あじぽんぽん短編集   作:あじぽんぽん

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ちまっこいお姉ちゃんと、そのお姉ちゃん愛しちゃってる妹サクちゃんと、その姉妹を罠にはめようと企み返り討ちにあるポンコツお狐様の物語。



お姉ちゃんとサクちゃんとお狐さま

 初めまして、私はお姉ちゃんです。

 本日は私の妹の話をしたいと思います。

 

 私には年の離れた女子高生の妹が一人。

 彼女の名前はサクヤ……小さい頃からサクちゃんと呼んでいます。

 

 スラリとした背の高い黒髪の女の子。

 

 高校では生徒会長をしているらしく、文武両道、才色兼備という言葉がよく似合う、性格と人間性が出来た妹。おおよそにおいて完璧。

 

 乙女ゲーならヒロインちゃんの良き先輩か良きライバルキャラになりそう。

 

 そんな彼女は当然のことながら男女問わずにモテモテ。

 たまに渡される恋文の束を紙バックにいれて持ち帰って来るのですが、私にその姿を見られると非常に焦った表情を見せます。

 

 姉に対して何故そんな顔をするのかは今なら理解できますが、その時の私は女としてあまりパッとしないお姉ちゃんを気遣ってくれてるのかな? 程度にしか思いませんでした。

 

 ふふ、本当に良くできた妹……あのねサクちゃん、お姉ちゃんね、そんな貴女の細い首に衝動的に手を回しそうになるのよ?

 

 嫉妬心なの、お姉ちゃんは同じ女として悔しいのよっ!?

 

 まあそれは冗談で、実は一度好奇心で試したことがあるのですが、サクちゃんに首に果敢に飛びつき腕を回すと……ひぇ、床に足が着きませんよ!?

 

 違います足が短いのではありません、違います私の背が低いだけです。

 

 そしてサクちゃん。突然の姉の奇行に驚いた顔をしたものの、直ぐに女泣かせの雅な笑顔を浮かべて華麗に社交ダンスを始めたではありませんか!?

 

 しゃる うぃ だんす?

 

 華麗に回るサクちゃんに華麗に引きずられ目を回すお姉ちゃん。

 数分後に乙女の危機に陥りそうになったので下ろしてもらいました。

 サクちゃんの非常に残念そうな顔。

 そして私はトイレのカエルさんで華麗にゲコゲコ。 

 製造工場(りょうしん)は同じはずなのに新型の性能が良すぎますね。

 

 まあ、それもそのはず、実は私と彼女には直接の血の繋がりは無いのです。

 

 私達の関係は姉妹ではなくは従妹同士。

 

 サクちゃんの実のご両親は彼女が幼い頃に事故で亡くなっています。

 お父さんは彼女の父親とは兄弟の間柄であり、他に親族もなく、それでサクちゃんを引き取り育てることを決意したのだとか。

 

 その時にうちのお母さんがどんなことを考えたのか不明ですが、恐らくお花畑な彼女のことです、二つ返事でオッケーを出したのではないでしょうか。

 

 その当時……私はともかくサクちゃんはハイハイ歩きの赤ん坊。

 突然現れた赤ん坊に何の疑問も抱かず、ウヒャアッ、アヒャアッと喜んでいたアホな私を殴ってやりたい。

 

 幼い頃の写真を見ると、私よりサクちゃん(赤ん坊)のほうが知性に満ちた顔をしています。

 

 お間抜けなことに、うっかりとお母さんが口を滑らすまで血のつながった実の姉妹だと思っていました。

 

『うっかりさんでごめんなさい』お母さん仁王立ちで本気泣き。

 

 大慌てで慰める私達姉妹。

 うっかりを責めるどころの話ではありません。

 今思えばあれは、うっかりお母さんの天然な計算だったのでしょうか?

