敵側の中ボス的位置づけのキャラクターに転生してしまった元男の苦悩
遥かな太古。神々が存在したとされる原初の時代。
精霊が集い踊りあかしたと伝えられる白亜の森。
その神秘を色濃く残す美しき大森林で、花を摘みシマリスを追いかけ、手をつないで仲良さげに散策する二人の子供がいた。
彼女たちは、勇者アグレストが建国した新興国、アグレスト王国の第一王女と第二王女……双子の姉妹である。
今日この日に、二人だけで城を抜けだし、白亜の森に遊びにくることはずっと前から知っていた。
そう、
私は呪文を唱え始める。
宙に一部の狂いもない
神々が残したとされる古き言葉は私の魔力と生命力を代償とし、望んだとおりの変化を世界にもたらす。
魔法、まさしく神の奇跡。
起こるは稲光の閃光。
曇り一つない空から、極大の雷が二人のすぐそばの大樹へと落ちた。
激しい轟音と大地を揺るがす振動。
そして悲鳴じみた重々しい音とともに、ゆっくりと大樹が折れ崩れる。
身にまとう黒のローブをひるがえし、私は彼女たちの前へと姿を現す。
「だれだ!?」
私の姿を見たと同時に剣を抜き構える金髪の少女と、彼女の背に不安げに縋りつく、よく似た顔立ちの黒髪の少女。
「ふふ……」
私は笑った。
あとずさる双子の姉妹。
幼い、本当に幼い十ほどの年の少女たち。
こちらに立ち向かおうとする第一王女は中々に勇ましく凛々しいが、妹を庇おうとするその剣先はかすかに震えていた。
「私が恐ろしいのかしら? でも、それでいいわ……これからあなたたちは、この魔女ジルコニアに使われる意思無き道具となり果てるのだから……」
雷が直撃し地面に横たわる大樹。
ぱちぱちという焼け弾けると音と、もうもうとした白い煙をあげ、そして燃えあがる。
私は目深にかぶっていたフードをおろし、異形の顔を彼女たちの前にさらけだす。
呪われし種族の証……忌まわしき白の髪が、炎が巻き起こした風にほどかれ流れた。
「ジル……コニア?」
二人は私の顔を見て目を見開き、私の名前を刻むかのように反芻する。
彼女たちの呆けたような、なんとも言えない表情。
おそらく私の老婆のような醜い白髪と、血のように赤暗い瞳に対してのモノだろう。
それは嫌悪と侮蔑。
今まで色んな者たちから散々浴びせられてきたものだ。
だけど、そんなことにいちいち苛立ちを感じる心など……とうの昔に消え失せていた。
しかし、それとは別になにかしら、先ほどから湧きあがるこの違和感……いいえ、奇妙な既視感は?
私と対峙する第一王女と第二王女。
この構図をなぜか懐かしいと、そう感じた。
分からない。魚の小骨が喉に引っかかったようなどうしようもないもどかしさを感じる。
彼女たちには微笑みを見せながら、内心は答えの出ない自らの疑問に焦りを覚えていた。
ふっと脳裏に浮かんだ。
そう言えば私、彼女たちが今日、白亜の森に来るとなんで
「痛うっ!?」
その気づきが鍵だったかのように、見知らぬ記憶が開かれる。
まるで
脳を鋭い針で刺し抉るような痛みに額を押さえ、少女たちを改めて見た。
そして驚愕とともに認識する。
彼女たちは、
間違いない……これは成人指定のシミュレーションロールプレイングゲーム『勇者と魔女と…』のオープニングイベントのワンシーンである。
慌てて自らの手をかざす。
細くて小さくて、簡単に折れてしまいそうな人形のように華奢な指だ。
ボクはれっきとした大人の男……タフボーイだったはず。しかし今は紛れもなく中学生ほどの小柄で華奢なロリロリしい少女の体であった。
なおも記憶が流れこんでくる。
このあとボクが……魔女ジルコニアが第一王女を行動不能になる程々に痛めつけて第二王女をさらい……そこから、なんやかんやあって数年後に聖剣に選ばれて勇者となった第一王女の戦いの旅が始まり……そして……そしてぇ!?
