side凪人
前半が1-0で俺達のリードに終わり、ハーフタイムの真っ只中。俺達は消耗した体力を回復させようとスポーツドリンクを飲む。
「何だよあの技……どれだけ攻めてもビクともしねぇ……!!」
そんな中、城之内が愚痴を洩らすかのように呟く。それに釣られて皆表情を暗くする。……仕方ない。早目に説明しておくか。いずれは俺達も修得する必要のある技術だ。
「あれは“オーバーライド”だ」
『オーバーライド?』
聞き慣れない単語だろうな。俺だって原作知識があるとはいえ、この単語と意味を知ったのはこの世界に転生してからだ。何故前世では出なかったのか。アレスの天秤編が考案されてから新しく作られた設定なのかもしれないな。
「簡単に言えば必殺技同士の連携。特定の技同士を掛け合わせる事で威力を増幅させたりするんだ。染岡と修也のドラゴントルネードや俺と修也とでやるファイアトルネードDDなんかもそれにあたる」
思えば一之瀬、土門、円堂に修也を加えた四人がかりで発動するザ・フェニックスとファイアトルネードを連携させたファイナルトルネードもそれに当たるんだろう。この世界じゃ出なかったけど。
「……それってシュートチェインやツインシュートと違うんですか?」
「ま、一見同じに見えるだろうな。けどシュートチェインにツインシュートってのは必殺技を追加しているだけで技同士のシンクロはしていない。けどオーバーライドは違う。必殺技同士の相性が良ければ技同士がシンクロして極限以上に威力が高まる。言うなればシュートチェインは足し算でオーバーライドは掛け算だ!」
俺の言ってる事は割と真理だと思う。思えば前世で観たシュートチェインしてもただ繋げているだけの技や合体技として成立した技の違いはそういう事なんだと思う。
オーバーライドとシュートチェインは混同されがちだが、オーバーライドは組み合わせ次第で無尽蔵にパワーを増す可能性を秘めている。
そして最大の違いはシュート技オンリーのシュートチェインと違って、オーバーライドはドリブル技やディフェンス技など……あらゆる組み合わせが可能な点だ。
「あいつらは複数人でのザ・ウォールを組み合わせてオーバーライドを発動させたんだ。その結果がさっきのレンサ・ザ・ウォールなんだろう」
あそこまで高く広く聳え立つザ・ウォール。あれはもしかしたら千羽山の無限の壁にも匹敵するパワーがあるかもしれない。ディフェンス技とキーパー技という違いはあるがな。
厄介なのはあのレンサ・ザ・ウォールを発動させたまま攻め上がって来る事だ。流石に全員で攻撃して来る事は無いが……あれだとボールを奪うのは至難の技な上に奪えても碌に攻められない。
幸いそれでも奴らのシュートは大した事はない。どれだけ行っても奴らの必殺シュートも堂本のゴッドハンドで充分止められる。
それに……あのオーバーライド技に弱点が無い訳でもない。
「よし!そろそろ後半開始だ!その前にメンバーを交代する!赤木の代わりに逢崎!お前の出番だ!レンサ・ザ・ウォールを破る切り札はお前だ!!」
「!?お、俺が……!?」
お前なら必ずレンサ・ザ・ウォールの突破口を開ける。そして最後にゴールを決めるのは……
****
side三人称
FW 桐林 斎村 刀条
MF 海原 星宮 逢崎
DF 城之内 石島 種田 藤咲
GK 堂本
これが後半の閃電のフォーメーションだ。前半で活躍した赤木を下げて逢崎を投入。凪人はMFからFWにポジションチェンジだ。
「じゃあ皆、分かっているな?逢崎、頼むぜ」
「は、はい!」
緊張でガチガチになっている訳ではないが、ここ一番の重要な役割を任された逢崎は少しプレッシャーを感じているようだ。
そして美濃道三ボールで後半開始。1-0で閃電がリードしている現状、美濃道三も積極的に点を取りに来るだろう。FWがドリブルで攻め上がって来る。
「行くぞ!レンサ・ザ・ウォールを攻略する!!」
『おう!』
凪人は敵のFWをスルーして前に出る。ボールを奪うのはDFにやって貰うつもりのようだ。
「クイックドロウ!」
そしてボールを巡って競り合うこと10分。遂に種田が期待通りに決めてくれたようだ。クイックドロウは初歩的な技だが、それ故に使い手の実力がハッキリと現れる技だ。ボールを奪うテクニック、相手に悟られないスピード。それらを極限まで要求される。
そして凪人の元にボールが届いた瞬間、壁山を中心に美濃道三イレブンは再びオーバーライドを発動させる。
『レンサ・ザ・ウォール!!』
積み重なり、広がるザ・ウォール。これを突破するのは凪人が化身を使っても骨が折れるだろう。勿論比喩だが。それでも閃電イレブンにはそれを打ち破る手段があった。
「いくぞ!必殺タクティクス、“チャージ式時限爆弾”!!」
『おう!』
凪人の合図と共に頷く皆。凪人が後方にボールを出すと、海原はダイレクトにサトルへ渡す。サトルもまた逢崎へ。そして逢崎、刀条と来てまた凪人。そして桐林へ。
このように前線の六人で不規則にパスを出し続ける。そしてそれに翻弄される美濃道三は隙を突かれない為に更にレンサ・ザ・ウォールによる守りに集中する。相手の攻めを止めさえすればそこから鉄壁守りを維持したまま攻めに転じる事が出来るのだ。
(防御を攻撃に変えるッス!!)
