あじぽんぽん短編集   作:あじぽんぽん

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亜人の戦奴隷の俺が、戦いの中で見た残酷で幻のような物語

胸糞です、お気を付けください


死を願う魔王

 夢―――

 

 そう、それは夢、私は夢を見る。

 

 夢の中での私は、私/俺であり、俺であった。

 

 そこでは俺は亜人と呼ばれる奴隷だった。

 好きで奴隷になったわけではない。

 人族の亜人狩りにあい村ごと焼かれ奴隷となったのだ。

 年寄りや男達は殺され、女や子供は犯され、そして殺された。

 わずかな者が生き残り奴隷となった。

 

 生き残りの一人が幼かった俺だ。

 

 俺達は誇り高き人族の奴隷として戦った。

 敵は魔の王とその配下たる魔族達。

 人と魔の終わりの見えない戦いの中で、俺は命をすり減らすように育った。

 

 周りには俺と同じ亜人の奴隷が多くいた。

 全て良いヤツだったわけではない。

 全て悪いヤツだったわけでもない。

 力のない俺はその中で鍛えられ、戦った。

 

 戦いが始まれば多くの仲間達が死んでいった。

 戦奴隷の命は軽い、その中でも亜人の扱いは一番酷いものだ。

 槍の先端のように一番最初に突撃させられた。

 

 魔族。相手も亜人。

 

 魔族という亜人を殺すために亜人を当てるのだ。

 

 全滅になることも珍しくはなかった。

 死ねる者はまだよい、亜人の強靭さのため、苦しみを味わい何日もかけ死ぬ者も少なくはなかった。

 手が片方なくなる程度ならまだましだ。

 片足がなくなればその場で人族に切り殺された。

 俺達は消耗品であった。

 高価な薬を使ってまで戦奴隷を治療してくれる物好きなどいない。

 

 戦いの後も地獄だった。

 

 魔族に仲間を殺された人族の怒りは亜人に向かう。

 多くの亜人が人族の兵士達から暴行を受けた。

 その中で見目の整った者は集団で犯された。

 俺も例外なく暴行を受け、そして犯された。

 

 生き残ったものが補充される新しい戦奴隷と共に次の戦いで先陣を切るのだ。

 

 逃げ出す者もいた。

 しかし逃げ場なんてどこにもなかった。

 人族の国では戦奴隷は戦場以外に行き場はない。

 見つかれば殺される。

 そして魔族は一度自分達に刃を向けたものを絶対に許さない。

 

 そうやって俺は多くの亜人達と一緒に戦場で戦った。

 戦い、死に逝く多くの亜人達を看取り俺は生き残ってしまった。

 

 幾つかの戦場を渡り歩き、いつしか俺は赤目と呼ばれるようになる。

 どのような戦いに投入しても必ず生き残る亜人。

 俺の赤い目を、そのままとって赤目の英雄……だそうだ。

 

 赤目は……魔の王の非道で残虐な圧政に怒り、正義のために反旗をひるがえし、多くの者を守るために戦い、そして敗れて人族の国に亡命してきた亜人の戦士。

 その慈悲深い人族への恩を返すため、戦い戦果を上げる亜人の英雄。

 

 誇り高き偉大な人族に仕える最も鋭き剣。

 

 俺が聞かされたのはそんなところだ。

 亜人ですら人族の偉大さにひざまずき喜んで戦いに赴くという。

 戦意高揚を狙った生贄の羊というわけだ。

 そんな話を人族の兵士達に犯されながら聞いた。

 

 俺が何と呼ばれようが俺自身の扱いは戦奴隷だ。

 体を自由にさせることで暴行から逃れ生き延びることができた。

 戦場と犯される合間、わずかな時間で体を休めることができた。

 膝に顔を埋めて眠る時間だけが、この世界で自由であった。

 

 何も感じず、何も考えず、浅い眠りを繰り返し命をつないだ。

 

