あじぽんぽん短編集   作:あじぽんぽん

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ワールドオンラインⅡというVRMMOで遊ぶマコトはマゾである。
故に最もマゾイ希少職、サマナーのトップランカーになった。
希少職が実は最強? 弱職は所詮は弱職なのです。


サマナーの設定、スキル等は某MMOを参考にしております。



さまなな日々

 ネットゲー初心者であったマコトが、数多くあるのVRMMOの中から、ワールドオンラインⅡをやろうと思ったのは、『もう一つの人生を異世界で!』という安っぽいキャッチコピーに惹かれたからではない。

 理由はプレイムービーに登場した案内役のダークエルフお姉さん。

 世界観ぶち壊しのタイトでムチムチなスーツスカート姿とフレームレス眼鏡、見下すような視線にぞくぞくしたからだ。マコトは女教師物が大好きであった。

 

 それから二年ほどのプレイを経て、気がついたらマコトはサマナーのトップランカーになっていた。廃プレイをしたからではない、先駆者達がマゾさに耐え切れず次々と脱落していったからである。

 

 他のネットゲーをしたことのないマコトは、サマナーのマゾさにそこはかとなくしか気づいていなかった。

 

 

 ◇始まりの街 フレンド

 

 

 ゲームを起動させるとヘッドギア内のモニターに表示されるワールドオンラインⅡのロゴと厳かに流れるそれっぽいBGM。

 両手につけた操作グローブでパスワードを入力。あわせて網膜認証が行われる。

 しばらくのローディング、その間、壁紙として設定しているスクリーンショットに映るのはかつての盟友達と、そして彼女という名の女性。

 マコトにサマナーの全てを教えてくれた人だ。

 

 やがて光が走り、狭い石碑の間に出ていた。

 マコトのようにチームに所属しない根無し草がログインする場所である。

 手首を回して感触を確かめる、接続に問題はないようだ。

 装備はシンプルな長袖とズボン、村人Aとかが着けていそう。

 ゲームで用意された黒髪黒目のデフォルト顔を、よく分からなく触れずに設定したら、かえってレアで個性になっているのは何の皮肉か。

 

 マコトは音声登録した呪文を発動した。

 

「出でよ、キキー」

 

 正面に展開される召喚陣。石畳の床が水面のように揺れエフェクトが掛かると、一匹の召喚獣(サモン)が地下から湧きだすように出現した。

 マコトの腰ほどの高さ、ボブカットの髪に犬耳と犬尻尾、ホウキを背中に背負ったメイド風ワンピースの幼女が現れる。片手を上げワンッと鳴く、魔石一個で呼び出せるので普段から愛用している【サモン・キキー】であった。

 マコトが歩き出すと、キキーは子供のように手を振りテケテケとついてくる。

 石碑の間から街にでると途端に聞こえてくる喧噪とごみごみした雰囲気。

 多くの冒険者が行き交う、プレイヤーの集まる始まりの街である。

 中央広場から外に出る大通りを、プレイヤー個人の野外露店が所狭しと立ち並び中々の賑わい、マコトは冷やかしながら眺めていく。

 マコトのジョブはサマナーである。

 サマナーは他のジョブに比べて装備の依存度が低く、そのためマコトはアップデートのたびに更新される武器防具などの興味はあまり無かった。

 

「こんちゃーまこっちゃん、良い物を仕入れたからちょっとみてー」

 

 マコトを呼び止めたのはフレンドのウルウルだった。

 青い髪、童顔で小柄な体型、ポッケの一杯付いた探検家のようなシャツに半ズボンがボーイッシュで魅力的である。腰に結わえた鞭はテイマーの証。

 サマナーと同じ操作系のジョブだが、操るのはサモンではなくテイミング(てなずけ)されたペットだ。

 ペットはサモンと違い、プレイヤーと同じように経験値を蓄積することでレベルアップする。そのためペットを育成しながら成長できるテイマーは動物好きから非常に人気の高いジョブであった。

 初期は似たような職のため、どちらが上かでぶつかることが多々あったらしい。

 ネットゲー初心者だったマコトは、その頃はゲーム楽しぃあひゃひゃひゃと、知能を捨て猿のように我武者羅にソロプレイをしていたのでよく知らない。

 

「こん(に)ち(は)ウルさん、物はなん(なの)?」

 

 マコトはネットゲー特有のぶったぎり言語で挨拶をした。

 

「まこっちゃんにも恩恵ある、移動速度UPのリングだよ!」

「お、どれどれ……」

 

 サマナーは装備の依存度が低いとはいえ裸で狩りが出来るわけではない。

 出来るか出来ないかでいえば実は出来たりするのだが、それは十人中十人がマゾ認定するマコトでさえもキツイと思えるものだ。以前、詐欺で装備を全てだまし取られた時の狩りの辛さを、マコトは未だに覚えている。

 兎も角、最低限は被弾した時のために葉っぱの一枚もあればよい、それ以外は狩りの効率を上げるためではなく、狩りを快適にするためのおまけにしか過ぎないのだ。

 

「移動速度4%UPかぁ、凄くイイネ……でもお高いんデショウ?」

「そうでもないよー、ボス討伐の品だけど比較的ドロップする物だからね、まこっちゃんが使うかなーと思って私、競り落としておいたんだよう」

「お、おおぅ、ありがてぇ、ありがてぇ……で、いくらよ?」

「それはね……耳を拝借、ごにょごにょ」

「まじかよ!? ……ウルさん、買います!」

「毎度あり~!!」

 

 マコトはウルウルからリングを受け取ると腕に通した。

 歩く速さが4%上がった気がする。たった4%ではない、4%も上がったのだ。

 プラシボー効果かもしれない?

 

「しっかし、レイドかぁ……フィールドならどこでも狩り出来るけど、ボスレイドとなると、俺には手が出せないからなぁ」

「まこっちゃんもボス討伐に参加すればいいじゃん」

「それは、俺にもプライドというものがありましてねぇ」

 

 むぅ、といった感じで頬を膨らませるウルウル。

 そしてマコトの後ろにいるキキーを見る。キキーは背中のホウキを下し地面を掃いていた。サモンやペット等に個別に設定されている待機モーションだ。 

 

「キキーちゃん十分強いじゃん。まこっちゃんは遠慮しすぎだと思うな!」

「うん、まあ、それはそれ、これはこれということで」

「ふーん、それならまたみんなで狩りに行こうよ! まこっちゃんは、うちのチームでも、テイマー仲間の間でも人気だからねー、ネタ的な意味でさぁ!!」

「ウルさん、それ酷くない!?」

 

 初期のころは争っていたサマナーとテイマーだが、最近はある事情から高レベル帯のサマナーが殆どおらず、低レベル帯でも見かけることは稀で、存在自体が絶滅危惧あつかいをされ同情の目を向けられることが多い。

 

「キキー出してると、たまに初心者ぽいテイマーの人に聞かれるん。そのペットどこで捕まえることができますかって?」

「あははは、サマナーあるあるだねぇ」

「もう勘弁してほしいわ」

 

 ケラケラと気持ちよさそうに笑うウルウルに、マコトは手を振って別れを告げた。

 

 

 ◇呪いの渓谷 ヒーラー

 

 