攻撃は最大の防御という言葉を逆転させたような発想に押し上げたのだ。
しかし彼らは気付かなかった。閃電イレブンがパスを出し続けている中、ボールに少しずつ彼らのパワーが蓄積されている事に。
「よし、チャージ完了!逢崎!!」
「はい!」
目に見える程に溜まったエネルギーは放電しながら、そのパワーを主張している。そしてボールを凪人が空高く蹴り上げる。
「うおおおおおっ!!」
そして逢崎は跳び上がってそれに食らいついたのだ。
(逢崎の長所はジャンプ力!そしてそこからダイレクトに蹴り出せるアクロバティックの素質がある!!)
むしろMFではなく、ストライカーにこそ必要な要素の一つだ。そして彼には蹴ったボールの行き先を決められるだけのコントロール力もあった。
「狙うはあの一点だ!」
「はい!」
そうして空中から蹴り出されたボールはレンサ・ザ・ウォール目掛けて飛んで行く。当然美濃道三は迎え撃ち、耐え切るつもりだ。
そして閃電イレブンのパワーが込められたボールは……レンサ・ザ・ウォールの壁同士の隙間に入り込んだ。
『!?』
「よし!」
「後は……練習通り……」
そしてザ・ウォール同士の隙間に入り込んだボールから……そのエネルギーが爆発するかのように放射され、レンサ・ザ・ウォールを内側から爆砕した。
当然美濃道三イレブンはその衝撃で纏めて吹っ飛ばされる。
“チャージ式時限爆弾”。この必殺タクティクスは別のパラレルワールドである『イナズマイレブンGO』の世代で使われる“アルティメットサンダー”を参考にした必殺タクティクスだ。
あのタクティクスはボールをチャージし続けて最後に敵陣目掛けて蹴り出して着弾した瞬間に衝撃を拡散して相手ディフェンス陣を纏めて吹き飛ばす技。
しかしそれには強力なキック力が求められる。凪人ですらそれには届いていなかった。
そこで凪人は敵陣着弾を衝撃波発生の為のトリガーにするのではなく、一定時間経つと自然にエネルギーを解放して衝撃波を生み出す性質に改造したのだ。
下手をすれば自分達が被害に遭い兼ねない不完全なタクティクスだが、美濃道三というチームの性質がそれを可能とさせた。
そしてレンサ・ザ・ウォールがあっさり破れたのは壁同士の内側から破壊した為だ。どれほど外壁が丈夫であろうと少しでも隙間があればそこに力を加える事で簡単に崩れてしまうのだ。
「よーし、これなら行けるぜ!!」
桐林の叫びに全員が頷く。レンサ・ザ・ウォールを台無しにされた美濃道三は動揺も相まってプレーに乱れが生じている。凪人の指揮があればいとも容易く突破出来る。
「斎村さん!」
得点を決めた事でマークされている刀条にはパスが出せない。それ故に逢崎は凪人にパスを出そうとするも、凪人は別の指示を出す。
「海原に渡せ!」
「!は、はい!」
逆サイドにいた海原にパスを出すものの、彼はパスの精度が持ち味であり、イマイチ突破力には欠けるのだ。当然、美濃道三のディフェンス相手に単独突破は厳しいだろう。
しかし凪人の特訓を受けていた彼がそれを克服していない訳がなかった。
海原は足元でボールを転がす。それに合わせてボールの下から海水のようなオーラが溢れ、それが海原と敵を阻み始めた。
「波乗りピエロォォ!!」
「な、何!?」
すいすいと美濃道三のディフェンスが炸裂する前に素早く躱して突破する海原。その表情は自信と成功の嬉しさに満ちていた。
「正直本職のDF複数人よりも、斎村君一人にマークされる方がキツいよ!桐林!!」
「おうよ!」
そして海原に託されたパスをダイレクトに左寄りのゴール前に来た凪人へ渡す。凪人とキーパーの一騎討ちだ。キーパーは斎村凪人相手に止められるのかという緊張感を抱きながらシュートに備え、構える。
「うおおおおおおっ!!……よっと」
しかし凪人はシュート態勢で撃つ直前から一転してすんでのところでヒールでボールを真後ろに軽く蹴る。そしてそれを受け取ったのは凪人の後ろに隠れていたサトル。
ボールを受け取ると同時に右寄りのゴール前に移動。キーパーは凪人を警戒していた為に左側。完全にフリーだ。
「決める!!」
『星宮!!』
『キャプテン!!』
そうしてサトルがシュートを蹴り出そうとしたその時……、
「そうはさせないッスよ!!」
何と壁山がゴール前……それもサトルのシュートコース上にに躍り出たのだ。そして何としてもゴールを守るべく、身体から湧き上がる必殺技を発動する。
「ザ・ウォール改!!」
「そんな!!折角必殺タクティクスを決めたのに……」
逢崎の悲痛な声が響く。しかしサトルと凪人の瞳には諦めの色は無かった。凪人はサトルならば決められると信じている。そしてサトルの眼には壁山ではなく、全く別のものが見えていた。
『サトル!いつかまた、一緒にプレーしよう!』
思い出すは母の故郷であるイタリアの風景。そこで出会った友の言葉。
(こんなチャンス……もう二度と無い!斎村君が強化委員として来てくれたから……日本一に挑戦するチャンスがある!それをものにすれば日本代表にだって……!!
