文明が崩壊し廃墟が広がる中でも人間的な生活をする変な触手がいた。
そんな触手な彼女が生活水準を向上させるために頑張るハートフルな物語である。
やあ諸君、私はラブリーでチャーミーな百年物の触手様だ。
さっそくで申し訳ないが、簡単な自己紹介からさせてもらおうと思う。
時間は有限である、互いをよく理解し、良い関係を構築するのは早いに越したことはない。
たとえ、こんな異形の身であったとしてもだ。
まずは名前、かつては佐藤智子と名乗っていたが、今となっては知る者はいないだろう。
現在は名無しの女というわけだ……少し格好よくないか? 触手だけど?
次に私の現在の姿だが、太ましい肉の筒が直立しているような形状である。
筒の下に触手が一杯ついている――いわゆるローパー触手というやつだな。
自画自賛になるのだが、とても神々しくて鏡を見るたびにウットリとしてしまう。
かの有名なマーラ様とだって美しさを競い合えるレベルだと思うのだよ。
だって、頭頂部(?)に穴が開いてるこの形状はどう見てもオナ……ごほんげほん!
ええっと、まん丸な巨大眼球と薄ピンク色のモチ肌がなんとも堪らんだろう?
この姿になった経緯についてだが、さかのぼる事の百年前だ。
その頃はまだ人間様だった私は、そこそこの会社で事務職として働いていた。
佐藤智子三十二歳独身、趣味はBLゲーという果てしない夢を追及するロマンチストだった。
可もなく不可もなくどこにでもいる、その他大勢の決して主役にはなれぬ平凡な女さ。
運命のあの日、私は仕事上がりに牛丼屋に行き、カレー定食をモリモリと食していた。
物足りず、たまごを追加し、ライスも貰おうかと迷っていた時にそれは起きた。
テーブル席に座っていた女子高生達が突然苦しみだして、雄たけびをあげデ〇ルマーンした。
見る見るうちにエルフ、ハーピー、アラクネ、ラミアなどの化け物に変化してしまったのだ。
おおう、と声をあげて見ていた私の体に凄まじい激痛が走り、皮膚がべりべりと裂けて触手へとデビ〇マーンしていた。
いや、あんときは、我が事ながら実にぶったまげた。
思わず「私は触手属性かよっ!?」って叫んでしまったくらいだ。
怒りで触手から大量の謎の白濁な粘液を吹き出し、ぶっかけレッツパーリィしちまったよ。
回りにはヌチョグロになった化け物だらけ、よく考えたら無銭飲食だしカオスの極みでしたな。
そうなってしまった理由?
んなもん、私のような愚民には分からぬよ。
人類文明の崩壊した現在、原因を突き止めた者がいるのかも不明だ。
文明の継承者を自称するエルフどもなら、何かをつかんでいるかもしれない。
しかし奴らとは敵対してるし、一介の触手としても今さらナンも興味はないです。
ただ……生き物が突然変異し、神話や伝承などに出てくる幻想の住人となってしまったあの日。
この星から全ての人類が消えてしまったかもしれない変革の夜。
最後に食べたカレーの味と、満月がやたらと大きく美しく見えたのだけは鮮明に覚えている。
そんなローパー触手な私だが、実は人間の頃よりも、人間的な生活を送っていた。
私の住む地区は、知性は無いが年季の入ったデビル〇ーンが多いので中々に修羅の国だ。
実際には、彼らはテリトリーを荒らさない限りは襲ってはこないので平和なものである。
意思疎通ができない、姿が醜いというだけで攻撃してくるアホは当然のようにいる。
エルフの冒険者とやらがそのアホ代表だが、やり過ぎたんで入って来た途端に襲われる。