 狩場までは、ゲートキーパーと呼ばれるNPC(ノンプレイヤーキャラ)経由で移動をする。お金を払うと転移呪文で狩場まで送ってもらえるのだ。

 ゲーム特有の黄金律の美しい容姿、ウェディングドレス と法衣を組み合わせたようなコスチュームとエロいナイスボディがマコトの海馬をダイレクトに刺激する。

 これで耳が長くて、肌が褐色で、フレームレスの眼鏡をつけて敬語で罵ってくれれば完璧なのだが……マコトの性癖は中々に業が深かった。

 

 狩場は最近通っている、呪いの渓谷。

 NPCから受けられる依頼と合わせればそこそこの稼ぎとなる。

 左右を崖のような岩場に囲まれたフィールド。しかし崖の合間は走り回れる程度には広く、空も見えるためダンジョンのような圧迫感を感じることはない、見通しも良く非常にやりやすい狩り場だ。

 マコトはあたりを見渡す。プレイヤーはあまりいない。

 呪いの渓谷はふわふわと浮遊する巨大な目玉の魔物、イービルアイが棲息していた。この魔物は自分からは攻撃を仕掛けてこないノンアクティブ状態のためマコトとしては非常に狩りやすい。

 しかしイービルアイは毒や鈍足といった各種バッドステータスを付加する呪文を使ってくるので狩場としては難易度が高く、ソロを行うのは一部の職のみであった。

 

「ジャッジメント!!」

 

 カッと、光と十字架っぽエフェクトが闇属性のイービルアイにかかり消滅させる。

 その一部の職業は治癒能力を持つヒーラーと呼ばれる者達。討伐速度は緩やかで、カツカツとした狩場争いもないためか、全体的にまったりとした雰囲気だ。

 

「あら、マコトさん、こんにちは」

「ようよう、おタケさん、調子はどうよ?」

 

 ヒーラー用の法衣を着けたタケは涼やかな表情で微笑む。

 ほっそりとした体に金色の長い髪が渓谷に吹く風にさらさらと流れた。

 長耳がつけばエルフのような容姿の女性だが、ワールドオンラインⅡではプレイヤーは種族人間しか選ぶことができない。

 

「あまり良くないですよ、リアルの時間がとれないものだから、しばらくはソロしかできませんね」

 

 そう言ってタケは手の平を短杖で軽く叩いた。

 ヒーラーとはパーティで活躍するジョブである。

 リアル都合で長時間のプレイができない者はソロをするのだが、元々支援タイプで戦闘力自体が高くないヒーラーのソロ狩場は限定される。

 その狩場の一つが呪いの渓谷であった。

 

「まあ、リアル大事だし、無理しない程度で遊べばいいんでない」

「そうですね、リアル壊したら元も子もないですからね」

 

 そういうタケの所属しているチームはゲーム内でもトップランカーの揃う廃集団。

 そんな場所に所属している故なのだろうか、タケの言葉には非常に重みがある。

 マコト自身は廃ではないつもりなのだが、ゲーム内でも希少な高レベルサマナーのためかトップランカー達との絡みが結構な頻度であった。

 どうやら廃人達からはマコトが同類(マゾ)に見えるようだ、迷惑この上ない。

 しばらくタケと話をして、狩りをしようかと思った矢先のことだった。

 

 ――呪いの渓谷に【ビッグ・イービルアイ】出現!

 

 広域のシステムアナウンスが聞こえた。

 

「あらあら……フィールドボスが湧いてしまいましたか」

「うへぇ、まじかよ」

 

 フィールドボス。中ボスと呼ばれるフィールドに出現する魔物である。

 レイドのような大人数で討伐する大型ボスとは違い、ソロでも狩れるが難易度は非常に高く、またアイテムドロップなどは滅多にせず、出てもありがたみが無い微妙な物ばかりなので放置されるのが常の魔物であった。

 問題は呪いの渓谷に出現するビッグ・イービルアイ。

 この魔物は眷属設定のイービルアイと違いアクティブで渓谷内を巡回しプレイヤーに襲い掛かってくる。おまけに攻撃すると、近くのイービルアイがリンクするという嫌がらせとしか思えない仕様で、ヒーラーはソロしてないでパーティプレイをしろと言う、公式からのメッセージだとの専らの噂だ。

 

「仕方ねぇ、はじっこの方で依頼分だけイービル狩ってくるか」

 

 マコトがワザとらしく大声で宣言し、移動しようとしたら腕を捕まれた。

 振り向くとタケがにこやかに微笑んでいる。

 職業ヒーラー、実に聖職者らしいアルカイックスマイルだ。 

 

「マコトさん、倒しましょうよビッグ・イービルアイ」

「勘弁してよ、おタケさん。というかチームから助っ人要請してよ、アレ(・・)やると評判悪くなるんだから、俺に頼らないでよ、ね?」

「不味くて誰も来ませんよ、だから私達で倒しましょうビッグ・イービルアイ」

「いやいや、そっちで本当の人生が始まってる暇な廃人見繕ってくれよ、まじで」

「いやいやいや、この渓谷の平和のために倒しましょうよビッグ・イービルアイ」

「いやいやいやいや……」

 

 押し問答の末、結局ビッグ・イービルアイを討伐することになった。

 

 ――――

 

 マコトが渓谷の岩陰から様子を覗うと、イービルアイより二回りは大きい魔物、ビッグ・イービルアイが浮遊しながらゆっくりと移動していた。後ろからイービルアイが十体ほど追尾している。その光景にため息をついた。

 タケを始め、呪いの渓谷でソロをしていたヒーラー達が集まっている。

 マコトをいれて九名。ビッグ・イービルアイを倒すために急遽作られた即席パーティである。

 

「……おタケさん、いくか」

「はい、いつでもいいですよ」

 

 横を見ると、野良の女ヒーラーが蕩ける笑顔でキキーの頭をナデナデしていた。

 犬耳幼女は「きゅーんきゅーん」と嬉しそうな声をだしている、設定されたモーションだ。

 

「あーっと……お姉さん、キキーいいかな?」

「あ、ご、ごめんなさい、キキーちゃん可愛かったから、つい」

「うん、まあ、うちの子は可愛いけどさぁ……」

 

 何とも言えない表情で呟くマコト。サマナーにしかわからない複雑な気持ち。

 サモンが可愛いなどとは、サマナーにジョブチェンジして十もレベルを上げるうちに全て消え失せた。

 先駆者である彼女の名言、サモンはサマナーにとって最高の道具(ぶき)なり。

 廃チーム所属故に、何となく把握できているタケはくすくすと笑う。

 初顔合わせの野良のため簡単な段取りはしたが、キキーをどのように使うかはタケ以外は理解できていないだろう。

 希少生命体と化しているサマナーの生態を知る者は、そう多くはない。

 

「よし、やるぞぃ! おタケさん、MP管理と強化魔法は任せたぜ」

「はい、存分にどうぞ!」

 

 マコトが小さく表示されているキキーのステータスに触ると、ヘッドギアのモニターにミニモニターが出てそこにサモンの視界が映しだされる。

 マコトは更に細かい操作をするためにヘッドギアに表示されたミニモニターとメインモニターを切り替える。キキーの視界がメインとなり、マコトの視界はミニモニターへと変更された。

 サマナーの操作方法の一つ……通称サモン憑依である。

 キモッ、と声が聞こえた。確かにキモイだろう、憑依中は本体の方は碌に動けず白目を剥いているのだから。

 

「んじゃ、いってきます」

 