「う、うえぇぇ……」
「……あの、もしかして具合悪いの? 大丈夫?」
突然頭を押さえてうずくまり呻きだしたボクに、第一王女こと脳筋勇者シフォンちゃん(通称)がチワワのようにぷるぷると警戒しながらも心配そうに声をかけてくる。
主人公らしい人の好さがこれでもかとにじみ出ているよ。
「姉さま、この人は間違いなくトンでもない
第二王女こと知的脳筋聖女リディアさま(通称)がウサギのようにぷるぷる震えながらも戦術的後退することを勧める。
世間知らずの清楚なお嬢様のようで、実は計算高く腹黒いキャラクターという未来の片鱗は確かにあった。
そしてボクは、これから先のジルコニアの役割を思いだし、そのろくでもない末路が頭に浮かんで……。
「ケロケロケロケロケロケロケロ……」
「「うわっ!? 戻したっ!?」」
胃の中身を盛大にリバースした。
◇
「お姉さん、大丈夫?」
「姉さま水筒です。渡してあげてください」
「うう、ごめんねごめnケロケロケー……」
シフォンとリディアが親身になってボクの看病をしてくれる。
親御さんの教育が素晴らしいね……あんな穏やかでない出会い方をしたというのに。ほんと、いい子たちだよ。
ボクは二人にゆっくりと背中をさすられ、木に両手をついて、たまにケロケロしながら自分の身の振り方を考えていた。
魔女ジルコニアとは『勇者と魔女と…』において、終盤まで主人公であるシフォンのライバルとなる中ボス的位置づけのキャラクターだ。
そして、その末路は悲惨である。
魔王の狡猾な罠に落ち、禍根を捨て和解したシフォンをかばって公開処刑されるのだ。
しかも、守ると決めた民衆に散々チョメチョメされたのち、切れ味の悪そうなノコギリで四肢切断>穴という穴に焼けた鉄棒突っ込まれ首吊り処刑の地獄コンボである。
あの一連の流れは十八禁エログロリョナ耐性があったボクでもかなり引いた……流石は成人指定は伊達じゃないとある意味感心してしまったくらいだ。
しかし、それらが遠くない未来に自分の身に降りかかることとなると間違っても感心できない。
どうしたものかと悩む。
う~ん、全てを捨て逃げるのが一番無難だろうか?
いや、敵前逃亡した裏切り者をあの性悪クソボケ魔王が見逃すとは思えない。
そうすると単純な逃げ隠れを選ぶのは悪手かな。
ひどく痛む頭で、これから先の
シフォンが魔女とのイベント戦闘に敗れ、リディアをさらわれてすぐにアグレスト王国の都が魔族に襲撃される。
その戦闘でシフォンたちの母親である元聖女のディアナ妃が重傷を負い、父親である元勇者のアグレスト王が死亡するのだ。
では、その襲撃を阻止してアグレスト王を助けたらどうなるだろうか?
怪我のため後半から加入する強ユニットであるディアナ妃と生き残ったアグレスト王……彼らが最初からいるなら、いずれ起きる魔王軍との戦いも有利に展開するだろう。
アグレスト王の戦闘力はゲームユニットとしては不参加のため未知数だけど、元勇者で王として国を興すほどの大英雄だし弱いということはないはずだ。
……だけど、アグレスト王が死なないことで、シフォンが勇者として聖剣に選ばれなくなり、リディアも聖女の力を得られず、不死身の魔王を倒すのが不可能になるかもしれない。
でも、シフォンが勇者にならなくても、元勇者であるアグレスト王が再び聖剣を手にして戦えば……。
だめだ、不確定要素があまりにも大きすぎる。
ゲームをプレイする安全な画面の向こう側からなら「お、新しいルートきたじゃーん」で、気軽に選択できたかもしれない。
でもジルコニアとしてこの世界にいる以上、シナリオから外れた予測不能な道を選ぶなんて冒険はボクには到底無理だ。
だって、自分の命がかかっているだもん。
魔族の襲撃が終わってから二人を王城に送り届け、破壊された城下町の復興などを手伝いながら信用を得る。
ジルコニアの魔法技術があれば、十分に可能だろう。
そしてうまく取り入って王女たちの仲間となり、強い人たちに守ってもらう。そう、これが
ズキンズキンと頭痛がひどくなった。
「「…………」」
そんな言い訳じみた思考は、背中をさする二つの小さな手で遮断された。
双子の姉妹だった。
二人は相変わらず心配そうな表情でボクをうかがっている。
さっき出会ったばかりの赤の他人であるボクを、自分たちを害そうとしたやばい女の体調を、こんな小さな子供たちが本気で案じてくれているのだ。
その純粋な優しさによくわからない暖かな感動を覚え、そして同時に、命がかかっているとはいえ打算まみれの自分の汚い性根に恥ずかしさと怒りを覚えた。
いやいや、一時の感情に流されるなよ。ボクの選択はなにも間違っていないと必死に自己欺瞞する。
「お姉さん、まだ気分悪い?」
「っ……!」
……思ってしまった。
たとえ、それが必要な運命だとしても、物語として正しい道だとしても、こんな良い子たちが不幸になっていいのかな……と。
頭痛がひどい。
何度も深呼吸。
泣く一歩手前のような荒い呼吸をする。
もう見たくないのに、二人の少女が再び視界に入る。
ああ、これ本当にだめなやつでした。
ゲームの中の
そしてそれを高みから眺め嘲笑う妖艶な魔女ジルコニア……
ああ、くそぅもう!!
