学園長のキャラが掴めなかったけど、うちの学園長はこれで行きます。
布仏本音と同じ時間に織斑千冬は、学園長の前で神妙な面持ちで立っていた。
目の前に座る壮年の男性、轡木十蔵。普段は、IS学園の用務員として、学園の至る所で目撃される人物だか、その正体はIS学園を取り仕切る学園長。各国の政府関係者すら、この男の前では大きな口が聞けない。
「それで、織斑先生。話とはなんですかな?」
「はい、事前に話していた通り西村赤也の件についてです」
その男の放つ圧力に屈する事なく、口を開く織斑千冬。
内心、かなりの冷や汗をかいている。だが、自分より年下の少女が今頃、長年仕えた主に覚悟を示しているのだ。
それなのに自分が屈してなるものかと、自らを奮い立たせる。
「サードオニキスによる侵食を、押し留めるべく、一年生の布仏本音主導で『IS学園機体開発計画』を推し進め、そのISを布仏本音に預けるという話でしたな」
「はい。本日は、その件を学園に了承して頂きたく、こうしてお時間を頂戴しました」
「ふむ……まずはこれを見てくれ」
十蔵が紙の束を机の上に置く。
拝見します、と一言かけ、千冬がめくっていく。
「…これは…」
「西村赤也君に対する、悪評の様なものですよ。生徒会に届けられたものや職員から出たものもあります」
内容は様々だが、総じて言えることは西村赤也という人物をIS学園から追い出したいというもの。
思わず、千冬は紙を持つ手に力が入ってしまう。ぐしゃりと歪んだ紙は、千冬の表情を写したかの様だ。
「その顔を見る限り、君が見てきた西村君の人物像は違う様だね」
十蔵は、千冬の顔を見て、どこか嬉しそうに笑う。
政府に顔も広く、本人の力も高い。だが、彼は根っからの教師だった。直接は教えていなくても、自分の生徒に悪評を言われるのが当然という者がいない事実に喜んでいるのだ。
「えぇ。少なくとも、私から見た彼は決して善人ではありませんが、人を思いやる心があり、自分の境遇に悲観する人間味があります。
確かに、サードオニキスを手に入れた直後には驕り高ぶる所もありましたが、自分を支えてくれる布仏の様な人間、対立こそするが、認め合う事の出来るオルコット。そう言った存在に出会い、彼の雰囲気は変わっています」
最初は警戒していた。
同室で暮らしたのも、自分の力量があれば取り押さえる事が可能だと判断したからだ。しかし、自分と暮らしている間、赤也は反抗する訳ではなく、逆に乱れていた自分の生活サイクルを整え、飯まで嫌な顔一切せずに作ってくれるという甲斐甲斐しさまで見せた。
いつからか、千冬は彼の料理を楽しみにしていたし、その為で職員室で終わらせる事の出来る仕事もわざわざ、自室に持ち帰ってまで赤也と交流する時間を増やしていた。
端的に言えば、千冬は赤也との同棲生活を楽しんでいたのだ。
「ふむ…」
十蔵が口を開こうとした時、学園長室の電話が鳴る。
「構いません」
「話を切って悪いね」
十蔵が電話に出る。
千冬に相手の声は聞き取れない。だが、何故か十蔵が楽しげにしているのは分かった。
「えぇ、こちらに織斑先生は来ていますよ。はい、そっちの同じ案件です」
十蔵のその言葉を聞いて、千冬は理解した。
電話の相手は、生徒会の誰かで、内容は自分と志を同じとする本音に関してなのだろうと。
そして、電話を切る十蔵。
「生徒会でも布仏さんが同じ話を持ってきたそうです」
「やはりそうでしたか。私と布仏が願っていることは同じです」
本音も頑張っている。その事実が千冬の覚悟をより大きなものにする。
「学園としては、彼を脅威として見ているという事は、改めて伝える必要はないでしょう」
「はい。理解しています」
グッと握りこぶしを作る千冬。
「織斑先生、貴女は彼の鎖になれますか?」
「は?」
十蔵の言葉に目を丸くする千冬。
それを見て、はしょり過ぎましたねと笑う十蔵。
「私から見た彼は、どちらに転んでもおかしくない存在に見えるのです。
今は、貴女や布仏さんの存在が大きく、彼も道を踏み外しません。ですが、彼の抱える闇を突く存在が現れた時、貴女は彼を留める事の出来る存在になれますか?っと聞いているのですよ」
その言葉を聞き、目を閉じる千冬。
