エンヴィの憂鬱 2018   作:天ノ川遥

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※本ルートはマスター視点です。


エンヴィの憂鬱 √マスター

夕方。姫たちが各々片付けを始める頃。

私は少し落ち着きたくて、人目につかない岩場に来ていた。

今年も隊のみんなで海にやってきた。色々な姫と交流でき、とても楽しい時間だった。だが、少しばかり疲れた気がする。まあ、みんなが楽しかったならそれでいいのだが。

 

しばらくぼんやりと座っていると、後ろから足音が聞こえた。誰だろう、と振り向くと、

「あ...マスター、ここにいらっしゃったんですか」

エンヴィだった。まだ着替えていない彼女は、おずおずとこちらに歩いてくる。

「隣、よろしいですか?」

「うん、どうぞ」

短く言葉を交わす。何か話があって来たのだろうか。それとも私と同じように落ち着きたかったのだろうか。

「...今日は連れてきてくださって、ありがとうございました」

急にお礼を言われた。

「お礼なんていいよ。私が来たかったのが一番だし」

...再び沈黙。気まずい。

「エンヴィは、今日どうだった?」

「え...あ、私、私は...」

いきなり話しかけたからか、少し慌てるエンヴィ。

「...正直に言ってもよろしいですか?」

「どうしたの、急に改まって」

「マスターといられる時間がなくて、少しつまらなかったです」

まあ、確かに彼女含め、私が今日一緒に過ごせなかった姫は多い。素直に反省すべきところだ。

「それは...ごめんなさい」

「いえ...マスターが謝るようなことではありません。他の方々との時間も大切ですから」

そう言いながらも、目をそらすエンヴィ。少し拗ねたような、その顔もかわいい。けれど...

 

夕陽が沈んでゆく。私たちの沈黙はしばらく続く。

そっと、エンヴィに近づく。腕が触れると少しビクッとする。

彼女の手を握る。温もりが直に伝わる。彼女もそっと握り返してくれる。

もう少し近づく。足が触れそうな距離。手を離し、彼女の腰に腕をまわす。彼女の頬が少し赤くなる。

彼女の体温が、鼓動が、伝わってくる。きっと彼女にも伝わっているのだろう。

腰にまわしていた手を離し、彼女の髪をなでる。

心地良さそうに、でも少し恥ずかしそうに、彼女は私に身を任せる。

「...マスター」

「どうしたの、エンヴィ」

「―――――」

風の音、波の音。声はかき消されてしまう。でも。

そっと、彼女を抱きしめる。ちゃんと伝わってる、彼女の言いたいこと。誰でもない、彼女だからこそ。

「ありがとう、エンヴィ」

 

重なる影は、迫り来る夜に溶ける。甘いため息、再び沈黙。彼女の腕が、私の背中にまわされる。もっと、もっと、鼓動を重ねて。柔らかな温もりに包まれて...

きっと、全部、 ―――――。


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