side凪人
星章学園は灰崎をFWに戻し、本格的に反撃を始めるようだ。鬼道の目的は灰崎に敵の連携を正面から見せる事で連携の重要性と木戸川清修に対する攻め方を理解させ、真のエースストライカーとして灰崎を覚醒、機能させる事だった訳だが……3点差で残り時間10分か。中々に厳しいだろうな。
「結局、何の為に灰崎をキーパーにしていたんだ…?」
「今更FWに戻した所でもう手遅れじゃないのか?」
「それは違う。キーパーの位置からなら敵味方問わず全ての動きを正確に理解する事が出来る。敵の攻撃の連携パターンを把握すれば前線における有効な攻撃パターンがどんなものなのかも自ずと分かる。鬼道は灰崎にそれを分かって欲しかったんだ。ただシュートをバカスカ撃つだけのストライカーのままじゃ、木戸川清修には絶対勝てないからな」
道成と万作はまだ灰崎がキーパーにされていた理由を理解出来ていなかったようなので解説を入れてやる。そのくらいはしてあげるよ、俺。
「じゃ、じゃあ…星章学園が残り10分で逆転するって事ですか!?」
「いや、この試合、恐らくはーーー…」
神門の質問に対し、俺の予想を告げると全員が目を丸くする。小僧丸は鼻で笑いやがったけど。いや、あくまで予想だからな?けど小僧丸は修也を尊敬するあまり、修也に比べると他を低く見過ぎている。多分こいつそういった点でその内足元救われて痛い目見るだろうな。
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side三人称
ゴール前から天野がボールを蹴り出し、試合が再開する。灰崎は前線で走りながら鬼道にある確認を取る。
「鬼道、アンタはあの光景を俺に見せる為に俺をキーパーにしたんだな?」
「シュートの撃ち合いを豪炎寺とやった所で、奴とお前の実力差から見ても、チーム連携で攻めて来る事から考えても木戸川清修には勝てない」
灰崎は正面から豪炎寺に劣っていると言われてもこれまでとは違い、憤る事無く、静かに鬼道の話に耳を傾ける。
「奴らを討つにはお前が真のエースストライカーとして機能する必要があった。ただ突っ走るだけのストライカーではなく、チーム全員の信頼を受け、想いの繋がったボールを受ける事が出来る…。それが真のエースストライカーだ!!」
鬼道の話が一区切り付くと同時に豪炎寺達木戸川清修の攻撃陣が固まって鬼道と灰崎の前に躍り出て来る。二人は左右に分かれてそれぞれサイドから木戸川清修の陣内へと侵入を試みる。
鬼道は豪炎寺達の連携の隙間を突いて逆サイドの灰崎へとパスを出す。灰崎はそれを受け取ると鬼道の話への返答を口にする。
「へっ…そんなプレーは向いてねーよ」
「灰崎、お前の闇は分かっている。だが俺はお前が何の為にサッカーをやっていようと関係無い。俺が求めるのは最高のサッカーだ!!」
ワンツーを繰り返し木戸川清修に攻め込んで行く鬼道と灰崎。灰崎は猛スピードで敵陣を攻めながらも後ろから聞こえて来る仲間達のパス要求に応じる。
「ホラよ!」
『!』
「ゴールの引き立て役くらいにはしてやるよ!凡人共!!」
態度は相変わらずだが、灰崎の中でチームメイトに対する意識が明らかに変わっていた。それを感じ取った星章イレブンは軽く頬を緩ませながらパスを駆使して攻め上がる。しかしそんな事をそう簡単には木戸川清修も許さない。
「連携を崩すな!灰崎をマークして、動きを止める!!」
豪炎寺の指示に従い、木戸川清修は灰崎への警戒を強める。鬼道はそんな光景を見ながらもクールな笑みを消す事は無い。
「さあ見せてみろ灰崎。お前の最高のサッカーを!」
「ククク…乗って来たぜ!!」
灰崎は佐曽塚からボールを受け取ると瞬く間に素早い動きと華麗なドリブルで豪炎寺を突破。木戸川のこれまでの連携パターンからこの先のディフェンス連携を直感で予測し、次々と突破して行く。
(鬼道…俺だってお前なんざ関係ねぇ。俺が求めてんのは敵をぶっ倒すサッカーだ!俺一人で豪炎寺を倒せねぇなら、精々お前らを利用してやるよ!!復讐の為にもなァ!!)
