始まりよりも退化した。希望も無く、絶望も無く、「当たり前」という言葉だけに満ちた高度文明は神々の時代を、そして人の世に移り変わる黎明期を見たアテナをして酷く醜いものであった。

 

「しかし、所詮は敗者。疾く消えるが道理よな。勝者を認めず、決まった道理に逆らうことほど醜悪なものはない」

 

 極東の中心点。先ほどまで己が戦場であり、己が敗北したその都市を遥か上空より女神は睥睨する。夜は終わった、日は既に地平より顔を現している。ならば、勝負の慣わしに乗っ取って、少年に免じ、出て行くのが敗者としての責任である。

 

「神と神殺し。雌雄を決すること、それ即ち妾か草薙護堂か、どちらかの命が尽きるのが道理と言うもの、こうして命を拾うとは、つくづく珍妙な男よな」

 

 脳裏に思い描くは死線を交わした宿敵の顔。《蛇》を取り戻し、嘗ての神性を取り戻した智慧の女神アテナを見事、撃退せしめた男。にも関わらず、その命を奪わず、見逃した。

 

「珍妙といえばもう一人の方もか。かの男も同じ土の上で妾とは異なる旧き女神と戦を繰り広げたようだが……あちらは殺害せしめたか。正道か否かで問えば妾と決した草薙護堂こそが邪道だが、さて……」

 

 ―――古代ギリシャの慣わしに乗っ取るならば衛の方が遥かに正しい。騎士道が生まれるより遥か前の戦場において弱きは徹底的に排他され、強きものこそルールであった。殺されれば身ぐるみを剥がされ、持ち物が無機物であれ、生物であれ、同じ人間であれ、奪われるが道理。男も女も老人も子供も、一切合切。

 

 アテナが知る戦とはそういうものだ。弱いから? 笑止。そんなもの言い訳にならない。法律も秩序も存在しなかった頃において、全ては「奪われるほど弱いお前が悪い」となる。それが当然の倫理だ。

 

「しかし、最早時代は流れ、人々は愚かしくも我ら神々の神威すら忘れている。ならば戦の作法も変わるが道理か。或いは貴方が単純に変わり者であったというだけか。まあどうあれ、敗者である妾には既に関係の無い話だ」

 

 或いは、縁が続いているというならば。その宿命が、決着を望んでいるというのならば。

 

「次は無いぞ、草薙護堂。再び戦場で相見えたならば、その時に……」

 

 と―――智慧の女神が立ち去ろうとした時だった。

 

 

「ふは、懐かしい気配を感じてきてみれば……久しいな愛娘。壮健そうで何よりだ」

 

「――――――――――――――――――」

 

 驚愕、忘我、空白。女神アテナをしてまるで事故に合う寸前の人間のように。もしくは不測の事態に意識を白くするように。余りにも無防備な姿を晒す。

 

 その声。聞いただけでも確信する。理解する。幻聴か、否、幻聴であったならばどれほど良かっただろうか。忌々しき記憶―――傲岸不遜に世界を見据え、神々すらも見下した全ての父。神々の王。天空(デウス)より転じた名を持つ天空神。

 

「貴方か……忌々しき我が父よッ!!」

 

「はは、感動の再会に感情を抑えられぬか。しかし娘よ、忌々しきとは心外だな」

 

 成層圏。惑星(ほし)の輪郭が見える宇宙と空との間に黄金はあった。トーガの上から黄金律にて構成された完璧なる肉体。絶世の美男というべき容姿に微笑まれればあらゆる女がそれだけで見惚れることだろう。そうでありながら荘厳と発せられる威圧には男すら威容の前に忠を誓おう。見よ、これこそが神々の王。世界で最も知名度の高い神話において最高と呼ばれる位を頂く神である―――!

 

「しかし幼いなアテナよ。その躯、当に蛇を取り戻し嘗ての美貌が見られると喜び勇んできてみれば……だが、それも悪くない。悪くないぞ、愛娘よ」

 

「ハッ、そういう貴方は相も変わらずといった様子だ。地上に顕現し、まつろわぬ宿業に流されたか? 何時にも無く、何時にもなくらしい(・・・)ではないか、簒奪の王よ」

 

「言うではないか、小娘。ならば再び我が愛に抱かれる栄誉でも得てみるか?」

 

「戯言を、不覚を二度も取れると思うか、傲慢だぞ我が父よ……!」

 

 両者の視線に壮絶な神威が散る。草薙護堂に遅れを取り、手傷を負わされようともアテナはアテナ。三位一体は紐解かれたが、その神格は未だ健在。例え神々の王であれ、易々と首を取れるものではない。それを示すかのように同格(・・)の神威がぶつかり合っている。

 

「―――待て、父よ。その()は一体なんの冗談だ……?」

 

 ふと、アテナが呟くように言う。愚弄ではない。智慧の女神として、本心から、全くの純真にその疑問を口にする―――弱体化しているアテナと神々の王が同格だと?

