雷門は多分書いて三、四試合程度。内一つは帝国戦。これでも充分多い。
side凪人
先日、あの雷門と壁山が派遣された美濃道三の試合が行われた。結果から言えばお互い無得点の引き分けに終わった。
美濃道三は昨年のスポンサー獲得の為の大会で俺達とやり合ってからカウンター対策や自力で攻め上がる力が必要という明確な課題があった事から今の実力を見極める形で観戦した。
雷門は正面突破からの得点は現状の戦力じゃ不可能と判断したのか、守りを固める戦術で美濃道三が痺れを切らして攻撃に出るのを待つ事にしたようだ。これは賢い選択と言える。無策に突っ込んでも返り討ちに遭うだけだからな。
だが雷門のFW、小僧丸とやらは見るからにイラついているのがよく分かった。攻めあるのみとか考えてんだろうなぁ。多分俺達閃電が正面突破した前例もあるから余計に崩せる守りだと勘違いしたんだろう。あいつはどうにも短気で考えが足りない傾向があるようだ。閃電以外のチームがどんな目に遭ったのかを考慮せず、自分の実力を過信して客観視出来ていない。ファイアトルネードを撃てる程の実力があるだけに……惜しい。
あの監督、趙金雲は雷門に守備を固める戦術を指示。かつての美濃道三の弱点であるカウンターを狙った……と客観的に見ればそうなるが、美濃道三はその弱点を既に克服していた為、雷門は攻めてもカウンターでもあの守りを突破出来ず、自力で攻められるようになった美濃道三の方はやはりまだ攻めが未熟で守りを固めていた雷門を攻略出来ず……結果引き分けで終わった。
しかし雷門のあの監督……それすらも織り込み済みのように見える。というか、あの策で勝てなかったのは監督の方針が間違っていたのではなく、単純に雷門の実力不足だ。あの雷門がもっと強ければ充分に勝てていた策だった。それを活かせなかった雷門に問題がある。
しかし今回も勝てなかった雷門はこれで全国大会への進出がより厳しくなった。あの監督は何を考えているのか……腹の内が全く読めない。
「趙金雲……少し調べてみる必要がありそうだな」
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side三人称
稲森明日人はこの日、監督である趙金雲のお使いによって少し離れた町に来ていた。
「監督、地図がいい加減過ぎるよ……。これじゃあ全然分からない。しかもスポーツタオルなんて態々別の町に来なくても……」
絶賛迷子中であった。稲妻町ではない町のスポーツ用品店で諸々の買い出しを頼まれたのだが肝心の地図が物凄く適当だったのだ。
どうしたものかと悩んでいるとすぐ近くの店の自動ドアが開く音が聞こえて来た。ふとそちらを見やればその店から出てきた人が手に持つ袋に入っているのはスポーツ用品。
「あの店か!……って堂本衛一郎!?」
「ん?」
稲森が発見したそのスポーツ用品店から出て来たのは閃電中サッカー部ゴールキーパーの堂本衛一郎だったのだ。いきなりフルネームで呼び捨てにされた堂本はその声に反応して稲森を見つける。
目が合った瞬間、実質初対面の相手に失礼だったと悟った稲森は堂本に歩み寄って挨拶をする。
「えと……」
しかしいきなり話しかけられた堂本は当然困惑。稲森とはほとんど初対面みたいなもの故にどうして良いか分からない。というか相手が誰なのかも良く分かってない。
「あ、ごめん……俺、稲森明日人。雷門中のサッカー部員なんだ。君は……堂本衛一郎君……だよね?閃電中サッカー部の!」
「そうだけど……雷門……あーっ!どっかの島から来たっていう新雷門中の奴か!!星章や美濃道三との試合観たぜ!!」
「え!?そうなんだ!?ありがとう!!……まぁ、どっちも勝てなかったんだけど」
元々性格的に意気投合し易い二人は街中でお互いに観戦した相手の試合について語り出す。
堂本はチームにかつての雷門イレブンである凪人が強化委員として派遣されていて、稲森は強化委員派遣による雷門の空き枠を使っている為、雷門という共通ワードから互いに話がし易い相手でもあった。
「ねぇねぇ、斎村さんってどんな人なの!?やっぱり凄い必殺技とか使うの!?」
「ああ!斎村さんは凄えぞ!!斎村さんのおかげで俺達は………」
本人の預かり知らぬ場所で凪人の話題になりかけたが堂本は別の何かに気付いたのか、左側にあるゲームセンターに視線を向けた。
「堂本君……?」
「見ろよ稲森。あそこにいるの……灰崎だぜ」
稲森が同箇所に視線を向ければクレーンゲームをしている星章学園のエースストライカー、灰崎凌兵がいた。
「何であいつゲーセンなんかにいるんだ?星章は明日予選第二試合だろ?練習しなくて良いのか?しかも相手はあの木戸川清修なのに……」
「木戸川清修って……あの豪炎寺さんの!?」
「知らなかったのか?」
気になった二人はゲームセンターに入店。そのまま灰崎に話しかけようと近寄って行く。
「はぁー…なんか、賑やかだな」
(ゲーセン来た事ねーの?)