 

 そのすぐ後に家のお墓に家族四人でお参りに行ってきました。

 

 私とサクちゃん、しばらくは気まずい雰囲気。

 特にサクちゃんは世間一般的には反抗期と呼ばれる時期でしたので、人よりも聡い彼女は考え思い悩んだのではないでしょうか……そう、色々なことを。

 

 しかし元々仲の良い姉妹だったので直ぐいつも通りに。

 

 そしてその事件の後からでしょうか、サクちゃんが私の背後からよく抱きついてくるようになったのは。

 

 お間抜けな私は家族として絆を確かめる行為なのかとのんきに考えてました。

 サクちゃんはお姉ちゃんの魅惑のコンパクトボディの虜。

 お姉ちゃんは日に日に育っていく彼女の魅惑な乳の感触に悔し涙です。

 

 

 そんな私達、事の始まりは春もうららな日曜日の朝でした。

 

 いい年なのに未だに熱々な我が家の幸せ夫婦は日帰り旅行で朝からいません。

 珍しくバイトのシフトも入ってなく、暇を持て余しダイニングで観ているのは何年続いてるのか分からない朝アニメ。

 

 複数人で一人をボコボコって子供の教育的にどうなんだろう?

 

 難癖に近いことを考えながら湯呑片手にお漬物ポリポリ、お尻をポリポリ。

 そうして過ごしていると、家の中でもきりっと乱れ一つないサクちゃんがダイニングにやって来ました。

 

「姉さん、お話があるのですが今よろしいですか?」

「うん、なにかなサクちゃん?」

 

 家族に対しても敬語に近い喋り方なのに違和感なく、むしろ格好よさまで感じられるのは彼女のキャラクター。

 

 サクちゃんフローリングの床に流れるような所作で正座。

 不思議に思う私、椅子があるのになんだろう。

 

 彼女は背筋を伸ばした姿勢で意味不明なことを言いました。

 

「私の股間に男性的なオプション装備が付きました」

 

 本当に真面目な顔で言いやがりました。

 

 サクちゃんとは十七年近くの付き合いで。

 完璧な彼女のたまにでる突拍子のないところはどうなのかな思うのです。

 

「あの……ごめんねサクちゃん、それは今の高校生の間で流行のジョーク?」

「ああ、すいません姉さん。突然だと意味がわかりませんよね? 説明をしますか? それとも実物を見せますか?」

「あ、うん、好きなほうでお願いします」

「では実物から見せます。それから説明しますね」

 

 サクちゃん真面目な顔で変なことを言うのはやめて欲しい。

 本気か冗談か分かりにくいクールな顔をしているからね。

 

 彼女は立ち上がり着けていたスカートを床に落としました。

 下着は装着していない潔さを感じさせるノーガード。

 

 サクちゃんの股間にそびえるは男性的なオプション装備。

 恥かしながらお姉ちゃん、お父さん以外のモノを見るのは初めての体験。

 

 後からサクちゃんが語るに、その時のお姉ちゃんの顔はどこぞの殺し屋みたいに苦みばしっていたとか。

 

 サクちゃん……アナタさり気なく失礼なことを言いますね?

 

「サクちゃん説明」

「あ、はい」

 

 私はサクちゃんの足元を指さすと短く命じました。

 長い付き合い、彼女にはそれだけで通じます。

 サクちゃんは床に正座するとスカートを拾って股間隠し。

 そういう小さな気遣いがアナタのモテる秘訣?

 

 でもね、現在進行形でお姉ちゃんにも気を使って欲しかった。

 

「近所のお稲荷神社で神様にお願いしたら付けてもらえました」

「………………」

 

 シンプルです、とてもシンプルで分かりやすい説明。

 しかし全然足りません。端折り過ぎです。

 

「サクちゃん、それで何故、それを付けてもらおうと思ったのかしら?」

「昔からどうしても男になりたかったからです」

「そ、そんな願望あったんだ……え、ええっと神様て何者?」

「詳しく聞いていません。私もよく分かりませんが神社に住まうお狐様みたいな感じですかね?」

「何で疑問系!? 怪しいでしょうっ! そこは詳しく聞こうよそこは!?」

 

 興奮した私は椅子から立ち上がるとキッチンテーブルを平手でペチペチ。

 微妙に締まりません。

 

「あと……ソレ(・・)はどこから拾ってきたの?」

コレ(・・)は神様が持ってきたので、すいませんが原産地や生産者は不明です。たぶん大きさから国内産だと思うのですが」

「え、そうなの?」

「はい、国内の男性の平均サイズというのは――」

「待ちなさい、変な事を言いださないでいいから待ちなさい」

 

 ボディはコンパクトでも心は純な乙女のお姉ちゃん。

 そのような恥ずかしい情報は聞きたくありません。

 

 確か平均――センチ?

