side凪人
「よーし、一旦休憩だ!!」
全国大会に向けて練習を続ける俺達は世宇子戦以来、その練習がますますヒートアップしていた。
世宇子との試合は激戦の末、俺達が辛くも勝利をもぎ取った。チームが一丸となって最後まで諦めずに戦い抜いたからこその勝利と言える。
だが、世宇子の強さは俺達の想像を遥かに超えていた。一度勝ったからと言って次も勝てるなんて事は決して言えない。閃電が1位、世宇子が2位で全国大会出場が決定してはいるが、もし決勝で奴らと再び戦う事になるとしたら、今のままの成長ペースでは俺達が負けてしまうだろう。
皆もそれが分かっているのか、練習はより活気と熱意に溢れていた。堂本がその筆頭格と言えるだろう。アフロディのゴッドノウズを止める為に編み出し、実際止めてみせた必殺技、ドラゴンスクラッチがアフロディの進化した必殺技、ゴッドノウズ・インパクトに容易く破られたんだからな。それにあの試合で結局ゴッドノウズ・インパクトを止める事は叶わなかった。シュートそのものを未然に防げなければ俺達は負けていた。
アフロディは……世宇子は本当に強くなった。これからも強くなり続けるだろう。
ふとゴールの方を見れば休憩時間だと言ってるのに勝手にPK練習をしている刀条と堂本の姿が映る。ったく、あいつら…。
「うおおおおっ!!」
刀条の鋭いコーナー狙いのシュートへと食らい付く堂本を見て、やはり思う。このままでは決勝どころか全国を勝ち抜く事は非常に難しい。仮に木戸川清修にでも当たれば修也と武方三兄弟のオーバーライド技、爆熱トルネードをドラゴンスクラッチで止める事は出来ないのは火を見るよりも明らかだ。
それに、修也には無印ルートでの必殺技を身に付けられるようにアドバイスやアイディアなども伝えている。より一層それは厳しくなるだろう。
……修也と言えばそろそろか?木戸川清修の予選最後の試合は。今の所は四勝一分で勝ち点は13だったか。
俺は練習が再開する前にマネージャーにパソコンを借りてそろそろ少年サッカー協会が公表しているであろう対戦表を確認する。俺達の他にもグループリーグを突破し、全国出場を決めたチームは多数存在する。北海道予選の一つでも先日、白恋中がぶっちぎりの1位突破を成し遂げていた。関東Bグループでも既に利根川東泉と王帝月ノ宮がそれぞれ六勝無敗の同率1位……いや、得失点差で王帝月ノ宮が1位、利根川東泉が2位で予選突破している。
……利根川東泉と王帝月ノ宮は直接ぶつかる事は無かった。恐らく月光エレクトロニクスが少年サッカー協会に圧力をかけてこの両チームがぶつかるのを防いだんだ。『アレスの天秤』に失敗は許されないだろうからな。野坂達が円堂とぶつかるのは時期尚早と判断したんだろう。
これまでの試合を観る限り、王帝月ノ宮で一番決定力を持っているのは野坂だからというのもあるだろう。その野坂だが……今のあいつのシュートで円堂からゴールを奪えるとは俺には到底思えなかった。それでもあいつ自身まだ伸び代はあるはず。月光エレクトロニクスは『アレスの天秤』を使って野坂のその才能を伸ばす事で円堂を倒せるレベルまで到達させてから利根川東泉とぶつけるつもりなんだろう。同じグループ所属のチームは全国大会では別ブロックに配属されるから必然的に決勝戦以外での試合はあり得ないからな。時間も充分にある。
そんな事を考えていればページが開き、情報が開示される。……成る程な。確かにこの組み合わせなら大会は大いに盛り上がる。全国出場権を三つ巴で取り合っている訳だし、強化委員の派遣された強豪校同士の試合だからな。
【フットボールフロンティア関東Aグループ予選第六試合
木戸川清修中vs帝国学園
○月△日 14:00開始】
一昨年の全国大会決勝の組み合わせであり、あの日修也は試合に出られなかった。そして帝国には鬼道はいなくても不動と風丸が加わっている。……修也にとって、あらゆる意味で重要な一戦だ。俺もこれは見逃せない。楽しみだ。
