side三人称
新メンバーを要する雷門中と星章学園によるフットボールフロンティア関東予選Aグループ第一試合が行われているその裏側、北海道の白恋中ではその試合を中継で観戦する者達がいた。
『何とォーー!!予想外の展開だぁーー!!全国ランキング1位の星章学園に何と雷門が先制点ーーーー!!!』
「雷門……か」
薄暗い部室で中継を観て呟くのは白恋中サッカー部のキャプテン、吹雪士郎。『雪原の
「兄貴、今年の優勝は俺達が貰う。そうだろ?」
「ああ」
そんな士郎の肩に手を置いてそう囁いたのは士郎の弟である吹雪アツヤ。白恋のエースストライカーであり、ブリザード、熊殺しといった異名を持つ。
そんな中部室に電灯が点いて部屋全体が明るくなる。そうして部室に入って来たのは他の白恋イレブンのメンバー達だった。
「アツヤ!今日も大活躍だったじゃねーか!ナイスシュート!」
陽気にアツヤを褒めながら近付いていたのは彼の先輩にあたる目深。他のメンバーも心なしか笑顔でアツヤを褒めようと歩み寄って来る。
「ま、当然っすよ目深先輩。エースストライカーの俺が決めなくてどうするって話ですから」
アツヤはそんな賞賛をさも当然のように受け止め、鼻高々に自身の活躍を語る。そんな彼を見て最も嬉しそうにしていたのは豪炎寺真人。あの豪炎寺修也のいとこにして白恋のもう一人のエースストライカーである。
(昨年の雷門戦までは俺と士郎以外は足手纏いと決め付けて他のメンバーを軽んじていたが……随分変わったな)
昨年のフットボールフロンティアの準決勝以来、良い方向に変わっていったアツヤはチームプレーを重視するようになり、今日の試合もチーム一丸となって戦い、最後に託されたボールで見事に得点を挙げたのだ。
「得点王も夢じゃねぇんじゃねぇか!?」
「やっぱりアツヤは凄いズラ!!」
「へっへーん。もっと褒めろ。俺はまだまだ上に行くぜ?振り落とされねぇよう付いて来いや!」
「……」
しかしチームメイトとの仲が改善されてから彼らも素直にアツヤを認めて褒めるばかりに天狗になり易くなってしまった事は少しばかり頭が痛くなる。
「盛り上がっている所、水を差して悪いがそれは後にしろ」
そして今にも宴会でも始めそうな雰囲気の中、アツヤを変えるきっかけをくれたかつての雷門イレブンの一人、染岡の声が部室に響く。
「何すか染岡さん。強化委員の務めか何か知らないすけど、せめて空気くらいは読んで欲しいですね。折角祝勝会しようとしてたのに」
「それは分かってる。だから謝ったんだ。だが後にしろ。今は試合を観るんだ」
アツヤの嫌味……というより単なる愚痴を適当に流しつつ、染岡は先程から士郎が観ていたTVを指差す。その画面には現在進行形で雷門と星章の試合が中継されていた。
そしてその試合では星章学園の灰崎を基点としたあの帝国学園のデスゾーンが炸裂。雷門は至極あっさりと点を奪い返されてしまう。
「何なんだこの試合は!?凄過ぎる……!!」
「これが……星章学園」
その試合を凄まじさは染岡すら驚愕するものだ。しかし染岡は勿論、白恋全員が気付いている事実がある。染岡は一応皆の認識を確認する事も兼ねて説明する。
「……全員分かっているだろうが、この試合では星章学園は実力の30%も出しちゃいない」
「確かに……。この試合には“彼”がいない。染岡君も良く知る“彼”が」
「……元帝国学園キャプテン、天才ゲームメイカーと呼ばれた『ピッチの絶対指導者』鬼道有人」
「その通り。奴が……鬼道が指揮を執ればチームは別物に変わる。更に…それに対応出来る……そしてそれをひっくり返せるのはあいつだけだ」
全員の脳裏に昨年の全国大会準決勝での雷門戦……そこで指揮を執った二人の司令塔の姿が浮かぶ。実際彼らが派遣されたチームが全国ランキングレースでも1位2位を獲得しているのだ。
「……それでも、僕達は彼らに勝つよ?染岡君」
「ああ……勿論だ」
北の大地、北海道最強のチームは今度こそ日本一の栄光を掴むべく、その牙を研ぐ。
****
side凪人
それからの星章学園と雷門中の試合はそれはもう酷いものだった。星章学園が終始雷門を圧倒し、雷門は手も足も出ずに失点を続け、蹂躙されるだけ。
この世界線の主人公達だし……少しは期待してたんだけどなぁ。
逆に星章学園の強さもハッキリして来る。灰崎を基点にしたあのデスゾーンのパワーは中々だが……あの程度のシュート、閃電でも出来るし、堂本も止められる。