 白目を剥いている本体が喋り、タケ以外のヒーラーがびくっと体を震わせた。気持ちは分かる、マコト自身も不気味だと思っているから。

 キキーはホウキを両手に握ると、そのままビッグ・イービルアイに向かって突進する、短い足に不釣り合いな宙を飛ぶような移動速度、あっという間に距離を詰めた。

 反応したビッグ・イービルアイは、重たそうな目蓋をぱちぱちと上下させ、キキーに向けて攻撃魔法を放つ。

 風属性の魔法、風の球が周囲の小石を巻き込み体積を増しながらキキーに迫る。

 だが直撃する前に、犬耳幼女は踊るようにくるっとサイドステップして回避した。

 おおっ、と声が上がるがこれくらいのサモン操作はマコトにとって序の口である。

 キキーはそのままビッグ・イービルアイの横を通り抜けながら巨大な目玉をホウキで掃く、すると後ろにいたイービルアイ達がキキーを包囲するように近づいて来た。

 

「まずは、手はず通り分断するから、よろしく!」

「はい、三十秒もたせられますか?」

「何とか、無理そうならキキーを消す(・・)

 

 魔物の群の中を、お遊戯のような回避を見せ移動するキキー。イービルアイ達がその後を追い、更にその後ろから遅れて巨体のビッグ・イービルアイが続く。

 キキーがマコト達が隠れている岩場まで戻って来た。

 

「それじゃ、イービルアイのタゲ取り任せたぜ!」

 

 八人のヒーラーはマコトの言葉に頷く。

 マコトはキキーを反転させて、再びイービルアイの群れに突っ込ませると強引に突破。何発か被弾するが軽ダメージ。追いかけようとするイービルアイ達にヒーラーの聖属性攻撃魔法【ジャッジメント】が炸裂した。

 タゲ取り……イービルアイ達のターゲットがヒーラー達に切り替わる。

 魔物にはヘイトと呼ばれる数値が設定されていて、より大きくヘイトを稼ぐ行為……ダメージを与えた者などを優先するようにプログラムされているのだ。

 マコトは完全にタゲが離れたことを確認すると、遅れて追いかけてきたビッグ・イービルアイをペチンと叩き、再び逃走。

 巨大な目玉の魔法攻撃がキキーに当たり削られるが、サモンのHPはプレイヤーより遥かに多い、まだまだいける。

 ジャッジメントの十字架っぽい魔法エフェクトが何度もミニモニターに映った。

 

「マコトさん、イービルアイの処理は終了しましたよ」

「了解っ!」

 

 聞き取りやすいタケの声質、ここまで来るとやることは九割方終了していた。遠くまでついてきたビッグ・イービルアイにキキーは攻撃を開始する。

 ホウキを振りかぶり巨大な目玉をペチペチと叩くキキー。

 犬耳幼女の攻撃モーションはあざといくらいに愛らしくコミカルであるが、その威力は見た目通りでないことをマコトは知っていた。

 

「がんばれ! がんばれ! キキーちゃんがんばれ!」

 

 女ヒーラーが必死に応援している。タケ以外のヒーラーも同じように拳を握り応援していた。それをミニモニターで見たマコトは切ない気持ちだ。

 この先の展開が予想できてしまったから。

 ビッグ・イービルアイの攻撃がキキーの小さい体に連続でヒットした。

 HPが尽き、ホウキが真っ二つに折れてきゅ~んと悲し気な声をあげ倒れる犬耳幼女。ああぁ~というヒーラー達の声。

 マコトは戦闘不能になったキキーを素早く消すと、呪文を唱える。

 ターゲットを見失い、グロテスクな巨大な眼球できょろきょろと周囲を見渡すビッグ・イービルアイ。

 

「出でよ、キキー」

 

 再召喚されるサモン・キキー。

 タケが登録した音声入力での呪文を朗々と唱え、キキーの能力を底上げする強化魔法を素早く付加する。

 

「よし、いけキキー」

 

 今度はサモン憑依はせず、ミニモニターも出さない。

 後は単純な攻撃コマンドだけでいいからだ。

 ホウキを片手にビッグ・イービルアイに特攻するキキー。しばらく攻撃し、やがて先程と同じように被弾して、きゅ~んと泣きながら消滅する幼女。

 

「出でよ、キキー」

 

 再召喚、また同じようにタケが強化魔法をかけ、そして特攻。きゅ~ん。

 

 マコトがしているのは、召喚時の魔石の消費コストが最も低いキキーを使ったゾンビアタックである。

 サモンとはペットと違い魔法扱いのため死んでも経験のロストはない。

 本体がターゲットされない遠距離から操作して少しずつダメージを与え、対象が死ぬまで再召喚と特攻を繰り返すサマナーの得意戦術であった。

 死兵ほど恐ろしいものはないのだ、君が死ぬまで殴るのを止めない!

 攻撃力が高く、HPも多いフィールドボスに対して非常に有効な手段だが、この戦法には致命的な欠陥が一つある。

 ゾンビアタックをキキーでやると幼女虐待にしか見えないということ。

 そしてヒーラーとは、攻撃職の気持ちいいプレイをひたすら支えるためのマゾ奴隷であり、そんな職をやる人間はエセ博愛主義者と相場が決まっていた。

 

「キ、キキーちゃん……ひ、ひどい」

「うわぁこいつ最低だ……」

「小さい子にあんな……カスだな」

「児童相談所って何番だっけ?」

 

 ――きゅ~ん。

 

「……出でよ、キキー」

 

 じゃあ君達全員でキキーをヒールしてくれよと言うと、ニコニコと微笑むタケ以外の全員が顔を逸らすだろう。キキーの攻撃ではヒールによって生じるヘイトを押さえきれないからだ。誰だって我が身が可愛い。

 マコトは偽善者共に罵られながら、犬耳幼女をビッグ・イービルアイに特攻させ続けたのだ。

 

 召喚九回目にしてビッグ・イービルアイの討伐に成功した。ドロップは魔石二個のみ、マコトに全て渡されたが召喚にかかった費用で足が出た。

 

「どんまいです、マコトさん」

 

 タケに軽く肩を叩かれる。全てを救おうとするヒーラーは初心者か三流。

 一流のヒーラーとは容赦なく仲間を切り捨てて平然と笑っていられる者だ。

 聖職者らしいアルカイックスマイルを浮かべるタケは間違いなく一流であった。

 

 

 ◇地下世界 ダークエルフの姫君

 

 

 街に戻ったマコトは依頼の達成報告を終えた。幾ばくかの報酬、しかし本日の稼ぎは微妙にマイナス。そしてそれ以上に心がひどい精神的疲労を訴えていた。

 マコトはマゾだが言われなき暴言にさらされて笑えるほど心も広くない。

 マゾとは本人がそう感じてないからマゾなのだ。努力家は自分が努力していることを気づかないというアレである。馬鹿なんじゃないか?

 

 今日はログアウトしよう、このような日はダークエルフ姉さんが色々な意味で活躍する同人誌コレクションで慰めるに限る。

 

 ――我が精鋭達よ、集いなさい私の元に!!

