イナズマイレブン -もう一つの伝説-   作:メンマ46号

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アレス編開始前から構想し続けてきた試合が遂に始まります!


かつての神々との戦いに備えて

 side凪人

 

「くらえええっ!!」

 

 相手が最後の悪足掻きとしてぶちかました必殺シュートが俺達のゴールに迫る。ゴールを守る堂本は右手を上げてそこに赤い稲妻を集中させる。

 

「堂本!」

 

「堂本君!」

 

「うおおおおっ!!ゴッドハンドォォーーーー!!!」

 

 堂本のゴッドハンドによるキャッチと同時に試合終了のホイッスルが響き、電光掲示板にある11-0という驚異的な点差と共に俺達の勝利を祝福する拍手が閃電スタジアムに溢れ返る。

 

「やった!勝った!これで勝ち点15!!全国大会に出場決定だよ!!」

 

「ああ!」

 

 俺と星宮とでハイタッチを交わし、電光掲示板に表示されている得点を確認する。得失点差はこれで総合60点は超えた。個人では永世学園の吉良ヒロトに得点王の座を持って行かれてはいるが、チーム単位では間違いなく全ての予選大会で得点率トップは俺達閃電中だ。

 

「けど…あと一試合残っている」

 

 俺が観客席に眼を向ければ丁度観戦し終えてスタジアムから去ろうとする白ジャージの金髪で長髪の男の後ろ姿が見えた。やっぱり観戦に来てたか。

 

 俺達の属する関東CグループはAグループに勝るとも劣らない程の激戦区だ。これまでの五試合で全勝となっているのは俺達の他に1チームしかいない。既に閃電とそのチームとで全国大会出場枠は埋まっている。

 

 だからこそ、運営は遠慮なくぶつけて来るだろう。俺達とそのチーム……世宇子中を。

 

****

 

 side三人称

 

 閃電中サッカー部の部室にて監督である会田、マネージャーの時枝、そして閃電イレブンは集まっていた。前方にあるホワイトボードには関東Cグループの上位2チームの名が記されている。

 

 1.閃電 五勝無敗 勝ち点15

 2.世宇子 五勝無敗 勝ち点15

 

「……と、これで俺達閃電と世宇子の全国大会進出は決定した。此の先どう足掻いても勝ち点15に届くチームはCグループにはいないからな。因みに同点なのに俺達が1位なのは得失点差によるものだ」

 

 ついでに言えば双方共に現状失点0。だが次の試合で閃電と世宇子がぶつかる事が決定した事により、嫌でもどちらかは失点0という記録が潰える事になる。

 

「既に全国大会進出が決まっているからって間違っても消化試合だなんて思うなよ!これはグループ突破1位を懸けた戦いなんだ。フットボールフロンティア優勝を目指すなら……負けて良い試合なんて一つもない!!」

 

『おう!』

 

****

 

 閃電中はスポーツが盛んな学校である。どの運動部も全国トップを狙える程の実力を誇っていた。そんな中、昨年の秋まではサッカー部だけが例外中の例外であり、何処の学校にも勝てない程の弱小部だった。正に学校の恥であり黒歴史。廃部にしたいと考えた者も多かっただろう。

 

 しかしそれはフットボールフロンティア全国大会を制した雷門イレブンの副キャプテン、斎村凪人のサッカー強化委員としての派遣によって大きく変わった。弱かったサッカー部はみるみる強くなり、今や全国トップクラスの実力を持つに至った。

 

 そんな閃電サッカー部はフットボールフロンティア予選大会突破を決め、1位通過の為に昨年の準優勝校、世宇子中との試合に備えて猛練習をしていた。

 

「うおおおおおおっ!!打倒世宇子中!!!」

 

『おおおおーーーーーっ!!!』

 

「おー、燃えてるなサッカー部」

 

 教室の窓からも良く見える第2グラウンドにてサッカー部のレギュラーメンバーがタイヤを引き摺りながら全速力でドリブルして走る様子を見て他の部に所属する男子生徒の一人が呟いた。

 

「何でもあいつら地区予選大会突破して全国大会に出場出来るようになったらしいぞ」

 

「へぇ、あの弱小部がねぇ〜〜」

 

「他校のサッカー部からしたらもう立派な強豪で優勝候補らしいけど、ぶっちゃけ信じらんねー」

 

