星見の福音   作:フラワーチルドレン

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3話

「来るな、来るなっー! 」

 

 苦し紛れに放り投げた石に効き目なんてあるはずもなくカラカラとあざ笑うような軽い音を立てながら何体もの骸骨が追いかけてくる。

 廃墟となり灯をなくした近代建築の山。それは全くのミスマッチの骸骨たち。どこからか手に入れた弓や剣を振り回しながら私に近づいてくる。そうなればどうなるかなど分からないほど馬鹿じゃない。

 幸い足は早くないが、スタミナは無限の様でジリジリと距離が縮まっている。

 

「くそっ」

 

 ふざけるな死んでたまるものか。だが、この状況をどうにかできるような打開策は思い浮かばない。そして、そのまま時間だけだ過ぎていく。もう10m程で追いつかれるもはやどうしようもない。そう思った時だ。

 

「見つけた!? マシュちゃん、お願い」

「はい、光溜さん! 動かないで下さい」

 

 声の方を振り返るとマナとキリエライト、そしてアニムスフィア所長が居た。マナの姿はここに来る前の姿と変わらないがキリエライトの方はずいぶんと様変わりしていた。紫の鎧のような姿を身に纏い、身の丈ほどの大きな十字の円を合わせた盾のようなものを軽々と持っている。線の細い彼女が持っているとアンバランス、不釣り合いに見えるはずがこれと云った違和感を感じさせない。そんな彼女の姿がブレる。私まで100mはあろうかという距離は一瞬で詰め、私を追っていた骸骨をその巨大な盾でいともたやすく吹き飛ばし粉々にする。

 

「良かった、間に合いました。今度はわたしが助ける番です」

 

 そう言うと彼女はまたも姿がブレるほどの速度で残っていた骸骨を粉砕していく。あれが魔術というものなのだろうか。その姿にあっけにとられていると残りのマナとアニムスフィア所長がやってくる。

 

「……何か勘違いしているみたいだけどあの子は特別よ。普通の魔術師が魔術でできることは高が知れてるわ」

「そうなのか? 」

「ええ、普通はこのくらい」

 

 アニムスフィア所長は私に手をかざし何か唱える。するとアニムスフィア所長の手から出た緑の光が私の中に入り疲労がなくなる。限界まで走って疲労困憊だったのが嘘のようだ。足が軽くなり身体中から吹き出していた汗はピタリと止まる。このくらいというが十分すごいと思う。しかし、アニムスフィア所長は眉間にシワを寄せて不機嫌そうだ。

 

「マシュちゃんは生まれながらにサーヴァント──英霊の力を宿していてそれのおかげだそうですよ。レイシフトでその力に目覚めたとか──マシュちゃんにさっき教えてもらったんです」

 

 窮地に眠っていた力に目覚めるとは考えられないご都合主義だ。だが、その力に助けられたなら感謝するしかない。しかし、なぜそんな力を持っていたのだろうか。アニムスフィア所長を見やると目をそらされる。何か裏があると考えるべきだろうが今は追求しても仕方がない。ここで仲間割れになるなんて考えたくもない。それよりこの場を乗り切るために団結しなければならない。そんな事を考えていると敵を殲滅したキリエライトが帰ってくる。多少息が乱れているが全くの無傷な事を考えるとサーヴァントの力というものは凄まじいらしい。

 

「マシュ・キリエライト、戦闘を終了しました」

「助かった。ありがとう」

「マシュちゃんお疲れ様」

「いえ、大したものではマスタ、──あ」

 

 口に手を当てて固まるキリエライト。マスターと言う単語に疑問を抱くがサーヴァント(従者)という性質上何か関係があると考えるのが妥当だろう。しかし、聞ける雰囲気ではない。

 

「マ~シュ~ちゃん」

「あ、いえ、今のはつい。サーヴァントの性といいますか。わあ!? ちょ、やめて下さい。こしょばいです。あはは」

「ダメ。マスターの命令を破ったサーヴァントには罰を与えないと」

 

 慌てて弁解するがマナには通じそうにもない。オモチャを見つけた子猫の様にキリエライトに抱きつき乱暴に頭を撫でる。今のキリエライトの力なら簡単に払えそうだがすでに構築された上下関係には逆らえないのだろう。それにキリエライトの表情も困惑の色はあるが嫌のものは混じっていない。むしろこのじゃれ合いを楽しんでいる風でもある。

 

 とはいえ、このままでは話が進まないので止めないといけないだろう。

 

「はい、そこまで」

 

