僕は、君のマスターでいる権利はあるのかな…?

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pixivからの転載です。
ミク姉ちゃんの11回目のお誕生日を記念して、駄文ながら短編を書かせていただきました。
ミク愛が高じると、私のようにある悩みを抱えてしまう同士がいるかと思います。
そんな方々に少しでも届いてほしいです。


とどけ、わたしのうた

「………ふう…」

 

 

 僕は長らくにらめっこしていたPCを閉じ、パソコンチェアの背もたれに身をあずけた。

 

 

 身体中を、決して心地の良くない倦怠感が包み込む。

 

 

 何もしていないのにね。

 

 

―――コンコン

 

 

「マスター?紅茶をお持ちしましたよ」

 

 

 そう声がしたと思うと、扉が開き、トレーを持った一人の少女が部屋に入ってきた。

 

 

「悪いね。そこに置いておいてもらえるかい?」

 

 

「……」

 

 

 返答がない。何か怒らせるようなことを言ってしまっただろうか。

 

 

 背もたれ越しにちらりと振り返ると、彼女ははにかんでこう言った。

 

 

「マスター、たまにはこっちに来て、ミクとお茶しませんか?」

 

 

 彼女が手に持ったトレーには、二客のティーカップとお菓子が鎮座していた。

 

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

 

 断れようはずもなく、僕は今、ちゃぶ台を挟んで彼女と向かい合わせで座っている。

 

 

 薄手のパーカーに、フリルをあしらった上品そうなスカート姿のミクは、この季節では少し暑そうに見える。本当に彼女のおしゃれに対する姿勢には脱帽させられる。

 

 

 で、今僕はそんな彼女に、はやく飲んで!と言わんばかりのキラキラとした眼差しで見つめられている。僕はティーカップを手に取ると、鼻に近づけて香りを堪能し、それから少しすすった。

 

 

「美味しい……」

 

 

 やわらかな紅茶の風味が、少しばかり頬の筋肉を緩ませてくれる。心なしか体も少し軽くなったようだ。

 

 

「それで、マスターは何を悩んでいるのですか?」

 

 

「え、悩んでるって…」

 

 

「ここのところずっと、どよーんとした顔してるんですもん。ミク、何かしましたか?」

 

 

「いやいや、断じてそんなことは無いんだけど…!」

 

 

 僕がそんなに思いつめた顔をしているのなら、確かに彼女に全く関係ない話ではないが、それを彼女が気負う必要など全くない。

 

 

 ミクには、いつもその太陽のような笑顔を絶えず向けていてほしいのだ。

 

 

 それなのに。

 

 

「ミク。僕は……、君のマスターでいる権利はあるのかな…?君に歌って欲しい曲だって満足に作れないし、迷惑をかけこそすれど、君の役に立ったこともなければ、君の期待に応えられたこともない。…ごめんね、ミク。こんなのがマスターで…。僕じゃない他の誰かがマスターだったら、もっといい思いをさせてあげられていたかもしれないのにね……」

 

 

 ああ、何で僕、こんな事言ってるんだろう。彼女にだけは、言うべきでなかったはずなのに。

 

 

 でも、気付いた時にはすべてを吐露してしまっていた。

 

 

「マスター…」

 

 

 ミクは、持ったままだったティーカップをソーサーに戻すと、ゆっくりと立ち上がる。

 

 

 そして、唄った。

 

 

 

 

 少しでも

 

 

 君の気持ちを引いていたくて

 

 

 君と離れたくなくて

 

 

 僕は机に向かうんだけど

 

 

 何も成せずに日は暮れて

 

 

 睡魔に敗れて眠りに堕ちるんだ

 

 

 

 そしていつも君の夢を見る   ~♪

 

 

 

 

 力強くて、優しくて、それでいてどこか憂いを帯びたそのかわいらしい歌声は、僕が彼女のマスターになろうと決意した時のそれと同じくらい、いや、それ以上に心に響いた。

 

 

「やっぱり、凄いや…。そして、この詞は…。」

 

 

「私、この詞がすっごく大好きなんです。ミクの、大切な……」

 

 

 記憶にある。才能あるボカロPさんの曲に圧倒され、劣等感を抱いた僕は、それでも毎日作詞や作曲に身を削っていた。

 

 

 書いては捨て、書いては捨てるを繰り返している中で生まれた詞の一つ。無論、他の詞と同じようにくずかごに捨てたはずなのだが、ミクには読まれていたようだ。

 

「ミク、僕は…」

 

 

「まーだそんな顔してるんですか、マスター!」

 

 

 彼女が僕の方に近づいてくる。

 

 

「ひゃっ?!」

 

 

「ミク?!」

 

 

 どうやら何もない所でコケたらしい。僕がミクを受け止めようとする前に、ミクの両手が僕の肩をがしっと掴んだ。

 

 

「ふぅ~~、痛つつつつ……」

 

 

「だ、大丈夫?」

 

 

「マスター」

 

 

「は、はい…」

 

 

 あの、顔が近いんですが。

 

 

「マスターがミクの事をすっごく考えてくれている事、ミクは知っているんですよ。特にこの詞が、教えてくれたんです。でも、私だって…!」

 

 

 そう言うと、ミクは僕の肩から手を離し、目の前に正座をした。

 

 

「私が…、この詞を大好きなもう一つの理由でもあります。私は、歌でみんなに希望を届け、笑顔にさせるために生まれてきた存在…そのはずなのに、マスターってば最近いつもそんな顔ばーっかりなんですもん。ミクがあの手この手で元気を出してあげようとしても、作曲ガー、作詞ガーって言って。それが、私の為だって分かっていたから、余計に苦しくて…。でも、頭の中はマスターの事ばっかりで。だから、ミクもマスターと同じだったんですよ。」

 

 

 先ほど、僕がすべてを吐き出したように、ミクもまたそのすべてを僕にぶつけた。

 

 

「…僕って、つくづく情けないよな…。ミクが辛い思いをしているのにも気づけなかったなんて…」

 

 

「だーかーらー!そんな顔しないでくださいって言ってるじゃないですかー!もっと肩の力を抜いてください!私の為を想ってくれてるのは分かりますけど、それじゃ本末転倒なんですよ~!ミクは笑顔を届けるアイドルなんですよ?…悲しい事や辛いことがあったら、ミクの歌を聴きに来てください!楽しいときは一緒に歌いましょうよ!マスターがミクを好きでいてくれる限り、ミクはどっかに行っちゃったりしないんですから!!」

 

 

 そうだ。そうだった。僕には彼女の歌があるじゃないか。今はそれだけでいい。

 

 

 いつか、僕が作った曲を彼女に歌って欲しい気持ちがあるのは確かだが、それはそれだ。

 

 

「ミク」

 

 

「はーい?」

 

 

「これからも僕の、そしてみんなのココロを救うアイドルでいてください。」

 

 

「ふふふ…、もちろんです♪」

 

 

 ふと、窓の外を見やる。夜が明け、空は白みがかっていた。

 

 

 今日は、大切な記念日。

 

 

「お誕生日おめでとう、ミク。」

 

 

 一瞬のきょとんとした表情ののち、太陽のような彼女の笑顔がそこにあった。




ここまで読んでいただいた方、どうもありがとうございます!
いかがだったでしょうか?
本作のマスターは、ほぼほぼ私ですね(笑)
ミク好きであるがゆえに、こういう感情を抱えてしまう事ってあると思います。
でも、そんな時こそミクさんの曲を聴いて、元気を出してください!
なんたって私たちのココロを救うアイドルなんですから。

評価や感想などお気軽にいただけると励みになります!
よろしくお願い致します(^^)

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