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side三人称
「……次は木戸川清修と帝国学園…ですか」
「ああ。中々に面白い一戦になりそうじゃないか。一昨年のフットボールフロンティア決勝の再現でもあり、豪炎寺修也はその試合は欠場している。加えて帝国にはもう鬼道有人はいない。代わりに不動明王と風丸一郎太が加入……その実力はそれぞれ星章戦と雷門戦で見せた通りだ」
街中で食べ歩きをしながら王帝月ノ宮中の野坂と西蔭は先程公表された試合の組み合わせについて話し合う。
野坂の手にはバニラ味と思われるアイスクリームがあるが、西蔭の手には何故か四段重ねで中には激辛味のものまで混ざっている。野坂が西蔭に食べさせる為に購入したものだ。余談だが野坂はグルメ関係になると何故か西蔭に妙なものを大量に食べさせたがる。野坂の信奉者と言っても良い西蔭は困惑しながらも決して拒みはしない。それが野坂のプロデュースによる西蔭のフードファイター化に拍車をかけているのだが……誰から見ても割とどうでも良い事なので割愛する。
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-帝国学園
帝国学園のミーティングルームの中、座席の一つに座り込むキャプテン、佐久間次郎は次の予選最終試合に想いを馳せていた。
(今の所は五戦全勝の勝ち点15……帝国学園の予選突破はほぼ確定したと言って良いだろう。だが予選最後の相手は木戸川清修……強化委員として豪炎寺がいる)
豪炎寺修也。かつて木戸川清修の…いや、中学サッカー界の伝説のエースストライカーと呼ばれた男。昨年も雷門のエースとしてチームを全国優勝に導いた。その力はかつての帝国学園をも脅かす程で一昨年のフットボールフロンティア決勝ではその力を危険視した影山の策略により、妹を交通事故に遭わせる事で出場を阻止した事もあった。
帝国に……影山のサッカーに負けは認めないという身勝手な理由でそんな出来事が引き起こされ、一時期はサッカーから彼は離れてしまった。
当然、もうそんな事は二度と起こしてはならない。起こらないように影山の監督就任に条件を出したのは豪炎寺の例あっての事だ。
勿論佐久間は当時豪炎寺が出場していたとしても帝国学園が敗北するなどとは今も昔も微塵も思ってはいない。相応の根拠があるからだ。帝国学園が実力者の中でも選りすぐりの精鋭達のチームである事、そして当時の帝国には鬼道有人がいたからだ。
(元帝国学園のキャプテンにして天才ゲームメイカーと謳われた『ピッチの絶対指導者』鬼道有人……俺はあいつのようにはなれない。なら、豪炎寺率いる木戸川清修を倒すには……)
分かってはいる。鬼道のようになる必要はない事は。だが時々不意に考えてしまう。鬼道のように帝国を引っ張って行くにはどうするべきかを。
「ここにいたのか、佐久間」
「源田…」
そんな風に考え込んでいる佐久間に話しかけたのは帝国の守護神である源田だ。口振りからして佐久間を探していたのだろう。そして佐久間の様子を見て源田は全てを察した。
「木戸川清修の事か」
「ああ。木戸川清修は強い…。星章と引き分ける程に……。俺達も一度は星章を相手に勝利を掴んだが、そんな過去は当てにはならない。星章はあれから更に強くなっただろうからな。あのチームは鬼道の元でどんどん成長する。今までも…これからもな」
佐久間にとって憧れであり、隣に立つ友である鬼道。そんな鬼道に指導を受け、共に走る星章イレブンが羨ましくないと言えば嘘になる。しかし佐久間は帝国のキャプテンなのだ。佐久間には帝国を背負って立つ責任と誇りがある。
「帝国も同じだ。強化委員として風丸の派遣と不動という新戦力の獲得。そして閃電との合同練習を経て強くなった……。だが俺自身はキャプテンとして成長出来ているのか……時々自分が情けなく思えてくる。風丸や不動にばかり頼ってしまっているような気になってな」
