愛した人と学戦修行   作:白夜132

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遅くなってすみません。4月も投稿しようと思ったのですが、時間がなくできませんでした。本当にすみません。


第6話

ユリスside

 

私は再開発エリアの廃ビルを訪れていた。

解体工事中のそこは、すでに一部の壁や床が打ち壊されているため広く感じるが、あちこちに廃材が積まれているため死角は多い。

一番奥の区画に足を踏み入れた途端、吹き抜けになっている上階部分から廃材が落ちてきた。

 

ユ「咲き誇れ―――レッドクラウン。」

 

私がそうつぶやくと同時に、私を守るように五角形の花弁が出現し、落下してきた廃材をすべて跳ね除けた。

 

ユ「今更この程度で私をどうにか出来るとは思ってないだろう?いい加減、出てきたらどうだ。サイラス・ノーマン。」

サ「これは失敬。余興にもなりませんでしたか。」

 

廃材が巻き上げた土ぼこりが立ち込める中、サイラスがゆっくりと姿を現し、芝居がかったしぐさで頭を下げる。

 

サ「それにしても驚きましたよ、よく僕が犯人だと分かりましたね?」

ユ「昨日、貴様が口を滑らせたおかげでな。」

サ「昨日?はて、なにか失敗しましたか?」

ユ「昨日、商業エリアで顔を合わせた時にあいつがレスターを挑発しただろう?あの時、貴様はレスターを止めようとこういったのだ。『決闘の隙を伺うような卑怯なマネ、するはずがありません』とな。」

サ「・・・それがなにか?」

ユ「なぜ襲撃者が決闘の隙を狙ってきたことを知っている。最初の襲撃―――あいつとの決闘の隙を狙った狙撃はニュースになっていない。」

サ「でも二回目の襲撃はニュースになっていたじゃありませんか。実際に僕も見ましたよ。」

ユ「そうだな、確かにニュースにはなった。だがあれはどれも私が襲撃者を撃退したとういうことを伝えていただけだ。沙々宮の名前どころか、彼女が現場にいたことさえ伝えていなかった。愚かしいことだ。あの時、貴様らを撃退したのは沙々宮の方だというのにな。」

サ「・・・・。」

 

サイラスは底知れない目で私を見つめている。

 

ユ「わかったか?あの現場に他にも人がいたという事実さえニュースになっていないのに、『決闘の隙を狙った』と言い切れるのは、その状況を直接見ていたか、あるいはその状況を聞かされたか―――いずれにせよ、犯人かその仲間しかありえんのだ。」

サ「これはこれは・・・僕としたことが迂闊でした。とすると、彼があの時レスターさんを挑発したのもわざとですか?」

ユ「だろうな。あれはそのくらいの腹芸ならやってのける男だ。しかし、白夜はそれより前に知っていたようだがな。」

 

少し自慢に胸を張って言った後、白夜について苦笑しながら話した。

 

サ「ふむ・・・だとすると彼の方に狙いを変えたのは正解だったようですが、もう一人の方は予想外ですね。まあ、あなたを狙う上で、彼はいかにも邪魔者だ。」

ユ「っ!貴様・・・!」

サ「くくっ、わかっていますわかっていますよ。あなたがわざわざここに足を運んでくださったのは、そうさせないためでしょう?だったら取引をしませんか?」

 

余裕の表情で手を広げて見せるサイラスに、私は奥歯をかみしめた。

今朝、ユリスの机に入れられていた手紙には「これからは周囲の人間を狙う。それを望まぬなら以下の場所に来られたし」とあったのだ。

 

サ「こちらの条件はあなたのフェニクス出場辞退です。」

ユ「話にならんな。ここで貴様を叩きのめせば済むことだ。」

 

私は、そういいながらレイピア型の煌式武装を起動させサイラスに向けた。

少しの間、サイラスと睨み合っているとレスターの叫び声が聞こえてきた。

 

レ「今の話は本当か?サイラス。」

ユ「レスター。」

サ「やあ、お待ちしていましたよ。レスターさん。」

レ「ユリスが決闘を受けたというから来てみれば、てめえがユリスを襲った犯人だと。」

ユ「こいつはどこぞの学園から依頼を受けて、フェニクスにエントリーした有力学生を襲っていたのだ。知らなかったのか?」

レ「同じ学園の仲間を売ったのか。」

 