 

「ざま、とは口が過ぎるぞ娘よ……」

 

 その言葉は静かであったが怒りと屈辱に満ちている。それはアテナに向けたものか? 否、神々の王はアテナを見てない。その視線はアテナの背後、極東の島国に向いてる。その様子にアテナは智慧の女神としての頭脳を回し、堂々たるゼウスの若い姿(・・・)を見て、その結論に辿り着く。……思い出す、もう一人の神殺しから感じた祖母(・・)の気配。彼女と同じく旧き時代を生きた女神の気配を―――。

 

「はは、はははは! ふっ、そうか。不覚を取ったのは貴方も同じであったとは。いやはや神々の王であれ『獣』の手綱を握るは困難らしいな!」

 

 刹那。雷撃が襲い掛かった。天空、空よりも高き場所にも関わらず十全以上の威力で奔ったそれは神速の勢いでアテナの身体を蹂躙せんと迫るが、呪力を込めた手刀でこれを迎撃する。

 

 雷といえばゼウスの象徴とも言える武器だ。ケラウノスと呼ばれる雷霆は曰く、世界を一撃で葬り、全宇宙さえも焼き尽くすことが出来るという。恐らくはアテナが使うアイギスの盾すら貫通しうる絶滅必死の一撃である。それを神という規格であれ、素手で迎撃することなど到底できない―――出来ないはずだった。

 

「やはりな」

 

 バチン! という撃音。アテナは払った己が手が白煙を上げながらも無傷である様を見て、小さく肯くと共に己が見識に狂いが無いことを確信する。対するゼウスはまるで仇を見るかのような憎悪で娘を見た。

 

「嘗ての神威と比べれば霞のようだな今の貴方は。察するに不完全か、大地に育てられる以前、匿われた頃の貴方、というわけだ」

 

「小娘が、我が神話を語るか」

 

「語るとも。今の(・・)貴方は私の父ではない。その雷、ケラウノスに相違ないがまるで勢いがない。妾と同じく貴方も欠けた状態でまつろわぬ身として放浪し、そして欠けたものを取り戻すこと叶わなかったらしい」

 

 ―――ギリシャ神話の最高神ゼウス。女神や土着の神々の権能を取り込む(・・・・)ことでその権威を絶対とした覇者。しかし、かの神も最初期から絶大な力を持っていたわけではない。

 

 嘗てギリシャ神話に君臨した王、大神クロノスは己が子が何れ王位を簒奪する脅威となりうることを悟り、その予言に逆らうため次々に子の命脈を絶とうとその身を飲み干さんとした。しかし、幾度かを経て、次々に消えていく子らの姿に嘆いたレアーは次に生まれた子をウラノスとガイヤに懇願し、彼らの助言の下、クロノスの目から離れた洞窟で子を産んだ、それこそゼウス。何れ神々の王となる赤子だ。

 

 そうしてレアーはゼウスを生んだ後、ガイヤに託し、自身は産衣にゼウスの代わりに赤子に見立てた石を詰め、何も知らないクロノスに差し出す。クロノスはこれに一切の疑問を抱かず飲み込んだという。

 

 ゼウスはこうして生まれながら死せる運命を逃れた。孫息子たるゼウスを預かったガイヤをそれをイーデー山に連れて行き、無事に育てるよう託した―――それこそが養親、神々の王の母となった女神アルマテイアであり……最も始めにゼウスが簒奪した(・・・・)女神であった。

 

「始まりの母に振られたか? 察するに『獣』をも慈しんだな我が祖母は」

 

 アテナは事情を察して笑う。成る程、実に痛快だ。

 

「であるならばアレの特質性にも得心が行く。守る者、ゆえにこそ神々であれ、早々血が滾らせぬということか」

 

「口ぶりからしてあの下賤の小僧を知るか、愛娘よ」

 

「然り、父よ。宿縁こそ結ばれぬもののその顔は見たとも。成る程、貴方とは遥か対極にある男よ。なればこそ、交わらぬが道理よな」

 

 攻守逆転。正しく事態はその様相を見せている。微笑と余裕を浮かばせるアテナと苦々しく怒りを浮かべる王。神話において両者の立場は明確だが、現世においてはそうではないらしい。

 

「そして納得も言った。先ほど、私が《蛇》を取り戻した、と言ったな。ならば貴方の目的も察しがつく、不遜にも嘗ての姿を取り戻した私から再び智慧を奪おうとでも姦計を練ったか、父よ」

 

「ふん、我が力。取り戻すに必要は旧き《蛇》の神格よ。父に親孝行すら出来ぬとは全く不甲斐ない娘よ」

 

「ハッ、まんまと神殺しに抜かれたのはお互い様だろう父よ」

 

