side凪人
修也の必殺技、ファイアトルネードと武方三兄弟のトライアングルZによるオーバーライド技、爆熱トルネードが炸裂。そのリプレイが大画面に映し出され、会場は興奮の渦にあった。
「くぅ〜!豪炎寺さん、やっば凄え!!」
「あのシュート、俺も受けてみてぇ!!」
すぐそこにいるチビデブと熱血馬鹿がうるせぇ。声量考えろ。
それにしても爆熱トルネードか……エイリア学園の襲撃が無かった事から修也が爆熱ストームを覚えられず、結果あのオーバーライドが爆熱ストームですなんて事になってたら俺自身少し荒れたかも知れん。それとあの三兄弟のトライアングルZが少し変わったな。いや、あの面倒臭い工程からのファイアトルネードじゃやり辛いから別モーションでも撃てるように特訓したんだろうけど。
そもそもトライアングルZのモーション自体あまり覚えてないんだよな。これまで一回しか見た事なかったし。確かあれは河川敷で円堂と三兄弟の決闘時に帝国との予選決勝から既にマジン・ザ・ハンドを使えた円堂があっさり止めてそれ以来だ。去年の三回戦に至っては俺と鬼道の同時指揮であいつらにシュートの一本すら撃たせなかったのを良く覚えてる。
てか前に修也が爆熱ストームを修得出来るようにアイデアとかアドバイスとか出したからな。全国大会では爆熱ストームが見られるかもしれん。いや、全く別の技が出て来るかもしれないが。
「武方三兄弟も凄かったな……。あのシュートは三兄弟の協力あってこそだった」
「はぁ!?」
「だな。半分は武方三兄弟の得点じゃないか?」
「どこ観てたんだよ!今のは100%豪炎寺さんの得点だろ!!」
「お前こそどこ観てたんだ。今のは三兄弟のトライアングルZとのオーバーライドだろうが……」
いくら修也でもファイアトルネード単独じゃあそこまでの炎と威力は出せない。爆熱ストームや爆熱スクリューを使えば話は別だろうが、あれはあくまでファイアトルネードを使っている。
「うるせぇ!今のは豪炎寺さんが取ったんだよ!!」
……こいつマジで修也しか見てないのか?ファイアトルネードを使う事から予想はしてたけど修也の熱狂的なファンみたいだな。そして何故俺にはそこまで反発して来る。
「おい小僧丸、さっきから失礼過ぎるぞ!……本当にすみません、斎村さん」
「小僧丸がそこまでムキになるなんて珍しいな……。どちらの事にしても」
道成と万作にそう言われても特に反応する事のないチビデブ。流石に俺もムカついて来たけど、ここで反応するのも癪だ。試合観戦を続けよう。
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side三人称
見事な連携で果敢に攻め続ける木戸川清修。対して星章学園は防戦一方。どちらが優位に立っているのかは一目瞭然だろう。
ペナルティエリア目前に来た豪炎寺は武方三兄弟にまた合図を出す。
「行くぞ!」
「「「おう!」」」
「さっきのシュート……オーバーライドが来るぞ!豪炎寺にボールを上げさせるな!」
星章のキャプテンである水神矢と白鳥…DF二人が豪炎寺を徹底マーク。しかし豪炎寺の表情は笑っている。二人はそれに気付かない。木戸川清修のようなチームプレーを徹底するチームは……時にはエースストライカーすらも囮になり得る事を……星章ディフェンス陣は忘れていたのだ。