レスターの言葉を聞いたサイラスは軽く笑った後、話し始めた。

 

サ「御冗談を。このアスタリスクに集まるのはみな敵同士、所詮己の欲望のために狙い狙わる関係じゃありませんか。だったらそれを利用して稼ぐ方が賢いと思いませんか?」

レ「ぶちのめす前に聞いておくぜ、なぜ俺様を呼び出した?」

サ「あなたには一連の襲撃事件の犯人役をやっていただきます。お二人は決闘して仲良く共倒れ、無難な筋書でしょ。」

 

サイラスの言葉にレスターは斧型の煌式武装を起動させてサイラスに襲い掛かった。

 

レ「くたばりやがれー!」

 

その時、サイラスとレスターの間に黒ずくめの大男が割って入り、レスターの一撃を素手で受け止めた。

それだけでも驚異的なのに、大男はレスターが渾身の力を込めてもびくともしない。

驚いた顔を浮かべつつもレスターは一度大きく距離を取った。

 

レ「へっ!それが自慢のお仲間ってやつか。」

サ「ふっ、馬鹿を言わないでください。」

 

サイラスが指を鳴らすと天井の吹き抜けからもう二人黒ずくめの男が降ってきた。

 

サ「こいつらは、かわいいかわいいお人形ですよ。」

 

サイラスがそういうと黒ずくめの三人は着ていたマントを脱ぎ棄てた。

それは、顔には目とおぼしき窪みがあるだけで鼻も口もない。関節は球体でつながっており、全体的につるんとしている。強いて言えば、マネキンに近いがそれよりもはるかに不気味な外見だ。

 

ユ「戦闘用のパペットか・・・。」

サ「あんな無粋なものと一緒にしないでいただきたいですね。こいつらには機械仕掛けは一切使っていませんよ。」

ユ「なるほど、それが貴様の本当の能力という訳か。」

レ「くらいやがれ!ブラストネメア。」

 

レスターがプラーナを高めると、ヴァルディッシュ=レオの光の刃が二倍ほどに膨れ上がる。

裂帛の気合と共に振り下ろされたそれは、人形たちを三体まとめて吹き飛ばしていった。

派手な音を立てて柱に激突し、破片が飛び散る。受け止めた柱に亀裂が入るほどの威力だ。

その一撃で三体のうちに二体が完全に破壊されたようだ。いずれも手足がもげてあらぬ方向を向いている。もっとも大男タイプの人形はボディにひびが入っただけですんだらしい。柱から体を引きはがすと何事もなかったかのようにレスターと向かい合った。

それを倒そうと人形に接近しようとすると柱の陰から新たな人形が二体レスターの光弾の雨を浴びせた。

 

レ「ぐああああああああああ!」

ユ「レスター!」

 

私が、思わず飛び出そうとしたが、それを阻むように別の人形が現れた。

 

サ「おっと、あなたはそこでおとなしくしていてください。そうそう、こいつらはあなた用に耐熱限界を上げてあります。」

 

ユリスを囲むように新たに三体の人形が現れた。他の人形たちと違って素体の色が真っ黒だが、違いといえばそれだけだ。

その手には剣型の煌式武装が握られていた。

 

レ「きたねぇ不意打ちしかできねぇようだな。」

 

レスターは立ち上がりながらサイラスにそういった。

 

サ「おや、存外お元気のようですね。」

レ「ふっ、こんなでくの坊例え何体かかってこようと・・・。」

 

レスターが喋っている最中に目の前に新たな人形が降ってきた。

その人形に続いて吹き抜けから一体また一体と増えていく。

レスターは忌々しそうにその光景を見ていたが、次第にその顔に浮かぶ表情は驚愕へと変わり、やがて恐怖へと塗り替えられた。

 

サ「何体でかかってこようと?いいでしょう、お望み通りにしてあげます。僕が同時に操れる最大数百二十八体でお相手して差し上げます。」

 

百二十八体の人形を前にレスターは絶望した顔で立ち尽くした。

それをサイラスは笑いながら見下ろした。

 

サ「あーははは、いい表情です。では、ごきげんよう。」

 

大量の人形に押しつぶされてレスターが見えなくなり悲鳴だけが聞こえた。

助けに行こうにも人形が道をふさいで助けることもできない。

 

ユ「やめろ、サイラス!