灰崎は木戸川清修の連携ディフェンスに単身斬り込んで行く。そして豪炎寺達を引き付けると同時に他のMFやDF達に囲まれる。しかしそれこそが灰崎の狙い。
人と人との隙間を見つけ、その先にいるチームメイト達を見る。鬼道にはパスは出来ない。しから折緒ならば……
「そらよっ!!」
『!!』
フィールド全体、そしてスタジアム全域に衝撃が走る。あの灰崎がゴールを前にして自分で決めずに仲間に託した。これは豪炎寺だけでなく、星章の仲間達にとっても意外な行動だった。ただ一人、鬼道を除いて。
一瞬の戸惑いはあったものの、折緒は迷わず必殺技をゴールに向かって放つ。
「スペクトルマグナァ!!」
両脚でボールを挟むと時間差で撃ち出されるキャノン砲。それはキーパーとして経験が不足している大御所から簡単にゴールを奪った。
4-2
『ゴォール!星章学園、再び2点差まで縮めて見せたぁーー!!自ら決めると思われた灰崎!折緒と見事な連携を見せました!!』
「しゃあっ!!」
「灰崎、あいつ……」
デスゾーン以外ではチームとの連携をしなかった灰崎の変化に戸惑いながらも喜ぶ星章イレブン。連携に連携で対抗する事を学んだ彼はこれまでと大きく異なる事は明らかだ。
(灰崎に新たな道を示した訳か。ピッチの絶対指導者……その名の通りだな、鬼道…)
だが木戸川清修もこのまま逆転されてやる気など一切無い。更に突き放すべく一気に攻め上がる。
しかし今の灰崎はフィールド全体を客観視出来る。成長した灰崎によって、木戸川清修の連携は崩れ始める。
「9番ガラ空きだぁーー!」
「古都野!」
「おいトゲトゲ!トンガリに付け!」
「へっ!任せトゲぃ!」
「ええっ!?」
「乗っかったぁ!?」
何やら親しみを込めて灰崎のアダ名に悪ノリのする者もいたが、それは触れる必要はない。そして何より、至高の司令塔たる鬼道の指揮が振るわれる。
武方三兄弟にプレッシャーがかかり、パス回しもカットされ始める。今の星章に対応出来ているのは豪炎寺くらいだろう。
努が佐曽塚に奪われたボールを豪炎寺がスライディングで奪い返すと同時に上空へと打ち上げ、炎を纏ってシュートへと移行する。
「ファイアトルネード改!!」
「もじゃキャッチ!!」
謎の紫色の羽毛のような雲のような何かにファイアトルネードが包まれる。しかし豪炎寺のファイアトルネードはその全てを一瞬で消し炭にしてキーパーを突破。ゴールを決める。
5-2
再び3点差まで追い詰められた星章学園。早乙女はイレブンバンドに表示される残り時間を見て苦虫を噛み潰したような表情をする。
「あと4点取らなきゃいけないなんて……」
「ざけんな。ちゃんと目ェ開けて見ろ。見えて来るぜ?勝利への道が」
意図したのかは分からないが、そんな彼を励ましたのは灰崎だ。灰崎はチームの士気を上げるべく叫ぶ。
「行くぞテメーらァ!!」
それからも星章は木戸川清修との点数差など問題ではないと主張するかのように攻め続ける。対して木戸川清修は連携が崩され始めている事から焦りが生まれ、そこからミスが生まれ、連携がズレるという悪循環への陥り始めていた。
「止めろ!」
豪炎寺と努で鬼道を止めにかかるも、星章はパスを駆使した連携で木戸川清修の守りを攻略していく。そんな折、ドリブルで攻める早乙女の前に黒部が出て来た。連携がズレようとも個人技まではズレはしない。名門である木戸川清修もチームプレーだけで戦っている訳ではないのだ。
しかし星章は鬼道が派遣された事で個人の実力でも圧倒的にレベルアップしていた。彼らを相手に個人技でディフェンスを図るのは悪手だった。
「エンジェル・レイ!」
周囲が暗闇となると、早乙女が光源体となっての目眩し。その隙を突いて黒部を抜き去り、同じく目眩しの効果を少しばかり受けていた大御所を相手に容赦無くシュートを決めた。
5-3
「よぉし!」
