観客席が悲鳴に包まれる。
アリーナのシールドを破って、侵入して来る様な輩だ。此処がいつ攻撃の的にされるか分からない。
「布仏!四十院!無事か!?」
さっきの衝撃はかなり大きかった。崩落したという声や現場は見えないが、観客席から統率も取れず逃げようとしている人の波がやばい。
冷静さを欠いた人間の群れなんて、閉鎖空間では脅威でしかない。
「大丈夫だよぉー!」
すぐ横から声がかかる。
何だ、逃げたりとかはしていなかったのか。
「だ、大丈夫ですが……すみません、情けない事に腰が抜けてしまいました…」
布仏に肩を借りて、四十院がどうにか立っている。
足が震えている……怖いのか。大切に育てられた淑女だもんな、こんな災害とは縁遠かったはずだ。
「俺を肩を貸そう。とりあえず、出口に向かうが、異論はあるか?」
布仏も四十院も無言で首を横に振る。
よしっ、出口に向かうとしよう。そうやって、ゆっくりと歩き出した俺たちだが、入り口が閉ざされており、生徒達が出れていない。
「どういう事だ……クッソ、千冬!聞こえるか千冬!」
サードオニキスの通信を開く、ノイズが走るが、しばらくして繋がる。
『無事だったか赤也!』
「どうにかな。だが、アリーナの出口が開かない。どうなってる?」
『奴の攻撃で、システムに不調が起きた。クラッキング用の部隊を送る。それまで、待っていろ』
チッ、システムがやれたのか。
戦場から聞こえてくる戦闘音はかなり激しい。流れ弾でも飛んできたらそこで終わる。
別に、この辺の連中が死のうがどうでも良いが、布仏と四十院が死ぬのは認められない。
「千冬。あとで、反省文でもなんでも書いてやるから許せ」
『はー?おい、何をサザザッ』
サードオニキスが空気を読んだのか通信に再び、強いノイズが入る。
「おい、オルコット」
どこかに向かおうとしていたオルコットに声をかける。
「……なんでしょうか?」
「四十院を任せる」
肩を貸すのをやめ、四十院の手をオルコットに差し出す。
俺の目を見て、溜息を一つ吐き、四十院に肩を貸すオルコット。
「貴方に従うのは癪ですが、友人のためです。協力しましょう」
「お前のそういうところ、嫌いじゃないぜ」
「気色の悪いことを言わないで下さいまし」
四十院を預け、人混みの中に突撃していく。
所々で、悲鳴や女子特有の柔らかい感覚、何故か死ねという罵倒、気のせいでなければ肘打ちを食らったりしつつ、扉の前に出る。
「ふぅ……おらぁ!!」
右腕で全力で扉を殴る。
一発目で、扉が大きく凹み、俺の拳の形が出来る。続けて、二発目で扉がさらに歪み、中の電子機器が逝かれたのか火花が出始める。
次の三発目で、扉を吹き飛ばし、アリーナの出口を解放(物理)する。
「やれば出来るもんだな」
解放された扉から女子達が一斉に外へ出ていく。
お礼もなく、我先へと逃げ出す姿には、なんともまぁ、人間の意地汚さを感じる。
『おい、どうした!?凄い、音が聞こえたが!?』
「こっちの音は聞こえてたのか?なに、アリーナの入り口を殴って吹き飛ばした」
『お前……いや、助かった。これで、織斑、凰が心置きなく戦える』
千冬と会話していると布仏と四十院が出てくる。
あれ、オルコットはどうした?