 

 突然のワールドアナウンス、敬愛すべきダークエルフの姫君の声が聞こえた。

 

「き、来たあああああ――――――――!!」

 

 ランダムイベント【地下世界の戦争】

 マコトが何があっても参加するイベントの一つであった。

 喜びで踊りだしそうなほど心が軽くなる。

 マコトは、あひゃあ、うひゃあと叫び知能を置き去りにして走り出す。目指すは街の外に設置された地下世界への入り口。

 

 ――――

 

 ワールドオンラインⅡの世界には、地下に広大な大地が広がっている。

 光苔に覆われたその暗黒の世界、覇を競う二つの種族と国があった。

 一つはダークエルフと、その姫君によって統治されるダークエルフ帝国。

 一つはドワーフと、その姫君によって統治されるドワーフ王国。

 二つの国はそれぞれの主張を掲げ、今日も地下世界の覇権を握るため戦いを繰り広げているのだ。

 

 ――――

 

「よく集まってくれました。我が愛すべき精鋭達よ!!」

 

 幻想的な薄っすらとした光苔の明かりの中、大勢のプレイヤー達が集うのはダークエルフ城の広場。バルコニーに立つ可憐なダークエルフの姫君に視線が集まる。

 艶やかな褐色の肌と白銀の髪を持ち、純白のドレスを身に纏うエローフ・ダークエロフの演説であった。

 マコトは黒いフード付きのケープを装備して最前列で跪き、姫の有難い言葉を謹んで拝聴していた。マコトの周りにいる者達も同じ黒いケープ、敬意を持ってエローフ姫の話を聞いている。

 

「今日こそ、この地下世界を平定すべく、ドワーフ王国に鉄槌を下すのです!!」

 

 エローフ姫は愛らしいソプラノの声を精一杯張り上げて檄を飛ばす。

 十六才ほど花も恥らう少女の容姿、顔立ちに幼さが残るが、既に完成に近いスタイルは圧巻の一言。手を広げると豊かな胸がたゆんと揺れた。

 

「うひっ、いいおっぱい」

 

 マコトの耳はその呟きを確かに拾った。猛禽類のように目を細めて、すっと立ち上がると指をパチンと鳴らす。

 そのマコトの行動に、エローフ姫(NPC)が途端に引きつった表情となる。

 複数の黒ケープの者達が動く、悲鳴が上がる、逃げようと暴れ抵抗する者。

 有志によって結成された親衛隊のメンバーが、ふらちな発言をした者を直ぐさま探し当て拘束すると、マコトの前にずるずると引きずり出したのだ。

 マコトは腕を後ろに組むと、その愚か者を冷徹に見下ろし値踏みする。

 つんつん尖がった髪にチンピラ風の顔立ちは、漫画などの主役より人気の出そうなサブキャラクリエイトをしようとして見事に失敗した結果だろうか。

 装備からしてゲームを始めたばかりの初心者のようだ。

 

「お、おい!? な、何だよいきなり!」

 

「だまれ……この不届き者が! 我らが敬愛すべきエローフ姫様を辱めるとは言語道断、許されざる大罪だ!!」

「ごらあああああああああぁぁぁぁ!!」

「どぅらあああああああぁぁぁぁぁ!!」

「げゃぁぁぁああああああぁぁぁぁ!!」

「ぎぇぇぇあああああああぁぁぁぁ!!」

 

 静かな怒りを湛えたマコトの断罪の言葉。

 黒いケープをつけた親衛隊員も次々と怒声を上げる。

 しかし彼らは激しい怒りのためか、それともエローフ姫への熱い忠義に脳みそのリソースを全て使い切っているのか、まったく人様の言葉を喋れていない。

 知能を完全に殴り捨てていた。

 その様子にオロオロとするエローフ姫。

 彼女は柔和そうな顔に焦りを浮かべ、手を前に突き出し、か細い声で必死に親衛隊達の無軌道な暴走を止めようとする。

 

「あ、あの、し、親衛隊の皆さん。お気持ちは大変にありがたいのですが、あまり乱暴なことは……」

「ええ、分かっております、分かっておりますとも、お優しきエローフ姫様」

 

 マコトは……エローフ親衛隊隊長は、怒りの表情をスイッチで切り替えたようにあっさりと消すと、優しく微笑みながらエローフ姫に頷いた。

 

「彼には我々と一緒に皆の前で、エローフ姫様の偉大さを褒め称える詩を百回ほど朗読してもらおうかと思います」

 

 エローフ姫は気品高い美貌を両手で覆い、バルコニーに崩れ落ちるようにしゃがみこんだ。褐色の長耳が真っ赤に染まり震えていた。

 どうやらエローフ姫は、マコトの忠義の言葉に深い感動を覚えたようだ。

 

 朗読は時間がなくて十回しか出来なかった。

 

 

 ◇攻城戦フィールド

 

 

 楽しい攻城戦である。今回はダークエルフ帝国が攻撃側であった。

 この戦い、プレイヤーはダークエルフとドワーフの好きな陣営に別れて参加をする。全員が参加賞を貰えて勝利陣営は更に報酬が増える、またプレイヤーは戦績に応じて特別報酬を貰うことが出来るのだ。

 

 攻城フィールド内の全プレイヤーのレベルが二十で固定され、それに伴い装備の性能も攻城戦用に調整。クラスと習得している一部スキルのみが既存のレベルだ。

 これはライト層でも全コンテンツを楽しめるようにという公式側の配慮なのだが、実際に条件が同じなら長時間プレイしている廃人達が活躍するだけで、不利になるのは装備に頼る中途半端な微廃人達といったところである。

 

 ぶっちゃけプレイヤーのテクニックで無双出来るゲームでもないので無問題だ。

 何にしても捨てるものが無いほうが強いのはゲームでもリアルでも一緒であった。

 狩りなどで課される死亡時の能力低下ペナルティなども付加されないため、じゃんじゃん戦ってじゃんじゃん死ぬのがイベントの楽しみ方としては正しいだろう。

 

 攻城フィールドにそびえ建つのは質実剛健な作りのドワーフ城。

 その対面に丸太で囲まれた陣地が形成され、中央には攻撃側が戦場で死亡した際のリスポーン地点の石碑が設置されている。

 すぐ近くにはエローフ姫とダークエルフの騎士達が控えていて、プレイヤーが手を振るとエローフ姫もにこやかに小さく手を振り返す。ロイヤルスマイル。

 

 攻撃側の勝利条件は一つ、ドワーフ城の両端のシールドコアを破壊し、中央の結界を解いて、王座の間にいるドワーフの姫君を拘束すること。

 防衛側の勝利条件は二つ、ダークエルフの姫君を拘束するか、攻城戦のタイムリミットまで防衛すること。

 

 一見、防衛側がひどく有利に思えるが、そうでもない。

 攻撃側は陣地の中央、リスポーン地点のそばにエローフ姫がいるため迎撃は容易で、押し込まれても立て直しは比較的楽なのである。

 逆に防衛側のリスポーン地点は広い城内の両端、ドワーフ姫が居る中央までは移動に時間が掛かり、押し込まれたら劣勢に陥る可能性が高い。

 もちろん城自体に防衛能力があるため、そうは簡単にはいかないのだが。

 かくして、ダークエルフとドワーフの二つの種族、そしてその代理としてプレイヤー達が入り乱れる戦いは幕を開けたのだ。

 

 ――――

 

 マコトは丸太を並べて作られた陣地の中にいた。親衛隊もエローフ姫を守るように待機している。

 戦争は始まっており、遠くから戦いの剣戟が聞こえる。防衛側は城から出てフィールドでの戦いを選んだようだ。

 

「マコトの兄貴ぃ、俺らも行かないでいいんすっか?」

 

 先ほど親衛隊に入隊したばかりのチンピラ風のルーキーがマコトに質問をする。

 エローフ姫を褒め称える詩を一緒に朗読したことにより、姫の偉大さを魂から感じ取ることが出来たらしく入隊を希望したのだ。もちろんエローフ姫を敬愛し、彼女の靴先を舐められるなら拒む言われはない、同士として快く迎え入れた。

 靴先を舐められたエローフ姫は泣きだしそうな顔をしていたが、多分、新入りの忠誠心にいたく感激したからだろう。

 

 ハハッ、我らがエローフ姫様はお優しく感受性豊かであらせられる、まっこと忠義のつくし甲斐がある!