 両者の間に親愛の情は欠片も見れない。当然だろう、奪ったものと奪われたもの。社会的地位が女性と男性とで入れ替ったことにより地位が逆転した影響と受けた両者だ。まして受けた陵辱と屈辱と無念をアテナとなった彼女は忘れていない。対するゼウスも力衰えようと神々の王として君臨した頃の傲岸不遜は忘れていない。

 

 よって両者に生じるは親愛には最も遠い敵意の感情。ギリシャ神話屈指の神である両者には拭いがたい断絶が生じている。

 

「チッ、まあ良い。もはや、《蛇》もことのついでよ。娘の戯言に態々、反応するでもない」

 

「ほう、ついでと言ったか、今の貴方には他の目的があると?」

 

 パッと思い浮かぶ動機。それは極東にあるもう一人の王との決戦だろう。あの王に出し抜かれ屈辱を覚えさせられたならば雪辱、復讐と再び挑む理由に十分。

 

「宿縁に決着をつける心算か父よ」

 

「ふん、宿縁だと? 吹けば飛ぶ『獣』に用はないわ。あの時、父が遅れを取ったのはあの女が愚かにもその立場を捨てたからに過ぎぬ。庇護無くば『獣』なぞ一ひねりよ……しかし、しかし、だ。娘よ、その『獣』がこうも父が治めた地上を自由気ままに徘徊するとは目障り極まりないものであるとは思わんか?」

 

「……なに?」

 

「娘よ。お前も覚えていよう。我ら神、人の増長を嗜め君臨するものよ。ゆえにかつては地上に戦乱を呼び、嵐を呼び、その増長と命、天空(せかい)の管理を行なってきたが……今の世はどうだ。人は増長に増長を重ね、愚かにも神と並んだと不遜に吼える。『獣』どもは王を名乗り、我らが統べた地上を侵している。それも今代は八つもの『獣』どもが奔放に彷徨っているという話ではないか」

 

 そう言ったゼウスは眼下に広がる惑星(ほし)の全てを見通すが如く睥睨する。地上を跋扈する『獣』は八つ。

 

 最も古き狼王(サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン)

 魔導武侠の教主(羅 翠蓮)

 歴史改変者(アイーシャ)

 恐れ知らずの冒険家(アレクサンドル・ガスコイン)

 素顔隠す仮面の冥王(ジョン・プルートー・スミス)

 人類最強の剣鬼(サルバトーレ・ドニ)

 惰性に生きる無敵城塞(閉塚 衛)

 ―――そして千変万化の義侠(草薙 護堂)

 

「愚かしい、汚らわしい、実に不愉快だ。『獣』が生きていることもそれを容認する人間共にも、ゆえに神々の王として父は天罰を加えねばならぬのだ」

 

 神は絶対である。宇宙を統べ、世界を統べ、生命を統べる。我は全ての父なれば全ては父なる神(ゼウス)の世界である。ゆえに、そこに汚点が在ってはなら無い。世界の秩序を乱す『獣』は全て悉く消え去らなければならない

 

「だが、その様でどう傲慢を打ち崩す。今の貴方にそれが出来ると?」

 

 流石は神々の王というべき宣言にしかしアテナは冷静に言葉を紡ぐ。神として神殺しを駆逐するは当然の道理。しかし、王座に無いゼウスにそれができるのかと。

 

「忌々しいがそれは叶うまい。あの小僧一人殺すのならばともかく、残り七つを滅ぼすとあらば今の父では不測だ。だからこそ、この地を見に来たのだ―――《運命の担い手》に愛された英雄が眠るこの地にな」

 

 そのもの曰く、最強の『鋼』。魔王を駆逐する「魔王殲滅の英雄」なり。王らが多く揃う時代に出現し、その全てを駆逐してきた英雄神。

 

「なんだと? ……父よ、貴方は何を知っている、否―――まさか」

 

 ゼウスの口から知らされた事実にアテナは驚愕する。同時に父が何故姿を顕したのかも理解した。まさか、まさか、この男は―――!

 

 

 

 

「―――幾度も戦場に立たされ、縁も無き魔王共を滅する役割にも疲れようが。その宿業、父が受け継ぐことにより解放してやろう―――名も知らぬ英雄殿?」

 

 堂々不敵にゼウスは宣言する―――最強の《鋼》。我が手を収めると。

 




というわけで本作ラスボスのラスボスゼウスくんでした。
個人的にコイツのほうがよっぽど魔王じゃね?と神話を読むたび思うこの日。
何せ、土着信仰や女神様を取り込んで強くなっていったからネ!

カンピオーネ!二次で一番扱いに困る某最強の《鋼》の取り扱い。
色々考えた結果こうなりました。本作はオリ主が主人公だしね。

それをお伝えするための幕間だったのだ……。
ということで暫くはゼウス君は出ません。

次回より元気な三百歳越えても元気な狼おじいちゃん。
『カンピオーネス』でも判明した出鱈目さ加減が再現できるか、それが問題だ。


乞うご期待!(期待しても面白いとは言っていない。)
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