僕はフットボールフロンティアで優勝して…日本代表になって、もう一度フィディオとプレーするんだ!!)
彼ならば必ず世界の舞台に来る。そう確信を持っているからこそ、夢の舞台に立つ為に……スポンサーを得る為に、負けられないのだ。
「絶対に決める!!オーディンソード!!!」
魔法陣のようなオーラが展開され、そこから蹴り出すと同時に神聖な剣のオーラとなって突き進む必殺シュート。それを見て閃電イレブンに衝撃が走る。中でも原作知識を持つ凪人に。
(オーディンソードだと!?あのフィディオ・アルデナの必殺技じゃないか!!どうして星宮がこれを!?)
イタリア人とのハーフとは聞いていたが……それでも尚余りある衝撃。
そしてサトルのオーディンソードと壁山のザ・ウォールがぶつかり合う。
「「おおおおおおっ!!!」」
壮絶なぶつかり合いの果てに……オーディンソードはザ・ウォールをその剣先で砕き、ゴールネットに突き刺さった。
2-0
追加点。閃電が鉄壁を誇る美濃道三相手に2点も奪ってみせたのだ。強化委員の凪人ではなく、元から閃電にいたメンバーが決めたのだ。
「や、やったぁぁ!!」
『取ったぞーーー!!』
そして同時に試合終了のホイッスル。どうやらこの攻防によって予想以上に時間を消費していたようだ。凪人自身、ホイッスルが鳴ってから時間に気付いた。
(我ながら相当熱くなってたみたいだな……)
そして美濃道三で強化委員の役目を果たしている壁山の前に出て手を差し出す。
「お疲れ。今回は俺達の勝ちだな」
「……やっぱり斎村さんは凄いッス。たった二ヶ月で閃電中をこんなに強くしちゃうんスから」
「何言ってんだ。お前だって凄いじゃないか。鉄壁の守り……千羽山よりも上なんじゃないか?たった一人でよくここまで指導したな。お前の成長にも驚いたぞ」
「斎村さん……」
「とはいえ……守る事ばかりに気を取られて弱点が丸出しなのは減点対象だがな」
「えっ」
それから凪人は延々と美濃道三の弱点を語り始める。相手が攻撃で押してくるのではなく、守備を固めて引いてくる戦術で来た場合の末路。自力で攻める力に欠けている点。
それらを分かった上で成長の為に自分達は正面突破を選んだ事。
「……とまぁ、要するにカウンター喰らったらなす術なくやられちまう訳だ。オーバーライドに頼り過ぎ。今後はレンサ・ザ・ウォールのゴリ押し守備を無理矢理攻撃に変えずとも、ちゃんと自分達で点を取りに行けるようにするのが課題だな」
「は、はいッス……けど今ので自信吹き飛んだッス……」
「はははっ!ま、完璧なチームなんて無い。だから少しずつ欠点を改良していくんだ。その為に散り散りになったのが俺達強化委員だろ?」
バンバンと壁山の背中を軽く叩きながら、久しぶりに雷門イレブンとして笑い合う凪人と壁山。閃電イレブンと美濃道三イレブンは良い試合をした事で互いに讃えあっている。
「さぁ、この後の試合と残り四日間戦い抜いて……スポンサーを獲得するぞぉーーー!!」
『おおーー!!』
凪人の叫びに同調して気合いを入れ直す閃電イレブン。そして観客席から彼らを見守る者がいる事に……誰も気付いてはいなかった。
「閃電中か……この大会で君達と戦えるかは分からないが……楽しみにしているよ。斎村君」
オリジナル必殺タクティクス
【チャージ式時限爆弾】
TTP 50
威力:アルティメットサンダーより少し弱い
主人公がアルティメットサンダーを参考に編み出した必殺タクティクス。アルティメットサンダー同様にボールにエネルギーをチャージするが、六人がかりで少しずつというやり方。これは一定時間でエネルギーを放出して衝撃波を生み出すという性質にした上で相手側に放り込めるようにする為。一歩間違えれば自爆に繋がる。初見殺しな為、余程の間抜けでもない限り二度は通用しない。
ゲーム風説明文
ボールに皆のパワーをチャージ!タイミングを見極めてドッカーン!敵のディフェンスをぶっ壊せ!