ボクがやるべきことなんてはなから決まってるだろうに!!
覚悟を決めると、気分がすっきりした。
あれほど酷かった刺すような頭痛はいつのまにか綺麗さっぱり消えていた。
「っ!」
ハイテンションのまま、気合を入れ自分の頬を叩く。ばちんっという景気の良い音が鳴った。
「「わっ!?」」
突然そんな奇行をしだしたボクに驚く二人。
「あなたたち、
早口で喋ったせいか、それとも体がジルコニアだからなのか、なんか微妙な女言葉になった……。
ぽかんっと口を開ける双子姉妹を俵担ぎでふんぬーと抱きあげた。
「「わっ!? お姉さん力持ち!?」」
「それほどでもあるわ!!」
仕事で会議のたびに、紙の資料が一杯入った重たい段ボールを両肩に担いで「んほおぉぉぉぉぉ!!」と奇声をあげながら階段を登り降りしていた。
そんな今時じゃない会社に勤めていたボクは一味違うのだよ!!
「我が召喚に応じ来い!! 死をばら撒く蒼馬よ!!」
ジルコニアの記憶にそって使用したのは魔物を呼びだす召喚魔法。
現れたのは馬の骨……もといスケルトンホース。
魔女としての能力を問題なく、完全に発揮できたことにひとまず安心する。
スケルトンホースはボクたちの前で地面に膝つくと乗りやすいように体を落としてくれた。
それに乗って超特急でアグレストの城下町を目指した。
地上を離れ
双子姉妹の悲鳴(でもなんか嬉しそう)があがる。
風を切る音がするが、何らかの空気を遮断する力が働いているのか風圧はほとんど感じなかった。
王都の城下町に辿りつくと案の定、暴れている魔族の軍勢がいたので、空中から得意の雷撃魔法(雷ごろごろいっぱいぴかーん)を降らせて一網打尽にした。
城下町に降りてから、人骨の兵士……スケルトンソルジャーを召喚魔法で大量に生み出し、まだ戦闘が続く地域への応援や、逃げ遅れや怪我して動けない人などの救助活動にあたらせた。
そして二人の王女を国の騎士らしき者たちにあずけ、生き残りの魔物を倒しつつ王城までダッシュした。
途中迷子になって半泣きになりながらも、連続的に聞こえてくる戦闘をしていると思われる道路工事じみた騒音を頼りに何とかたどり着いたのは王城の中庭。
そこには、王さま&お妃さまの元勇者&元聖女のラブラブコンビ(公式設定)と魔王軍四天王の一角である暗黒竜が激しい戦闘を繰り広げていた。
ボクはそれが視界に入ったと同時にヘッドスライディング(足がもつれて転んだ)して、この世界の究極魔法の一つである
その際に「ぐあぁぁぁ!? き、きさまぁは魔女!? 魔王さまの力と加護を得ながら裏切ったかぁぁぁぁ!?」などと、なんだか説明セリフ的に罵られた。
あーあーボクには聞こえないYO。
暗黒竜を倒した。
悪は滅びた……しかし、鋭い視線をこちらに向け武器を構えたまま警戒を崩さないアグレスト王とディアナ妃の姿が目に入った。
そこで我に返る。
よくよく考えたらボク、正確にはジルコニアだが、王家の娘さんたちを脅して良からぬことに利用しようとした明らかな悪である。
そして、それを当事者である双子姉妹に暴露されれば間違いなく牢屋にGOだ。
ましてや、魔王の眷属として力を得た邪悪な身。
下手したらこの場で首切り御免もありうる。
テンション上がりまくってたとはいえ、今の今までその可能性に気がつかなかったボクは流石だと言いたい……!!