灰崎が連携を意識する事でチーム全体の力を引き出している。全ては強化委員である鬼道と監督の久遠の思惑通りという訳だ。
それからも攻め返す木戸川清修。しかし木戸川清修の連携が崩れ始めてから、星章の連携がスムーズに進んでいる。苦しい状況下に置かれているのは間違いなく木戸川清修だろう。
白鳥と水神矢の連携て勝からボールを奪い、またもや反撃に出る星章。
「行くぞぉ!!」
「くっ!調子に乗るな!みたいな!」
星章は正確なパス回しによってあっという間に木戸川清修のディフェンス陣に攻め込んで行く。そして最前線の灰崎へとボールが渡る。ボールを蹴り上げた灰崎は指笛で六匹のペンギンを召喚。
「オーバーヘッドペンギン!!」
小型ミサイルの如く発射された空飛ぶペンギン。木戸川清修のDFがそれを止める為にシュートコースに躍り出るが、纏めて弾き飛ばされてしまった。
そして今更灰崎の必殺技をキーパーが止められる訳がなく、ゴールネットがまたもや揺れる。
5-4
遂に1点差まで追い上げた。そしてアディショナルタイムに突入。残り時間は僅か。木戸川清修が逃げ切るか、星章が追い付き、追い越せるか。
木戸川清修はもう一度攻め上がる選択を見せた。ここで守りに入っても突破される可能性が高いと踏んだのだろう。幸い、星章キーパーの天野は先程のダブルトルネードでダメージを受けている。そんな状態では満足に力を発揮出来ず、必殺技を撃てばほぼ間違いなく決まるだろう。
「今こそ決める時!」
「ファイアトルネードを超える俺達の必殺技!」
「バックトルネードだあぁぁぁ!!!」
「ゴチャゴチャ言う前に撃てば良かったな」
ボールを蹴り上げてバックトルネードを放とうとした武方勝。しかし三兄弟揃って長い前口上を垂れている内に灰崎が自陣のディフェンスまで下がり、ジャンプして勝がバックトルネードを撃つ前にボールをカットして水神矢へとボールをパスした。
「ちょっ!?嘘だろ!?みたいな!?」
その様子を見て豪炎寺は昨年のフットボールフロンティア三回戦……雷門と木戸川清修の試合序盤で似たような感じで凪人がバックトルネードを不発に抑えた光景を思い出した。
そこからカウンターで攻め返す星章。残り時間は一分を切った。このままであれば木戸川清修の勝ちだ。更にここにきて木戸川清修は豪炎寺の懸命な指示により、連携を立て直して来た。
「間に合わねえ!」
「……そこか!」
しかし灰崎は諦めず、木戸川清修の立て直された連携の中に穴を見つける。そこに向かって全力で突っ走る。双子玉川はそんな灰崎を信じて灰崎の行く先にロングパス。
しかしここで灰崎とボールの間に豪炎寺が割り込んで来た。
「なっ!?」
「貰ったぁ!!」
ここで食い止めれば逃げ切って木戸川清修の勝利だ。しかしそれを阻止せんと鬼道が更に豪炎寺とボールの間に割り込み、ボールを灰崎の方へ弾く。
「何!?」
「俺は……俺達は負けん!!」
しかし肝心のボールは灰崎を通り越してピッチの外へと向かおうとしていた。どの道これではタイムアップで木戸川清修の勝ちだとフィールドにいる誰もが思っただろう。
「そんな…」
「鬼道さんがミスだと!?」
鬼道と灰崎を除いて。
「楽しませてくれんじゃねぇか……!!うおらああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
「何だそのスピードォ!?」
灰崎は全速力でボールに喰らい付く。彼の凄まじい脚力が陸上選手顔負けの超スピードを引き出した。正に勝利への執念の為せる業だろう。
「灰崎!」
「行ける!」
「届け!」
走った勢いに身を委ね、スライディング。そしてそれはラインの外に出る前に届き、ボールをフィールド内に留まらせた。
「おおっ!」
「あり得ない……!」
「鬼道はこれを見越していたと言うんですか!?」
「ああ!ミスキックなんかじゃない!」
「灰崎が追い付く事を読んでいた!?みたいな!?」