咲き誇れッ―――!アンテリナム・マジェス!」

 

ユリスが細剣を振るった軌道に魔方陣が浮かび上がり、そこから猛烈な熱波が迸ったかと思うと、その魔方陣を破るように巨大な焔の竜が出現した。

焔の竜は雄たけびを上げると、行く手をふさいでいた人形たちをその顎でまとめてかみ砕いた。

 

サ「これは大したものですね。しかし、所詮は多勢に無勢!」

 

顎をかいくぐった人形が五体、再びユリスを囲むようにして襲い掛かった。

それを細剣を振るって応戦し胴体に蹴り飛ばして倒し、最後の一体に細剣を突き刺した時、人形がしがみついてきた。

人形にしがみつかれて身動きが出来ない間に、サイラスの横にいる人形たちが銃を構える。

とっさに焔の竜を盾とすべく呼び戻すがわずかに間に合わず、光弾が太ももを抉りその場に膝をついた。

すかさずに二体の人形が両腕を抱えるようにして壁に押さえつけた。

同時に焔の竜が溶けるように掻き消えた。

 

サ「あなたの能力は強力ですが、ご自分の視界までふさいでしまうのが難点ですね。」

ユ「ふん・・・さすがに、よく観察しているじゃないか・・・。

だが、私にも一つ分かったことがあるぞ。」

サ「ほう、なんですか?」

ユ「貴様の背後にいるのはアルルカンとだということだ。」

 

その言葉にサイラスの顔から笑みが消える。

 

ユ「その人形共、特別仕様とか言っていたな。だが私やレスターの攻撃に耐えうるだけの装甲をどこから調達した?ましてやその数を量産できるとなれば、他の学園では不可能だ。」

サ「ふむ、ご明察―――ですが、これはいよいよもって見逃すわけにはいかなくなりました。」

ユ「はっ、もともとそんなつもりないくせによく言う。」

 

サイラスが私に近づこうとした時、私の腕をつかんでいた人形の腕が千切られて左右それぞれの方向に飛んで行った。

 

ユ「なっ!?」

「悪いな、遅くなった。」

 

そして、私の前で人形の腕を落として白夜が声をかけてきた。

その後、すぐに窓側の方から綾斗が入ってきて抱きかかえて支えてくれた。

 

サ「どうしてここに!?」

 

白夜side

 

「お前が、ユリスに呼び出しの手紙を送ってくることは予想してたからな。今朝、気づかれないよにユリスに発信機を仕掛けて置いたんだよ。」

 

サイラスの質問に対して当たり前のように答えるが、その答えにサイラスとユリスは絶句して何も言えなくなり、それを見て綾斗はただ苦笑していた。

 

ユ「貴様、いつのまに仕掛けた!」

「お前が手紙を読んでる時に横を通り過ぎる一瞬で付けた。」

ユ「ど、どこに?」

「左手の袖の裏。」

 

ユリスが、左手の袖を調べると確かに黒い小さな機械が出てきた。

それをユリスは握り潰して、白夜を軽くにらんだ。

 

「おいおい、助けに来たのに随分な態度だな。」

綾「発信機仕掛けられてたら誰でも睨むと思うよ。」

 

白夜の言葉に呆れながら綾斗が返した。

 

ユ「発信機を付けていたなら、もっと早く来られたんじゃないのか?」

 

ユリスの言葉に、綾斗が気まずそうな顔で頬をかいた。

 

綾「移動してる途中で紗夜から迷子になったから助けてくれって連絡が入って、それをクローディアに連絡してたら、遅くなって、ごめん。」

ユ「それは貴様が謝ることではないだろうに。」

「まあ、取り合えず犯人を早く捕まえて帰ろうぜ。」

 