 私と同じ考えの人間がいたらしい。しかし、私より急いいるらしい。イライラしているのがよくわかる。

 

「これから山手に存在する霊地に行って、そこでカルデアとラインを繋いで帰還を目標とします。異議は? 」

「ないが、色々と説明してほしい」

 

 ここに来ていくつもの新しい言葉が出てきた。流石に説明なしでは困る。

 

「あー、またね。マシュ説明しといてちょうだい」

「分かりました」

 

 いかにも面倒くさいとばかりに適当に役割を振る。もうマナにも説明して面倒くさくなったのかもしれない。説明してもらえるなら構わないがこうも露骨に顰められると言いたいこともあるが、機嫌が悪い女に余計なことを言うと大変な目に合うのは身に染みて味わっている。

 

「じゃ、行くわよ」

 

◇◇◇

 

「……」

「あの、どうかしました? 」

「いや、別に」

 

 山手──深山町に向かう途中、アニムスフィア所長とマナが先行する中少し後ろで掻い摘んで説明をキリエライトから受けていた。ここが2004年の地方都市の冬木市だったことや、英霊やサーヴァントの正体は受け入れる他ないものとして飲み下すことができる。しかし、マシュ・キリエライトの正体についてはそうはいかない。

 デザイナーベイビーこのカルデアの運営のためだけに生み出された存在だと聞かされれば話は別だ。確かに私はマシュ・キリエライトとその中に宿された英霊に助けられた。しかし、私、生まれ持った瓶倉光溜がもっとも嫌悪すべきものの一つのはずだ。なのに私は今、それに抗議することが出来ない。

 当然だ。私の生きている理由は先程言った様にキリエライトのおかげだ。ならばそれにケチをつけるのは私の今の生、そしてキリエライトの行為の否定にほかならない。そもそもとして、キリエライトが現状に怒りを覚えていないとしたら私という赤の他人が声を上げるのは甚だお門違いと言うしかないだろう。なにより抗うことの出来ない私自身の力のなさが怨めしい。

 

「どうかしたのか? 」

 

 今度はこっちが聞き返す番になった。キリエライトはこっちの顔を興味深げに覗き込んでいた。まさか考えが顔に出ていたのだろうか。

 

「その、マナちゃんと話していて聞いたのですが絵本作家を生業にしているとか」

「ああ、確かにそうだが」

 

 どうやら違うらしい、と言っても私にとってあまりよろしい話題でなさそうだ。

 

「実は読書が趣味でしてできれば読ませていただきたいと思いまして」

「……別に構わないが、()()()()絵本作家の作品だ期待しないでくれ」

「はい! 」

 

 気恥ずかしそうに返事をするキリエライトは年相応の少女にしか見えなかった。それがまた私の胸を突く。

 後に厄介な読者2号が生まれることになるのだがこの時の私は知る由もなかった。

 

「そういえば、メガネはどうしたんだ? 」

「あります。疑似サーヴァントになって必要なくなったのでしまってます。それがどうかしましたでしょうか? 」

「いや、さっき気がついたが私のメガネを無くしてしまった。よかったら貸してもらえないだろうか」

「構いませんが度が合わないかもしれません」

「構わん。メガネならそれでいい」

 

 念には念をだ。使えないかもしれないがあるに越したことはない。

 

◇◇◇

 

 

 

「次はあの橋を渡るわよ」

 

 河口近くの橋に向かって歩いていると違和感を感じた。

 

「マナ」

「わかってますよ」

 

 キリエライトもアニムスフィア所長も気を張って周囲を見渡している。骸骨意外人っ子一人見当たらなかったがここは精気が満ちている。だが、骸骨も人間も居ない。

 

「ひっ」

 

 声を上げたのは先頭を歩いていたアニムスフィア所長だった。

 

「これは……っ!? 」

「ヒドい」

 

 遅れて後ろを歩いていた私たちも気がつく。

 

 人の像だ。

 

 もちろんただの彫像ではない。苦痛と恐怖で顔を歪め苦悶のまま人としての生を終えたであろう人間たちの末路。それが何百と乱立している。

 心臓の鼓動が早くなるのがわかる。侮っていたのではない。勘違いしていた。サーヴァントというものの力を見たはずだ、教えられたはずだ。なのに私はわかっていなかったこれほどの恐ろしいことがなされているなんて想像だにしていなかった。

 

「マシュ!? 」

「はいっ! 」

 

 アニムスフィア所長が叫び応えるようにキリエライトは前に出て守るように構える。

 