灰崎はゴールに向かって行く。星章イレブンもそれに続く。一方で鬼道のパスをミスと思っていた木戸川清修は対応に遅れる。それが全てを分けた。
折緒と佐曽塚が灰崎に続く。この三人が揃えば何をして来るのかはすぐに分かった。
「デスゾーン開始!」
「「させるかぁ!!」」
豪炎寺と西垣がそれぞれ折緒と佐曽塚の前に躍り出て飛び上がり、彼らのジャンプを妨害する。このまま二人が飛び上がってもぶつかり、必要な高さまでは到達出来ず、デスゾーンは発動出来ない。
「「くっ…!」」
しかし灰崎はそれを察知するや否や、一人で別方向ーーー鬼道とオーバーラップして前線に来ていた水神矢の元へ走り出す。
「何!?」
「鬼道ォ!!」
灰崎は鬼道にボールを預け、更に方向転換してゴールに向かって走る。その隣には水神矢が並走する。
(最後はそう来ると踏んでいたぞ豪炎寺……。お前は少し斎村を意識し過ぎだ……。お陰でお前の考えは以前よりも読み易かった)
鬼道が指笛を吹くとその周囲に五匹の紺色のペンギンが出現する。そして間髪入れずに鬼道はボールを蹴り出す。
「皇帝ペンギンーーー!!」
「「2号ォォーーーーーー!!!」」
鬼道、灰崎、水神矢の皇帝ペンギン2号が炸裂。コース上にいた豪炎寺と西垣を除く木戸川清修の面々を纏めて吹き飛ばし、ゴールを決めた。
5-5
遂に同点に追い付いた。そして同時に主審が試合終了のホイッスルを鳴らした。
ピッ、ピッ、ピーーーーーー!!
『試合終了ォォォ!!!5対5!!星章学園と木戸川清修の激戦の結果はまさかの引き分けで終わったぁぁーー!!ラストは灰崎を中心としたチームプレーが奇跡を呼びましたぁーーー!!』
星章も木戸川清修も全員が息を上げていた。引き分けという結果では喜びの感情が出るはずもない。
(……鬼道は最初から試合中に灰崎の欠点を克服させる事を視野に入れていたのか)
結果こそ引き分けではあるが、試合の内容で見れば明らかに木戸川清修の負けだ。少なくとも豪炎寺はそう評した。引き分けで済んだのは前半で大量に得点出来ていたからに他ならない。
「……チッ、引き分けかよ。締まらねぇ終わり方だ」
そしてこの試合の中心人物と言えた灰崎は引き分けという結果に憤っているかと思いきや、何処か晴れ晴れとした表情で清々しく笑みを浮かべていた。勝てはしなかったが、この試合で得るものが大きかったからだろう。本人にその自覚があるのかは別だが。
(灰崎、やっとなれたか。星章学園の真のエースストライカーに……!!これがお前が闇から抜け出す第一歩となるだろう)
鬼道もまた、この試合に勝てはしなかったが、それでも得られた灰崎の変化に喜んでいた。
「……とはいえ、勝てなかったのは悔しいな」
スタジアム全域では惜しみない賞賛の拍手が起こっていた。そして電光掲示板には豪炎寺のイレブンライセンスカードが表示される。
『この試合のMVPは……木戸川清修、豪炎寺修也ぁーーーーー!!!!』
今回のMVPは豪炎寺だったが、もし星章学園があと1点取り、逆転勝利を収めていれば間違いなく灰崎がMVPとなっていた事は少なくない数の人間が悟っていた。
「……やられたよ。今回は俺達の負けと言っていい」
「だが良い試合だった。お互いまだまだ改善点も多いがな」
「ああ!」
そしてフィールドの中央では豪炎寺と鬼道が爽やかに笑いながら握手を交わす。
「灰崎凌兵か……面白くなって来たな」
豪炎寺は早々にフィールドを去る灰崎の後ろ姿を眺めながら、そう呟くのだった。
○バックトルネード不発の際
凪人(あれ、なんかデジャヴ……)
主人公の出した予想は実際の結果と同じ5対5の引き分けです。小僧丸は鼻で笑いましたが、実際こんなの予想出来る方がおかしいので割と一番正しい対応です。小僧丸に豪炎寺への尊敬からくる過大評価の補正が無かった訳ではありませんが。
試合は終わったけど灰崎メインの話はもうちょっとだけ続くんじゃ。