side三人称
閃電イレブンは凪人と会田が考え、決定した通りにフォーメーションを組む。それは以下の通りだ。
FW 桐林 刀条
MF 海原 星宮 逢崎 赤木
DF 城之内 石島 種田 藤咲
GK 堂本
「……フォーメーションの内訳がこれまでと違いますね。2番と5番は以前までサイドバックだったのに、今回はセンターバック。そして3番と4番は逆ですか…」
「恐らく連携や技術に問題は無くても位置取りと個人の能力が噛み合っていなかったのもあれ程までに弱かった原因の一つなんだろう。斎村はそれを修正したんだ。立ち位置が変わっていないのは8番とFW陣だけだ」
星章キャプテンの水神矢と強化委員の鬼道は閃電のフォーメーションについてそう分析する。他校から来た面子は全員前回の……凪人が派遣される前の閃電の練習試合をデータと映像で確認しており、その圧倒的なまでの弱さに驚愕した程だ。
そして王帝月ノ宮ボールでキックオフ。まずは野坂が小手調べも兼ねてドリブルで駆け上がっていく。
「さて……まずはこの一ヶ月の伸びを見せて貰おうか」
「うおおおおっ!!」
ドリブルする野坂に対して早速スライディングを仕掛ける逢崎。それをジャンプして躱す野坂だが、逢崎のスライディングを見て僅かに目が動く。
「……」
そして種田と藤咲が間髪入れずに連携ディフェンスを仕掛け、野坂の行く手を阻む。ディフェンスの位置取りは完璧。野坂と言えど突破するには余計な消耗を強いられる。
「……成る程」
「「でやああっ!」」
藤咲が粘着質でしつこい迫り方のディフェンスを仕掛け続け、野坂は巧みなボールコントロールを駆使してそれを振り払う。そしてその瞬間に隙が生まれた。その隙を突いて種田が思いっきりボールを左前方に蹴っ飛ばし、キャプテンであるサトルにボールが渡った。
『おおっ!』
思わず閃電中の生徒達は歓声を上げる。木戸川清修の武方勝と星章の水神矢は目を見開き、驚愕の視線を向ける。凪人の事を良く知る風丸、豪炎寺、鬼道、佐久間の四人は表情を変えず観察を続行する。
(確かに今の三人のディフェンスだけ見ても格段にレベルアップしているのが分かる。本当に、一ヶ月前にあんなみっともない負け方をしたチームと同じチームなのかと疑いたくなるレベルだ。来年のフットボールフロンティアが始まる頃には全国でもトップレベルに君臨しているだろう……)
今の攻防だけで野坂は閃電イレブンをそう評価する。そして閃電はサトルの掛け声で早速攻撃に移る。
「よぉーし、今度は僕らの番だ!!」
『おおー!』
素早いドリブルとパス回しでガンガン攻め上がる閃電。その様子を見て観客席にいる強化委員達は顔を綻ばせる。閃電イレブンの実力は過去の試合やデータで見たものとは桁違いに上がっているのだ。
「流石は斎村だ……奴らの成長速度はかなりのものだ」
「ですが……あのアレスの天秤教育システムを受けている王帝月ノ宮相手にどこまでやれるか……」
そしてサトルは敵のMFを紙一重で躱し、ボールを前線で走る刀条に繋いだ。しかしその連携に一番驚いているのは観客でも試合相手の王帝月ノ宮でもない。
(上手く行ってる……!)
(こんなに気持ち良くパスが来たのは初めてだ……!!)
(あれだけ負け続けていた俺達が……王帝月ノ宮相手に……戦えている……!?)
(斎村さんが……俺達を導いてくれたんだ!!)
何よりこの状況に最も驚いているのは他ならぬ閃電イレブンだったのだ。どれだけ練習しても連携は崩され、真正面から全てを打ち破られて来た。だが今は違う。強豪相手に対等に戦えている。その事実は閃電イレブンを鼓舞するのには充分だった。
(これなら……きっと…!!)