稲森の田舎者発言をスルーしつつ、クレーンゲームに興じる灰崎に話しかける。
「あのー、星章学園の灰崎…君だよね?明日、試合観に行くから……」
「!閃電の堂本と……誰だ?お前」
稲森が話しかけても既に彼の事は記憶の果てまで飛んでしまっていたのか、眉を潜め、首を傾げる灰崎。稲森は一人、言い知れぬ物寂しさに晒された。
「ほら、こないだお前がボッコボコにした雷門の稲森だよ」
もう少し言葉を選ぶべきなのが容赦無く言い切った堂本。彼も以前までは似たり寄ったりなのだがそういう気遣いはしないらしい。素でそうなのか、敢えてそうしているのか……恐らくは前者だろう。
「……ああ、あのヘナチョコチームか」
「ヘナチョコ!?雷門はヘナチョコじゃない!!」
「負けただろ?完全によ。それにこないだも守ってばっかのチームに引き分けだったじゃねーか。かつての優勝校の名前に泥を塗ってるお前らをヘナチョコと言わずに何と呼べってんだ」
「うぅ…」
反論が出来ない。堂本もフォローはしない。というか出来ない。事実だからだ。しかしそれでも稲森は己の決意を述べる。
「確かに負けと引き分けだ……。けどここから巻き返すさ!俺達は全国に行くんだ!」
「ハッ。あの程度の実力で行けるかよ」
灰崎の言葉はある意味正しい。全国に行ける枠はグループ予選の1位と2位だけだ。星章や雷門の所属する関東Aグループには他にも帝国学園や木戸川清修など数々の強豪校がいる。既にこれだけ酷い戦績の雷門は全国進出は非常に厳しくなっている。それこそ雷門がこの先四試合全勝した上で他のチームが雷門以上に酷い戦績を出す事を期待せねばならない程に。
「行けるさ!どんな特訓をしても食い下がってみせる!」
「へいへい」
稲森はその状況を理解していないのか……理解した上でこの先四試合を全勝するつもりなのか。どちらにせよある意味大物だろう。
「ところでお前こそ練習しねーのかよ?明日は木戸川戦だろ?」
「明日の試合には出ねーよ」
「え!?何で?スタメンでしょ?」
「試合に出るかどうかは俺自身が決める。明日は乗らねぇ。だから試合には出ない。以上」
まさかの発言に稲森も堂本も絶句するしかない。自分勝手が過ぎるその物言いに驚愕を禁じ得ない。
「星章学園じゃそんな勝手が許されるの!?」
「俺クラスになるとな」
「嘘つけ!鬼道さんがそんなの許す訳ねーじゃん!斎村さんから鬼道さんの事は聞いてんだぞ!!」
「るっせーな!俺の勝手だろうがよ!!」
話しながらもクレーンゲームを続行しつつ、景品の『クマゾウ』というぬいぐるみをゲットし、灰崎はそれを手に稲森と堂本に背を向けてゲームセンターを出ようと出入り口に向かって歩き出す。
そして同時にある人物が入店して来た。
「ここにいたか堂本。お前何やってんだ?買い出しにどんだけ時間かけてんだよ。つか何でゲーセンに入ってんだお前」
「あ、斎村さん」
「え!?斎村さん!?」
買い出しから中々帰って来なかった堂本を探していたのか、凪人がこのゲームセンターにやって来たのだ。すぐ近くのスポーツ用品店は閃電中サッカー部がよく利用している事から、その近くにいると踏んでいたのだろう。
「電話も繋がらねぇし、何してんだお前は」
「あ、電池切れてた……」
スマホを確認するとバッテリーが無くなっていた事に気付く堂本。そんな彼を横目に凪人は堂本の周囲にいる二人ーーー稲森と灰崎を見る。
「お前らは……灰崎、それに……」
「あ、初めまして!俺、稲森明日人って言います!」
「ああ、知ってるよ。雷門に来た奴だろ。で、お前ら何してんの?特に灰崎。明日は木戸川戦だろ?練習はどうした?」
「……明日は出ねえよ。気分が乗らねえ」
「……そうかい」
「「え?」」
意外にも凪人は灰崎の勝手な振る舞いに口出しはしなかった。灰崎はそんな凪人を物分かりが良いとでも思ったのか、稲森と堂本を見て鼻で笑い、その場を去ろうとする。
「ま、良いんじゃねーの?どうせお前が出ようが出まいが星章は木戸川には勝てねーし」
「……何だと?」
凪人が灰崎を煽り出した。いや、顔色一つ変えずに淡々と言ってる事から本気でそう思っているのが伺える。凪人が本気で言っているのを理解した灰崎は凪人の胸倉を掴みにかかるが軽く躱される。
「ストライカー対決なんて騒がれてるけどお前と修也とじゃあ、お前に勝ち目なんて無いからな。やるだけ無駄なのは良く分かる」
「何だと斎村ァ……!!」
「違うってのか?なら示してみろよ」
「……上等だ。こいつからゴールを奪えば文句はねぇだろ……!!」
凪人を睨みながら堂本を指差す灰崎は先日、鬼道に言われた事を思い出す。
