side三人称
斎村凪人が強化委員として雷門中から閃電中に派遣されてから一週間が経過した。閃電イレブンはキャプテンであるサトル以外は全員が寮で生活しているので、土日も基本的に練習をしている。勿論サトルも土日は練習に参加しているし、凪人も寮生活を送っている。
「刀条と桐林、海原、赤木はこの間隔で配置したコーンを倒す事なく、もっと言えばぶつけないように調整しながらのドリブルだ。石島と種田はヘディングの精度を上げる。まっすぐ相手にボールを返すんだ」
『はい!』
凪人は基礎の基礎から閃電イレブンに技術を仕込んでいた。彼らは別段技術的に下手という訳ではないが、焦らず初心に返って一から鍛え直すという手段を取ったのだ。今の彼らに必殺技を教えようにも凪人の指揮と合わなければ意味がない。
ともあれ、遠回りに思えて、閃電イレブンの実力を向上させるには最も効率の良い練習内容だった。
「どああああっ!?」
そしてブランコみたいにぶら下がったタイヤを止めようとしてぶっ飛ばされる堂本。キーパーとしての練習は円堂を基準に考える凪人は当然、このタイヤ特訓を堂本にやらせていた。
「ほらどうした?頑張れ堂本!ゴッドハンドを覚えるんだろ!?円堂みたいになるんだろ!?いやむしろ円堂を超えろ!!利根川東泉をぶっ倒すぞ!!」
「ハードル上げたよ……」
サトルの呆れが混じった声が閃電スタジアム内にて発せられるものの、閃電イレブンは凪人による練習メニューに手応えを確かに感じていた。たった一週間ぽっちだが、それでも格段に強くなっている実感が沸いていた。
しかし凪人はそうは考えていなかった。
(……王帝月ノ宮との練習試合まであと一ヶ月か。その後の事も考えると、このペースで次のフットボールフロンティアに間に合うか……結構ギリギリだな。今の閃電には更に勢いを付ける起爆剤が必要だな。王帝月ノ宮がそれを果たしてくれれば良いんだが)
元々が全国でも最低レベルに弱いチームだ。閃電イレブンが力の伸びを感じていてもやはり真に強いチームの前では歯が立たないのだ。ただ練習や特訓をこなすだけでは駄目だ。やはり練習試合で勝つ事によって実戦経験と勝利を知る必要がある。
(出来れば田舎の島からあのチームが雷門に来る前に手を打ちたい。……強化委員の意見交換会で鬼道や修也に相談してみるか……)
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side凪人
閃電中学校学生寮。
この学校に通う生徒の約半数がここで生活している。運動部が盛んなこの学校において、1秒でも部活動の練習をしたいと考える生徒が多い事が理由だ。因みに二人一部屋という組み合わせだ。
食堂では誰が誰と一緒に食べようが自由だが……基本的に男は部活単位で集まって食事するのが一番多い光景だ。それ故にルームメイトなのに共に行動する事はほとんど無いなんてのもザラらしい。勿論俺も食事は基本的にはサッカー部員と食う。……女子は割と部活関係無く色んな組み合わせで集まるらしいが。
「……星宮は自宅通学だから、この寮で飯は食わねーんだっけ?」
「キャプテンはそうですね……でも偶に自宅通学の人も合宿とかで寮に泊まる事はありますから、お金払えば食べられますよ。年間費用で払ってる俺達よりも一回の費用は少しばかり高くなりますが」
律義に刀条は夕飯のカツカレーのカツを口に運びながら答えてくれる。その隣では赤木もカツカレーを食べている。俺の隣で堂本に桐林もだ。食堂でのメニューは全員同じなんだ。
因みに俺のルームメイトは一学年下の堂本だ。何でも堂本や刀条の学年は入寮者が奇数だった故に堂本だけ余っていたらしい。それもあって強化委員としての急な転入生である俺はその部屋に割り振られた。堂本自身の熱心な希望もあったらしいが。
まぁ俺としても強化委員である以上はサッカー部員の方が良いし、来年のフットボールフロンティアが終われば雷門に戻るから別に同学年である必要は無い。卒業までこの学校にはいないからな。
「明日からは本格的に全員タイヤを使った特訓になる。かなりハードになるから気を引き締めていけよ。王帝月ノ宮との練習試合も控えているんだからな」
『はい(おう)!』
こいつらが自覚しているのかは知らないが、俺の特訓メニューをこなしたこいつらは確実にレベルアップはしている。今なら竜宮中と再戦しても充分勝てる見込みはある。確実とは言えないがな。
