闇夜のもとに、少年は転がり出でる
拘束をほどかれた四肢は砕けて動かない。
ただ空を眺めることが唯一の行為として許されている。
犬を象る星の群れはそこにはなくて、完全な暗黒の空間が一つ空いているだけ。
ここはどこなのか?
世界の終わりのような喧騒は、そこにはない。
幼い思考が出した答えは当然のものだった。
「……ここは……グランディアじゃない。」
雰囲気の違いは動かずとも把握できる。無理やりに視界を回し、より詳細な情報を求める。とくに植生、地形、動物。
……どうやらこの辺りは小高い丘のようで、草花は豊かなようだ。ならばそれを餌とする生き物を基本として生態系が形成されている可能性は大いにあるだろう。
では、人間はいるのだろうか?いまのところ建造物は見つけることができていない。いないとするならば、自分の生存確率は地に落ちる。一人寂しく死ぬのはごめんだ。
どれだけの時間が経っただろうか。空は未だに真っ暗で、陽の上る気配はない。
風は体温を奪っていく。所詮まだ子供の自分に残された時間は、もう長くない。気づけば雪が辺り一面を包んでいて………………って雪?
確かに寒いが、降雪するほどではないはず。とうとう自分の頭がおかしくなってしまったのか。
「ねぇねぇ君、驚いた?」
「……うっ、うん。」
自分と同い年くらいの少年が真上から見下ろしてくる。その髪は降っている雪と同じく真っ白で、いつか見たあの少女とよく似ていた。
「この雪ね、僕の魔法なんだ!それとね、見てて!」
そういった彼の手には少しずつ雪が集まっていく。そしてそれは短剣の形になった……と思いきや形を保てずに霧散していく。
「えへへ……実はうまくできないんだけどね……」
「……十分に凄いさ。これだけの雪を降らせて、更に凝縮させる。僕より君の方が技術は格段に上だ。」
「本当!?ありがとう!ってことは君も同じ造形魔法を?」
「ああ。体がボロボロで発動はできないんだがね。」
しかし少年はそんなこと耳に入っていないようで、もう満面の笑みを超越する程の明るい笑顔をしている。見ているだけでこっちも口角が上がりそうになる。
「手近な所に治療できるひとは居ないかな?呪術の類いは受けて無いから、簡単な治癒魔法で治ると思う。」
「それならまかせて!僕んちならみんな使えるからさ!」
そう言って少年は自分を背負った。背負われた時の多少の痛みも、生きられるのならさしたるものではない。ずっとしていた緊張がほどけて、意識がだんだん遠退いていく。抗うことなく自分は眠りに落ちた。