 

「それで取り付け費用はお幾ら万円だったのかしら?」

「費用は油揚げです。スーパー特売の二枚入りの油揚げ三袋ですみました」

「あら、リーズナブルなお値段ね? お狐様だから油揚げ?」

「多分そうだと思います。まあ、だいぶ値切りました」

「あら、流石はサクちゃんね」

「ふふ、姉さんそれほどでもありませんよ」

「「あははははははははははははははは」」

 

 二人して同時に笑う。

 我が家の家訓は取りあえず笑うです。

 

 駄目だ全く役に立たない……頭を抱えました。

 

「あの……姉さん大丈夫ですか?」

 

 本気で心配してくれるサクちゃん。

 本当に……いい妹。

 でもたまにやらかすのでトントン。

 

「といいますか神様ってなによ、お狐様って、どういうファンタジー?」

「そう言われましても現実ですので」

 

 息を吸います。

 私はサクちゃんの股間のスカートをまくりあげました。

 

「ね、姉さん何を!?」

「あ、ごめんね。少しだけ触って本物か確認してもいいかな?」

「そ、そうでしたか……ええ、姉さんならいくらでも構いませんよ」

 

 突然の行為に驚き、そして何故か落胆するサクちゃん。

 

 彼女の男性的オプションをそっとつかみます。

 何かぐにゃぐにゃ……あと少し熱い。

 これは本当に本物なのかな? 

 よく考えてたら、お姉ちゃんに本物判定できる経験はないのです。

 

 どうした物かと遊ぶように触れていると硬く大きく……ひぇ!?

 慌てて手を放す……ええ、ええ、本物デシタネ!? びっくり!?

 

 触った手をウェットテッシュで拭こうかと迷う。

 そんなことするとサクちゃん傷つくかもしれないから我慢。

 

 そのサクちゃんは床に手をつきハァハァと息を荒くしています。

 あ、大丈夫かな? 流石に痛かったのかな?

 でも頬を染め嬉しそうにしている、何だか大丈夫そう。

 

「うーん、サクちゃんソレ返してきなさい!?」

「ええ、そんな!?」

 

 玄関をびしっと指さし返却してくるように命じました。

 普段は聞き分けの良いのに珍しく不満の声を上げるサクちゃん。

 気分的には拾ってきた子犬を元の場所に返してくるように命じる母親です。

 ええ、ええ、拾ってきたのはナニですが。

 

「ま、待ってください!? 私が男になりたかったのには理由があるのです!!」

「あ、そういえば言ってたね? サクちゃんが男になりたい理由ってなぁに?」

「わ、私は……姉さんの……恋人に、いえ、姉さんと結婚したいのです!!」

「――――――――!?」

 

 はい? 意識が一瞬飛びました。

 な、何言ってるのかしらこの子?

 

「本気で姉さんを愛しているのです。小さい頃からそういう気持ちがありました。血が繋がってるのに、女同士なのにおかしいと必死で抑えてきました!!」

「え、え、ええ!?」

「でも、私と姉さんに血の繋がりはないと分かって、私のこの気持ちは決して間違ったものではないと気づいてから、もう止めようがなかったのです!!」

「い……いやいや、サクちゃん色々と間違ってるから!?」

 

 血は繋がってなくても同性愛は不味いでしょう!? 

 別に同性愛者に偏見があるわけではないのよ。

 

 サクちゃんは嫌いじゃないし好きだけど、性的対象として見られていることに関しては恐怖と嫌悪しか感じないっ!?

 

「今の私には男性的なオプション装備……サクヤのチン、略してサクチンが付いています。姉さんとラブラブちゅちゅするのに何か問題はあるのですか!?」

 

 サクちゃん、サクチンてなに?

 

 お姉ちゃんこんな時になんだけど、真面目な顔して不真面目な造語作るのは思い出し笑いしちゃうから勘弁して欲しいかな?

 

 サクちゃんは綺麗な所作で、床に両膝を揃え手をついて下半身を丸出しにしたままで頭を深く下げました。

 

 いわゆる半裸土下座。

 

「姉さん真に申し訳ありませんが、このサクヤの一生のお願いです。どうか私を姉さんで男にさせてください。どうか、どうか、お願いいたします!!」

 

 

 ――本当にどうするよこれ?