「桐林先輩!」
「おう!」
そして刀条は逆サイドでフリーの桐林へと繋ぎ、桐林と王帝月ノ宮のキーパーである西蔭の一騎討ちだ。
「決めてやる…!これが閃電中の第一歩だ!!」
ボールを上空に蹴り上げ、桐林も跳び上がる。そして両足を同時にボールに叩き込むとボールが発火してゴールへ向かい、飛んで行く。
「メテオアタック!!」
「!必殺技までもう使えるようになったのか!!」
観客席の豪炎寺は思わず声を上げる。閃電の成長速度が速いとはいえ、必殺技を使えるレベルにまで至っているとは思わなかったのだ。
『いっけええええええ!!!』
閃電イレブン全員の叫びが木霊する。しかし現実はそう都合良くはいかないのだ。西蔭は右手一本を前に出すとメテオアタックを難なくキャッチした。必殺技を使わずに。
『!?』
「……思ったよりはやるようになっていたが、所詮この程度か」
閃電イレブンの成長の全てを嘲笑うかのような死んだような笑みを浮かべて西蔭はその手に持つボールを前方の野坂に投げ渡す。
「野坂さん、もう良いのでは?閃電の成長データは充分取れたでしょうし、次の段階に移行しては?」
「……そうだね。一番欲しいのは斎村凪人、彼のデータだし……引き摺り出す為にもまずは……徹底的に叩く」
「!?どういう事だ!!」
赤木がその会話の詳細を尋ねるも野坂は無視して堂本の守るゴールを見据え、その後にベンチにいる凪人を見る。そこからだった。地獄が始まったのは。
野坂を中心に王帝月ノ宮イレブンはFWとMFが前へ走り出す。閃電のMF陣は瞬く間に抜かれ、彼らを追う。
「アレスの力……特別に見せてあげるよ」
そう言った瞬間、野坂は真横を走るサトルに向かってボールを蹴り、ぶつけて吹っ飛ばした。
『!?』
会場全体が驚愕する。それからも王帝月ノ宮は進むと同時にボールを蹴って閃電の選手達をファウルスレスレのラフプレーで傷付けていく。まるでかつての雷門と帝国の練習試合……いや、それよりも酷かった。
「お、王帝月ノ宮の連中……わざと痛め付けてやがる……!!」
「ひ、酷え……」
「弱小相手にここまでやるかよ……!?」
「涼しい顔してあんな……」
弱く、勝てないサッカー部を散々馬鹿にしていた一般生徒ですら息を呑み、顔を背ける程の残虐ファイト。そして一般生徒の一人がポツリと呟いた。
「あいつら………本当に感情あるのか……?」
「き、鬼道さん…これは……」
「……奴らの目的は斎村なんだろう。奴を引っ張り出す為に脱落者を出す必要がある。……俺にも覚えのあるやり方だ」
そして王帝月ノ宮のMFである草加は石島と種田をタックルで続けて吹っ飛ばして野坂にパス。
「石島先輩!種田先輩!!」
「仲間の心配をする余裕は無いよ?」
そして野坂の容赦無いシュートが穿たれる。その鋭いシュートのスピードと威力は堂本の許容量を完全に超えていた。反射的にその手に触れる事は出来ても1秒も持たずに弾かれ、鳩尾にシュートはヒットする。
「っ!?う、がああああっ!?」
鳩尾に減り込みながら堂本諸共ゴールネットに突き刺さる。
0-1
スタジアム全体が呆然とする。進化を遂げた閃電イレブンの力は通用しない。王帝月ノ宮は手を抜いていたのだ。野坂達が本格的に動き出す前にその事に気付いていたのは雷門の強化委員達と帝国の佐久間だけだった。
(……不味いな。王帝月ノ宮の実力がここまで予想よりも高いとはな)
凪人もまた、王帝月ノ宮の実力に舌を巻くと同時に冷や汗を流す。凪人とて勝てるとは思っていなかったが、そう簡単に圧倒されるとも思っていなかったのだ。凪人から見ても閃電イレブンの実力の伸びは異常だ。部員全員が凄まじいまでの潜在能力を秘めていると言って良いだろう。
しかし今のシュートを堂本が止められないのなら、このままでは大差で負けるとも考える。
(堂本だけが……未だに必殺技を修得していない……!熱血パンチすらマスター出来なかった)
そう、堂本衛一郎には必殺技が無い。キーパー用の必殺技が無ければ必殺シュートを止める事など出来ないし、実力差から来るタイプの通常のシュートすら止められないのだ。
凪人から見て実際には堂本よりもキャプテンであるサトルの方が遥かにキーパーの素質も才能も伸びも潜在能力さえもあった。「立向居的な存在かこいつ?」とすら思った。
それでもサトルをキーパーに起用せず、堂本のポジション転向をさせなかったのは堂本にはフィールドプレイヤーとしての適正が他のメンバーより低かったからだ。DFとしての素養ならばそれなりにあったのだが、既に他の四人で足りている上に劣っている。それならば源田にも勝るとも劣らないキーパーとしての才能を伸ばした方が良いと判断したのだ。いや、正確にはもう一つ……堂本に別の可能性を感じてはいるのだが……。