だからこそ、圧倒的格上のチームと真っ先にぶつかって善戦させる事で強くなった事を実感させる。勝ち負けはそれからだ。勿論勝ちたいとは思うがそれ程甘い相手ではない。
野坂悠馬
確か、このエイリア学園の襲撃の無い世界線である『アレスの天秤』の主人公の一人にあたる男。それが王帝月ノ宮中のキャプテンだ。彼の事は良く知らないが、奴が主人公の一人である以上、王帝月ノ宮も弱いはずがない。転生前に見た予告PVでも強者感が滲み出ていたし。……雷門に来る田舎チームの奴は弱いの丸分かりだったが。
だが、今回の練習試合はこいつらにあらゆる観点での経験を積ませる事が俺の目的だ。王帝月ノ宮と試合をして勝つ必要があるのはあくまでフットボールフロンティアでだ。
……だがアレスの天秤教育システムか。まさかサブタイトルになってる『アレスの天秤』が実際の物質ではなく、コンピュータシステムだったとはな。てっきり俺はエイリア石か何かが別の用途で悪用されたものだとばかり考えていたんだが。
……野坂って本当に主人公か?ラスボス感半端無い……事もないな。
世宇子しかり、ダークエンペラーズしかりドラゴンリンクしかり、フェーダしかり、イクサルフリートしかり。本命と思われた奴らを倒すか、追い詰めるかしてからそれを押し退けるかのように出て来るのがイナズマイレブンのラスボスだ。例外はリトルギガントくらいだ。
そう考えると野坂と王帝月ノ宮って、聖堂山みたいにドラゴンリンク的な本命のラスボスに押し退けられそうな気がするなぁ……。
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side三人称
それから凪人が強化委員として閃電イレブンの特訓内容を一新してから彼らの成長速度は並のものではなく、実力はメキメキと上がり、その猛練習によって団結力もまた上がっていった。
「うおおおおっ!!」
コーナーを狙った鋭いシュートに堂本が食らいつく。そしてその両手でボールを掴み、ゴールラインの前で転げ回る。
「ハァッ…!ハァッ……!!」
「ナイスセーブだ堂本!次!星宮がシュートを撃て!」
「う、うん!」
凪人は三週間を使って閃電イレブンの個人技や基礎的な能力、体力の向上をメインに彼らを鍛えていた。王帝月ノ宮との練習試合まであと一週間だが、凪人の予想以上に閃電イレブンの潜在能力はすさまじかった。
(まだ勝てるとまでの実力ではないが……予想よりもずっと良い。これなら……)
凪人は特訓プランを少し軌道修正し、仲間達に伝える。
「皆!これからの一週間は連携の見直しと強化。そしてお前達の必殺技開発に使う!!」
『!』
「ひ、必殺技……!?」
必殺技。昨今のサッカー界ではもはや常識と言って良い程の超重要要素。ただ基礎スペックが高くなっても必殺技という高火力の要素がなければ試合には勝てない。
そしてそれは同時にサッカープレイヤーにとってのある種のロマンでもある。
「俺達……もう必殺技を使えるレベルにまでなってるって事……?」
「勿論俺の知る技をいくつか教えるつもりもあるが、やっぱりお前達自身の必殺技を作る!これが一番良い。まずはこれから教える基礎的な必殺技をマスターしつつ、自分だけの技の名前とそこから来るイメージを作るんだ!出来次第、俺に相談してくれ!具体的な特訓方法を一緒に考える!出来ない場合も相談して欲しいが、俺以外にもチームの仲間の意見を仰ぐのも一つの手だ!!」
凪人から必殺技を覚える為に必要な事を聞き、士気を高めていく閃電イレブン。
「それから言っておくが、王帝月ノ宮戦は勝つつもりでいくが、
俺達は絶対にフットボールフロンティアで優勝する!!日本一になるんだぁーーー!!!」
『おおっ!!』
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そして瞬く間に更に一週間が過ぎて王帝月ノ宮との練習試合の日がやって来た。送迎バスから降りて王帝月ノ宮イレブンは閃電スタジアムにその足を運ぶ。
「あ、あいつらが王帝月ノ宮イレブンか……」
「そしてそれを率いるのが『戦術の皇帝』野坂悠馬」
それからキャプテンであるサトルを中心に野坂達に挨拶しに行く。
「よろしくね!僕は閃電中サッカー部キャプテン、星宮サトル!!」