 ある日、戦奴隷全員が水浴びをさせられた。

 ボロボロのすえた匂いのする服ではなく洗い立ての綺麗な服を渡された。

 それだけではない、今まで食べたことがない、人族の兵士達が食べる豪華な食事が出されたのだ。

 皆喜んだ、怪しむ者もいたが少数だ。

 明日とも知れぬ命、仮に最後の食事なら美味しいほうがいいに決まっている。

 皆、腹いっぱいに食事をとり休息をとることができた。

 

 俺は皆とは離れた場所で一人食事をとっていた。

 俺の体には水浴び程度では消えない人族の性臭がこびりついている。

 仲間は何も言わないが、優れた嗅覚を持つ亜人達だ。

 普段ならともかく、豪華な食事時にいい気分はしないだろう。

 

 俺は少ない食事を食べた。

 

 俺の肉体は長い年月による戦いと、日々の酷使によって死の兆候が見えはじめていた。

 細くなった胃に多くは入らない、だから楽しむように少しずつ食べた。

 パンと豆スープと乾燥肉。久しぶりに食べる人間の食事だった。

 

 残念なのは、俺の味覚が既に消失していて味が分からなかったことだろうか。

 

 なぜ綺麗な服と豪華な食事が出てきたのかを俺は知っていた。

 事前に人族の兵士から聞かされていたからだ。

 

 勇者の兵団、彼らが戦奴隷達を視察しに来るということを。

 勇者……人族の希望と言われ大事に育てられた少年少女達。

 伝説となる者達のため、つき従う気高きも煌びやかな人族の兵士達。

 

 勇者である彼らは伝説の異界から来たという。

 

 楽園のような世界で育ったらしい彼らは世界の残酷さを知らない。

 戦奴隷というモノが存在していることも知らない。

 全ての兵士が人族の、世界の平和のために戦っていると思っている。

 事実は、人族によって彼らに隠されているのだから。

 

 彼らの力は名前付きの魔族と戦うまで温存される。

 

 名前付きの魔族は悪の神の邪悪な加護を受けている。

 勇者達のように光の神に愛され正義の加護を受けて、尊き聖剣の力を無くしては倒すことが出来ないのだ。

 名前付きはどの戦場にも現れ猛威を振るい常に魔族達の中心にいる。

 全ての兵士は、戦奴隷は勇者の兵団のために、名前付きまでの道を作る槍の穂先となって戦い死んでいくのだ。

 

 現れた勇者の兵団、彼らは誰もが若かった。

 少年も少女もまるで幼子のような顔立ちだった。

 はしゃぎながら戦奴隷達を視察していく勇者達。

 彼らのため犠牲になる、戦奴隷達はいい顔をしなかった。

 

 俺は彼らに紹介された。

 

 一人一人に握手をされていく……【赤目の英雄】の話は彼らの耳にも届いていた。

 俺は話しかけられても口を開かなかった。

 戦争の後遺症で喋れなくなっている。

 そう演じろと人族の兵士に言われていた。

 正直助かった、実際に壊れかけの体では舌が回らず、痙攣して、喋ることも満足に出来なかったからだ。

 

 最後に俺の手をにぎった少女に言われた。

 彼女は幼いが美しい顔立ちをしていた。

 

 ――戦場の中で佇む、あなたの姿を見ました。

 ――その姿は、とてもとても気高く、孤高で美しい人と感じました。

 ――あともう少しです、お互いこの世界のために頑張りましょう。

 

 頬を染めて言われたのだ。

 

 そして勇者の兵団は去って行った。

 俺はその晩、人族の兵士達に暴行を受けながら犯された。

 

 

 

 それは俺が人族の下で経験した最後の戦だった。

 

 人族と魔族の最終決戦。

 今までに見たことのない、大波の如くひしめく魔族の軍勢。

 中心にいる存在こそが、邪神の忠実な僕、世界の悪、魔族の魔王だ。

 