(……それが裏目に出たか。星宮をキーパーに転向させていれば今頃、ゴッドハンドクラスの強力な必殺技の一つや二つ編み出せたんだろうが……いや、今更言っても仕方ないし、星宮と堂本のポジションを変えさせる気も無い。それに……、
こんなラフプレーで俺に出て来させようとしてくるのは想定内だ)
そして閃電ボールで試合再開。刀条と桐林のツートップで駆け上がっていく。
王帝月ノ宮はやはり過激なラフプレーで閃電を潰しにかかる。脱落者を出せば凪人は試合に出ざるを得ない。そうして凪人の実力を測り、データを得る事が目的なのだ。
それからも一歩間違えれば足に当たって、怪我をさせかねないスライディングをFWが仕掛ける。しかし刀条は両脚でボールを挟み、跳び上がって回避。
「行くよ皆!必殺タクティクス、フライングルートパス!!」
サトルの合図と共に刀条に続いて何人かが跳び上がる。そしてその中の一人に刀条がパスを出し、受け取って者はまた即座に跳び上がっている者にパスを出す。それを延々と繰り返しながら着実に上がっている。
「何だこれは……?閃電のパスが繋がって良い感じになってるみたいな?」
「……そうか。閃電はパスに合わせてジャンプして受け取っているんじゃない。ジャンプした選手に合わせてパスを出しているんだ。そうすれば常に即座にパスを出せる上、ディフェンスによるラフプレーを喰らわずに済む。アレならボールを奪うのもパスカットするかパス相手を割り出して前に割り込むかするしかない。ラフプレーを抑えられる。凪人は王帝月ノ宮がこう来る事が分かっていたんだ」
そして王帝月ノ宮は豪炎寺の予測通りに途中でパスカットをしてボールを奪う。少なくともディフェンス面ではラフプレーで相手を傷付ける事が出来なくなった。
(なら……オフェンスついでに蹴散らせば良い!)
そうしてボールをぶつけようとすればその一人に対して二人が寄り添い、三人がかりで足でボールを受け止める。
「!」
「よし!もう一度フライングルートパスで前線に繋ぐぞ!!」
閃電は相手がオフェンスの際にラフプレーをしてきた時の為の対策を凪人が練り、その方法を叩き込まれていた。ディフェンスのラフプレーは必殺タクティクスのフライングルートパスで封じれば良い。
「前半はこれで凌ぎ切るつもりだろう。しかしあれだけの動きを続ければ体力がいつまで持つか……」
「斎村は閃電イレブンに強い相手との試合経験を積ませたいんだろうからな…。だがこれではどっち道それは無理だぞ。このままあのタクティクスでパスを繋ぎ続けても体力を浪費するだけで実戦経験を得られない。かと言ってラフプレーを受け続けても経験にはならない」
佐久間と風丸を閃電の連携に舌を巻くと同時にこの状況の打開に凪人がどう動くのかに着目していた。
そしてまた野坂によってパスがカットされた。そしてボールを踏み付けると同時に王帝月ノ宮のベンチを見る。そこでは監督の男が如何にも不機嫌そうな顔で自分達を睨んでいた。
彼からすれば閃電は凡人以下。なのにアレスクラスターである自分達が蹴散らす事すら出来ない現状に苛立っているのだろう。
(……凡人以下はお前だ)
野坂はそう思っても口には出さない。ただゴールを見据えて思い切りボールを蹴っ飛ばした。
その瞬間、凄まじい風圧が生まれ、閃電イレブンを纏めて吹き飛ばした。
『!?うわあああああああああっ!!?』
「!皆……うがあああっ!?」
そしてボールは堂本に直撃。彼諸共ゴールにぶち込まれた。
0-2
「み、皆……!監督!斎村さん!」
時枝は閃電イレブン全員が倒れた現状を見て血相を変えて会田と凪人に訴える。試合を中断して欲しい…と。このままでは彼らは取り返しのつかない怪我をしてしまうかもしれない。
「……まだ駄目だ」
「そんな!どうして……」
「あいつらの目を見ろ」
試合中断を拒否する凪人に言われ、時枝は閃電イレブンの目を見た瞬間、息を呑んだ。
ギラギラとしたのその瞳には情熱が宿り、王帝月ノ宮イレブンを見て雪辱に燃え盛っていた。
「……あいつらは誰一人として勝つ事を諦めちゃいねぇ。俺が勝てないと断言したにも関わらず、最初から全員勝つつもりで試合に臨んでいた。だからあいつらが諦めない以上、何があっても止めちゃいけねえんだよ」
そう言う凪人の手は拳を握り締め、王帝月ノ宮への怒りで震えていた。
一応GOのフライングルートパスとは違いがあります。一度に複数の人物が跳び上がる為、相手はパス相手を予測しなければならない上、誰に渡すかはボールを保持する者がその場で決める為、パスカットもしづらい。しかし場合によっては自分達が攻めあぐねる事態になります。GOの木戸川みたいに相手が三人一組のフォーメーションを取ってる訳ではないので。