「あら、可愛らしい獲物だけかと思ってたけどまだ見ていないサーヴァントがいるなんて」

「え? 」

 

 脳を溶かすような艶美な声、それが私のすぐ隣、耳元から聞こえた。

 

 反射的に振り返ると黒いフードをかぶった長身の女性が居た。フードのせいでよく見えないがその顔は人間離れしたではなく人間から逸脱した存在だと思わせるほどの美しさだった。少しでも気を緩めれば簡単にフラフラと近寄ってしまいそうになるが堪える。なにより14の夏と同じかそれ以上の濃密な死の気配を放っている。

 その瞳は私を、このにいる全員をオモチャのようにしか見ていない。結果に決まった狩りに挑む猛獣のそれだ。手に持った鎌は少し引くだけで簡単に私の身体をバラバラに引き裂くに違いない。エモノから聞いた限りではランサーのサーヴァントに違いないだろう。

 

「瓶倉さん!? 」

「うおっ!? 」

 

 一歩遅れて気がついたのキリエライトは女に向かって風を裂きながら盾を振るうが安々と避けられる。

 

「怖い怖い。ゆっくりと苦しませて殺してあげましょうか」

 

 クツクツと笑いながら言う。その顔には余裕な表情を浮かべている。

 

「マシュちゃん、負けないで」

「任せて下さい。全力で倒します。だから下がっていてください、マナちゃん」

「ふふ、その威勢いいですね。石にせず嬲り殺しましょう」

 

 対してキリエライトの表情はかなり焦りの色が見える。それはこれから始まる戦いの優劣を端的に表していた。

 

 

 

「きゃ!? 」

「あらあら頑張るわね」

 

 戦いが始まって5分はたっただろうか。戦局は一方的なものになっていた。防戦一方で辛うじて致命傷を防ぎ大きな傷こそないもののゆっくりと追い詰められているのは傍から見ていてもよくわかる。

 時折反撃しても分かっていたかのように軽々と避けられている。能力が足りていないとは思わない。ただ経験が絶対的に不足している。いくら英霊の力があっても使いこなせてなくては意味がない。自転車に乗れるようになったばかりの子供にロードレーサーが使うような自転車を与えてもうまく使えるはずがない。

 

「ミツルさん」

「分かっている。どうにかするさ」

 

 不安げな様子でこちらを見るマナに頷く。マナも友人の危機に気がついているのだろ。マナに出来ないことの大抵のことは私に出来ないだろう。だが、できるかもしれない事はある。

 確証はない。だが、やるしかない。そっと受けっとたメガネを胸ポケットから出す。

 

「はああ」

 

 マナの顔がほころぶがこれだけじゃ足りない。

 

「おい」

「─でこんな目に私が」

「おい。アニムスフィア所長」

「な、なによ? 」

「……」

 

 爪を噛んでいたのに冷静を装っても無駄だと思うが指摘しても面倒なので目をつむる。

 

「アンタはあの戦いが見えているのか」

「目を強化してるから見えてるわ。言っとくけど出来ることなんてないわよ。割って入っていったら粉微塵なるだけ、祈るしかないわ」

「いや、介入する必要はない。その魔術、私にもかけれるのか? 」

「……出来るわ。見てもしょうがないわよ」

「ただ眺めるつもりはない。もう一つ聞きたいが私とキリエライトの間に念話のような事はできないか? 」

「それも出来るわ」

 

 よし、どうやら前準備は大丈夫そうだ。

 

「何よ? 何する気? 」

「祈るよりは幾分建設的な事だ」

「そうですよ。メガネをかけた()()()()さんは凄いんです」

 

 この場にそぐわない朗らかな声でマナが言うがやめてほしい。確実にどうにかなるという保証は全く無いのだから。

 

「分かったわ。何をするか知らないけど貴方の言う通り指をくわえているよりましね。目を閉じなさい」

「分かった」

 

 私は元職業的爆弾魔。

 

「どう、見えるかしら? 」

 

 私の右目はすでに何も映さない。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 しかし、かつてミライを見た。

 

「次は両儀と手をつなぎなさい」

 

 それは今に公式を当てはめ作り出した。

 

「マナと? 」

 

 そのミライは確実だった。

 

「そう、その子はマシュとパスを結んでいるからその子を通して貴方にもパスを繋げるわ」

 

 右目が死んだ私に2度と見ることは出来ないだろう。

 

「大丈夫ですよミツルさん。私はミツルさんがやる時はやれるひとだって知ってますから」

 

 だが──

 

「分かった」

 

 その真似事くらいは出来る。

 

 

 

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