「セシリアさんなら、私が立てる様になったので、おそらく、織斑さんの援護に向かったかと」
「そうか。って、ナチュラルに心読まないで四十院」
口に出してない俺の疑問にあっさり答える四十院に驚きつつ、避難しようとする。
だが、俺は一つ忘れていた。サードオニキスが警告したISは二機。
ドォォン!っという音ともに、俺たちの目の前に現れるIS。
「逃げろぉ!!布仏、四十院!!」
咄嗟にサードオニキスを展開し、目の前のISにタックルし、吹き飛ばす。
クッソ、俺のトリ頭!!警告を忘れてるんじゃねぇぞ。
「あかやん!」
「本音さん、危ない!」
俺に近寄ろうとした布仏を四十院が止める。
敵ISは、立ち上がり、両腕に装備されたブレードを構え、こちらに向かってくる。くそ、布仏達が避難するまで時間を稼がなくては。
クローダを展開し、ブレードによる攻撃を防ぐ。
「今のうちだ!」
「行きますよ。本音さん!」
「……あかやん、絶対に無理しないでね!!」
四十院に手を引かれながら、布仏が逃げる。
無理をするなと俺に言った顔はかなり泣きそうだった。心配性だな布仏。
「で、てめぇの目的はなんだよ?」
「……」
だんまりか。まぁ、話すわけがないか。
それなら、無理やりにでも聞き出すしかないよなぁ!
「おらぁ!」
織斑の時と同様にシールドバッシュで、二刀を弾く。千冬との訓練を思い出し、クローダの振り回しをフェイクに敵の左腕を掴みにいく。
が、冷静にクローダを受け流され、余裕で回避されてしまった。
牽制でバルカンを放ち、動きを阻害しようと試みるが、装甲を前に弾かれる。ほんと、火力ないな!
瞬間加速で、接近し蹴りを放ち、そのまま掴みにかかる。蹴りは当たるが、掴みにいった右腕は弾かれる。くそ、やっぱり無意識でサードオニキスの動きを絞ってしまう。前なら掴めたはずだぞ。
「……」
無言で迫ってくる敵IS。
敵の出方を伺っていると、いきなり加速し、回し蹴りを俺に放ってくる。
「がっ!?」
まったく、動きを捉えられなかった。
驚きとともに吹き飛ばされる。どうにか、体制を整えるが、すでに目の前に迫っており、二刀を振り回してくる。
クローダで防ぐが、こいつの力が強く、一発一発、手が凄まじく痺れる。
そんな、全くと言っていいほど、攻勢に出れずにいると、急に敵ISの攻撃が止まる。
「……」
不審に思い、クローダから覗き見ると、ある一方を見て動きを止めている。
あの方角になにがあるんだ?
俺もそちらを見る。そこは、IS学園の寮、そして逃げた生徒達が集まっている場所だ。
「……」
こちらを一度見ると、空に浮き飛んでいく敵IS。
「くそっ!待ちやがれ!」
布仏達が危険だ。なにを考えてるのか分からんが、こいつは人を殺そうとしている。
それだけは阻止しなければ。サードオニキスのブーストを全開にし、追いかける。
だが、出遅れと無意識に絞るせいで、追いつけない。
苛立ちを感じていると、敵ISが寮より手前で、降下する。
同時に、サードオニキスがハイパーセンサーをズームにし、俺に知らせてくれる。
そこに映った景色は、布仏と四十院が、敵のISにより剣を向けられているところだった。
「やめろぉぉぉ!!」
俺の中で何かが弾ける。それは、無意識でサードオニキスを抑えていた恐怖心で出来た枷だったのかもしれない。
今まで以上にサードオニキスが動き、布仏達に向けている腕を掴む事に成功する。
「弾けろ!!」
輻射波動を全力で放つ。
敵ISは、腕をパージして輻射波動から逃れる。俺が掴んでいた腕は膨張し、崩壊する。
「……」
「無人機かよ……布仏、四十院。少し、下がってろ」
サードオニキスが俺の身体を侵食しようが知った事じゃない。
その辺の生徒なんざどうなろうが、関係ないが、布仏と四十院に手を出すなら、壊す。ただ、それだけの事だ。
片腕にはなったが、あいつの速度は変わらない。目で追う事さえ、出来れば受け流して掴める。
だが、どうしたものか。
『動きを捉えることができれば良いのですね?』
頭の中に声が響く。
直感的に、この声がサードオニキスだと分かる。
「あぁ、それが出来れば苦労しない」
『了解しました』
了解?一体なにを……
「あっがぁぁぁ!?」
「あかやん!?」
頭が右目が割れるように痛い!?
