夕方。姫たちが各々片付けを始める頃。
私は少し落ち着きたくて、人目につかない岩場に来ていた。
今年も隊のみんなで海にやってきた。色々な姫と交流でき、とても楽しい時間だった。だが、少しばかり疲れた気がする。まあ、みんなが楽しかったならそれでいいのだが。
しばらくぼんやりと座っていると、後ろから足音が聞こえた。誰だろう、と振り向くと、
「あ...マスター、ここにいらっしゃったんですか」
エンヴィだった。まだ着替えていない彼女は、おずおずとこちらに歩いてくる。
「隣、よろしいですか?」
「うん、どうぞ」
短く言葉を交わす。何か話があって来たのだろうか。それとも私と同じように落ち着きたかったのだろうか。
「...今日は連れてきてくださって、ありがとうございました」
急にお礼を言われた。
「お礼なんていいよ。私が来たかったのが一番だし」
...再び沈黙。気まずい。
「エンヴィは、今日どうだった?」
「え...あ、私、私は...」
いきなり話しかけたからか、少し慌てるエンヴィ。
「...正直に言ってもよろしいですか?」
「どうしたの、急に改まって」
「マスターといられる時間がなくて、少しつまらなかったです」
まあ、確かに彼女含め、私が今日一緒に過ごせなかった姫は多い。素直に反省すべきところだ。
「それは...ごめんなさい」
「いえ...マスターが謝るようなことではありません。他の方々との時間も大切ですから」
そう言いながらも、目をそらすエンヴィ。少し拗ねたような、その顔もかわいい。けれど...
夕陽が沈んでゆく。私たちの沈黙はしばらく続く。
そっと、エンヴィに近づく。腕が触れると少しビクッとする。
彼女の手を握る。温もりが直に伝わる。彼女もそっと握り返してくれる。
もう少し近づく。足が触れそうな距離。手を離し、彼女の腰に腕をまわす。彼女の頬が少し赤くなる。
彼女の体温が、鼓動が、伝わってくる。きっと彼女にも伝わっているのだろう。
腰にまわしていた手を離し、彼女の髪をなでる。
心地良さそうに、でも少し恥ずかしそうに、彼女は私に身を任せる。
「...マスター」
「どうしたの、エンヴィ」
「―――――」
風の音、波の音。声はかき消されてしまう。でも。
そっと、彼女を抱きしめる。ちゃんと伝わってる、彼女の言いたいこと。誰でもない、彼女だからこそ。
「ありがとう、エンヴィ」
重なる影は、迫り来る夜に溶ける。甘いため息、再び沈黙。彼女の腕が、私の背中にまわされる。もっと、もっと、鼓動を重ねて。柔らかな温もりに包まれて...
きっと、全部、 ―――――。