エンヴィの憂鬱 2018   作:天ノ川遥

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是非、スイハとエンヴィ(黒ロンギ)の表情を想像しながら。


エンヴィの憂鬱 √スイハ

照りつける太陽、揺らめく波間…

浮かんでいたら、ふらふらしてきて。

 

ようやく意識がはっきりしてきた。

手元のカップには氷が残っているのみ。寝そべったまま、カップを額に乗せる。ひんやりとして気持ちいい。

「あ...エンヴィさん、大丈夫ですか?」

隣に腰かけて心配そうに私を見ているのは、スイハだ。

「はい、だいぶ良くなってきました」

 

今年もマスターと、海にやってきた。

去年は、ほとんど海に入らなかった。今年こそはと海に入ったはいいものの、やることもなく仰向けになって浮いていた。

波もあまりなく、浮いているのは非常に気持ちがよかった。

...のだが、少しあがろうと思ったら、急に気分が悪くなった。目眩、頭痛、意識がぼんやりとしてきて、足元も覚束ない状態だった。その場にスイハがいなかったら、今頃どうなっていたことか。

彼女がどんな風に私をここに運んだかは覚えていない。

微かに覚えているのは、柔らかい感覚と優しい匂い...

 

「...まだボーッとしますか?」

「え...あ、はい」

スイハに声をかけられて我にかえる。

やはり、まだ回復しきっていないのだろうか?

「飲み物、また買ってきますね」

「すいません...お願いします」

売店へ歩いていくスイハの後ろ姿を見送る。すらりと伸びた手足。さらさらと滑らかな黒髪。何より、動きのひとつひとつが上品というか、気品が溢れている。

カップを2つ持ってこちらに戻ってくる。女性として魅力的なボディライン。キリッとした表情。例えようもなく美しい瞳。ああ、好調ならいつもの台詞を言うのだろうが。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

少し体を起こす。寝たままでは飲みづらい。

「ふらついたりしませんか?」

「ええ...これくらいなら問題ありません」

本当はまだ少しふらつくけど。なんとか上体を起こし、飲み物を一口。スポーツドリンクだ。アクなんとかなのか、ポカなんとかなのか、はたまた別のなのかはよく分からないが。火照った体に染み渡る。

隣では、スイハが少し心配そうにこちらを見ながら同じようにドリンクを飲んでいる。そんなに心配しなくても...

「あっ...」

ぐらり、とした感覚と共に一瞬体の力が抜ける。まだ完全な状態ではなかったらしい。それよりも。

「...まだ大丈夫ではなさそうですね」

スイハが私の体を支える。私の頭に柔らかい感覚があるのと、彼女の現在の姿勢から察するに...

「え...あ...」

口を動かそうとするが、上手く話せない。

「まだ少し横になっていた方がいいでしょう」

そして、そのまま流れるように頭はスイハの膝に。

先程とはまた違った柔らかさ、彼女の体温、ふわりとしたいい匂い...

スイハの綺麗な手が、私の髪に触れる。そのまま、一度、二度、三度と頭を撫でられる。安心感からか、意識が再び薄れていく。そのまま、うとうと...

 

...目が覚める。スイハはまだ、私を撫でていた。日の向きもそんなに変わっていないように見えるし、あまり時間は経っていないのかもしれない。

「あの...スイハさん...」

「え、あ、目が覚めましたか」

びっくりしたように、手を止めるスイハ。ちょっと名残惜しい。

「はい。もう大丈夫そうです」

「そうですか。それは良かった」

体を起こし、彼女の隣に座る。

「あの...お礼と言っては何ですが、食べたいものとかありますか?」

「えっ...私は、その...」

遠慮するように、目を泳がせる。

「遠慮しなくてもいいですよ」

「で、では...お言葉に甘えて」

ゆっくりと立ち上がり、スイハと一緒に売店へと向かう。

スイハが注文したのは、チョコバナナ。私も同じものを買った。

祭り屋台といい、海の家といい、チョコバナナは夏によく見かける気がする。冷えたバナナと甘いチョコの組み合わせは、まさに夏の定番、魔性の食べ物と言えるだろう。カロリー的な意味でも。

そんなチョコバナナでも、スイハの食べ方はとても綺麗だ。口にチョコがつくようなこともなく、棒にバナナやチョコが残ることもなく。でも、とても美味しそうに。

「あ、エンヴィさん...その...」

スイハが何かに気づいたように話しかけてくる。まあ大体なにかわかる。

「...チョコ、ついてますか?」

「は、はい」

こういう時、鏡でもあると便利なのだが。

仕方ない。紙ナプキンで口の周りを総当たりで...

「あの...失礼します」

突然、私の頬に触れる手。そっと口の周りを拭う感触。

「これで綺麗に...どうかしました?」

どうもこうも。これは素でやっているのだろうか。彼女の表情から見るに、素なのだろう。

「...何でもありません」

そう言いつつ、先程スイハにされたように彼女の頬に触れる。拭うべきものもないが、そっと口の周りを指でなぞる。みるみるうちにスイハの顔が赤くなる。

 

紅く染まる頬、揺らめく瞳...

見つめていたら、くらくらしてきて。

「その...エンヴィ...さん」

彼女も私も、ドキドキしている。

「何ですか?スイハさん」

まつげが震え、吐息が交じれば...

きっと、全部、夏のせいだ。

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