あのデスゾーンの後は星章学園は必殺技を使う事もなく、雷門を追い詰めている。雷門は雷門であの小僧丸という奴以外、必殺技をそもそも持っていない。小僧丸ですらファイアトルネードだけ。それをどうにか出来るような司令塔すらいない。
……それで良く星章学園に挑もうなんて思ったな。雷門と帝国の練習試合の時だって、原作と違って円堂達は既に必殺技を使えたし、俺の指示でちゃんと試合を組み立てられていた。
既に後半残り5分。得点差は1-13。全て灰崎による得点だ。灰崎がここまでやれる事にも驚いたが、あの雷門がここまで実力不足とも思わなかった。
だが、目に見えて体力不足による消耗をしながらも走り続けて諦めない雷門。あの姿勢と根気は好感が持てる。雷門を名乗っておきながら「もう駄目だ〜!」とか言って投げやりになったり、「この試合は捨てよう」なんて言って諦めていたら本気で怒っていたところだ。
……特にあの稲森明日人。あいつは良い。この物語の主人公として出て来た事は納得がいく。
だがこの試合ではそれまでだな。
「……フットボールフロンティアでの初戦でこのザマですか」
不意に背後にいた西蔭のその呟きに反応してしまう。確かにあと五試合あるとは言え、この負け方は流石に不味い。この先得失点差にも影響して来る。運良くこの後の試合に全勝出来たとして、勝ち点が同点のチームがいた場合、得失点差で勝ち残りが決まる。
雷門はそれらの試合でこの10点以上の点数差を帳消しどころか大きく上回る程の得点率を上げなければその得失点差がネックとなって敗退する事になる。
あの中国人の監督はこれをどうするつもりなのか。曲がりなりにも雷門の監督をする以上は有能な人物のはずだ。なのにここからベンチを観ても携帯ゲームに夢中みたいだし……何を考えている?
確か……趙金雲……だったか。
****
side三人称
後半残り5分、1-13という点差でも尚、雷門は諦めない。そんな彼らを下らないと思いつつも灰崎は攻める事をやめない。
「見せてみろよ!お前らの潜在能力って奴をよォ!!」
対して雷門は灰崎一人に圧倒されている現状にうちのめされながらも走り続ける。彼らにだって負けられない理由があるのだ。
「お前ら、抜かせるな!」
「あいつ一人にやられてんじゃねーぞ!!」
「分かってますけど…!」
「止められない!!」
実力が違い過ぎる。もし星章が一致団結して雷門を倒しに来ればこの比ではないだろう。それこそ、20点以上の失点を重ねていた。
灰崎一人で勝手に突っ走っているからこそ、この程度で済んでいるのだ。
「『フィールドの悪魔』って…これが…!!」
「絶対に通すな!!」
そんな叫びも虚しく、灰崎はボールを蹴り上げて飛び上がり、空中で指笛を吹く。するとピッチから六匹のペンギンが飛び出て次々と空中のボールにその嘴を突き立てる。
嘴が突き立てば今度は六匹のペンギン全てがドリル状に回転。小型ロケットのような形に変化して火がジェット噴出。ボールにパワーを蓄積させていく。
そして最後に灰崎のオーバーヘッドキックが炸裂。蹴り出すと同時にペンギンの姿に戻った六匹はボールに纏わり付きながらゴール目指して一直線に飛んで行く。
「オーバーヘッドペンギン!!!」
「ペンギン!?」
「何だ!?」
「これ以上……点はやらない!!」
『!!』
炸裂した灰崎の必殺シュート。その光景に雷門は驚愕を示しつつも、稲森の叫びをきっかけにこれ以上の失点を抑えるべく走り出す。
「最後まで……」
「戦うんだ!!」
「負けるもんか!!」
「絶対に諦めない!うおおおおおっ!!」
ゴールへ一直線に飛んで行くオーバーヘッドペンギンを雷門のフィールドプレイヤー10人は必死で追い掛ける。しかし灰崎程のストライカーの必殺シュートに……まだサッカープレイヤーとして未熟な彼らの足で追い付けるはずもなく、瞬く間に突き放されてしまう。
「止めてみせる!」
そして雷門唯一の女子選手であり、ゴールキーパーの海腹のりかは真正面からオーバーヘッドペンギンと向き合うものの、キーパーとしての必殺技を持たない彼女にそれを止める術は無い。必殺技も無しに必殺シュートを止めるというのはシュートを撃った相手を大きく上回る、圧倒的実力があって初めて成り立つのだ。
観客席で試合を見守る凪人の知る限り……日本の中学サッカーで灰崎のオーバーヘッドペンギンを必殺技無しで止められるゴールキーパーは……円堂守ただ一人。
「うあああっ!!」
そして案の定あっさりとゴールを奪われ、新たな1点が星章学園に刻まれる。
1-14
ピッ、ピッ、ピーーー!!