「あれだけ惨敗しまくってたのを見てたからねぇ〜」

 

「王帝月ノ宮との練習試合の時は感動したけど……あれも結局負けてたからなぁ」

 

 好き勝手に話す彼らだがそれも仕方ない話ではある。凪人が派遣される前までは本当に彼らは弱く、みっともない試合しか出来なかったのだから。

 

「で、予選最後の試合は昨年の準優勝校の世宇子中だろ?あいつらの快進撃もこれまでだな」

 

「いくら強化委員で斎村先輩が来てるからって……雷門にいた時もかなりギリギリの勝利だったしな……。昨年の雷門ならともかく、ウチのサッカー部じゃ無理だろ」

 

「何言ってんの!それでも全国には進めるんだし、予選2位で全国進出も立派よ!」

 

 褒めているのか貶しているのか。ずっと閃電サッカー部の負けっぷりを見て来た彼らからすれば未だにサッカー部が全国ランキング2位に君臨する程に強くなったという実感が湧かないようで面白半分に彼らの練習風景を眺めている。

 

「おおおっ!!」

 

「でやあああっ!!」

 

「……もう充分頑張ったってのになぁ〜」

 

 だがそれからも閃電サッカー部は世宇子との試合まで練習をやめる事は無かった。

 

 雨の日も……

 

「今日は雨だし流石にサッカー部も練習してないか」

 

「いや、堂本と赤木の奴ら、サッカー棟に向かってったぞ!」

 

「あ、そっか。そういや弱小だったあいつらにも専用の練習場はあったもんな」

 

 グラウンドが使えないならば屋内でより一層練習に励む。

 

 風の日も……

 

「この暴風に負けずにドリブルとパス、シュートをこなすんだ!!ボールのコントロール技術を徹底的に磨く!!」

 

『うっす!!』

 

 風という妨害に遭いながらも逆にそれを練習に取り入れて技術向上を図る。傍目から見て滅茶苦茶以外の何物でもない特訓を全力で実践する。

 

「よくやるよあんなの……」

 

 そして試合三日前に迫った日の夜も……

 

 その日、閃電中のバスケットボール部員三名は部活動に集中するあまり、学業成績が疎かになっていたが故に補習授業を受けていた。既に空には月が浮かんでおり、真っ暗だ。彼らが寮生活を送っている為にここまでの時間の勉強になったのだ。

 

「ひーっ、補習疲れたぁ〜…」

 

「もう8時前だぜ?寮の食堂閉鎖ギリギリまでしごきやがってあの鬼教師……」

 

「とにかく飯だ飯。腹減った」

 

 暗い学校の敷地内を歩く男子生徒達。するとふとその中の一人が第2グラウンドを見て呟いた。

 

「流石にサッカー部もこんな時間じゃ練習切り上げてるか」

 

「当たり前だろ。こんな遅くまでやる馬鹿いねーって。腹減るし、第一外じゃ暗くてドリブルなんて出来ねーだろ」

 

「あれ?……なんか、サッカー棟の方、明るくね?」

 

 丁度サッカー部の話をしていたらそのサッカー部専用の練習場であるサッカー棟に電灯が点いている。それを見て気の所為だとか消灯のし忘れだとか考える程、彼らは軽い頭をしてはいなかった。

 

 外では暗くて練習なんて出来ない。ならば明るい所ならば彼らなら……。

 そう思ってすぐに寮に戻って夕食を済ませてサッカー棟へ向かう。するとサッカー棟の観客席には少なくない数の閃電中生徒達がいた。中には教師までいる。ここにいる全員が寮生活をしている生徒なのだろう。

 

「嘘だろ……?」

 

「え、ええ〜〜っ!?」

 

「……あり得ねえ。マジかよあいつら……」

 

 サッカー棟……閃電スタジアムのピッチには夜になって尚猛練習を続ける閃電イレブンレギュラーメンバーの姿があった。息も絶え絶えになりながらもその目には決して辛いだとか早く終わって欲しいだとか……そんな逃げの思考は宿ってなどいない。全員が真剣に練習に取り組んでいた。

 

「声出せー!!」

 

「もういっちょ来ーい!!」

 

「おーう堂本ー!!」

 

「城之内!今のドリブルは良かったぞ!!」

 