 

 

『姉さん先っちょ先っちょだけでいいので!?』

 

 そう言って襲い掛かってきた我が妹のサクヤさん。

 その両手をつかみ四つに組んで家の中をうら若き乙女二人が力比べ。

 視線を下せば黒髪少女の男性的オプション略してサクチン様。

 やんちゃにぶんぶんとお元気になられていたのには大変な恐怖。

 

 先っちょだけとか今どき下ネタでも使われないと思ってました。

 実際に使われると笑うより絶望的な気分になれるんです。

 

 休憩なしの持久戦。

 つるりと体勢を崩したのはお姉ちゃん。

 好機と圧し掛かって来るサクちゃん。

 お姉ちゃん貞操の危機。

 必死で伸ばした指先が硬いナニかに当たる……ハッ! これはサクチン!?

 本能に従い強く握りしめ、燃え上がるよ闘志!

 ここよ、ここが私のつかめる唯一の勝機よ!!

 

 お姉ちゃん起死回生の――――!!

 

 

 ――それから十数秒後サクちゃんに勝利しました。

 

 黒髪の乙女は冷たいフローリングの床に半裸で横たわっています。

 目はうっすらと開いているが、焦点はどこにも合っておらず体は弛緩し虚脱状態。

 

 この状況だけみると事後……でも襲われたのはお姉ちゃん。

 

 そのまま見ていると酷く怠そうな様子で起き上がるサクちゃん。

 無駄に綺麗な所作で正座をすると流れるような土下座。

 

 ええ、ええ、本日二度目の半裸な土下座でした。

 

 ナニが悪いわけではないけど何とも言えない雰囲気。

 

「すいません姉さん、シャワーを浴びてきてもよろしいですか?」

「あ、うん、どうぞ、サクチンごめんね? ゆっくり洗ってきてね?」

 

 サクちゃんは頷きスカートを拾い股間に当てて前かがみ。

 失礼しますとお風呂場に向かいます。

 下半身丸出しで丸めた背中と白いお尻には、私には永遠に理解できそうにない哀愁が。

 

 私はウェットテッシュで手を拭きフローリングの床の掃除をした。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 私達二人は例のお稲荷神社に来ています。

 

 サクちゃんの股間に搭載されてしまったサクチンを取り外すため。

 私の手には油揚げの入った容器が二つ。

 サクちゃんの手にはお神酒替わりの使いかけの紙パック料理酒。

 神様への供え物です。

 

 油揚げは二種類。

 袋に入ったままの物と、醤油と鰹節で簡単に味付けした物。

 

 気に入ってもらえるといいのですが。

 神様にはサクちゃんのサクチンを取り外す手間の掛かることを頼むのですから、心象を少しでも良くできれば言うことなしです。

 

 お風呂上がりのサクちゃんにはそう説明。

 すると彼女は、うっとりとした表情でつぶやく。

 

『流石は私の姉さんですね。そういう家庭的で気のきくところが……ふふ』

 

 ふふ……て、もう面倒なので突っ込まないことにしました。

 

 

 寂れた神社の敷地へ。

 

 お稲荷神社は家から歩いて十分も掛からない場所にあります。

 人気のない場所に建っているので普段から人はそれほど来ないのでしょう。

 その結果、ますます寂れていく原因に。

 

 懐かしい……小さい頃はサクちゃんとここで遊びましたね。

 

 神社の敷地内に入るとサクちゃんは社に歩いていきます。

 お姉ちゃんも彼女の後ろに続きます

 大鈴と御賽銭箱をスルーして、その奥の扉に行くとトントンと軽く叩く。

 

「ごめんください、おこん様おられますか?」

 

 神様の名前おこん様……お狐様だから、おこん様?

 でもサクちゃん、ご近所様の声かけみたいなノリで神様って呼び出せるものなの?