自業自得としか言いようがないが、危険すぎて奴らはここにはあまり近寄らない。
そのような場所に立ち並ぶ、大型倉庫のガレージの一角が私の住処であった。
中を探せば、保管状態がよく百年たっても使える新中古な家電が沢山見つかる。
それ以外にも酒や缶詰、野菜や人工肉の家庭栽培キットなどのアイテムもわんさかとある。
人間並みに……あるいはそれ以上に細かい作業ができる私の触手(小)
知性ある生命体として文明の利器を好き放題に独り占めできるのだ。
広々としたガレージ内はメイドロボによって、私好みのモダンな内装に整えられている。
休日(毎日)は映像再生機のライブラリーに保管されているサメ映画をチョイス。
高級ソファーに寝そべって冷えたビールを手にカランカランとお大臣気分。
メイドロボが作ってくれる、おつまみをつつき、鑑賞にひたるのが最近のマイブームである。
こんな贅沢ができるのは、百年たっても電力供給し続けるソーラー発電システムのお陰だ。
千年耐久のCMキャッチコピーは伊達じゃなかったよ。
千人乗ってもだいじょうぶぃ……すまんこれ以上は危険なネタだな。
まあ、倉庫に大量保管されていたメンテナンスロボで設備の維持をさせているのもあるな。
それで今日は、住処から少しだけ離れた場所にある食料供給プラントに来ていた。
文明崩壊前は各種の食料を生み出していた地下深くにある施設だ。
培養池から超高級食材、伊勢海老を確保した。
最近育成に少しだけ成功したのだが、それまでには艱難辛苦の物語があったと言っておこう。
エコバッグに第一次出荷分を詰め込み、ガードロボに挨拶してプラントを後にした。
えっほえっほと触手を交互に動かして家路を急ぐ。
伊勢海老は豪快に半分に切り、シンプルに塩だけふって七輪でじっくりと焼いてみよう。
きっと焼きあがった伊勢海老は頬っぺたが落ちるほど美味しいはずだ。
六尾もあるし、メイドロボに手の込んだ一品を作ってもらうのも悪くはないな。
お酒は何にしよう、作った濁酒にしようかな……想像に粘液がじゅるじゅるとたれる。
私はそんな事を考えながら、甲殻類をそのまま喰らおうとする触手な本能を抑え込んだ。
野蛮行動をとると冗談抜きで知能が減っていくから危険である……私の同族のように。
光合成で栄養をまかなえるローパー種というものは怠けるとすぐに
触手な私の知性と記憶を保ってくれるのは人間らしい豊かで文化的な生活。
缶詰一個でも事足りる食事に手間をかけ変化をもたせているのは、そのような理由があるのだ。
人間は考える葦という言葉は、まさしく今の私のためにあるような格言であった。
はぁはぁ……バリアフリーを望む、ローパー触手様にはこの高低差はきついんじゃい!
もう少しで住処に着くといったところで視界を横切る飛行物体。
羽が舞い落ちる。人間サイズの背中には白く大きな翼がバサッバサッ羽ばたいていた。
翼だけしか見えないので断定はできないが、恐らく天狗様か天使だろう。
たまにヴァルキリーなどのレアがいたりするけど、この触手にとってはカモである。
イソギンチャクのように動かずボケッーと眺めていたら振り向かれた。
癖の無い金の髪にキューティクルな天使の輪。
胸甲冑にスカートを着た女の姿は見るにからに天使……かな?
パンツをずり下ろせば一番わかりやすいのだが……天使という種族は両性具有だからね。
ん? 何でそんな事を知っているのか?
