あじぽんぽん短編集   作:あじぽんぽん

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迷宮がある世界での物語


始まりの夢

 

 

 ちょっとした街程度なら飲み込む面積と規模をもつ地下迷宮一階。

 車道トンネルよりも広い主通路をオレたち六人の学園生は必死になって走っていた。

 それと遭遇した瞬間に全員が一言も口にせず、申し合わせたように綺麗に反転して逃走を開始したのには素晴らしい探索者資質だと感動を覚えたくらいだ。

 この体に変化してから久しぶりの全力疾走だが爽快感などは微塵もなく、ただおっぱいが重たくて千切れそうなほど痛いだけである。

 走り出してかなりの時間が経過しているが足を止める者は一人もいない。

 激しい振動――後ろから小山のような影が、鼓膜が破けそうな大音量の吼え声をあげてどこまでも追いかけてくるからだ。

 漆黒の鱗はギラギラと輝いて非常に目に優しくない。

 シルエットはトゲの生えた巨大なトカゲか、もしくは恐竜だろうか? 

 勿論、この地下迷宮で出てくるモンスターがただの可愛いトカゲのはずがなかった。

 追跡者の名はダークドラゴン、竜種の一種で本来であれば最下層に生息するモンスター。

 地下一階には絶対出現するはずのない特殊危険(ユニーク)モンスターだ。

 像よりも大きい胴体、そこから伸びる太い四脚には人間の腕サイズの尖った爪がそれぞれ四本つき、迷宮で最硬度のはずの石畳の床を重たい地響きと共に易々と削り抉っている。

 恐ろしい顔と長く裂けた口にはナイフのような鋭い牙が鋸状に並び、その隙間から強酸の涎が石床にこぼれ落ちジュという怖気が走る音を立てている。

 闇のように深い口内からは過剰な魔力が熱い蒸気となって噴きだしていた。

 

 迷宮学園での毎年の恒例行事である新期生歓迎訓練。

 

 新入生のために開かれる一週間ほどの合同訓練で、二年生で治癒魔法の使えるオレは学園が報酬として提示した小銭に目がくらみ、補佐役(ヘルパー)として相棒と一緒に参加していた。

 今日はその最終日、担当になっていたパーティに付いて地下迷宮一階での探索予定だった。

 そう、これはあくまで新人のための楽しいレクリレーションであり、ドラゴンと命がけで追い駆けっこをするようなハードでスリリングな遊びではなかったはずだ。

 そういえば、訓練開始前に特殊危険モンスターと遭遇した際はキャンプ地点まで誘導、もしくは離脱するようにという教師の説明に「別に倒してしまっても構わんのだろう?」なんて得意げにほざいた異界人(ルーキー)がいたが、いったいどこの誰だ殴ってやりたい。

 一部のジャパニーズにだけに通じるネタに、懐かしさを感じて不覚にも笑ってしまった自分をブン殴ってやりたい。

 

 偽えみやんは今すぐに率先してこいつと戦え、そしてフラグ通りに逝ってしまえっ!!

 

 

「だ、だめですぅ、も、もう、は、走れませぇん!!」

「し、死にたくなかったらっ! 死ぬ気で走れぇ!!」

 

 白人特有の大人びた顔と体で子供のような泣き事をいう魔法使い(メイジ)のエミリ、種族人間。

 その少女の切れ長な瞳は涙で潤んでいた。

 エミリの隣を走るオレは息を切らせて自棄気味に叱咤激励した。

 様々な事情によって、迷宮では常に装着することを義務付けられたフルフェイスの悪魔マスクのせいで音がこもり、ベイダー卿のような不気味ボイスが木霊する。

 エミリ嬢は見るからに重たそうな乳肉をお持ちなので走るのが大層苦手のようだ。

 はぁはぁふうふうと口を開き美人顔を色っぽく上気させ、拘束具(ブラジャー)でも押さえきれない豊かな双丘を上下に激しく豪快に揺らしていた。

 健全な若い男子なら前かがみになって夜中に励みそうな途轍もないエロさだ。

 以前のおっぱい星人のオレならこんな状況でもワンコのように大はしゃぎしただろうさ。

 しかし、今のオレも彼女と同じような痴態を晒しているかと思うとやりきれなくて涙が出そう。

 二人揃ってはぁはぁふうふう言いながら、胸部装甲(たわわ)から微小な継続ダメージを受け続けているのが悲しすぎる。

 あとでオレが邪神……いいえ、我が神の奇跡で回復してあげるから今は頑張れ!