そして武方三兄弟が走る。先程とは違って三人一斉に上空へとシュートを打ち上げるのではなく、従来のパスを駆使したやり方だ。長男の勝が前方にいる三男の努目掛けてパワーを込めたパスを出し、三男の努は上空へとそれをダイレクトに蹴り出す。勿論ボールにパワーをチャージする事を忘れない。
そして次男の友が長男の肩を踏み台にして飛び上がり、強烈なボレーキックでシュート。この時点で三人のパスとシュートでZの軌道を描いている。
最後にトライアングルを彷彿させる組体操で決めポーズ。これこそが本来の……、
「「「トライアングルZ!!!」」」
三兄弟の技は豪炎寺の走るコースに沿って突き進む。
「撃たせるかあーー!!」
正キーパーの天野が豪炎寺のファイアトルネードとのオーバーライドを阻止するべく、接近する。しかし根本的な事を見落としている。豪炎寺が走っている……つまりは地上にいる。シュートの軌道もそれに沿っている。そんな状態でファイアトルネードとトライアングルZを組み合わせるなど出来る筈が無いのだ。
天野が豪炎寺の前に出るも、豪炎寺はトライアングルZをスルー。そのままシュートはガラ空き同然のゴールへと突き刺さった。
3-0
『決まったぁーー!!木戸川清修にまたもや追加点!!決めたのは武方三兄弟だぁーー!!』
三度棒立ちとなった灰崎をよそに豪炎寺と武方三兄弟はハイタッチを決める。現在前半20分を超えている。ここで1点は取り返しておかないと後半で灰崎が鬼道の狙いに気付いても星章の勝利は厳しくなって来る。
そしてまた星章ボールで試合再開。鬼道は折緒と佐曽塚を引き連れて攻め込んで行く。
「無駄ですよ」
「いくら天才ゲームメイカーと言われた鬼道でも俺らのチームサッカーには勝てない!みたいな?」
武方の長男次男が二人掛かりで鬼道をマーク。豪炎寺を始めとした他のメンバーは統率の取れた動きで他の選手達の動きを封じている。
(……やはり斎村のゲームメイクに通じるものがあるな。完全なるチームサッカーは見事だが、斎村の戦術を模倣しているだけの動きもある。それでは俺は勿論、斎村にも突破口を開かれてしまうぞ)
瞬間、鬼道は勝と友のマークを振り払い、一人で前線に躍り出る。そして佐曽塚にパスを渡され、単身ドリブルで攻め込む。他者のマークに回っていた木戸川のメンバーはフリーになった鬼道への対応が遅れる。
「行かせるものか!」
「イリュージョンボール改!」
西垣との一対一の攻防をイリュージョンボールによる撹乱で制し、突破。ペナルティエリアへと辿り着いた鬼道はキーパーとの一騎討ちに持ち込む。
左脚を後ろに振るう事でボールに回転をかける。回転によってドス黒いエネルギーを纏い、その密度を高めていく。そしてダークエネルギーのチャージが終わると同時に右脚で蹴り出した。
「デスロード!!」
「カウンターストライク!……ぐああっ!!」
単独でデスゾーンや皇帝ペンギン2号すらも上回る威力を誇る鬼道の必殺シュート。流石にイナズマブレイクやデスライトニングには及ばないものの、経験の少ない木戸川の新キーパーである大御所からゴールを奪うには充分だった。
3-1
『決まったぁー!鬼道、木戸川のチームプレーを見事に破り、点差を縮めてみせたぁーー!!』
ピッピーーー!!