佐久間の想いを聞き、源田は少しばかり黙り込む。しかしすぐにその口を開き、己の内に込めていた信頼を告げる。
「俺は……お前の可能性を信じているぞ。佐久間…いや、キャプテン」
「源田……ありがとう」
決して気休めなどではない。これまでチームとして共に過ごしていたからこそ分かる。これは偽りのない源田の本心だ。
そんな源田の本心からの励ましが嬉しかった。佐久間は源田とコツンと拳をぶつけ合わせ、練習場に向かう。ウジウジ考えても仕方ないのだ。
そしてミーティングルームから出ると廊下の壁に寄りかかった風丸が二人を待ち構えていた。
「風丸……何か用か?」
「……お前が何に悩んでいるかは分かっているつもりだ。俺だって強化委員として自分が情けなく思える時があるからな」
「……!」
風丸は源田よりも早く佐久間の心境を察しており、佐久間の悩みが、考えが纏まるまで敢えてそっとしておいたのだ。
そして最後に最もな重要な事を伝える為に、ここで待っていた。
「……だが、その劣等感は全くの検討違いだ」
「何?」
「雷門時代、『帝国の銃士』佐久間次郎は…最高に厄介な相手だった。鬼道に劣らずな」
その言葉で佐久間は風丸が何を伝えたいのか全てを悟った。自分でも初めから分かっていたではないか。鬼道のようになる必要など全くないのだ。今の帝国は佐久間次郎がキャプテンなのだから。
(……どこまでいっても、俺は俺だという事だな)
佐久間には佐久間のサッカーがある。それは鬼道とは違う、佐久間だけのものだ。佐久間は自分のサッカーで鬼道のサッカーを超えれば良い。今の帝国のサッカーで今の木戸川清修のサッカーに勝てば良い。それだけなのだ。
「クククッ…なぁにペチャクチャ喋ってんだよ、お前ら」
そして廊下の影から今や見慣れたモヒカンヘアーが出て来る。
「不動…」
「「いたのか」」
いつもは鬼道とのキャプテンとしての差を引き合いに出して嫌味を言おうとしても軽くスルーされるのが常だが、今日は珍しくその事で頭を悩ませている佐久間を見て揶揄いに来たのか、はたまた彼なりに佐久間を気にかけているのか。
どちらにせよ不動の予想とは裏腹に佐久間は好戦的な笑みを浮かべて歩き出す。
「お前こそもう無駄口は叩くな。またバナナ呼ばわりされたいか」
「テメッ…!」
「黙ってついて来い。さぁ練習だ。木戸川清修は強いぞ」
軽口を叩いて素通りした佐久間を見て、不動は彼の中にある変化に気付き、何処か満足そうな表情になる。
「ヘッ…分かったよ、キャプテン」
それは思えば初めてかもしれない。不動が嫌味を込めずに佐久間をキャプテンと呼んだのは。そんな不動の確かな変化を感じ取って佐久間達は少し嬉しく思う。
「木戸川清修の特徴は豪炎寺と武方三兄弟を中心とする攻撃的なプレーと何と言ってもあの完成されたチームサッカーだ」
「ああ。だが付け入る隙はある。それに奴らにインペリアルサイクルは破れはしない」
「爆熱トルネード……必ず止めてやる!」
「ヘッ…完全なるチームサッカー……この俺がぶっ潰してやるぜ」
迷い、悩み、進む。それが佐久間次郎が歩むキャプテンの道。帝国学園をかつての絶対王者の座に返り咲かせる為にも、木戸川清修との試合に負ける訳にはいかない。帝国イレブンはそれぞれの想いと共にグループ予選最後の試合に臨むのだった。
はい、という訳で次回から木戸川清修vs帝国になります。皆の五条さんがアップを始めました。
それに伴ってサポーターの皆さんにお願いです。五条さんへの差し入れはレンコンやレンコン味のものでお願いします。間違っても豚肉なんて以ての外。そんなもの差し入れしたら許しませんからね。
帝国のくだりはやぶてん先生の漫画(灰崎編)です。
木戸川サイドも書こうと思ったけど、何も思い浮かばなかった。豪炎寺はともかく、木戸川イレブンの学園生活とかどんな感じなんだ……!?