確かにそうだ、赤也の闇はいつ爆発してもおかしくない不発弾の様なもの。
今は導火線がない状態だ。だが、束や彼を疎ましく思う国際IS委員会、裏組織など彼の導火線になり得る存在は多い。
彼が爆発し、闇に歩を進む様な事態になった時、自分は鎖として彼を引き留める事が出来るのだろうか。
そんな事、彼女の中ではとうに結論が出ている。
「なれます。その覚悟がなければ、私はこうして貴方の前に立ってはいません。
それに、鎖は私一本ではありません。布仏という鎖だって彼を縛ってくれます」
十蔵が放つ圧力と空気に負ける事なく、宣言する千冬。
しばらく、沈黙が続き十蔵が微笑む。
「分かりました、織斑先生、貴女の覚悟はしっかりと見させて頂きました。
ですが、こちらからも条件があります」
十蔵が認めてくれたことで、笑みが溢れるがその後の条件という言葉を聞いて、気を引き締める千冬。
「そんなに固くなる事ではありませんよ。
織斑先生、貴女に西村君の稽古をしていただきたいのです。貴女達が鎖になってくれても彼が弱ければ意味がありません。
隙を突かれ、攫われてしまうだけです」
「稽古ですか?……ですが、彼のサードオニキスは」
「ISでの訓練という訳ではありません。自衛するための体術を身につけて欲しいのです。
彼の経歴を見た限り、武術をやっていた経歴はありません。これでは、あまりにも貧弱です」
その言葉にそうだったかと思い出す千冬。
彼がサードオニキスを操縦し、戦えているのは身体と繋がっているという利点を活かした感覚によるイメージの具現化。
彼自身が強くなる事で、サードオニキス使用時に、無理をしなくて済む。即ち、彼が自分の限界を越えようとしなくて済むという事だ。
十蔵がここまで考え、発言しているのかは千冬には読み取れない。
「分かりました。惜しむべきは、彼が剣を使わないという事ですが、鍛えてみせましょう」
「では、学園としての判断は生徒会に預けるとしましょう」
十蔵が電話ではなく、メールを送る。
「しかし、西村君は愛されていますね。織斑先生にこうも想われるなんて」
話が終わり、和やかな空気に切り替わり十蔵が千冬を揶揄うかの様に発言する。
「が、学園長…揶揄うのはやめてください。私は、ただの生徒としてあいつが大事なだけです」
「ほっほっほ。そういう事にしておきましょうかね。反対する教師達はこちらで言いくるめておきますので。
織斑先生のやりたい様にしてください」
「分かりました。ご助力感謝致します。学園長」
千冬が深々と頭を下げて、礼を述べる。
それを優しげに見守る十蔵。
そして、昼休みを告げるチャイムが鳴る。
「それでは失礼します」
「またお話しできる機会を楽しみにしてますよ。織斑先生」
千冬が学園長室から出て行く。
十蔵は、茶を飲み、窓から見える青い空を眺める。
「西村赤也君……どんな人物なのか興味が出てきました。近々接触してみる事にしましょうか」
なにせ、用務員だ。機会はいつでもあるだろうっと、いつかの接触を楽しみに十蔵は笑う。
四時間目の授業が始まる直前に、普段より遅れてきた千冬と本音が出会う。
二人とも笑みを浮かべている。
「こちらは上手くいったぞ。楯無はどうだった?」
「三日後にISを使って戦う事になりました〜」
千冬は本音が普段と変わらない様子で、言うのが面白いのか本音の背中をバシバシと叩く。
「いたいですよぉ〜織斑先生〜」
むぅっとむくれ、抗議の視線を送る本音。
「悪い悪い。三日後か……やれるのか?」
「多分、勝てないと思いますけど、私の本気をたっちゃんにぶつけてみるつもりです」
「そうか。頑張れよ、布仏」
布仏がやる気満々なのを見て、自分も赤也の訓練メニューを考えなければなと思い出す千冬。
「あ、そうだ〜織斑先生。一先ずの、お疲れを祝って〜」
ダボダボした片手を挙げる布仏。
最初は不思議そうに見ていた千冬だが、合点がいった様で千冬も手を挙げる。
「「おつかれ様」」
ボスンっと少し気の抜ける音ではあったが、二人のハイタッチが成立する。
二人とも満足げな笑みを浮かべていた。
2話続けてオリ主が一切出てこない。
名前はいっぱい出てきてるのにね。
評価をくれた皆様、ありがとうございます。
とても嬉しいです!
感想・批判お待ちしています