私は百年物のヌルヌチャな触手様だぞ、言わせるなよ恥ずかしい。
その天使ちゃんだが、私の姿を視認した瞬間に、キッという敵意の眼差しを向けてくる。
体は女らしいシルエットだが、顔立ち少女のものだった。
ああ、これは第三世代以降の天使だとすぐにピンときた。
幻想世界の住民のような姿とはいえ、生命である……やれば子供ができる。
どの種も第一世代は元は人間なので、知性があり美醜感が近いものなら対話可能だ。
しかし世代を重ねるごとに、種独自の価値観、本能に染まっていく。
天使は「我らこそ正義なり」なイカした性格の者が多いため、あまり付き合いたくはない種族である。
実は第一世代の天使に知り合いがいるのだが、元同人作家で特殊な感性と性癖をもつ彼女は、最近の若い
「うわさ通りのけがらわしくて卑猥な魔王めっ!! エルフ達の平和を脅かすあなたを、わたくしエルメイアが討伐させていただきますわ!!」
大空を羽ばたきながら私に指を突き付け、キリッと戦いの宣言をする天使ちゃん。
うん……魔王? エルフどもの平和を乱すってなんぞな?
「さあ、このエルメイアが作りだす輝かしい伝説の一ページとなる事を誇って逝きなさい!!」
天使ちゃん事エルメイアは、意味不明な中二病くさい発言をして両手を頭上にかざした。
途端に空が真っ暗に曇り、遥か上空でふっとい雷が走ると、遅れて凄まじい轟音が鳴り響いた。
天変地異を思わせる異常な事態であった。
「受けなさい! 聖なる雷、ジャッジメント!!」
エルメイアは、元気玉だ! といった感じのモーションで私に対して両手を振り投げた。
遥か天空から軌跡を描き、音速で迫る雷の塊。
鈍足ローパーな私に回避できるはずもなく、全て被雷してしまう。
ウン百万ボルトの雷に包まれ肉体が放電する――ばりばりと激しい音が鳴り、私を中心としたアスファルトの地面に電気が流れこんで周囲の草木が一斉に燃えだした。
まさしく、摩訶不思議な超常現象である。
幻想世界の住人となってしまった人類だが、変ったのは姿形だけではなかった。
魔法じみた力、そして、種ごとにそれぞれが固有の能力を手に入れたのだ。
アラクネなら蜘蛛の糸を吐く。
ハーピーなら高速で空を飛び。
ラミアなら剛腕、といった感じで。
私? 触手ですぞ? 触手ぶんまわして謎の白濁液を無尽蔵に噴出できる、それ自体が能力。
「おーほほほほほっ! 邪悪なる魔王など、神に愛されし者エルメイアの敵ではないのです!!」
などとイカれた供述をし、地面に降り立って黒焦げローパーになった私に近寄るエルメイア。
「ふふ、討伐した証拠に、この巨大な目玉でも持って行けばエルフ達も納得するでしょう」
ほう、それは困る。何しろ目玉は一個しかない貴重品だからな?
私は閉じていたまぶたをばくんっと開けると、彼女の姿を間近で見つめた。
「なっ!?」
私が生きている事を理解し、慌てて羽ばたき、空に逃げ出そうとするエルメイア。
しかし、遅すぎるわい!
ぬるぬるん、シュバッと触手を伸ばし、宙に飛び上がったエルメイアの四肢に絡みつかせた。
黒焦げになったのは私の皮膚一枚だけだ、パリパリと剥がれて落ちる。
「い、いやぁー!? 滑っていて気持ち悪いですわぁ!!」
やかましいわ! 放電から耐えるために咄嗟に謎の白濁液を自分にぶっかけしたんじゃい!!
翼を羽ばたかせ悶えるエルメイアを絡め捕って、手足を伸ばした大の字に宙づりをした。
しばらく暴れていたがやがて抵抗を止め、がっくりとうなだれるエルメイア。
とりあえず、そのまま拘束して、詳しい事情を尋ねてみる事にした。
天使とは特別友好関係ではないが、いきなり攻撃される謂われもなかったはずだ。
うん? 攻撃されたのに反撃はしないのかって?
私は文化人で大人で、しかも理性ある触手だぞ?
