目の前に対峙する最強にどう対応しようか悩む。
でも、喧嘩もろくにした事がない俺が、どうやって千冬のどこか一分でも良いから、右腕で捕まえるビジョンは見えない。
オルコットの時は、事前に動きを見て考えられる動きを全て予測していたから、対応できた。
でも、この人のは無理だって。
「そこっ!」
右腕を突き出し、足を掴みに行く。
「甘い!フェイントを織り交ぜろと何度言わせる!」
右手で俺の頭を掴み、自分が飛ぶための置物がわりに使われる。
当然、前傾姿勢だった俺の身体は前に勢いよく倒れる。
「くっそ…」
もう何度したか分からない転倒から立ち上がり、正面を見る。
俺の着ているジャージは新品の筈だが、相次ぐ転倒により汚れている。だが、目の前の千冬の白いジャージにはまるで汚れが付いていない。
「諦めるか?ん?」
「はっ……誰が、諦めるかよ!」
息を切らしながら立ち上がる。
千冬に稽古をつけて貰ってから、経過した時間は一時間。経った、一時間なのに身体中が悲鳴を上げている。
我流ではあるが、右足を少し前に出し半身の構えを取り、右腕を少し斜めに構え、千冬を睨む。
千冬はただ、立っているだけだ。腕を組んでこちらの出方を伺っている。
フェイントねぇ……あぁ、一個だけ思いついた。やってみるか。
「ふっ!」
息を短く吐き、体勢を低くし、千冬へと走る。先程と同様に、足を狙って手を伸ばす。
またかと言わんばかりの顔を浮かべられる。だから、体重を左側に傾け、回り込むように跳躍する。
「うおぉ!」
跳躍しながら、空中で千冬の顔面を狙い、右手を突き出す。
だが、千冬はニヤリと笑い。
「考えたが、まだ甘いぞ」
余裕で避け、がら空きの俺の右脇に手を入れ、一本背負いの様に俺を投げ飛ばす。
「あ、しまった」
千冬の気の抜けた声が聞こえるが、正直それどころじゃない。
俺は受け身が取れないぞ!?背中に強い衝撃を受け、肺から一気に空気が抜ける。
「ゲホッゴホッ!?……殺す気か!?千冬!!」
意識だけは失わずに済んだけど、超いてぇ。
ISに乗らなくても人間って、加速する世界と遠のく地面とか天井が見れるんだね。初めて知ったよ。
今、俺が行なっているのは千冬との稽古。分かっていたが、初心者の俺に一切の容赦がないスパルタ式。
確かに俺、感覚で覚えるけど。なんの手解きもなしに、やりやって覚えろって鬼畜過ぎない?
「悪い悪い。つい、な」
まぁ、稽古している最中、ずっと無表情だった千冬にニヤリと笑わせる事が出来たぐらいは喜んでも良いか。
「つい、で済んだら警察要らないぞ全く。で、今の何点ぐらいだ?」
「そうだな……今までを0点とするなら、精々、20点かそこらぐらいだな」
20点かぁ…手厳しいな。まぁ、でもこの人からしたら、さっきの俺の動きなんて、赤子の様なものか。
「狙いに行った場所から、跳躍して狙うという策は悪くない。
だが、視線でバレバレだ。次に自分が行く場所を見ていたら、当然読まれる。それに、フェイクをするにしても、勢いが今までと違い過ぎる。フェイクというのは、これを食らったら不味い、相手にそう思わせて初めて成立する。
ただ来るだけのフェイクなんぞ、気にすらしないぞ」
怒涛の勢いで指摘される。
今の様に、俺が動けなくなっている時間は千冬からどんどん指摘される。当然、挫けそうになるが、ここで挫ける訳にはいかない。
「なるほどな……よしっ、次だ次。俺はまだやれるぞ!」
「よし来い。まだ、時間はたっぷりとあるからな」
結局、この後俺は千冬に一切、触れる事なく稽古が終わる。
今回の成果といえば、何度も叩きつけられる内に、受け身が出来るようになった事と、フェイクを織り交ぜるという事だけだろう。
「あぁ〜……身体いてぇ……」
「いや、すまん。正直、張り切り過ぎた。初心者にやって良いメニューでは無かったな」
寮への帰り道、千冬に奢って貰ったスポドリを飲みながら歩く。
基礎すっ飛ばして、いきなり体術ですからね。そりゃ、初心者用じゃないですよね!
「頼むぜ……俺が飯作れなくなったら困るのあんたもだろう?」
「そうだったな。なに、これで今日でお前の基礎体力を測れた。
明日からは、体力作りを体術の前に行うとしよう」
ウキウキした顔の千冬。
教師なんだなぁ…こういう所は。とはいえ、一言言っておくか。
「休みの日も作ってくれよ?オーバーワークで潰れるとか嫌だぞ」
「わ、分かっているさ。心配するな………忘れてた」
「おい、最後なんて言った?うん?」
この人、休みなく俺を鍛える気だったな。
言っておいて良かったぁ……オーバーワークで潰れて授業とか休んだらその穴埋めるのに苦労するの俺だぞ。
「ん〜?あ、やっぱり、あかやんと織斑先生だぁ〜」
「ん?布仏。どうしたこんな時間に?」
現在時刻は、寮の門限五分前。
普通の生徒なら、寮に戻って自室でゆっくりしている時間だ。俺は、となりに寮長がいるから、過ぎても大丈夫だけど、布仏は違うはず。
よく見ると、少し汗をかいている。アリーナでISでも動かしてたのだろうか?