 

『なんじゃ、だれじゃ儂を呼ぶのは?』

 

 社の奥から、鈴のような綺麗な声が聞こえ扉がガラリと開く。

 そこには巫女装束を着た中学生くらいの年頃の子がいました。

 気が強そうですが、色白で狐色の髪を持った可愛らしい女の子。

 ボブカットというよりオカッパといった髪型が和風なテイスト。

 

 彼女からは存在しているのにどことなくぼやた印象を受ける。

 なるほど……神様なのかは不明だけど、普通じゃないことだけはわかります。

 

 お狐様というから狐耳や尻尾を少しだけ期待していたのですが生えてはいません。

 しかし、神様らしき存在を目にしているのに何でこれほど冷静なのかな私?

 

『おうおう、サクではないか? どうした、どうした。まだヤッテないようじゃが早よう覚悟決めて()に一発決めてこんか、ケケケッ』

「はい、実は今日はその件で伺ったのです」

『うん? どうしたのじゃ?』

「一発決めるのに失敗しました。それで姉さんをここに連れてきました」

 

 ちょっ、な、なんて説明してるのよサクちゃん!

 慌てて不敬にならないように姿勢を正しおこん様に挨拶。

 

「は、初めまして私はサクヤの姉の……」

『ひ、ひぇぇぇぇぇ吾妻の巫女っっ!!』

「は、はい?」

 

 私を見るとおこん様は驚き怯えて震えだしました。

 ぴょこんっとおこん様の頭とお尻から狐耳と大きい尻尾が飛び出る。

 わぁ……もふもふ収納していたんですね?

 

 といいますか、吾妻ってうちのうっかりお母さんの旧姓だよね?

 

『すまぬ、すまぬのじゃ、ほんの出来心なのじゃ、許してくれぇ!!』

 

 おこん様ススッと板張りの上を流れるように動き。

 ぷるぷる、ストンと……。

 お見事すぎて教材にしたいくらい綺麗な土下座を決められました。

 

 私が見る本日三度目の土下座。

 

 

 おこん様から詳しい事情を伺うと、うちの母方の血筋は代々この土地の怪異を鎮めることを生業とする巫女の力を継ぐ者らしい。

 この吾妻の巫女達の恐ろしいところは本人達は全くの無意識で鎮魂や退魔を行ってしまうことらしく、私にもその力が受け継がれているのだとか?

 

 実感ないです、幽霊なんて見たことないですよ?

 

 おこん様も歴代の吾妻の巫女達、特にうちのお母さんには散々な目に合わされて持っていた神通力をだいぶ減らされたのだとか。

 ええ、ええ、なんかそれは分かる気が。

 あの人なら可愛い可愛いと、おこん様の頭をぽんぽん無意識に攻撃してそう。

 

 そんな話を社に上がって聞きながら、私とサクちゃんは持ってきたお供え物をおこん様に捧げました。

 半泣きになっていたおこん様ですが、捧げ物には目をパチクリさせて大喜び、油揚げは味付けした物もいたくお気に召したもよう。

 

 また持ってきますかと尋ねてみたら小躍りしそうなほど喜んでました。

 神様は供えられた物以外は食べることが出来ないそうで。

 この神社寂れてますし、お供えする人もまずいなさそう。

 料理酒でも美味い美味いと仰ってますから、ずいぶん久しぶりのようですね。

 

 まあ、それはそれとして……。

 

「それで、おこん様。出来心とは一体何のことですか?」

 

 おこん様は飲んでいた料理酒を霧のように吐き出しました。

 対面に座っていたサクちゃんはまともに被ってしまいます。

 

 しかし精神強度の高いサクちゃんは全く動じません。

 私は持っていたハンカチを彼女に渡しながら更に聞きました。

 サクちゃんは無表情で自分の顔をハンカチでごしごし。

 

「たいへん失礼ですが、おこん様には何か疚しいことがありますよね? お聞かせしてもらってもよろしいですか?」

 

 私はにっこりと微笑みを作った。

 精神強度の高いはずのサクちゃんがヒイッと悲鳴。

 おこん様はぷるぷる震えながら床に手をつき、また自然な感じで土下座をしそうになったので慌てて止めました。

 

 日に四度も土下座を……しかも神様のなんて見たくはありません。

 

 

 おこん様から話を聞いたところ。

 

 最近神社に頻繁に願掛けをしに来る者がいる。

 これが女なのに男になりたいという奇特な願いだったので、興味本位で呼びかけて詳しく聞いてみれば、何と懸想しているおなごは義理の姉で吾妻の巫女の娘。

 つまり、今代の吾妻の巫女ではないか!? 