 

「分かってねえなルーキー、親衛隊は虎の子だ。ここぞという時に一点集中で出すのが正しい運用法なんだよ」

 

 マコトは腕組みしたまま返答し、そしてエローフ姫のそばで地図を持って控える鎧姿のダークエルフの女(NPC)に視線を送る。

 頷き返される、今回の指揮をする女将軍であった。

 戦争等のランダムイベントはプレイヤーが烏合の衆の集まりであることが多い。問題になるのはこのような時に誰が指揮をするかである。廃人連中の中には戦争ゲーム経験者や大型レイド主催者などがいるので、彼らなら上手く指揮を執れそうだが、そんなに都合のいい人材がいつもいるとは限らない。

 

 そのために運営が出した答えがNPCによる指揮である。

 

 エローフ姫もそうなのだが、このゲームのNPCは実に優れたAIが組み込まれており、下手なプレイヤー(さる)よりよほど頭がいいのだ。

 中にはNPCが指揮を取ることに嫌悪し『俺はゲームを遊びたいのであって、ムービーが見たいわけではない!』などと意味不明なことをのたまう者がいるが、それじゃ君が指揮してくれよと言うと大抵は尻尾を巻いて逃げ出す。カスが!

 

「そういうわけで、彼女の指示があるまでは親衛隊は陣地待機だ」

「は、はぁ……何か凄いんすっね」

「まあ、安心しろ、今回の指揮官は当たり(・・・)だからな」

 

 そう言ってマコトがまたダークエルフの女将軍を見ると、彼女は(おんな)前の微笑みでサムズアップした。

 NPCの指揮官は種族の将軍の中からランダムで選ばれるのだが、中には突撃こそが戦場の花などとほざく脳筋、はた迷惑な根性論者などもいたりするので中々に油断が出来ない。しかし頭空っぽにして楽しむという意味では悪くはないだろう。

 軍団チャットにて状況の報告が逐一行われる。

 それに応じて指揮チャットで的確に指示を出していく女将軍。

 マコトは目を閉じて待つ、攻城時間も半分を切っている、それでも親衛隊に突撃の指示が出ないのは恐らくアレ(・・)を警戒しているからだろう。

 そうして刻々と時間が過ぎていく。ルーキーが落ち着きなく体を揺らしている。

 

 突然、どっと陣地が沸いた。

 

 城内に隙をついて攻め入った攻撃側が、ドワーフ城の二つあるコアの片側の破壊に成功。もう一つのコアを破壊するために直ぐに再突撃するとの連絡があったのだ。

 吉報に沸くダークエルフの騎士と親衛隊。エローフ姫は安堵したかのように豊かな胸を撫で下ろし、女将軍は満足げに頷いている。

 

 ……っ。

 

 そんな時に微かな音が聞こえた。

 リアルの環境音、もしくはヘッドギアの作動ノイズ?

 ともすればゲーム内の喧騒に紛れ、聞き違いかと思える微かな音。

 どこからだ? マコトは感覚を研ぎ澄まして探る、探る、探る。

 五感。そのうち使えるのは視覚、聴覚、そして擬似的な触覚。

 そして六感……ぽいっものが使えたり使えなかったり。

 勘違いとは思わない、たとえ他の全てから否定されたとしても彼は己の感覚をどこまでも信じる。彼は彼女にそのように教わったから。それ故に……。

 

「キキー!!」

 

 マコトは叫んだ。サモン・キキーは主の命令に迷うことなくエローフ姫に突進した。

 その狼藉に咄嗟に剣を抜こうとするダークエルフの騎士達。

 しかしキキーのほうが速い、背中のホウキを振りかぶり、驚きで目を見開くエローフ姫の頭上に振り下ろした。

 

「ぐわあぁぁ!!」

 

 打撃音、野太い悲鳴、まるで突然宙から湧いて現れたような黒ずくめの男が、キキーのホウキの直撃を受けて壁際まで弾き飛ばされる。

 それは視界から消える隠蔽(ハイド)スキルを持つ短剣職であった。

 そう、防衛側の勝利条件の一つがエローフ姫の拘束だ。ならば戦闘を回避して接近できる隠蔽持ちの短剣職を送るのは定石である。

 怒声が上がる、親衛隊とダークエルフの騎士達が武器を抜き同時に動く。

 あちらこちらから隠蔽を見破られた黒ずくめのプレイヤーが現れ、陣地の中で戦いが巻き起こる。血飛沫と剣戟の音、乱戦である、ボケっとしていたルーキーが首を刺されて殺された。

 混乱に紛れ、エローフ姫に近づこうとした黒ずくめを犬耳幼女がホウキを振って、がるるると威嚇。姫はキキーを抱きしめると蕩ける笑顔でナデナデした。

 

「へへっ、いいねぇ、いいねぇ、楽しくなってきたぜぇ!!」

 

 ルーキーが死に戻ってくるのが見える。

 マコトは口角を上げると、二体目と三体目のサモン・キキーを召喚し、腰の大型ナイフを引き抜いた。

 

 ――――

 

 襲撃に来た暗殺者を全て排除し一段落ついていた時に、ドワーフ城二つ目のシールドコア破壊の報が届く。親衛隊に突撃指示が出された。

 突撃のタイミングは親衛隊に……隊長のマコトに一任されている。

 陣地から死に戻りのプレイヤー達がドワーフ城に次々と突撃していき、砲火を受けゴミのように死んでいく。

 ライト層も廃人も等しく即死。RPGではなく、まるでFPSだ。

 マコトは陣の外に出て腕を組むと、フィールドを見渡し状況を確認する。

 ドワーフ陣営側は中央を最低限の人数で防衛し、城門に戦力を集中させて中にいるダークエルフ陣営を孤立させるつもりらしい。

 今のところ城内に突入出来ている者がいるので戦力が拮抗しているが、完全に城門が封鎖されたら袋のネズミとなって一巻の終わりだろう。

 

 偵察に行っていた親衛隊のメンバーが戻って来る、突撃準備が整うまでは待機だ。

 

「まこっちゃん、やほー!」

 

 声をかけられる。

 城に吶喊するレミングス(プレイヤー)の群の中に、両手を振ってぴょんぴょんと飛び跳ねているウルウルがいた。

 

「おいーす、ウルさん、今回はこっちかい?」

「そうそう、うちの愛らしい子達が大きすぎて、防衛側で狭い城内だと身動き取れなくなっちゃうからねぇ」

 

