目覚めるとそこには例の少年と、彼によく似た女性がいた。眠りに落ちる前の話からして彼の母親だろう。
「おはよう!よく眠れたかな?」
「……あぁ、おかげさまで。」
「…もう少しで…………よし、どうかしら。」
青みがかった緑色の光が消え、女性は手を下ろす。
試しに指先から掌を握ってみる。そして肘。多少の痛みはまだ残るものの、問題なく動かせる。
「全身、というか四肢の骨が折れに折れてたわ。神経系に問題がなかったのは奇跡ね。」
「……ありがとうございます。なんとお礼を言えば良いのか……」
良いのよ。と、此方に微笑む母親。口角の上げかたが少年そっくりだ。支えてもらいながら体を起こすと少年が話しかけてくる。
「ねぇねぇねぇ!魔法見せて!」
「そういえばそんな約束してたな……。ちょっと待ってくれ。」
母君に許可をとろうと視線を向けるが、微笑み返されるだけだった。これはOKと言うことか……よし、折角のお披露目なんだから、第一印象は大事だ。
寝具から降り、目を閉じて大きく息を吸い、ゆっくりと少しずつ吐き出す。そのまま右手に神経を集中させて見えない型を作り、左手でそれを撫で下ろして魔法の焔を流し込む。業々と燃える炎で出来た剣の柄を握り物体を確定。少年は舐め回すように此方を見ている。同じタイプの能力使いとしての性なのだろうか。
「君みたいに直接創る方法ではないんだが、どうかな?」
「似たようなものだよ!魔力を固めるやり方とかさ!」
「そう……なのか?自分はちゃんと習ったわけじゃないからそういう部分が分からないんだが……」
ずっと持っていた剣を消しながら真実を告げる。見よう見まねの限界こういうところで、お洒落に火花を散らしたり、豪快に爆発させるやり方がわからない。もっとも、ここでやるわけにはいかないが。
苦笑いを浮かべながら少年と会話を続けようとしたが、静観していた母君に遮られる。
「一応、名前と出身地を聞いてもいい?この辺りで見かけない人がいるって珍しいから……」
確かにあの時も辺りに建物は見かけなかったし、人口密度が低い地域なのだろう。プロフィールについては、嘘を言ったところでメリットがないから正直に答える。
「自分は、エリマ・ライズっていいます。出身地はグランディア……多分ここと違う世界の場所です。信じてもらえるかわからないけど……」
ふーん、と母君。自分が思っていたより理解のある方だ。
「信じてくれるのですか……?」
「えぇ、もちろん。なによりの証拠が魔導回路の繋がり方。この世界の人間たちとは違って単純だったわ。……あぁ、ごめんなさい。少しバカにしたような言い方になってしまったわ。でもね、回路が単純な方が魔力を分散しにくくて無駄に使わずに済むの。回復されるときとかもそうね。他の人たちがどうかはわからないけど、少なくともアナタの場合体の重要な器官に干渉できるようになってるわね。裏を返せば法撃されたときに危ないとも言えるけど。」
「……お詳しいんですね。もしかして独学ですか……?」
「そんなまさか。だいたい魔導学校で習ったことよ。アナタより少し上くらいの時にね。」
学校…学舎のようなものだろうか。世界が変わっても勉学というものは重視されるらしい。
「そうだ。アナタも行かせてあげるわ。」
「えっそんな見ず知らずの他人に」
「いいのよ。そういうところは私より詳しい人がいるだろうし、なによりこんなに優れた若い芽を摘むなんてもったいない事、私には出来ないわ。」
「ありがとうございます。助けていただいただけでなく、そこまでして頂いて……何か、お礼として出来ることはありますか?自分にできることなら、なんでもやります。」
「特にないのだけれど、そうね……」
考え込む母君。しかしその時間もさほど長くはなく、そっと耳打ちで話しかけてきた。
「ちょっと変かもしれないけど、私の夫代わりになってもらえないかしら?」
……は?ちょっとどころじゃないっていうか…………はぁ?!
「……それはどういう事です?」
激しく動揺するあまり、思わず聞いてしまった。いや、この反応が正解か。軽くパニックになってしまってわからなくなる。
「私は未亡人……のフリをしているの。」
「……はい?」
「詳しく話すと長くなる、それにこの事はあの子に言えないから後でゆっくり話すわ。」
「……は、はぁ。」
訳がわからない。どうやら今までの常識は通用しないようだ。
色々な家庭事情があるんです。色々。