白夜の言葉に今度こそユリスは呆れた顔で白夜に返した。

 

ユ「お前にはあの数の敵が見ないのか?」

 

ユリスの言葉に今まで驚いていたサイラスも復帰して話しかけてきた。

 

サ「なぜ、手紙のことがばれたのかはこの際いいとして、彼女の言うようにこの数を相手に勝てるとでも?」

「別におもちゃ数体相手にするのに何か問題があるのか?綾斗、半分倒しておいてやるかユリスと上で少し話して来ていいぞ。さっきから何か言いたそうだしな。」

綾「わかった。というか全部倒してくれてもいいんだけど?」

「おいおい、俺が手の内見せるんだからお前もすこしは見せろよ。」

綾「わかったよ。じゃあ、少しの間よろしく。」

 

綾斗はそれだけ言うとユリスを連れて天井の吹き抜けから上の階に上がった。

 

「さて、俺たちも始めるか。」

サ「私は、お二人同時に相手にしてもいいんですよ。」

「必要ないさ。言っただろおもちゃを相手に二人がかりはオーバーキルだからな。」

サ「大した自身ですね。いいでしょう。これだけの数を一人でどうにか出来るというならやってみるがいい!」

 

四方から光弾が乱れ飛び、その合間を縫って剣や斧、槍といった煌式武装を持った人形たちが飛び掛かってきた。

人形たちが、白夜の間合いに入った瞬間に人形たちは持っている武器ごとバラバラにされて吹き飛ばされた。バラバラにされた人形の切り口は切れ味の悪い何かで無理やり叩ききったようだ。光弾は白夜に当たるものだけがすべて弾き飛ばされる。

そのあまりに異様な光景にサイラスは驚愕に顔を染めて、人形たちは攻撃を止める。

そこには、膨大なプラーナを纏った白夜が先ほどと何も変わらない自然体で立っているだけだ。

 

サ「貴様、いったい何をした!?」

「何って見たままだが?」

 

白夜はさも当然のように言うが、誰が見ても異常な状況だ。

 

「どうした?来ないならこちらから行くぞ。」

 

白夜はそういって、サイラスにゆっくりと歩いて近づいた。サイラスは得体の知れない化け物が近づいてくる恐怖で後ずさりながら、人形たちの攻撃を再開した。

しかし、結果は先ほどと何も変わらず、頑丈な大男タイプの人形でさえもバラバラにされて吹き飛ばされる。光弾もはじかれ何一つとして攻撃が通用せず、白夜は一歩、また一歩と確実に近づいてくる。その白夜の姿にサイラスの顔は絶望に染まり、その場から動けなくなった。

しかし、不意に白夜は止まり距離を取った。

 

サ「!?」

 

その行動が理解できずサイラスは何も言えないまま、ただその場で驚くだけだ。

 

「俺の仕事は終わったぞ。」

 

白夜が、そういうと上から綾斗がユリスを抱きかかえて降りてきた。

 

綾「本当に俺いらなかったんじゃ・・・。というか本当に半分だけ倒したんだね。」

「ああ、あとは任せたぞ。」

 

白夜はそういうと、近くの柱に縋って見学を始めた。

それを綾斗は呆れたように見つめ、ユリスは化け物を見るようにこちらを見てきた。

 

綾「はあー。まさか、白夜があそこまで強いとは思わなかったよ。」

「へー、さっきの見えてたのか?」

綾「まあ、一応はね。」

「これは、少しは期待できそうだな。」

綾「期待には応えられないと思うけど、まあ、俺なりに頑張るよ。」

 

綾斗は、それだけ言うとサイラスの方を向き目を閉じて集中しだした。

 

綾「内なる剣を以って星牢を破獄し、我が虎威を開放す!」

 

綾斗の顔に苦悶の表情が浮かび、プラーナが爆発的に高まったかと思うと、複数の魔方陣が周囲に浮かび上がり、光の火花を散らし砕け散る。圧倒的なプラーナが解放され、光の柱のように立ち上がる。

そして次の瞬間、綾斗の姿はその場から消えていた。

サイラスは、何が起きたかわからないままぽかんと立ち尽くしたまま、先ほどまで綾斗がいた場所を見ていた。

 