 好機と思い呪いを掛けた御立派様を取り付けたぞ、ケケケッ。

 

 ということだそうです……なるほどなるほど。

 

 私がサクちゃんにヤられると呪いが解放され、おこん様には吾妻の巫女達に減らされた神通力が戻り長年の雪辱が晴らせるのだとか?

 

 神通力を奪うだけで命に関わるものではなく、サクちゃんの望みも叶えられるから騙してはいない。

 むしろ皆が等しく幸せになれるから良いことだらけのはずと、おこん様は仰っておりました。

 

 今代の吾妻の巫女……私の気持ちを考慮に入れなければそうかもしれませんね?

 

『いやいや、待て落ち着くのじゃ巫女よ。お主にだって良いことはあるぞっ!?』

「あ”? サクちゃんに一発ヤられるのが良いことですか?」

「ね、姉さん落ち着いて落ち着いてください! 握り拳はいけません、女性の……しかも姉さんの華奢な美しい指で握りはまずいです!!」

 

 おこん様の狐耳をつかんでいた私をサクちゃんが後ろから取り押さえます。でも神様のことより私の心配をしてくれるのはどうなんだろう?

 

『ま、待て、お主がサクと一発決めればサクは完全な男になれるのじゃぞ!』

「は……はいっ!?」

『そうすればお主は、え、えっと、なんじゃ……そう、いけめん、いけめんじゃ! いけめんとやらを労せずを手に入れることが出来るんじゃぞ!?』

 

 はぁ? いったい何言ってるのかしら?

 サクちゃんが完全な男に? よけい不味いじゃないのっ!!

 

 おこん様は私の手から逃げ出すとサクちゃんの体を平手でポン。

 サクちゃんは眩い光に包まれ、それが収まると一人の男の人が立っています。

 

「あ、あれ姉さん、私は一体?」

 

 ……すんごいイケメン。

 

 はっ!?

 

 あれ、サクちゃんは?

 

 ……え、なにこの凄い好みな純和風美形男子の御方!?

 

 姉さんって呼んでますけど私の知り合いに、こんな素敵な男子はいましたか? 

 え、ちょっと貴方様、不思議そうな顔で近づいてこないでいただけますか?

 美形男子に対する、元々低い私の精神防壁はもう零を切っているのでっ!?

 

 ひぃ、過呼吸になっちゃいますよ!!

 

「ど、ど、どういうことですかっ!?」

『ひぇぇ!?』

 

 私は美形男子から必死の思いで視線を外すと、おこん様に詰め寄ります。

 おこん様は私の剣幕にガタガタ震えながらも説明をしてくれました。

 

『こ、これが男になった状態のサクじゃよ。わ、儂の神通力で一時的に幻を見せておる。ど、どうじゃ凄い美形であろう? いけめんだぞ、いけめん?』

「た、確かにイケメン……男になったサクちゃん……イケメン」

『吾妻の巫女よ、よくよく考えてみるがよい? お主のような子ブタちゃんが人生においてこれほどの美形に出会い、惚れられる可能性がどれほどあるのかを?』

 

 ぷぎぃっ! 神様のくせに何て悪魔の誘惑を!!

 いやいやだめだめ、サクちゃんを元に戻さないとだめだよ、お姉ちゃん!

 お姉ちゃんしっかりしてよお姉ちゃんっ!?

 

「どうやら男になった私は姉さんの好みだったようですね、嬉しい限りです」

 

 サクちゃん(男)は優しく微笑みながら、私だけをじっと見つめ言いました。

 何ですか、この今まで体験したことの無い乙ゲー的なシチュエーション?

 

「サ、サクちゃんあのね……」

「私はこう見えても生徒会長をする程度には有能な人間です。自分で言うのもなんですが将来有望。姉さんに生活で不自由させないくらいには稼げると思います。不幸にはさせません、私と一緒になってくれませんか?」

 

 サクちゃん(男)の怒涛の告白は、お姉ちゃんの心の防壁をぎゅんぎゅん削る。

 

 うぅ、しかし、ここで負けるわけにはっ!?