「ちょっと、ISの自主練をねぇ〜」
当たってた。だけど、布仏は整備科志望だったはず。
言い方はアレだが、そこまで操縦に専念しなくても良いはずだ。
「そうか。でも、整備科志望のお前が操縦練習するほど、入れ込む様なイベントあったっけか?」
記憶を遡ってもそんなイベントは記憶にない。
六月ごろに学年別トーナメントがあるけど、布仏がそれでやる気出すとは思えないしなぁ。
「あはは〜乙女には秘密があるのだ〜というわけで、じゃあねぇ〜」
「あ、おい」
のたのたと、走って行く布仏。正直、簡単に追いつけるけど、秘密か。
そう言われてしまえば、聞く気にはならない。
「良いのか?」
「秘密って言われて無理やり聞き出すほど、ガキじゃない」
気にはなるけど。こういう時、無理やり聞くのはマナー違反だろう。
何のマナーだよって言われかねないが。
「……気になるなら明後日の放課後。第四アリーナに行ってみろ」
「え?」
「ほら、行くぞ」
スタスタと歩き出す千冬。
第四アリーナに行ってみろ?それが、今の布仏の態度と関係あるのか?まぁ、覚えておくか。
メモ帳に明後日、放課後、第四アリーナとメモして千冬を追いかけた。
翌日も授業が終わり、今度はグラウンドを走らせられる。
千冬も一緒に走っているが、かなりのハイペース。ついでに、陸上系の部活の連中に物凄く見られる。
「あれ、千冬様じゃない?」
「一緒に走ってるのは西村くん?」
学年が上の女子からも奇異な目線で見られるのはなんとも辛い。
ちょいちょい混ざってるクラスメイト達には、ご愁傷様って視線を向けられる。これ、別に罰則で走ってる訳じゃないからな?
「……何してますの?」
「あ?あぁ、オルコットか…」
テニスのウェアを着ているオルコットに話しかけられる。
こいつ、テニス部だったのか。体力を鍛えるための走り込みか?代表候補生にやらせる必要はないと思うんだが。
「織斑先生に、稽古をつけて貰ってるんだが………なにぶん、体力不足でな……」
「あぁ、なるほど。織斑先生に稽古をつけて貰ってるのですか……これはもっと訓練を増やした方が良いですわね。
それにしても、体力不足とは実に情けないですわねぇ」
ニヤニヤと揶揄う様な顔のオルコット。
「うっせ。お前だって、良いのか?……部活に精を出してて?
篠ノ之や、凰に織斑を取られても知らんぞ?」
そう言うと少し、不機嫌な顔になるオルコット。
ん?なんか地雷踏んだかこれ。
「…一夏さんにはもっと、乙女心を理解して頂く時間が必要ですわ」
あぁ、これは織斑が何かやったな。まぁ、どうでも良いか。
「アレにそれを求めるのは、無謀だと思うぞ」
「……こんな話どうでも良いですわ、それより、このゆっくりしたペースでは退屈してしまいますわ。お先に」
オルコットが話を打ち切り、勝ち誇った顔でペースを上げる。
クッソ、腹立つ。疲労で、なんか普通に話してた気がするけど、やっぱりあいつに負けるのは気にくわねぇ。
一気に加速して、オルコットを追い抜く。
「悪い悪い。そんなもんだったか」
「………あら、わたくしとした事がペースを乱してしまいましたわ。整えませんと」
オルコットが再び、加速して俺を追い抜く。だから、俺もペースを上げる。
結果、お互いに全力疾走になり、スタミナもなにもかも使い果たしたのは言うまでもない。俺は千冬に、オルコットは顧問にこってり絞られた。
そして、更に翌日の放課後。
千冬から休みを貰い、第四アリーナに向かっていた。布仏が隠してる事が分かるのだろうか。
今日一日、ずっと布仏は何かが書かれた紙を見ながらブツブツ言っていたし、俺や四十院が差し出すお菓子にも目をくれなかった。
明らかに何かがある。そう確信させるのは容易かった。
「あ、来ましたね」
アリーナに着くと、山田さんと、布仏に似てる人物が立っていた。
「織斑先生に此処に来るように言われたんですが…」
山田さんに話しかける。
えぇ、聞いていますと頷く山田さん。アリーナでは戦闘が行われているのだろう。銃声等の戦闘音が聞こえる。
「……この先の光景で何があっても冷静でいると保証できますか?」
布仏に似ている人物がそう言う。
「誰なんだあんたは?」
「良いから答えなさい。もし、冷静ではいられないと言うのなら、戻ってください。
本音の覚悟を汚す行為は許せませんので」
布仏の覚悟だと?
クッソ、なにが起きてるんだかさっぱり分からん。だが、布仏に関することなのは分かった。
そして、戦闘音……理由は分かんないが布仏は戦っている。一昨日出会った布仏の態度を思い出す。
やけに俺に余所余所しかった。そして、今日の態度……まさか、あいつは俺関係で戦ってるのか。
「…なにがなんだかさっぱり、分かんないが、俺の事であいつが何かしてるんだったら、俺が見届けなくてどうする。
俺はあいつの友人だ。なら、見届けるさ。俺の事で迷惑かけてんなら、全力で謝って全力で感謝する。それだけだ」
「……分かりました。入ってください」
アリーナに布仏に似たやつに先導され入る。
後ろから、山田さんが付いて来ているから、ハニトラや暗殺の類ではないだろう。
案内された場所はアリーナの端も端。意図して、ハイパーセンサーで調べない限り、見ようともしない場所。だが、こちらからは戦場がよく見えると言う穴場ポイントだった。
そこで俺は信じられないものを見る。
「なっ!?」
声が出そうになるのを必死に押さえる。
俺の視界に映ったのはラファールを纏っている布仏がボロボロで、水色のISに対峙しているところだった。
次回は、本音VS楯無を最初からお送りする予定です。
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