サ「・・・・な、馬鹿な!?」

 

サイラスは慌てて周囲を見回した。

周囲には、白夜にやられたものとは違い、高熱で焼き切られてバラバラになった人形が何体か倒れていた。

 

サ「どこに消えた!?」

綾「ここだよ。」

サ「ひっ!」

 

綾斗は、サイラスの斜め後ろに立っていた。

ユリスを抱えたまま、一瞬で回り込んだのだ。それも人形たちを薙ぎ払いながら。

ユリスには、猛烈な突風と共に景色が切り替わったようにしか見えなかったが、その動きが尋常な速度ではなかったことくらいは理解できた。

 

サ「な、な、な・・・・!」

 

サイラスは慌てて振り返り、青い顔をして後ずさる。

そこには、右手に大剣、左手に少女を抱え、目視できるほどに圧縮された莫大なプラーナを纏った少年の姿があった。

 

(これは、すごいな。プラーナの量は俺より少し少ない程度か、身体能力も大したものだ。それにあの剣はかなり厄介だな、触れられないとなるとかわすしかないか。)

 

白夜が綾斗の戦いを見ながら考えていると、残った半分の人形も全滅していた。

それを確認して白夜は綾斗の方に近づいて行った。

 

「おつかれ、なんでお前ユリス抱えたまま戦ってんの?」

綾「白夜がユリスを守ってくれそうになかったからだけど。」

「別に言えばそれくらいやってやったのに。」

綾「まあ、別に問題ないから良かったんだけど。」

「そうか。」

 

そういって方、サイラスの方を見ると呆然と立ち尽くしていた。

 

サ「・・・・馬鹿な・・・・こんな馬鹿なことが・・・・ありえない・・・・ありえるはずがない・・・・。」

 

綾斗はそんなサイラスに大剣を向けると、悲鳴を上げてしりもちをついた。

 

綾「ゲームはおしまいだよ、サイラス。」

サ「・・・・ま、まだだ!まだ僕には奥の手がある!」

 

サイラスは腰砕けになりながらも大きく腕を振った。

すると、背後にあった瓦礫の山が吹き飛び、中から巨大な人影が姿を現した。

他の人形の五倍くらいの大きさがあり、腕も足もこの廃ビルの柱くらいあるだろう。外見は人いうよりゴリラのようだ。

 

サ「は、ははは!僕のクイーン!やってしまえ!」

 

サイラスの命令に従い、巨体に似合わぬ素早い動きで白夜達に襲い掛かってきた。

白夜と綾斗はお互いにため息をついて、白夜が前に出た。

白夜に巨大な腕が振り下ろされたが、白夜はそれをかわし腕が床につく前に巨大な人形の胴体を殴った。

巨大な人形は、胴体を殴られたことで上に打ち上げられ、殴られた場所から放射状にひびが全身に広がった。その後、巨体は綾斗がいるあたりに飛んで行った。

そして、巨体が綾斗たちを圧死せんと迫る刹那―――その剣が閃く。

 

綾「五臓を裂きて四肢を断つ――――天霧辰明流中伝”九牙太刀”。」

 

白夜以外では、間近で見ていたユリスにも、綾斗が何をしたのか分からなかった。

セル=べレスタが煌めいたかと思うと、巨大な人形は両手足を切断され地響きを上げて倒れていたのだ。その胴体には白夜の殴った跡以外に大きくえぐられた跡があったが、どのような攻撃でそれがなされたのか―――いや、そもそもにおいて綾斗が何回剣を振るったのかさえもユリスには見えなかった。

 

サ「・・・・・。」

 

サイラスにいたってはもはや言葉も出ないらしい。

それでも綾斗が近づいてくると、顔を引きつらせて逃げ出した。

 

サ「ひぃぃ!」

 

そしてサイラスは人形の残骸に縋りつくとふわりと浮いて吹き抜けから飛んでいった。

 