 

 後方に迫るドラゴンの荒い息遣いに下腹部が嫌な熱を持つ。

 

「アリア先輩! もうカナタ先輩とエミリがもちそうにないです!!」

「くそ、何なんだよあのドラゴン! どこまで追いかけてくるんだよ!?」 

 

 殿を務める剣持ちのタロウと大斧担いだコウの黒髪ジャパニーズコンビの同胞共が察して叫ぶ。

 オレやエミリと違ってまだまだ余裕があるのは流石は前衛職だ。

 そしてコウの発言と同じことをオレも思っていた。

 あのダークドラゴンは遭遇した運の悪い探索者を何人も踏み潰しているにも関わらず、それらを一切無視してオレたちだけを追いかけてくるのだ。

 オレもエミリも疲労で足を止めそうになると、ダークドラゴンが近づいて来る足音が聞こえてきて再び恐怖で走りだすという、前進してるけど後ろ向きなスパイラルに陥っていた。

 

「もう少し狭い通路に入れば()を作れるわ! それまでみんな頑張って!!」

 

 先頭を走って左手一本で長剣をブンまわしながら叫ぶ少女。

 湧いて出て来るモンスターを瞬殺して道を作っているのは、学園始まって以来の天才児と名高い氷の騎士アリア。

 公私ともにオレのパートナーである銀髪の令嬢はドレスアーマーを華麗に身にまとい、竜人という希少種族の特性なのか華奢で細身で絶望的に胸は薄いが揉み心地は非常に良いデス。

 

 通路の角を曲がる。

 相手がただ強いだけのモンスターなら、オレたちはこれほど必死に走ってはいなかっただろう。

 あるいは格好をつけて「オレが残って時間を稼ぐぜ!」とかの中二病(ヒーロー)行動を取ったかもしれない。

 もしくはタロウとコウに鉄砲玉をお願いしたかも、強制で。

 探索者の命なんて死んでも寺院で復活できて、無限コンテニュー可能なので安いものだ。

 デメリットはあるが、関係ない探索者を巻き込んで恨みを買うほどのものでもない。

 死ぬ痛みとわずかな財産の消失、それから司祭様のありがたいお説教とマッチョなシスターたちの愛に満ちた(ミザリー)看病で人によって精神的障害(トラウマ)が出るくらい。

 

 ところがダークドラゴンが相手となると事情がまったく変わる。

 ダークドラゴンとはその名のとおり、地下迷宮において最強種族のドラゴンであるが、もう一つの恐ろしい特性を持っていた。

 それは対象を物理的に殺し、漂う魂を食らうソウルイーターであるということ。

 つまり迷宮内でダークドラゴンに殺されるということは、本当の意味での死を迎えるのと同義なのだ。

 

 殺されても死にたくない。そういう理由からオレたちは必死になって逃げていた。

 

 ちなみに走っている順番は長モノを振り回してるルーンナイトのアリアと、走りながら器用に矢を撃っている弓レンジャーのメア。

 そのかなり後方を息もたえだえの情けない二人が、プリーストのオレとメイジのエミリだ。

 最後尾をタロウとコウの男子二名のファイター組が務めているのは、命のかかった状況下での男女平等(・・・・)なポジションなんだって?

 なんか、すまんな、生きのびろ我が同胞の大和男児たち。

 それと女子の並び、微妙に胸のサイズ順になっているのが意味深だ。

 一番先頭を走るアリアにキッと睨まれて背筋が凍った。なぜばれましたか?

 

「はにゃっ!?」

 

 前方からの命の危機に恐々していたらエミリが足をもつれさせ面白い声をあげて転んだ。

 おっぱいから地面にダイブして「いひゃいっ!?」とオモロ声をあげ両手を広げて転んでいる。

 ははっ、エミリはこのパーティにおけるオモロ外人枠だよね?