「石島もナイスチャージだ!」

 

 強化委員である凪人の指示の元、猛練習に励む彼らを見る為にここにいる生徒や教師達は集まったのだ。

 

「キャプテンの星宮君、実家通いだけどここ数週間はずっと寮に泊まり込みで練習してるんだって」

 

「今日も晩飯食ったらまたすぐ練習だってさ……食堂のおばちゃん達も疲労回復やスタミナを増やす為に余り物で特別メニューの夜食とか作ってくれてるらしいぞ」

 

 聞こえて来る閃電イレブンの努力と周囲のバックアップの実態。いくらバックアップがあっても自分達はバスケの為にここまで努力した事があるだろうか?

 

「何で予選の為にそこまでやるんだよ……全国出場は決定してるし、次のはただの消化試合だろ?」

 

 そして二日後……世宇子戦前日。

 

「ん〜!皆、ストレッチは済んだな?そろそろ始めるぞ!」

 

『おう!』

 

 凪人の号令の元、閃電イレブンは気合いの入った返事を返す。

 昨日はスポンサーである神童インストルメントと監督の会田の意見により、一日しっかり休んだ。それどころかスポンサーが気を利かせて疲労を取る為にプロによるツボ押しやマッサージまで受けさせてくれた程だ。

 

 お陰でここ数日の溜まった疲労はすっかり回復し、今日一日の練習と明日の試合により全力で臨める。

 

「明日はとうとう世宇子戦だ!全力でぶつかるぞ!!皆頑張って行くぞぉーーー!!」

 

『おおーーー!!』

 

 第2グラウンドに向かって行く閃電イレブン。凪人も一緒に行こうとしたが、その前にバスケットボール部の男子生徒に呼び止められた。

 

「あの、斎村先輩……」

 

「ん?」

 

「どうして……そこまでやるんですか?全国大会にはもう出れるのに、世宇子戦は消化試合ですよね?なのに……」

 

 当然の疑問だ。特にサッカー部員でない彼からしたら尚更だ。だから凪人は怒らずに答える。

 

「ライバルだからだ。強化委員の派遣されたチームだけじゃない。フットボールフロンティアに出場する全てのチームが優勝を争う対等なライバルだからだ。中でも世宇子はとびっきりのな。

 

だから俺達はやれる努力は全てやって全力でぶつかり合いたいんだ。それがサッカープレイヤーとしての礼儀であり、誇りだ」

 

「……誇り」

 

「じゃ、俺達練習あっから!お前もバスケ頑張れよ!」

 

 笑顔でそう言って練習に向かって行く凪人。男子生徒はその後ろ姿を見て、拳を握り締めた。

 

 世宇子戦前の練習は実にシンプル。基礎の基礎から徹底的に復習している。コーナードリブルに狙った場所に向かってのシュートやパス。ディフェンスとオフェンス……一対一の勝負。それぞれの連携。

 

 今の彼らは凪人が派遣される以前とは比べ物にならない程に前向きで良い表情をして練習に取り組んでいる。

 

「斎村さん!俺も最高のシュートお願いしますっ!!」

 

「ああ!」

 

 凪人と堂本の一騎討ち。サッカー部の練習を見守る生徒達がゴクリと喉を鳴らして見守る。

 

「はあああっ!!」

 

 放たれた鋭く疾い…そして力強いシュート。その軌道を堂本はその眼でしっかりと見据えながら、本能で脚を動かし、手を伸ばし、喰らい付く。

 

(明日世宇子に勝って、全国に行って……優勝する……!見てろよ野坂…!!お前達だって同じだ……お前達がどんなに強くても……俺達は勝ってみせるっ!!)