『現状、閃電は星章よりも強い。今のままではいずれ全国大会で当たった時、星章学園は閃電中には勝てない。お前が個人の力で奴らを上回る事が出来たとしてもその連携の前には無力だ。そして……堂本衛一郎からゴールを奪う事は絶対に出来ない』
堂本からゴールを奪えない。鬼道はそう言った。ならば鬼道が星章よりも強いと言う閃電からゴールを奪えば相対的に自分が豪炎寺よりも優れている事を示せると考えた。堂本からゴールを奪ったところであまり豪炎寺には関係無いのだが。
そしてあれよあれよと勝手に話が進み、近場のサッカー広場にて灰崎と堂本のPK対決が決定した。二人は既にユニフォームに着替えている。
「どうしてこんな事に…」
嘆く稲森をよそに睨み合う灰崎と堂本。凪人は灰崎の観察を始める。
(好都合だ。堂本が灰崎相手に通用するかどうか……この先の練習やフットボールフロンティアを勝ち抜くには重要な情報になる)
灰崎が三本シュートを撃ち、三本とも止められたら堂本の勝ち。一本でも入れられてしまえば灰崎の勝ちだ。キーパーが不利な条件だが、キーパーにはそれだけの責任があるという事でもある。
「オラァ!!」
「おりゃああっ!!」
灰崎の鋭いシュートが堂本の守るゴールに向かって放たれる。堂本はそのシュートの軌道を読み、余裕を持って食らい付き、その両手でボールを掴み取った。
「なっ!?」
「凄い……灰崎のシュートを止めた!?」
「まずは一本。堂本が取ったぞ」
初弾で決めるつもりだった灰崎もこの結果には困惑し、稲森はただただ驚愕する。雷門のキーパーは一度も止められなかったシュートをあっさり止めた堂本に。
「しっししっ!良いシュートだったな!」
「チッ!」
笑顔でボールを返され、舌打ちをする灰崎。すぐに二本目のシュートを撃ち、コーナー狙いで鋭いコースを選択する。
「はあっ!!」
「……!!」
しかしそれをもパンチングで弾き、ゴールを死守する堂本。灰崎の顔色から余裕が無くなって来ている。いとも容易くゴールを奪う自信があったのだろう。しかしそれは逆に容易く打ち砕かれた。
「ラスト一本だ。言っておくが修也なら最初のシュートで堂本からゴールを奪えていた」
「……!!」
灰崎は苛立ちながらも精神統一を図る。ここで決められなければストライカーとして豪炎寺に劣るという烙印を押される。そんな評価に納得出来る訳がない。
「さぁ、来い!」
堂本の気合いの入った言葉に苛つきながらも灰崎はボールを蹴り上げて飛び上がり、空中で指笛を吹く。するとピッチから六匹のペンギンが飛び出て次々と空中のボールにその嘴を突き立てる。
「あれは……!!」
(やっと見せたか。問題は堂本がこれを止められるか……)
嘴が突き立てば今度は六匹のペンギン全てがドリル状に回転。小型ロケットのような形に変化して火がジェット噴出。ボールにパワーを蓄積させていく。
そして最後に灰崎のオーバーヘッドキックが炸裂。蹴り出すと同時にペンギンの姿に戻った六匹はボールに纏わり付きながらゴール目指して一直線に飛んで行く。
「オーバーヘッドペンギン!!!」
現在確認されている灰崎の個人必殺シュート。技そのものの威力は豪炎寺の使う、ファイアトルネードに勝るとも劣らない。
「ゴッドハンドォォォ!!!」
赤い稲妻が迸った。堂本の右手から出現した赤き神の手はそのシュートを受け止め、衝撃でペンギン達を跳ね除けた。そしてその右手にボールがしっかりと収まっていた。
「……す、凄え……」
「良いシュートだったな!灰崎!!」
稲森は灰崎に勝利してみせた堂本の実力に圧倒されるばかりだった。これが堂本衛一郎。凪人が派遣される前の閃電の試合は観た事はあるが、やはり比べ物にならない程の成長だ。あの円堂守と同じ技をここまで使いこなしている。
「……終わったな。とんだ時間食っちまった。学校に戻るぞ堂本」
「あ、ウッス!じゃあな稲森、灰崎!今度は試合で会えると良いな!」
「あ、うん……」
「……」
去って行く凪人と堂本。ポツンと残される稲森と灰崎。灰崎は屈辱に顔を歪めながら凪人と堂本を睨む。
「………クソがああああああっ!!」
悔しさが滲み出ている叫びを上げて一人でその場を去る灰崎。稲森はその後ろ姿をただ見ている事しか出来なかった。
壁山は怪我する事なく普通に出場しました。雷門が得点出来なかったのは壁山の存在が大きいです。
純粋なストライカーとしてなら灰崎より豪炎寺の方が上です。多分これは原作の方でもそうでしょうし。
主人公も言ってましたが現状堂本は豪炎寺のシュートは止められません。