 

「お、男になったら色々と不味いでしょう、気がついたら性転換とか漫画じゃないんだから問題だらけよ? 生活とか人間関係とか下手したら実験動物として施設に保護されちゃうよ!?」

『あ、それは大丈夫じゃ』

 

 私の必死な抵抗はおこん様にあっさりと封じられます。

 

『サクが男になった時点で呪いは成就され、お主とサク以外の者からはサクの性別は元々男だったと認識されるから問題は全くないぞ?』

 

 ニヤリと笑うおこん様……なんてご都合主義!?

 ぽんこつなのに無駄なところで有能でしょうがこん狐がっ!?

 

「姉さん返答を聞かせていただけませんか?」

『巫女よ、いけめんじゃぞ、いけめん』

 

 ぬおぁ!!

 

 一人と一柱は同時に来ます。

 ニヤケた顔で同時に来ます。

 不味いこのままでは不味い、誰か、神様ぁ、助けて神様ぁ!!

 あうちっ、目の前にいるのが神様だ!?

 

 サクちゃん(男)は微笑みを浮かべながら私のあごを優しく指でクイッとネ。

 ウヒャァ、こ、これはあごクイッ!?

 あ、あごクイッです、アヒャァ、初めてされましたぁ!?

 

 近づいてくるのはサクちゃん(男)の凛々しいご尊顔。

 

 ま、待ってくださいそれはいけません!?

 これは女の子垂涎のシチュエーションです!?

 だけど、いけません、いや、止めてぇサクちゃん(歓喜)

 

「もう離しません、誰よりも愛していますよ姉さん」

「あああ…………」

 

 サクちゃん(男)の暴力的なイケメンチカラに、私の心も体もグズグズのドロドロに完全敗北を屈しようとしたその瞬間。

 

 サクちゃん(男)の体がまた眩い光に包まれて……。

 光収まると、そこにいつもの少女サクちゃん。

 私のあごをクイッとしたまま『あれっ』という顔で立ってるんです。

 

 たまらない静寂……どうやら、おこん様の幻は消えたもよう?

 

 怒りと恥ずかしさに無言で震える私。

 うわっ……と後ずさる一人と一柱の御方。

 

 それからどうしたかって?

 

 ええ、もちろん思いっきりぶっ叩きましたよ。

 女性らしく握り拳じゃなくて平手ですけどね!!

 

 

「元に戻せないってどういうことですか!?」

『うう……そんな怒鳴られても無理なものは無理なんじゃぁ!!』

 

 半泣きのおこん様に、サクちゃんの股間のサクチンを取り外すように命じ……お願いしたら無理との返答。

 話を聞くとサクチンを取り付けるのに神通力の殆どを使ってしまい、取り外すどころか自分の身を維持することすら危ういらしい。

 あと先ほど、私にビンタされたせいで神通力がまた減って?

 そんなことは知りません自業自得。

 

 サクちゃんの願いさえ成就すれば神通力は取り戻せるはずだったとか。

 

 稼げるかどうか分からない博打を頼りに借金を重ねるどこのダメな人ですか。

 この神様は想像以上にぽんこつだった。

 

 おこん様と話し合った結果。

 彼女の神通力が戻るまで毎朝、奉納の神楽舞を私とサクちゃんの二人で行うことになりました。

 

 おこん様いわく一年もやれば、サクちゃんからサクチンを取り外せる程度の神通力は回復するそうです。

 踊りや巫女衣装などは、おこん様が教えて用意してくれるとのこと。

 無駄なところで有能ですよねこの神様。

 

 それを指摘すると何故か得意げな狐顔。

 ちょっとイラッときますね。

 

 

『まあまあサクよ。こうやって時間を引き伸ばし、そのうち隙をみて夜這いでもかけて強引に一発決めちまえばいいのじゃ』

「なるほど、いい案です、流石はおこん様ですね」

 

 なにかひそひそと悪だくみの相談をしていますが気にしません。

 でも部屋の鍵は常に掛けるように心がけたいと思います。

 

 

 次の日の朝から寂れた神社にはお供え物の安酒と油揚げをつまみに、尻尾を揺らし満足そうにチビチビやるお狐様。

 

 その前で神楽舞を練習しクルクルと回る凸凹巫女姉妹がいたのでした。

 

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