「ああ、面倒だなー。」

綾「ごめん、ユリス。ちょっと追いかけてくるから、ここで待っていてくれるかな。」

ユ「それはいいが、間に合うのか?」

綾「・・・正直、微妙なところだと思う。」

ユ「ふん、だったら私の出番だな。」

綾「え・・・?」

ユ「言ったはずだぞ、足手まといになるつもりはないとな。」

(いつ言ったんだ?そういえば、さっき戦闘前に何か二人で話してたな。その時か。)

 

白夜が、そんなどうでもいいことを考えていると。

 

ユ「咲き誇れ―――ストレリーテイア!」

 

マナが集約し、綾斗の背中から何枚もの焔の翼が広がった。

 

綾「うわっ!」

ユ「行くぞ、コントロールは私がする!今度こそあの卑怯者に一発かましてやれ!」

綾「・・・お姫様のセリフじゃないよ、それ。」

 

そういいながら綾斗とユリスは吹き抜けから飛んでいきサイラスを追いかけて行った。

 

「俺は、万由里と合流して帰ろ。」

 

白夜は廃ビルを出て万由里の気配がある方に向かって跳んだ。

 

万由里side

 

私は、クローディアと一緒に白夜達の戦闘を外から見ていた。

ちょうど、すべての人形を白夜達が倒し終わったところだ。

 

万「綾斗が思っていた以上に強くて驚いたわ。」

 

私の言葉にクローディアはいつものように笑顔だが、ほんの少し引きつっている。

 

ク「確かに綾斗の強さには驚きましたが、それ以上に白夜の強さに驚かされました。」

万「はあ、刀くらい抜かせてくれるじゃないかと期待してたんだけどね。結局一度も抜かなかったし、人形も光弾も手刀で全部叩き斬っていたし。」

ク「あれは本当に手刀だったのですね。見えない速度で刀を抜いてるのかと思いました。」

万「その方が現実的だから?」

 

クローディアに万由里が首を軽く傾げて質問する。

 

ク「ええ、そうですね。」

万「そ。けど、私は手刀でやったって言われた方が納得できるけどね。」

ク「そうですか?」

万「手は見えるのに刀が見えないのは変だしね。それにプラーナで手を強化して叩き斬ってたみたいだから。」

 

クローディアは私のことを驚いた顔で見てきた。

 

万「どうしたの?」

ク「そんなところまで見えていたのですね。」

万「白夜と付き合いが長いとその辺も注意してみるようになるのよ。」

ク「そういうものですか?」

万「そういうものよ。それより、サイラスが落とされたみたいよ逃げられる前に捕まえに行かなくていいの?」

ク「それもそうですね。では行ってきます。」

 

クローディアは、サイラスが落ちて行った場所に跳んで行った。

そして、クローディアが行って少しすると白夜がこちらに跳んできた。

 

万「おつかれ、白夜。」

「ああ、どうだった?」

万「多少はね。けど、出来れば刀を抜いて戦うところも見たかったんだけどね。」

「あの程度の相手に抜く必要もなかったしな。」

万「ちなみに、あれどうやって斬ったの?結構硬そうだったけど?」

「ああ、手刀が当たる瞬間だけプラーナで強化して斬ったんだ。一瞬なら全力で強化してもガス欠しないからな。」

万「なるほど、当たる瞬間だけ出力を上げているのね。」

 

白夜の説明に私は納得して軽くうなずいて返した。

 

「じゃあ、そろそろ帰ろうぜ。」

万「そうね。あとはクローディアがやるだろうし。」

「クローディア以外にも来てるみたいだがな。まあ、もう問題ないだろう。」

万「それもそうね。じゃあ、はい。」

 

私は、帰ろうという白夜に近づいて両手を大きく開いた。

その行動の意味が分からなかったのか白夜は首を傾げた。

 

「?どうしたんだ?」

万「ユリスみたいにお姫様抱っこで運んで。」

 

私は、上目遣いで軽く首を傾げてお願いしてみた。

 

(ああ、まったく万由里はかわいいなー!)

「わかった。」

 

白夜はそれだけ言うと、私をお姫様抱っこしてくれたので落ちないように白夜の首に腕を回した。

白夜は私をお姫様抱っこした後、建物の上を飛び移りながら星導館まで帰った。気のせいでなければ、白夜にしてはゆっくり帰っているような気がした。


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