ホイッスルが鳴り響き、ここで前半終了。3-1で2点差ではあるものの、非常に見応えのある激戦と言えるだろう。しかし星章の方は鬼道を除く選手達に不満が募っているのは明らかだ。特に灰崎はその傾向が強い。
ハーフタイムの最中、ベンチ前にて灰崎が鬼道の胸倉を掴んで怒鳴り散らす。
「何を考えてやがる鬼道!!このまま負ける気か?今すぐ俺をFWに戻せ!!」
「負ける気は無い。お前をFWに戻す気も無い」
「ふざけんな!俺はこんな所で負ける訳にはいかないんだァ!!」
「……俺は勝つ為の手順を踏んでいる!」
聞き分けの悪い灰崎に対し、何処までも冷静に鬼道は灰崎の手を振り払い、自分の考えを告げる。
「何故お前をキーパーとして出場させたか。それが分からなければ、お前がFWに戻っても木戸川清修には勝てない」
「何だと……!?」
「昨日、お前は斎村に豪炎寺とストライカー対決をしても勝ち目は無いと言われたそうだな。俺も同感だ。今のお前ではどう足掻いても豪炎寺には勝てない」
「ハッ!あんな奴に負けねぇよ!!」
「豪炎寺を舐めるな!!」
「っ!」
豪炎寺に自分が劣っているとは思っていなかった灰崎。しかし鬼道の口調と剣幕は真剣そのもの。鬼道もまた、灰崎はFWとして、ストライカーとして……豪炎寺には及ばず、それ以外にも負ける要素が揃っていると理解しているのだ。
「例えお前の力が豪炎寺を超える事が出来たとしても、豪炎寺が作り出したチームプレーは強力だ。チームを軽んじるお前がFWとして出ても、お前個人と木戸川清修全員との戦いになり、星章はシュートすら撃たせて貰えないだろう」
それだけ言って鬼道は灰崎に背を向けて監督である久遠と話しに行く。しかし灰崎は納得しない。出来るはずがない。
「御託はいい!俺をFWに戻せばすぐに逆転してやるよォ!!」
だがその嘆願は聞き入れられる事はない。
「ふざけんじゃねぇぞ鬼道ォ……!!」
そんな灰崎を水神矢は心配そうに見ていた。
そして後半が始まる。灰崎は変わらずキーパーで試合は進む。後半も木戸川清修の猛攻が続き、星章はディフェンスに徹するしかない。
しかしここでとうとう灰崎の中で何かが切れた。
「鬼道……これ以上テメェのサッカーごっこに付き合ってられっかよォォォォ!!!」
そう叫んで前線へと走り出した。グングンスピードを上げて武方長男を弾き飛ばしてボールを掻っ攫う灰崎。キャプテンである水神矢がゴールをガラ空きにするという灰崎の暴挙を咎めるものの、聞く耳を持たない。
「取られた分、取り返しゃ良いんだろォォォ!!」
これはある意味勝負を捨てていた。チームプレー以前の問題。一人で他の21人を敵に回している。試合を観戦する雷門は今の灰崎を総評する。そして凪人は鬼道の真意を理解しようと考える事すら放棄している灰崎に溜め息を吐くしかない。
(……このままじゃあ、星章はこれまでで一番不様な敗北をして終わるな)
この試合に負ければ星章の全国出場は非常に厳しくなるだろう。木戸川清修の他にも帝国という強豪がいる関東Aグループに所属しているのだ。元々凪人の見立てでは1位通過を果たすのは帝国学園で、木戸川と星章が横並びで2位争いと睨んでいた。凪人からすればこの試合こそ全国出場を懸けたAグループで最も重要な試合なのだ。
だからこそ、灰崎のこの暴挙はチームの首を絞める行為でしかない。
「何やってる灰崎!こっちにボールを渡せ!」
「うるせえ!雑魚は引っ込んでろ!!」
灰崎はチームメイトのパス要求も無視。その先にいる鬼道を追い越して彼に向かって宣言する。
「証明してやるよ……俺一人でも勝てるって事をなぁ!!」
しかしそんな灰崎の爆進を許す程、木戸川清修のディフェンスは甘くはない。西垣の指示で光宗と黒部が灰崎の前に立ち塞がり、更に女川も加わって連携ディフェンスで灰崎を包囲。そして仕上げに西垣が右脚を振るい、水色の衝撃波を飛ばした。
「スピニングカットォ!!」
こうしてあっさりとボールを奪われた灰崎。そしてガラ空きなったゴールを木戸川は一気に狙う。
「豪炎寺!」
西垣のセンタリング。空中に舞うボールに豪炎寺と武方の次男である友が喰らい付く。