ここで試合終了のホイッスル。勝ったのは当然、星章学園だ。灰崎は嘲笑の視線を雷門イレブンに向け、彼らの心をへし折りかねない一言を言い捨てる。
「この程度かよ。期待した俺が馬鹿だったぜ」
灰崎がこれでも雷門にそこそこ期待していたのは強化委員である鬼道に「雷門は灰崎にとっての“光”になるかもしれない」と言われたからだ。鬼道の言う“光”が何なのかは灰崎にも分からない。しかし、鬼道が言うからには楽しめると思っていた。
だが結局はこのザマだ。
それから灰崎は雷門イレブンに眼を向ける事なくベンチに戻って行く。
『14-1の大量得点で星章学園、ランキング1位の風格を見つけましたぁーー!!
一方期待された雷門でしたが、やはり伊那国島から出て来たばかりの新メンバーでは星章学園の相手としては荷が重かったのかぁーーー!?』
息も絶え絶えになって絶望したような表情を浮かべる雷門イレブン。そんな彼らを見て観客席にいた西蔭と野坂はその評価を口にする。
「当然の結果ですね」
「そうなんだけど……西蔭、あの雷門の事を少し調べてくれないか?」
「……分かりました」
そしてその目の前にいた閃電のメンバーもまた雷門の試合を観てそれぞれの感想を口にする。
「……完敗だったな」
「うん……斎村君が来る前の僕らはあれより酷かったけど……こうして観ると自分達がどれだけ強くなったか実感出来るよ……嫌な感じ方だけど」
桐林とサトルは以前は自分達も似たような負け方をしていた事から彼らの惨めな完全敗北を笑う気にはなれない。しかし堂本は黙って雷門をジッと見ていた。
「……気になるか?堂本」
「……あの稲森って奴、俺は嫌いじゃないや」
「……!……そうか」
相変わらず敬語を使い忘れる堂本だが、あの雷門に悪印象は抱いていないようだ。そんな彼を見て凪人は少しだけ嬉しそうに微笑む。
そしてベンチに戻った雷門イレブンはこの世の終わりのような表情で座り込む。
「これで終わりですね…」
「もう…サッカーは出来ないんだね」
「こんなにもあっさり終わるなんて……」
星章学園に勝って自分達の価値を証明し、スポンサーを獲得する。それが彼らの目的だった。これからサッカーを続けて行く為の。だがそれも果たせなかった。
「皆!何だよその顔は!絶対にサッカーはいなくならない!諦めなければ必ずチャンスは来る!」
「明日人……」
「俺達、今までサッカーに救われて来た……。辛い事だって乗り越えられて来たんだ!だからサッカーは渡さない!いつか絶対に取り返す!!」
「……言うじゃねーの。あいつ」
凪人は閃電メンバーを連れて星章学園スタジアムを後にしようとしていた所、稲森の仲間達への演説を聞いてそう呟く。
「でもまだフットボールフロンティアの予選もあと五試合あるし、まだ本戦出場の可能性はあるよね、
「俺もあいつらは捨てたもんじゃないとは思うが……あの生徒会があいつらが雷門サッカー部に居座り続けるのを認めればの話になるな」
サトルの確認に対して凪人は別の観客席で観戦していた雷門中の現生徒会メンバーを見ながら答える。雷門中の名前が中学サッカー界では伝説になっているだけに、あの田舎者達をその名に泥を塗る厄介者と認識してもおかしくはない。
(……夏未の後任らしいが、夏未の時より嫌な性格した生徒会メンバーになってるな。仮にも生徒会だろうに……)
凪人は試合前から彼女らを見かけていたが、生徒会長である神門杏奈を除く、雷門中生徒会メンバーは稲森達に対して小馬鹿にする言動が目立っていた。凪人としてはあまり印象は良くなかった。
「ま、今は
「「「うん(おう/うす)!!」」」
こうして、雷門と星章の試合は幕を閉じた。稲森明日人達の物語がどうなるのか……凪人は
これは閃電中サッカー部の物語なのだから。
主人公と稲森達はあまり積極的に絡みはしません。主に堂本がその役割を担っていきます。