 そう言ってウルウルは自分の両隣にいるグリフォンとヘルハウンドに抱きついた。ペット達は目を細めると、ぐるるるるると喉を鳴らす。

 二匹が巨体のため、その合間に挟まれたウルウルの小柄さが余計に目立つ。ペットと飼い主というより、猛獣と餌といった感じなのは気のせいだろうか。

 マコトが近寄るとグリフォンに頬をペロリと舐められる。やすりのような舌に触れられ微ダメージ。凶悪な顔をしているので可愛いというより怖い。

 

「まこっちゃん達はこれから突撃?」

「おうよ、暗殺者(ヒットマン)の処理が終わったからな。時間からしてまた来るとは思えねーが、ウルさん、野生の勘(・・・・)を見込んでエローフ姫様の護衛に回ってもらっていいか?」

「はーい、何人かのテイマー仲間に呼びかけてみるねぇ」

「ありがてぇ、まじ、ありがてぇよ」

「あなた、銃後の守りは私に任せて、任務に励んでください!」

 

 ウルウルは姿勢をただし、凛々しい顔を作ると敬礼。

 

「いい女だぜ、アンタはさ!」

「えへへへへへへ」

 

 マコトはウルウルとサムズアップした拳を合せると別れた。

 城内に突入している同胞達から劣勢の報が届く、余裕はないようだ。

 親衛隊が全員集まる。整列するその姿、一糸の乱れも無し。

 マコトは突撃をかけることにした。

 

「よーし、クソ野郎ども! これから楽しいカチコミだぁ、楽しいかぁ!?」

『うおおおおおおおおおぉぉぉ――――――――――――!!!』

「奴らロリコンのクソ虫どもに地獄を見せてやる! 俺達が地獄を見せてやるぞ!!」

『ガンホー! ガンホー! ガンホー! ガンホー! ガンホー!』

「我らが偉大なる姫殿下に盾突く、プリーナ・プリプリーナに鉄槌を!!」

『エローフ・ダークエロフ姫様万歳!! 反逆者プリーナ・プリプリーナに鉄槌を!!』

 

 鼓舞するマコトの意味不明な叫び、親衛隊全員が呼応し一斉に雄たけびを上げて拳を宙に突きだした。ボルテージは最高潮。ネトゲーマーはノリこそが全て。

 狙うはただ一人、ドワーフの姫君プリーナ・プリプリーナ。

 

 ――――

 

 ワールドオンラインⅡにはサマナーというジョブがある。

 普段はひっそりと生息し目立たない。

 マゾ専用職と呼ばれている。

 サモン一体を召喚し使役すると、本体が取得できる経験が三割カットされるという呪いが課されている。手数二倍でペア狩りしているのと変わらないから、経験も減らして構わないでしょう? という理不尽な理由からだ。

 狩りでサモンを出さないという選択はない。

 サモンはサマナーの武器であり、本体火力のないサマナーはサモン専属のヒーラーでしかないのだ。

 つまりサマナーは、他のジョブより少ない取得経験での狩りを強いられる。

 二体出したら六割カット、四体出すと経験値は零である。

 その労力に見合う性能かというとそうでもない。

 むしろ数多くのデメリットを抱えている。 

 一アカウントに一キャラのみ、ジョブ変更は不可となるゲーム仕様だと生存数は絶望的だ。

 ゲームである、誰だって手軽に強くなれるジョブをやりたい。

 その人間心理は、高レベルサマナーが片手の指で数えられる程度しかいないことからして明確に分かる。

 メリットは耐久性と手数、足を止めての殴り合いなら最強。

 しかしそんなシチュエーションなんて狩りか遊び(・・)の決闘くらい。

 瞬間火力がないため、倒しきれず逃げられるのはデフォルト。

 遠距離職に引き狩りされるのも珍しくはない。

 

 そう、しかし、そうなのだ、彼らは限定された条件ならば最強になれるのだ。

 

 例えば、ソロでダンジョン潜って延々と無休憩で狩りとか。

 例えば、月一程度で開催される、一撃死する戦場とか。

 本体の能力が抑えられた戦場、唯一、武器(・・)の制限がなされないジョブ。

 故にマゾ仕様に耐え切り、それを至上の喜びとする彼らは戦場では敬意をもってこう呼ばれる。

 

 戦場の支配者(バトルマスター)と。

 

 

 ◇ドワーフの城 ノイン

 

 

 城門で待ち構えるドワーフ陣営にマコト達、親衛隊が突撃する。

 その勢いはすさまじく、親衛隊は今まで抑えていた鬱憤を晴らすかの如く獅子奮迅の活躍を見せていた。

 全ては敬愛すべき我らがエローフ・ダークエロフの為に!!

 その熱狂さ、そのうち彼らのうちの誰かがエローフ教を作りそうだ。

 辛うじて保っていた拮抗は破れドワーフ陣営は後退を余儀なくされた。ダークエルフ陣営は勝利をつかむべく狭い城内の通路を侵攻する。

 だがドワーフの姫の居る王座の間、そこに繋がる謁見の間で勢いは止められることになる。六匹(・・)のサモンを引き連れたやつがいたからだ。

 ドワーフの城内防衛の主軸、限定された条件での最強。

 それは戦場の支配者(ラスボス)

 城内の戦いは再び拮抗する。

 押さえる必要がある、マコトは六匹(・・)のキキーを引き連れて前に出た。

 視線が絡み合う、マコトとやつにそれぞれの陣営からの遠距離攻撃が直撃するが、まったく揺るぐことはない。マコト達以外のプレイヤーがゴミのように死んでいく。

 

 二人のサマナーは、敵味方入り乱れあう広間の混戦の中で向かい合う。

 

「ふふ、久しぶり、逢いたかったよマコト君」

 

 マコトに親し気に話かける、彼女の名はノイン。

 その周りを守護するように佇むのは甲冑を纏い、剣と盾を持つ擬人化された猫達。

 ノインはマコトと同じ古参のサマナーだ。

 濡れる光沢をもつ黒髪、絹のような滑らかな白い肌、ゲーム故の黄金律の美貌。

 その肢体、ドレスの上からでも分かる、豊かな乳房と細い腰とむっちりとした下半身、メリハリのある濃艶な肉体は男ならば情欲を禁じ得ない。

 針金のような手足のモデル体型の女キャラが多い中、ツボを分かってますと言わんばかりの完成されたキャラクリエイトだ。

 しかし、それだけならマコトは何も感じなかった。いや、エロイなーお願いしたいなーと思うがそれ以上は何もなかっただろう。

 

「ねえ、いい加減、僕の元にきてよマコト君?」

「……なんで俺なんだ? 彼女の次にアンタが皆を仕切れていた。他の連中はアンタが声かければ、すぐにでもついていくだろうさ?」

「いらないよ、僕が望むのは君だけ……」

 

 彼女の名はサマナー・ノイン。

 かつての盟友であり、そして今は敵だ。

 

「だって、僕は君のことが好きだから」

 

 だって、やつはネカマでホモだから。

 

「断る! そういうのまじ止めろよな、もう!!」

「つれないなぁ、でもそういうところが……」

「いやいや、まじで勘弁しろよ、別にネカマに偏見はないが、アンタみたいな真正だと俺まで色々と誤解されるのよ!?」

 