二人から目線をそらし、あえて警戒の視線には気づかないふりをする。
うへ、うへへとビジネススマイルを見せながら、後ろ歩きでさり気なく立ち去ろうと試みたら、突然目の前が真っ白になり意識がそこで途切れた。
不覚にも、大魔法を連続使用した疲労でぶっ倒れ、ボクはその場で昏睡してしまった。
◇
目を覚ましたら……ふかふかなベッドの上にいた。
なんか天蓋つきのすごい高級そうなベッドだった(小並感)
現状が分からないけど酷く痛む体をがまんして、とりあえず逃げようと部屋をでた途端……メイド服を着た大柄な侍女たち(?)に発見され、雄たけび声をあげながら迫りくる彼女らに捕まった。
おほぅ!?おほっう!?と死にかけたオットセイのような悲鳴をあげて必死に抵抗するも軽々と体を持ちあげられ、わっしょいわっしょいと連行された。
恐怖のため、体中の穴という穴から色々な体液を漏らす淑女の危機一歩手前でついた場所はなんと大浴場。
ライオンの顔した給湯口があるゴージャスなやつである(小並感)
あっというまに身ぐるみはがされ、体をガラス細工を磨く丁重さで洗ってもらうという、下にも置かないような過分なサービスを受けた。
というか浴槽の中ですらも、なぜか侍女軍団のお姉さんたちにお姫様だっこされて歩かせてもらえなかった。
まあ、全身が筋肉痛したみたいにバキバキで、少し動くのも苦痛だったから助かったけど。
なんか驚きと初体験の連続で自分の身が女になってるという事実が些細なことに思えてきたよ(TSメス化失敗)
将来性のあるちっぱいを見つめつつ(劇中の魔女ジルコニアはナイスバディの美女である)浸かったお湯の温かさに、ふうっと安堵のため息を漏らす。
ああ、本当にもうどうでもよくなってきた……この歓迎ぶりを見るに、どうやら王女たちは森での出来事をまだ話してないらしい。
マッサージを受け、髪を乾かされ、パリパリに糊のきいた真新しい服(ドレス?)を着せられる。
それから食堂らしき大部屋に案内(お姫さまだっこ移動)されるとヨーロッパ風味の洒落たテーブルの上には大皿にのったフルーツの盛り合わせがドンっと置いてあった。
なんか高そうな果実で、本当に高そうなやつだった(小並感)
ボクを抱きかかえている侍女さんを見上げると、どうぞという感じでヨーロッパ風味の洒落た椅子に座らされた。
逃げられそうにないし、ここまで来たらなるようになれとフルーツ盛り合わせをモサモサと食べていたら、アグレスト王とディアナ妃が扉の陰からひょこっりと現れた。
ひょこっりと現れた(二度目)
突然のことに驚き、バナナらしき果実を咥えたまま「おうぅ!?」と鳴くボクの醜態を無言で見つめる王さまと妃さま。
そして二人は同時に目を細めて表情を険しくすると、雄たけび声をあげながらボクに突進してきた。
明確な死を感じて白目をむいた。
しかし、熱烈に抱きしめられ子供のように高い高いくるくるされて「お前こそが我がアグレスト王国の救世主だ」と褒め称えられる感謝の言葉と満面の笑みを頂いた。
ワガハイ、恐怖でもらs……フフ。
続いて現れたシフォンとリディアの双子王女も甲高い雄たけび声をあげながら抱き着いてきた。
え、なにこの国、雄叫びが挨拶なの?
とりあえず……処刑エンドは回避できたらしい?
これからどうなっちゃうんだろう……?