布仏が俺に声をかけるが、それに返答する余力はない。右目と頭を押さえ、俺は悲鳴をあげる。
なぜか、この隙を敵ISは狙ってこない。時間にして、3分前後、俺は悲鳴をあげ、身動きが取れなかった。
『右目とそれらに関係する神経を、置き換え完了しました。これで、捉える事が出来るはずです』
サードオニキスの言葉が再び、脳内に響くと同時に痛みが消える。
目を開き、敵ISを見る。別段、何かが変わったようには思えない。
「……」
俺の悲鳴が治ると、再び動き出す敵IS。
だが、これで俺は漸く、サードオニキスが言っていた事が分かった。右目が、相手の攻撃の予測パターンを教えてくれる。
しかも、俺に当たるであろう攻撃、その過程が恐ろしくよく見える。
見えてしまえば、反応できる。反応できてしまえば、サードオニキスの攻撃力を持って破壊できる。
進路が分かるのなら、その場所から外れ、そこに来るであろう腕を掴み、輻射波動を放つ。
再び、腕をパージし、逃れる敵ISだが、その過程すら俺には見えている。
パージされると同時に、距離を詰め、クローダを叩きつけるように敵ISの脚に振り下ろす。
ゴシャアっという音ともに足が砕ける。
「……」
バランスを崩し、空中へ逃げようとする敵IS。
「悪いが、その行動は見えてるんだよぉ!」
空中へ浮かび上がった直後に、右腕で胴体を掴み、地面に叩きつける。
拘束から逃れるように暴れる敵ISを見下ろす。
最大出力の輻射波動を放ち、敵ISのシールドエネルギーをゼロにする。
「……終わったか。……はぁ、どんどん俺、人間辞めてるな…」
サードオニキスを閉じても変わらない視界に溜息を吐き、俺は駆け寄ってきた布仏と四十院に向かって倒れた。
「うんうん!いっくんは、順当に強くなってるねぇ。でも、ビームに突撃するのは心臓に悪いなぁ」
無人機をIS学園に送り込んだ主犯、篠ノ之束はハッキングしたIS学園のカメラから、織斑一夏と凰鈴音の戦いを見ていた。
もっとも、注目していたのは織斑一夏の方であったが。
だが、先ほどの一言が終わってから、彼女の頭の中には、織斑一夏ですら抜け落ちている。
彼女がパソコンを弄り、送られて来るデータと、映像を纏めていた。そこに映っているのは、先ほどの無人機と西村赤也の戦い。
「あはっ、まさか自分から進んで受け入れるなんてねぇ…しかも、その戦いでもう使いこなしてる」
何度も繰り返すように映る映像には、右目の黒い部分が赤くなっている赤也が映し出される。
サードオニキスから送られて来るデータから、束は今回の侵食が望んで起きたという事と、表面的ではなく内部的に行われたという事が分かっている。見えていても、それを判断し身体を動かす神経が鈍くては意味がない。
だから、サードオニキスは右目に自身のハイパーセンサーとしての能力を授け、それを処理する脳にかなりの演算能力を与えた。
結果として、右目が変色し、それを正常に処理できているのだ。
「本当に良い素材だよ君は。ゴーレムIにあの虫達を襲わせた甲斐があったね」
稼働率が明らかに低下しているサードオニキスにイラついた束が、布仏本音と四十院神楽を利用した。
「今回は面白い結果を見せてくれたから、束さんからのサービスだよ。モルモットくん」
なにかを入力していく束。
画面に映し出されているデータから一部分が消えていく。
「余計な侵食は止めておくよん♪やーん、束さん優しいー!」
決して、優しくはないが、この行動のお陰で結果として、赤也の命は延命される。
まるで神のように一人の人間の命を操る天災。浮かべる笑みは酷く残酷であった。
今度は、右目と脳の一部を弄られた赤也。
順当に人間やめてますね。赤也の右目ですが、その気になれば右目だけで360度全てが見えます。
ただ、左目の視界もあるから、重なると気持ち悪そう……
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