 彼女の元にいた時、ノインは彼で、容姿も性格もイケメンだった。

 彼女が去り、盟友達はそれぞれの道を行き、久しぶりに会った時にはノインは工事を完了させ女になっていた。

 フレームレスの眼鏡に乳を強調するタイトなドレス姿、ウイッチスタイル。

 マコトは女教師物が好きだ。それを聞いたノインは高額課金の性別変更までして、マコトの好みに合うようにキャラクリエイトをやり直したのだ。

 全てはマコトを手に入れるためだけに。

 恐ろしくて震える。おお、エローフ姫よ、どうか我が尻を守りたまえ。

 

「やれやれ、仕方ない……聞き分けの悪いワンコは調教することにしよう。僕が君の頭を踏んであげるよ?」

 

 深いスリットの入った長いスカートから、ノインのむっちりとした美しい太ももがスッと差し出された。

 

「ありがとうござ……あ”あ”ぁん!? やってみろよこの可愛いニャンコが、ぶらああああああぁぁぁぁ!!」

 

 思わずお願いしそうになったマコトは、某竜玉漫画の人造人間のように威嚇。

 マコトの犬耳幼女(キキー)達が、がるるるると唸る。

 ノインの甲冑の猫(ナイトキャット)達が、しゃあああと対抗。

 二人の戦場の支配者(サマナー)は同時に吠えた。

 

 接近戦になる。サマナー本体には遠距離攻撃手段はない、ましてこれ程の混戦となると遠距離からの憑依サモン操作では遅すぎる。故に接近戦以外にありえない。

 ノインは笑いながら二本のサーベルを振るう、その華麗さ、まるでアラビアの剣舞のよう。大型ナイフで受け流し回避するマコト、避けられない剣撃は体で受け止め強引に反撃する。専用の武器マスタリーの無いサマナー同士、威力は高が知れていた。

 

 ましてやサマナー自身が、受けたダメージをサモンに転移するという極悪なパッシブスキルを内蔵している。一体につき二割軽減、五体もだせば本体は無敵バリアー状態。サマナーのダメージを受け持つサモンは本体のHPタンク、そのサモンのHPが減ったら消費MP少ないサモン用ヒールで回復だ。

 

 サマナーの攻撃とは手数を増やし相手の集中力を乱すため……本体の攻撃はカス威力なんで、別に突っ立ててもいいんだけど、それだとなんかカッコ悪いし……。

 

 一見は優れた剣術使い同士の戦いに見えて、実はあまり意味のない切り合い(チャンバラ)をする二人の周りでは、互いの六匹、計十二匹のサモンが手を取り合って踊り狂う。それぞれがそれぞれ、まるで個別に意識があり、生きているような動きで牽制し攻撃しあう。マコトとノインのサモンヒールが申し合わせた演武のように同時に飛んだ。

 

「ぱねっ! マコトの兄貴、ぱねっ!?」

「す、すげえぇ……あれが古参サマナー同士の戦いかよ!?」

「どうなってるんだ!? 何であんな動き出来るんだよ!?」

「まるで逆シャ〇のニューとサザビのファンネルだ!」

「幼女が一杯だぁ……はぁはぁ」「おっぱい、おっぱいぃぃぃぃ!!」

 

 いつの間にかマコトとノインの周りからプレイヤー達が下がり、謁見の間は一騎打ちの様相を呈する。見ている者達からは驚愕と歓声と称賛の声が次々と上がった。

 

 サモンの操作の方法は大きく分けて二つある。

 

 一つは命令操作……これは【攻撃する】【攻撃停止】【移動する】等のコマンドを入力し、半オートマチックでサモンを動かす方法。一度命令されれば対象が消えるかサマナーが命令を変更しない限り指定された行動を続けるのだ。

 複数のサモンを操作する場合は、通常は全体命令が出来るこのやり方になるのだが動きは非常に単調で単純になる。

 

 もう一つは一匹のサモンに憑依する直接操作。プレイヤーが本体の代わりにサモンの体に乗り移り操作する方法で、ミニモニター確認など手間は掛かるが、本体と同じ感覚での操作が可能のため様々な状況で活用できる。

 

 そしてマコト達が今している操作法はこの組み合わせ。

 彼女が考案した、複数への直接命令操作だ。

 

 マコトは本体を半オートマチック化させると、六匹のサモン、六つのミニモニターをそれぞれ切り替え操作する。

 操作が必要か、半オートマチックか、憑依するか、まるでテレビのチャンネルを切り替えるようにモニターを選択し、状況を判断して次々と個別にコマンドを入力。

 単純な全体行動では直ぐに見切られ食われる、故に瞬時に切り替え操作する。それがサモン達に命が宿っているかのような動きをさせるのだ。

 

 左右の目を別々に動かし複数のモニター見る俯瞰視点。

 

 ぼんやりとした八方目、彼女に教わったサマナーの基本であり奥義。

 ノインの瞳が赤く輝いている。マコトと同じ操作をしているのだ。

 切り替え時、本体とサモンの体がラグでカクッと振動、それが秒間で行われているため微振動しながらの戦闘。

 技量は互角、サモンのコストはナイトキャットの方が上だが性能は大差ないので問題にならない。故に接戦になる、お互いの癖と行動パターンは全て把握済み。それを超えて更に読みあう、先の先の先を将棋のように予測する。

 ぶつかり合う犬と猫、わんわんにゃーにゃーと鳴き声がハウリング。

 この状態、ボクサーに例えるならば息を止めてのラッシュに等しい。酷使する脳に熱がこもる、マコトの限界はすぐそこ、だが苦しいのはノインも同じだろう。

 

 そしてノインも……やつも楽しいと思っているはずだ。

 

 負けられねぇと、気合いを入れ直した瞬間、マコトは気がついてしまう。

 揺れている、揺れている、ノインが大きく揺れている。

 メロンのようなノインの巨乳が微振動で、たぷたぷと揺れているのだ。

 マコトのヘッドギア内の大小七つのモニターが、ノインの微振動する美乳を様々な角度から最適な距離で捉えた。

 微たゆん、檄たゆん、プリンのような柔らかさ、おっぱいぷるんぷるん。

 なんですかこのけしからん乳は!?

 なんですかこのいやらしい乳は!?

 たゆん、たぷたぷ、たゆん。

 うほっ、堪らんぞ、堪らんです、幸せです。うおおおおお!?

 無意識のうちに、まろやかな二つの球体に指を伸ばしそうになる、何故ならマコトはおっぱい星人だから。

 時間にしてほんの一秒弱、はっと我に返った。

 マコトが本体モニターの視界をあげると、確かな重量感をもって揺れる乳の上、チェシャ猫のように舌なめずりして妖艶に笑うノインの顔。

 

「し、しまっ!?」

「ふふ、相変わらず君は初心(ウブ)だね」

 

 致命的な操作と思考の停止、甲冑の猫が襲い掛かり、犬耳幼女が五体倒される。

 そして間髪入れず、六匹のナイトキャットとノインの同時攻撃がマコトの体に直撃した。

 

「ぐわあああああっ!!」

 

 大ダメージを受け画面を埋め尽くす赤いエフェクトが一瞬入る。

 マコトは絶叫した。

 別に痛くはないけど大ダメージを受けたら叫ぶのがこのゲームの作法だ。これを守れないやつはノリが悪い陰キャの称号を与えられてしまう。リアル陰キャ故にそれだけは何としても避けねばならぬ。

 体が飛ばされて、ごろごろと転がる。

 生き残りのキキーが、ご主人たまーとばかりにテケテケとマコトの後を追う。

 