 実にキャラが立っていて素晴らしい、今のエミリは最高に輝いているよ!

 後方に流れていく潰れたカエルのような無様なエミリは時間稼ぎの生贄。

 背後から迫るダークドラゴンに、オレの中で眠るデビル・カナタ君が表面化して悪魔マスクと一体化しようとしていた。

 

「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」

 

 しかし大丈夫。予想通りオレが手を差し伸べるよりも確実なフォローが入るから。

 後ろにいた体育会系のコウが雄叫びをあげると、床で潰れ饅頭と化していたエミリをスライディングからの重力を無視したダイナミックな動きで前方にすくい投げ、動きを止めることなく空中でしっかりと受け止めた。

 予想以上!? アニメみたいなアクロバットお姫様抱っこだ!?

 非常に良いものを見てしまった気分、必死の形相だけどスタイリッシュだったよコウ君。

 そして助けられたエミリは、最初は自分の状況が分からず目を丸くしていたが、コウの逞しい胸で抱きかかえられていることに気がつき、はわはわと両手で口元を押さえて頬を真っ赤に染めていた。

 

 あらやだ大人びた容姿の割にはチョロイ娘、ヘルプからの吊り橋効果が効いていますね?

 コウの好感度が大幅アップだ。

 ヘイ、ジャパニーズ! この乙女(メス)、今が攻め時ですぜヤッチマエ!!

 

 そんなアホなことを考えていたのが不味かったのか、オレも足がもつれて「あひゃあっ!?」とオモロ声をあげながら「うひゃあっ!?」とオモロ外人のように転んでしまう。

 認識する間もなく石床が見えて、おっぱい様が接触する寸前でオレの体は宙を舞っていた。

 エミリと同じように投げられて、空中でキャッチされる――相手は後輩タロウだ。

 優等生風のタロウに軽々とお姫様抱っこされた驚きで思わず見つめてしまう。

 線が細いタロウの真剣な横顔……オレは自らの無表情悪魔マスクの口元を両手で押さえた。

 彼の意外な格好よさに頬が熱くなる。

 

 ……や、やだ、タロ君(・・・)ってよく見ると結構イケメンさんかも!?

 

「アリア先輩っ!!」

「まかせなさい、この通路ならいけるわ!!」

 

 オレのチョロイ様子にはまったく気づかず叫ぶタロウに、頼もしく応える氷の騎士アリア。

 いつの間にか通路は先程より狭いものに切り替わっていた。

 反転したアリアが疾風のようにオレたちの横を通り抜けるとダークドラゴンの前方に踊りでる。

 タロウの肩越しに見える視界、リング状の美しい氷の結晶を何重も身にまとわせたアリアは、疾走しながら右手の指先で複雑な線を描き厳かに言霊(うた)を唱えた。

 

「我が前に絶対の防壁を、アイスシールド!!」

 

 彼女の体から冷気が生じて、現れた氷の精霊たちが乱舞する。

 周辺の魔力(リソース)を消費変動させる凄まじい魔法が発動した。

 瞬時に、通路を完全に封鎖する絶対零度の美しい氷の壁が生み出され、温度差によって生じた白い冷気が走っているオレたちの元まで届く。

 魔法騎士(ルーンナイト)の特殊魔法の一つ、彼女の二つ名の由来ともなった氷の防壁。

 それがオレたちとダークドラゴンの間を分断するように構築されたのだ。

 その圧倒的で奇跡的といえる光景にアリア以外の全員が感嘆の声をあげた。

 ダークドラゴン止まることなく分厚い氷にぶつかる。大質量の突撃で氷壁に亀裂が入り振動と重い轟音が響いた。

 アリアはそれには一切構わず、走った勢いままの氷の壁を三角飛びで蹴りあげると、華麗に反転してすぐにオレたちに追いつく。

 あれほどの規模の魔法を行使した割には氷の美に疲労は見えないが、連発出来る代物ではないことはオレも理解していた。

 