 双方の総戦力による戦いは熾烈を極めた。

 

 戦奴隷達は槍の穂先のように魔の軍勢に突進し、突き刺さり食われた。

 乱戦、多くの魔族を切り、多くの魔族から切られた。

 獣のように吠え、獣のように猛り、獣のように噛みついた。

 武器は折られ、武器を奪い、噛みつき爪を立て肉を切り骨を砕いた。

 長い、長い、本当に長い時間を戦っていた気がする。

 俺の周りの者達は、気がつけば敵も味方も全て逝なくなっていた。

 

 戦奴隷の仲間達は全て死に絶えた。

 いつの間にか俺一人だけが、一番先頭に立って戦っていたのだ。

 

 いや、違う、それは違う……。

 

 あの時、あの瞬間、あれを見た時、俺が一番後ろにいたのだから。

 

 

 勇者の兵団、魔王に勝つために駆け抜けていく人族の聖なる剣の使い手達。

 俺達が切り開いた道の先に魔王がいる。

 聖と魔の最後の戦いが始まった。

 

 様々な神の奇跡が放たれ、魔王に向かった。

 

 だが勇者達の剣は魔王には一刀も届かなかった。

 魔王はあまりにも強すぎたのだ。

 俺の目の前で、魔王に一刀も浴びせることなく彼らは敗北した。

 勇者達は人族の目の前で、魔族達に弄ばれるように無残に殺されていった。

 人族の希望はあっけなく潰えてしまった。

 

 ……最後に手をにぎってくれた少女を俺は殺した。

 

 犯され嬲られ、髪を切られ、手足を千切られ、内蔵を抉られた彼女を魔族の中から救いだして殺した。

 

 誇り高かったはずの人族の軍は、誇りを投げ捨てて敗走した。

 王も貴族も平民も関係なく、誰も彼もが我先にと逃げ出した。 

 一番前に立っていた俺は、一番後ろに立つこととなった。

 

 人族の兵士が俺に皆が逃げるまでの盾になって戦えと言った。

 

 俺は死ねと言われた。

 命を捨てろと言われたのだ。

 だが……だけど死にたくはなかった。

 だからこそ戦ったのだ。

 

 俺がここで死ねば、俺達、戦奴隷がどのように戦ったのかを……。

 どのように願い、思い、生きていたのかを誰にも伝えられない。

 俺は決して認めない。

 たとえ偉大なる神々が俺達の存在の全てを否定したとしても、それだけは絶対に認められない。

 俺は命を繫ぐために、生きるために、命を賭けて最後まで戦う。

 

 俺は戦った。

 

 魔族達を切り捨て、無数の刃に体を削られた。

 炎に焼かれ、雷に焦がされ、風に裂かれた。

 そのたびに死神の鎌は俺の体を撫でるように通り過ぎる。

 

 雲霞のような魔族達の壁を抜け、一人の男の前まで辿りつく。

 

 男……眼前には魔王がいた。

 

 肉体はすでに限界を越えていた。

 目はまともに見えず、肌の感覚はなく、それでも生きるために絶叫した。

 魔王から放たれる凶手を掻い潜り肉薄する。

 いつの間にかにぎっていた、少女の物だった聖剣を無我夢中で突きだす。

 

 俺は魔族の王の胸に深々と剣を突き刺していた。

 

 ……最後に魔王が言った。

 本当に、本当に満足した声で言ったのだ。

 

()、貴様が次の魔王だ』

 

 魔王は赤い目をしていた。

 

 俺は、俺/私は、私は―― あああ―――― 私はぁ!!!

 

 

 私は夢を忘れる。

 

 

 いつもどおりの朝だった。

 何故か涙があふれ、何故か涙はいつまでも止まらなかった。

 

 そして今日も……。

 

 私は魔王として、神々に定められた世界の調和を守るため。

 魔族と人族の天秤を取るために、殺して殺される戦いに赴くのだ。

 

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