 耐久性が高いサマナーを仕留める手段は二つある。

 

 インスタントキルといった短剣職系列が持つ一撃即死スキルを成功させること、もう一つはサモンを四体以下に減らし、本体の無敵バリアーを剥ぎ取ることだ。

 ノインは一瞬の隙をつき、マコトのサモン五体を先に倒し、防御性能が下がったところで集中攻撃を仕掛けた。己の胸部装甲(たわわ)を囮にして。

 

 カツカツと近づいて来るハイヒール、猫達のニャンニャンという足音がする。

 

「ふふ、僕の勝ちだねマコト君」

 

 仰向けに倒れるマコトの額に、ノインの爪先が優しくコツンと乗せられる。

 彼女と違いノインは何だかんだと遠慮気味で初々しい。

 顔面騎〇位を頼まれたら窒息させる気でするS嬢と、苦しくないかしらと心配しながら恐々と腰を下ろす素人と言ったところか。

 待機状態になったキキーが、ホウキでのんきに床を掃いている。

 マコトは見上げた。わずかに開いたノインの足、ロングスカートの内側に見えたのは、むっちりとした太ももと、その根元を覆う挑発的なデザインの黒いパンツ。

 豊かな双丘の谷間から、フレームレスの眼鏡を着けた美貌の魔女が微笑みながら見下している。

 

 ぞくぞくした……悟る、マコトはあらゆる意味で完全に敗北したのだ。

 

「マコト君は彼女に踏まれるのが大好きだったものね……嬉しいでしょう?」

「あ、ありがとうございますぅぅぅぅぅ!!」

 

 マコトは大勢のプレイヤーの前で性癖をばらされて、敗北の悔しさにむせび泣く。

 …………でも録画した。

 

 

 ――――

 

 

 マコトは興奮のあまりノインのハイヒールの爪先をペロペロした。すると魔女はポッと頬を染め緊急ログアウト。その結果、防衛の主軸を失ったドーワフ陣営は戦線の維持が困難になって崩壊し、攻城戦終了のギリギリの時間で、親衛隊がプリーナ・プリプリーナ姫を拘束することに成功したのである。

 

 今回の攻城戦はダークエルフ陣営が勝利を収めた。

 

 マコトは特別報酬のがんばったで賞を授与。

 エローフ姫とプリーナ姫のサイン入りツーショット写真と【負け犬の称号】を授かったのだ。

 

 

 

 ◇一つの区切り そして、さまなな日々は続く

 

 

 翌日、メールを貰ったマコトが向かったのは、始まりの街から少しだけ歩いた場所にある、のどやかな牧草地帯だった。

 キキーは出していない、二人っきりの話に無粋というものだ。

 牛や羊といった家畜を囲うための広い柵……のオブジェクトがある。

 そこはかつてマコトの盟友達、多くのサマナーが集い朝まで語り合った場所。

 懐かしさに感傷を覚えながら、長い柵の終点まで歩くと彼女がいた。

 何とも言えない気持ちにしばらく見つめる。

 そして、柵に背を預けて空を見上げている彼女にマコトは声を掛けた。

 

「よーう、待たせたか?」

「あ……来てくれたんだ?」

「そりゃ勝ちを譲ってもらって、無下にできないからな」

 

 ウイッチスタイルの黒髪の女性、ノインだった。

 

「でも、誘いの話ならお断りなんだぜ?」

「ふふ、それはまた次回にするよ」

 

 ノインは小さく舌を出す。

 マコトはノインの近くに移動すると腰を下ろし柵にもたれ掛った。

 

「で、話って何よ?」

「ん、久しぶりに君に会って、前より大分ましになっているようだったから、もう少しお話したいなって思ったんだけど迷惑だったかな?」

「あー…………」

 

 その指摘にマコトは頭を掻く。

 そしてバツが悪そうにノインを見上げる。

 下から覗き見た魔女の双丘はやはり大きかった。

 

「俺って、前はそんなに駄目そうだったか?」

 

 ノインはロングスカートのしわを伸ばしながらマコトの隣に腰を下ろす。

 

「前はすべてを拒否して惰性でこの世界にいる感じだった。彼女がいなくなってから、君は全然楽しそうじゃなかった」

「……そうか」

「ふふ……でも、今はいい感じだよ。楽しめること見つけたんだ?」

「まあ、知り合いは増えたかな?」

 

 二人して何となく空を眺める。

 計算されランダムに構築される雲の流れ、仮想世界と思えないリアルな空。

 沈黙が続くが気まずさはない。いつまでもこうしていられそうだ。

 やがてノインが零すようにマコトに質問する。

 

「ねえ、僕がもし彼女の行方を知っていると言ったら……君はどうする?」

「…………彼女は生きてるのか?」

 

 マコトはマナー違反と思いつつも逆に質問を返した。

 だがノインはゆっくりと頷く。

 

「そっか……じゃあ、それでいい、生きているなら十分だ」

「………本当に?」

「ああ、それとも知りたいと言えば教えてくれるのか?」

 

 ノインはうつむくと首を左右に振った。

 その仕草にドレスで強調された豊かな胸が揺れるが、マコトの情欲は動かない。

 

「だろ? だから今はそれでいい」

「……マコト君は意地悪だ」

「なんだよ、今更気がついたのか?」

 

 あの頃のようなやり取り、でもあの頃とは様々なことが違う。

 それでも二人はあの頃のように静かに笑う。

 そして笑いが止まり、ノインは何かを決意したように表情を引き締めた。

 

「うん、いい機会だから、マコト君の誤解を解いておくよ」

「うん?」

「君は僕のことをネカマ、ネカマって言うけど、僕の中身は女だからね?」

「………………」

 

 マコトは空を見上げたまま立ち上がり、ズボンを軽く叩き付いた草と泥を払う。そして腰に手を当てると背を伸ばし呟いた。

 

「よし……依頼こなしてくるか」

「ちょ、ちょっとマコト君。僕が一大決心して話したのに、スルーって酷いじゃないか!!」

 

 ノインの抗議に、マコトは本当に悲し気に答える。

 

「俺は一度、ネカマに騙されて装備を全て取られる酷い目にあったん。二度も騙されるほど阿呆ではないのよ」

「そ、そうなんだ、大変だったんだね……い、いや、僕は本当に女だからね!?」

「はいはい、聞こえません」

 

 両耳を手で押さえ、マコトは歩き出そうとする。

 ノインは逃げられたら堪らないとばかりに、慌ててマコトの上着をつかんだ。

 

「じゃ、じゃあ、リ、リアルで会おう! そうだ! ビデオチャットでもいい! それがいい! それなら僕の言葉が本当だと分かるでしょう!?」

「あー分かった分かったよ。尻は大事なんでゲーム内の付き合いだけでよろしく!」

「尻って何だよ、君!? 全然分かってないじゃないか!!」

「だからあぁ! 俺は掘られたくねえんだよぅ!? ぶらあああああぁぁぁぁ!!」

 

 マコトとノインの言い争う声が、静かな牧草地帯にどこまでも響き渡った。

 

 ――――

 

 時は雲のように流れる。

 あの頃と同じ雲は存在しない、でも新しい出会い(イベント)がある。

 だからマコトは、この世界で生きていく。

 再び彼女と、そしてまだ見ぬ人に出会うために。

 

 サマナーな日々は続いていく。

 

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