安易に暴力を振るう、ひゃはーな連中と一緒にしてもらっては困るわ。
まあ、それはそれとして触手な本能が、柔らかな
「い、いやあああああぁぁぁぁぁぁぁ!! 汚らわしいですわぁぁぁぁぁぁ!!」
ふぅ~天使ちゃんをドロドロにしてやったぜ。
賢者状態で事情聴取した結果、単純な天使ちゃんはエルフに騙されていた事が判明した。
「うう……だ、だって、だって……殺戮を繰り広げて、この一帯を恐怖で支配している邪悪な魔王がいるって……」
子供のように泣きながら言い訳をするドロドロなエルメイア。
触手となってからの行動に一点の曇りなしとは言わんが、そんな面倒な事はしていない。
しかし、見当はつく、エルフの狙いは私の住処としている大型倉庫だろう。
あそこには使用可能な家電――今の時代でいうお宝で満ち溢れている。
それを奪おうとするエルフどもが、私の同胞とガードロボに追い払われているのが現状だ。
そこに戦闘力は高いが、頭の出来は鳥並みな天使がエルフの街にやってきた。
二枚舌で狡猾なエルフどもにとっては鴨が葱背負っての状態だろうな。
天使を利用して邪魔な存在を排除できればよい、仮に失敗しても自分達には害はかからない。
流石はエルフ、文明の継承者を自称するだけの事はある汚さだ。
ため息一つ、全てを聞いた私は、エルメイアを逃がしてあげることにした。
「え、か、解放してくれるんですの?」
ああ、いいよ、天使には知り合いもいるからね。
「ほ、本当に行っていいんですの?」
もちろん、それともナニかな、私にナニかされたいのかな天使ちゃんは?
「と、とんでもありませんわ!? で、では失礼させていただきますわ!!」
エルメイアは顔を輝かせて翼を広げたところで、両翼に粘液がべっとりと付着している事に気付き、半泣きの凄い表情で拭い始めた。
本能のままカッとなって致した事とはいえ、何とも言えない空気だ。
罪悪感を覚え、私は伊勢海老の入ったエコバッグを持ってその場から去ろうとした。
しかし、見渡したがエコバッグはどこにもなかった。
そこでようやく気がつく、エコバッグは雷の直撃を受けた際に燃えてしまったという事を。
当然中に入っていた苦労して育てた貴重な伊勢海老も……。
その事実に、知能が低下していくのを感じた……。
……収穫できるまで五年はかかったんだぞ……私の伊勢海老……。
……海老……料理……天使……鶏肉……生肉…………。
………………。
…………。
……かゆ、うま。
「うぅ、取れません、中々取れませんわ……ひゃっ!?」
私は再び、天使ちゃんの体を触手でぐるぐる巻きに拘束した。
「え、え、な、なんですの!?」
驚きパニくる天使ちゃん。
さらに数本の触手を滑らせ絡ませると、彼女の服の中まで潜り込ませた。
「ひゃあ!? ちょっ、ちょっと、どこに入れているんですの! こ、この変態!?」
そのまま触手に力を入れ、鎧スカートを乱暴に引き裂いた。
「ひ、ひいぃぃぃぃ!? な、何するつもりですの!? さっき逃げてもいいって騙したんですの!?」
左右に振り回す、そ~れ~そ~れ~人間打楽器~だぞ~。
ペチペチペチと上と下の肉が鳴り、恥辱に顔を真っ赤に染めて歯を食いしばる天使ちゃん。
でゅふふふ、堪らない表情。実に、実に、美味しそうである。
「う、うぐぐ、や、やめて……く、苦しいですわ……ま、まさかわたくしを!?」
頭頂部の孔――ローパー型触手の口を、ぬちゃっと見せつけるように開いた。
彼女から見えるのは、ギザギザに並ぶ歯と内臓的な艶やかな体内だろう。
途端に激しく泣き叫びながら、必死に手足をバタつかせて足掻く獲物。
あぁ……実に……実に……いきの良い
私は文化的な文明人として深い感謝の念をこめて呟いた。
「……イタ・ダキマ・ス」
「いや!? いやぁ!? お母様! お母様あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
天使は食用カエルの味だったという事だけを伝えておこう。