神星物語-Burning Ice-   作:陽下 ノクト

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小出しに


第5話

 自分達の部屋を見つけ、ネーヴェが鍵を翳しただけで扉の施錠は解除された。自宅では見ることのなかったシステムに、彼は歓喜の表情を浮かべる。

「凄いね……!もっかいやってみても良いかな?」

「勘弁してくれ……君のぶんの荷物も持ってるんだから。」

 えへへ、と笑いながらネーヴェは扉を開ける。そこには自分達が暮らすには十分な設備があった。ベッドはもちろん、テーブルや椅子、数百は収まりそうな本棚、クローゼットなどフーゼリア邸の一部屋に近い状態だ。案の定少年ははしゃぎたくなったようで、自分の荷物をよそにベッドに飛び込んでいった。今はまだ高揚したテンションであるが、その内家が恋しくなるのは目に見えている。

「エリくんもやってみなよ!」

「断る。このあと大講堂に集まるんだろ?それまでに色々準備しておかないと。」

 頬を膨らませ、抗議する少年を無視して自分の荷物……少し前にフィラウス氏が揃えてくれた衣服やら教本やらを棚やクローゼットにしまっていく。少年も渋々やりはじめた。

 量や手際の違いもあってか自分の方が早く済み手持ち無沙汰になったので、さっきまで少年が持っていたモノを手に取る。全体の様子を示す地図によると、現在地から大講堂まではそれなりに距離があり、時間や混雑を考えるとあまりモタモタしていられないようだ。

「準備を済ませたらさっさと出よう。そんなに時間に余裕はないみたいだ。」

 はーい。と返事はするものの、なかなか来る気配がない。見てみれば、案の定無駄なものを広げて収拾がつかなくなっている。

「身だしなみさえ良ければ今はいいよ。早く行こう。」

「急かさないでよ~。何でそんなに焦ってるのさ。」

「だって……入学早々遅刻なんて、カッコ悪いだろう?」

「それはそうだけどさぁ……」

 渋々とローブに着替えた少年が向こうを向いて扉を閉めた時だった。

 突如として視界がぐるりと回り、地面へと倒される。手は後ろに回されており、身動きがとれない。

「……なぁ、アンタ。この世界の人間じゃ無いだろ?」

 笑み混じりに吐かれたその声は、流れるように自分のことを口にする。

「何で……そう思うんだい……?」

「ここに来るまでにいろんな奴を調べてみたが、アンタの影だけ魔力が流れてない。それと、今触れて分かったのが魔導回路の構造だ。似てるような気はするが、あくまでそれだけだ。」

「影……?」

「そう。影を操るのがオレの魔術。魔力検知は……まあオマケみたいなもんだ。」

「そうか……じゃあ押さえてる理由も教えてくれないか。」

「お前が面白そうだった。それだけ。ワリぃな、そこの連れ驚かせちまっ……て……」

 今の今までずっと途切れることなく話していた口が急に失速し、拘束からも解放される。

「お、お前……こいつとどういう関係だ……?」

「あ~……ざっくり言えば家族。」

「嘘こけ、こいつは魔力が出てるし何より

「それ以上は止めてくれ」

 思わず手で相手の口を塞ぐ。ネーヴェは少しうつむき加減で表情が窺えなくなっていた。

 

 

 頬がジンと痛むのは不躾に"彼女"の口を自分の手で塞いだ事による。赤面していながらもその人は口を開く。

「ま、そういうことってわかるのはオレ位だから安心しろ。秘密をベラベラと口外する気もねぇ。」

「……ずいぶんとご理解があるようで。」

「まぁ……な。それとそこの銀髪。」

「はっ、はい……。」

「すまんかった。詫びといっちゃなんだが、困ったことがあったら言ってくれ。」

 なんだかやけにネーヴェに優しい。ホムンクルスと知った上でのこの対応は、フィラウス氏から聞いていた話とは異なっている。

「まぁなんだ。自己紹介とでも洒落込もうじゃないか。」

 どっかりと座り直した事で見えた彼女の後ろにはローブを来た長身の人が走ってくるのが見えた。

「君たちぃ!入学式はもう始まってるよ!」

 三人して「あ。」と思い出した。

 

 こうしてドタバタの魔導学校での生活は幕を開けた。

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