 

 そして掴んだ。止めた。堂本が凪人のシュートを。ボールを持って立ち上がり、仲間達に向けて右手の親指をグッと立てる。

 

「やるな。だがアフロディのシュートはこんなもんじゃないぞ」

 

「おう!それでも止めてみせるっす!絶対に!!」

 

 パチパチパチ………

 

「え?何?」

 

 周囲からパチパチと手を叩く音が聞こえた。それが気になって一時練習を中断して周囲を見渡すと閃電中の全校生徒と教師達すらもまっすぐに閃電イレブンを見て拍手をしていた。

 

「え?え!?」

 

「良いぞーサッカー部!!」

 

「世宇子に負けるなよーー!!」

 

「応援行くからねー!!」

 

「全国で王帝月ノ宮にもリベンジだーーー!!」

 

「頑張れよーー!」

 

「期待してるからねー!!」

 

「絶対優勝しろよなーー!!」

 

 向けられた声援に戸惑う閃電イレブン。王帝月ノ宮との練習試合からはそれなりに応援もあったのだが、学校全体からここまで真剣に応援されるとは思ってもいなかった。これまではずっと馬鹿にされてきたのだから。

 

「……へへっ!」

 

「てへっ、てへへっ!」

 

「二人共照れてる場合か?」

 

 学校中の応援に照れて思わずにやけてしまうサトルと堂本に呆れながらも凪人がツッコミを入れる。閃電イレブンは全員で顔を見合わせて応える。代表してキャプテンであるサトルが皆の前に出る。

 

「よし…分かったよ。僕達に……」

 

『『『ズババーンと任せとけーーーー!!!』』』

 

****

 

 そして試合当日。

 

 -世宇子スタジアム。

 

 フットボールフロンティアスタジアム上空に浮かぶ巨大スタジアム。これは昨年のフットボールフロンティアにて雷門と世宇子の試合の為に用意され、決勝戦が執り行われたスタジアムだ。

 

 関東Cグループ予選最後の試合であり、全国進出を決めた二つのチームによる1位突破を懸けた試合。それもあの世宇子と元雷門の強化委員である凪人が派遣された閃電中の試合という事で少年サッカー協会が特別に動かす事になったのだ。

 

 その観客席は当然ながら超満員。その2割程が閃電中の生徒や教師などで締められている。それだけの人数で2割である事から世宇子スタジアムが如何に巨大であるかが分かる。

 

「あ!いたいた!おーい豪炎寺ーー!!」

 

「円堂……」

 

 当然、各チームもこの試合には強く注目する。円堂と豪炎寺もまた、この試合の観戦に来たのだ。

 

「なっつかしいなー!俺達去年はここで日本一になったんだぜ?」

 

「ああ。しかし世宇子に凪人との試合で先を越されるとはな。どちらが勝つかかなり楽しみな試合だ」

 

 すると今度は円堂と豪炎寺を見つけたのか帝国学園の四人……風丸、佐久間、源田、不動がやって来る。不動だけは豪炎寺を見て、「げ…」とでも言いたそうな苦々しい表情になったが。

 

「おー!お前達も来たのか!」

 

「当然だろ。閃電とは合同練習をしていた仲なんだ。それに帝国は世宇子とも因縁がある。色々な意味で見逃せない試合だからな」

 

「それに閃電も世宇子も既に全国出場を決めている。情報を集めるという意味でもこの試合は観戦しなければならない」

 

「お前も来たのかアッキー」

 

「だからアッキーと呼ぶなぁ!!大体お前がヘアサロンでの事を斎村に話さなきゃ…「騒ぐなみっともない」むがむが…!!」

 

 円堂、風丸、佐久間で話し、豪炎寺のアッキー呼びから過剰に反応する不動の口を源田が手で塞いで黙らせる。丁度人数分空いた観客席を見つけた六人は座り、試合開始を待つ。

 

「いよいよだな…」

 

「ああ。予選大会でも一、二を争う注目度の高さだ」

 

 閃電と世宇子……それぞれのスポンサーCMが流れ、それぞれのスタメンが発表される。凪人も今回ばかりはスタメン入りしているようだ。横並びにピッチを歩きながら凪人とアフロディは軽く会話を交わす。

 

「アフロディ……やっとお前達と正々堂々、正面からぶつかれる日が来たな」

 

「斎村君……僕は…僕達は君達雷門のおかげで悪夢から目覚めた。だからこそ実力で戦い、僕達の本当のサッカーで勝つ!それが君達への恩返しだ!!」

 

「……負けねーぞ」

 

「こっちこそ」

 

 不敵に笑い合う二人はそれぞれ自チームのポジションに付いて試合開始のホイッスルを待つ。フットボールフロンティア予選大会最高のサッカーが今、始まろうとしていた。




次回から世宇子戦!アニメと違い、熱く燃え滾るサッカーと世宇子の活躍を約束します!!

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