「しばらくは足止めができるはずよ……それとタロ、惚れっぽいソレ(・・)をこっちに渡してすぐに!」

「は、はいっ!?」

 

 並走する氷の騎士の冷たい迫力にびびるタロウ。

 惚れっぽいソレ扱いのオレはラクビーボールのようにパスされた。

 受け取ったアリアのアイスブルーの竜眼でジッと見つめられて悪魔マスクの中で冷や汗を流す。

 背丈は同じくらいだけどアリアのほうが見た目は細い、しかしオレをお姫様抱っこしてもまったく苦にしないで走れる種族竜人の膂力は恐るべきものだ。

 

「カナタ……浮気は許さないわよ?」

「は、はいぃ!」

 

 高貴な竜の美貌、その美麗な唇でボソっと囁かれると心底震えてしまう。

 氷の騎士(レズビアン)アリアは、氷魔法を使わなくてもオレを凍らせることができるのだ。

 抱かれたまま乳を揉まれる、アリアはうふーという嬉しそうな溜息をもらした。

 ま、まあ、頑張ってくれたご褒美ということで……今夜は果たして寝かせてもらえるだろうか?

 そんなやり取りをしていたら、前を走っていたメアがいつの間にかオレたちのそばにきていた。

 種族エルフのメアは獲物の弓を後ろ手で持って妖精のように軽やかに走っている。

 人差し指を口に咥えて、オレやエミリのことを羨ましそうな表情で見ていた。

 飄々としていて今一つ掴みどころのない娘だ。

 

「ね、タロタロ、ちょっといい?」

「え、なに、メア?」

 

 メアは前衛の中で一人だけ荷物を抱えていないタロウに、金の絹髪を躍らせて身軽に近寄ると二言三言話す。途端に顔が赤くなるタロウ君……おやぁ?

 やがてタロウは覚悟を決めた男らしい表情になると、走りながらお姫様のような容姿のエルフ娘をお姫様抱っこした。

 真っ赤に染まるタロウの首に腕を回し「楽ちん楽ちん」と長耳を上下させひどくご満悦なメア。

 命がけな状況なのに、マイペースなエルフ娘の様子にオレとアリアは顔を見合わせて思わず苦笑をしてしまう。

 

「みんな、今のうちにキャンプ地点に向かうわよ」

 

 アリアの言葉に、やっと背後からの恐怖に解放され全員が安堵の表情でうなずいた。

 キャンプ地点にいけば補佐役としてきている学園生と頼もしい教師たちが待機しているはずだ。

 特にうちの担当の熱血教師が本気をだしたのなら、ドラゴンの一匹くらいは朝飯前で瞬殺してしまうだろう……その結果、女子からの大ブーイングの嵐が起きるのだがオレは結構好きですね。

 思い出し笑いを堪えて体の力を抜こうとした瞬間、女になってから得た危険予知が反応した。

 下腹部に……子宮にぞくりとした震えが走ったのだ。

 オレは慌てて嫌な感じがする方向を見る。

 それは厚い氷に阻まれたダークドラゴンが巨大な口を開き、黒々とした喉奥でマグマのような炎を凝縮している悪夢の光景だった。

 ともすれば自壊しかねない量の魔力を吸い込んで、恐ろしい勢いで炎に変換していたのだ。

 血の気が一瞬で引いた。

 逃げ場のない一本道の通路、あれを放たれたら間違いなく全員即死コースだ。

 

「まずいぞ、アリアっ!!」

 

 警告するのと同時にフルフェイス悪魔マスクに指を当てた。

 悪魔マスクの口に当たる部分が小気味のいい金属音と共に上下に開き、オレの顔下半分が剥き出しになって迷宮の空気に直接触れる。

 頭の中で警告の声が聞こえた。

 

 ――限定解放:封印の一部解除。

 ――神の言霊(うた):迷宮内においてのみ使用可能。

 

【気をつけて、この迷宮においてアナタの言葉は真実(うた)になります】

 