「行くぞ友!」
「ええ!見せてやりましょう!木戸川のオーバーライドは爆熱トルネードだけじゃない事を!!」
豪炎寺は赤い炎を纏い、左回転。友は青い炎を纏い、その逆回転。二色の炎が交わり、ボールの回転に組み込まれて行く。豪炎寺のボレーキックと友の踵落としが同時にボールへと叩き込まれた。
「「ダブルトルネェード!!」」
豪炎寺のファイアトルネードと武方三兄弟の共通技であるバックトルネード。二つのトルネードが一つとなって赤と青が混ざりながら星章ゴールを襲う。ロングシュートだが連携する事で充分な威力を保っている。
ガラ空きのゴールにシュートが決まるかと思いきや、正キーパーであり、DFとしてそこにいた天野がその大柄な体躯を使った胸筋によるブロックを図る。筋肉の鎧とはいえ、手を使わず生身でダブルトルネードを受ける天野。その衝撃による激痛を一身に受ける負担は計り知れない。
「ぐおおおおおおおおおおおっ!!!」
そしてその背中を残りのDFである水神矢、八木、白鳥の三人が支えて四人でダブルトルネードを相手に踏ん張る。
「星章ディフェンスの意地にかけて……これ以上点を取らせてたまるかあぁぁぁっ!!!」
「「キャプテン!」」
しかしその想いに反して留まる事を知らないパワー。もしもファイアトルネードかバックトルネードのどちらか片方だけのシュートならばこれで止める事が出来た可能性はある。しかしシンクロさせたことで単純に二つのシュートを足した以上に威力を向上させたこのシュートを止めるには天野がキーパーとして動けない現状では到底力不足だった。
『ぐああああああぁぁぁっ!!!』
努力と踏ん張りも虚しく、そのシュートはディフェンス陣の四人ごとゴールネットを揺らしたのだった。
4-1
ダブルトルネードを凌げず、ゴールを守れなかった四人の前に灰崎が立ち、彼らを見下して減らず口を叩く。
「アンタ達も鬼道に言ってやったらどうだ?こんなキーパーは願い下げだとなァ……」
「……灰崎、お前はゴールの前に立っていても、FWの気分でいるのか?」
「あ?」
「お前がそこにいる為に、キーパーを外された者がいる」
水神矢にそう言われた事でダブルトルネードを胸筋で受けた事によるダメージに悶える天野を見て灰崎は初めて黙り込む。
「そこにいる時くらい、ゴールをどう守るのかを考えろ!!」
「……!」
それからも試合は続く。変わらず木戸川清修の攻撃に押される星章。そんな中で灰崎は水神矢に言われた事を考える。
(ゴールをどう守るか…だと?俺はFWだ…。点を取る事しか知らねえよ……!)
そう考えながらも灰崎は木戸川清修の動きを観察する。武方三兄弟は囮になっている。本命は豪炎寺だ。なのにDF達はそれに気付かない。何故気付かない。そう考えながらも身体が勝手に動き、豪炎寺に向かって行く。
「灰崎!」
「あいつ…また性懲りも無く!」
しかし灰崎は豪炎寺からスライディングでボールを奪い、ディフェンス陣に向かって怒鳴る。
「お前ら!何処に目ぇ付けてやがんだよ!11番がガラ空きじゃねえか!!ボサッとすんな!9番が狙ってるって分かんねえのかよ!!」
口は悪いが的確な
その様子を見て観客席とフィールド……三人の
「へぇ」
「気付くのが遅いが…まぁまだギリ間に合うってとこか」
「フッ……」
そしてその中の一人、鬼道が灰崎の前に立つ。
「鬼道……これで良いんだろ?」
「漸く気付いたか」
「フン」
投げやりに言う灰崎だが、鬼道は全てを見抜いていた。そして審判に選手交代とポジション変更を申請。魚島に代わって古都野をDFに入れ、天野をキーパー、灰崎をFWに配置し直した。
(残り10分で3点差か……)
「俺としても予想外な程に点を取られ過ぎた。だが、ここからひっくり返すぞ。やれるな?」
「ああ…。受けて立ってやるよォォ!!」
灰崎はキーパーのユニフォームを脱ぎ、投げ捨ててフィールドプレイヤーのユニフォームに着替え直す。
『フィールドの悪魔』と呼ばれるストライカーの力を、今こそ見せようとしていた。
主人公が出ない試合に主人公を絡めるのはやっぱり難しい。当然っちゃ当然だけど。