「……ああ。よろしく。王帝月ノ宮の野坂悠馬だ」
サトルの出した手に応えて握手を交わす野坂。しかしその目はサトルを見ておらず、後ろに立つ凪人を見ていた。
「……」
そして観客席には次第に人が集まって来る。運動部が盛んな閃電中は弱小チームであっても校内からの観戦生徒はやって来るのだ。
「今日こそ勝てよ弱小サッカー部!!」
「強化委員!サッカー部を強くする為に来たんなら今回は勝てるんだろうなァ!?」
……その大半は野次であるが。そしてこのスタジアムには他校からの観戦客もそれなりにやって来てはいた。
「ここが閃電中か。聞いた事も無い弱小校というのは本当みたいだな」
「ああ……だが強化委員として派遣されたのは斎村だ。あいつの指導力と指揮能力の恐ろしさは同じチームにいた俺達が一番良く知っている」
佐久間次郎と風丸一郎太。帝国学園の現キャプテンと強化委員として派遣されて元雷門イレブンだ。帝国学園からはこの二人が敵情視察と凪人の指導の成果の確認を兼ねて観戦に来ていた。
「……強化委員の派遣先として最初に練習試合をするのが閃電だ。帝国も来年度、フットボールフロンティア前には鬼道が派遣された星章学園と練習試合をするつもりだからな」
「ああ……まさかたった一ヶ月でこうなるとはな。申し込んだのは王帝月ノ宮だが、斎村の奴も良く了承したな」
「そういう奴なのさ。それに負けたとしても閃電の成長には良い刺激になると考えたんだろう。どんな物でも糧にしてしまう発想まで持っているからな、斎村は」
そしてまた別の席でも強化委員とそこのキャプテンの会話はあった。
「この試合は恐らく王帝月ノ宮の勝ちだろうが……閃電を良く見ておけ水神矢。斎村はただ負けるだけでは終わらん。絶対に閃電に一矢報いらせる。奴は俺が最も警戒する男なのだからな」
「は、はい…!!」
「ま、一ヶ月で鍛えた弱小の閃電がどれだけやれるのか見物じゃん?みたいな?」
「……どうやって王帝月ノ宮と戦うのか、どれだけ強くなったか……見せて貰おうか。凪人」
そして肝心の閃電イレブンは凪人と、マネージャーの時枝、そして凪人に要請を受けて監督に就任した会田力がベンチに座っている。
「ありがとうございます。会田監督。監督を引き受けて下さって」
「良いんだよ斎村君。日本を世界に挑戦させるというのなら、儂らとてイナズマイレブンとして協力させて貰うさ。稲妻KFCの監督は商店街のサリーさんに代役を引き受けて貰えたしね」
「まこの母さんでしたっけ……。今度菓子折りでも持ってお礼に……いや、今はそうじゃないか」
そしてサトルや堂本達閃電イレブンに向き直る。
「じゃあ皆!俺は本当にヤバいと判断しない限りこの試合には出ない!お前達が特訓の成果を出し切って戦うんだ!!」
『はい!!』
「強化委員とか雷門イレブンとか……俺の面子なんて気にするな!!お前達には悪いが、このスタジアムに来てる観客は誰も期待なんかしちゃいない!!弱小のお前らが一ヶ月でどの程度強くなってんのか知る為に来ただけだ!!今更恥を掻く事なんて恐れるな!!思いっきりやって来い!!そしてサッカーを楽しんで来い!!」
『はい!!』
凪人からの激励を受けて閃電イレブンはフィールドを駆け出してそれぞれのポジションに付く。先程挨拶と握手を終えた王帝月ノ宮イレブンもまた同様にポジションに付く。
(野坂悠馬……お前のサッカー、見せて貰うぜ!)
凪人は野坂を見て彼がどんなサッカーをするのかを楽しみにしながらベンチに座る。対して野坂もまた、凪人をチラ見する。
(斎村凪人……やはり最初からは出て来ないか。まずは閃電を徹底的に叩き潰して、彼が出ざるを得ない状況にして引き摺り出す必要があるな)
そして主審による運命のコイントスが行われた。
具体的に強化委員として派遣された時期が分からないので一応まだバルセロナ・オーブに負けた直後……つまり円堂達が中学二年の二学期辺りの時期という事にしてます。これでも派遣するには大分遅い気がしますけどね。
アニメ見る限り円堂達が三年になってから派遣されたっぽい描写がされてますが、フットボールフロンティアが五、六月辺りなのを考えると四月からの一、二ヶ月では強くするのに期間が短か過ぎて世界に挑戦出来るレベルになるのは無理があるし、それならそれまで何してたって話になるので。
取り敢えず観戦客として灰崎がいないのはそういう理由です。まだ小学生だから。