 焦りの表情で振り向くアリア。

 いくら天才とうたわれる彼女でも何か講じるにはあまりにも時間がなさすぎた。

 やはり、やるしかない……覚悟する余裕なんてない、だけど恐怖を抑え込む。

 死ぬことに対してではない、制御できない力を使わなければいけないことへの恐怖。

 でも使わなくてはいけない理由はある。

 こいつらを巻き込んでいいわけがないからだ。

 

 全力疾走しながらオレを背中で庇うとするアリアに抱かれたまま身を乗りだした。

 そこからの展開は、まるでスローモーション。

 ダークドラゴンが長いあごを開く、限界まで圧縮した高密度の炎の球が放たれる。

 

 出現した必滅の炎、それでもアリアが生み出した氷の壁は貫通するまでの数秒を稼いでくれた。

 氷壁にゆっくりと穴が開き、水蒸気すらも蒸発させた莫大な熱量がオレたちの眼前に現れる。

 真夏のような輝きに包まれる通路、全員悲鳴をあげる暇すらない。

 オレは迷宮の石床を削り熔解させながら迫る炎の渦とその中心を睨んだ。

 感情を押し殺して一つだけを望む。

 

【 ホノオ ハ イラナイ 】

 

 オレの喉から無音が生まれ、それはすぐにオレだけに聞こえる大音響へと変換される。

 決定された現象が起きる……恐ろしくて言葉で試そうとは決して思わない。

 制御を失敗しないように、思念を散らさないように、効果がでるまで身動き一つせずにただ必死に耐えた。

 

 言霊(うた)が聞こえた――だから、炎は跡形もなく消失する。

 

 オレのうたはダークドラゴンが放った炎を、あれほどの魔力(リソース)の塊を一瞬で掻き消してしまった。

 一を消すには一が必要、それは魔力においてもだ……しかし等価交換無視のでたらめな現象。

 それ以上考える前に悪魔マスクのあご下から叩きつけるようにして急いで閉じた。

 息が荒く、心臓の音が聞こえるくらいバクバクと鳴って体の震えが止まらない。

 

「う―― う―― あぁ――」

 

 とても、とても恐ろしくて涙がぼろぼろとこぼれて変な呻き声がもれてしまう。

 肉体も精神も何も消費はしていない、だけどオレの魂は本能的な恐怖を感じていた。

 そう、限定されているとはいえ、これは本来なら人が使ってはいけない力。

 光あれ……その一言で世界を作っちゃった神様の力なんだから。

 

「急いで離脱するわよ!!」

 

 アリアが氷のように鋭く言葉を放ち、震えるオレの体を強く抱きしめてくれた。

 彼女はオレの事情を知っている、だから何故を聞かない。

 だけどルーキーたちは違う。

 突然現れた死の炎が一瞬で掻き消えた。

 誰かが何かをした形跡はない、ただオレが泣き呻いているだけだ。

 あるいは悪魔マスクを開いていたところを見られたかもしれない。

 いずれは考えつくだろう、オレが何かをしたのではないかと?

 そして……その先の嫌な想像から逃れるようにアリアにしがみつく。

 全員、一言も喋らず全速力で通路を進んだ。

 

 揺さぶられる、意識が混濁として考えが上手くまとまらない。

 流れ行く石畳の風景、疲弊した心、オレはぼんやりと後方を眺めた。

 大量の水蒸気と水しぶきがあがっていて視界は良くない。

 ダークドラゴンは確かに氷の壁に穴を開けたが、その巨体が潜り抜けられるほどの大きさではなかったようだ。

 高威力のブレスに自らの口が炭化し煙を噴きだすほどのダメージを受けているが、それに構わず鋭い牙や爪で氷を引っ掻き砕こうとしていた。

 奴の動きが止まる……憎悪に満ちた視線を感じる。

 怒りをその身に湛えたダークドラゴンはオレだけを見ていると感じられた。

 いや、本当は途中で気がついていたんだよ、奴の狙いはオレだったということに。

 

「あぁ、ごめんなぁ」

 

 掠れるような声で誰かに謝罪する。

 死にたくなるような罪悪感……首筋に優しくキスされる感覚。

 

 意識はテレビの電源を落とすように唐突に途切れた。

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