昼飯を待っていたと言わんばかり、俺を連行するボーデヴィッヒ。
ガッチリと首根っこを掴まれてしまえば、流石に抵抗できない。て言うか、こいつこの身長でどんだけ力があるんだ。
「ボ、ボーデヴィッヒ、逃げないから。離せ、首締まる」
「そうか?こうでもしないと、本音や神楽とか言ったか。あの二人にお前と話すのを邪魔されるとおもってな。
苦しかったのなら、すまん。謝罪しよう」
食堂まで来て漸く解放される俺の首。
ただ、これをした原因が友人達にあると思うと強く言えない。まぁ、あの二人、思いっきり付いて来てるんだけど。
入り口の死角になるところに隠れてるんだけどね。
二人で日替わりランチを購入し、席に着く。本音と神楽……あれ、いつのまに合流してたの千冬。
三人も俺達から死角で、そう遠くない位置に陣取る。
「ふぅ、漸く話ができる」
ボーデヴィッヒが水を飲み、一息つく。
「朝と随分、雰囲気が違うが何かあったのか?」
今のボーデヴィッヒには朝のような棘げしさを感じない。織斑への恨みが相当大きいのかなんなのか。
「お前はこう言った雰囲気の相手の方が話しやすいらしいと、本音と神楽に聞いてな」
「あぁ、あの二人にね。確かに、朝より今の方が好感を持てるよ」
ボーデヴィッヒさん、チョロい?いや、素直なのか。
言われたことを飲み込みやすいのか?
「なら良かった。それで、話なんだが」
ナイフとフォークで器用に焼き鮭を捌きながら、ボーデヴィッヒの目つきが変わる。
「お前はISをどういう風に捉えている?その右腕、ISなんだろう?」
そうか、クラス代表決定戦の戦いを利用して、俺が二人目だと報道したのなら、この右腕の事も明らかにされてるか。
ISをどう捉えているか……そうだなぁ。
「そうだな……使う者によって定義が変わる物だと思うぞ」
「ほぅ」
ボーデヴィッヒの目が細まるが、その視線は続けろと訴えている。
地雷を踏んだとかそう言うわけではなさそうだな。
「競技者が使えば、ISはその辺のテニスラケットやサッカーボールと変わらない。
悪用する者や国を守る者が使えば、兵器だろう。
俺から見れば……そうだな、右腕だ。俺が欠けてしまったものを埋めてくれるそんな物だな」
俺の身体を置き換えているものとは言わない。
バレたら面倒だし。俺以外が、バラしてしまうのは別に気にしないけど。
「くっ、くくく、やはりお前は興味深いな」
どことなく千冬を連想させるぱっと見悪い笑み。でも、これが千冬の場合、心底楽しい時に浮かべるものだと俺は知っている。
きっと、こいつもそんなのだろう。悪意は感じない。
「そいつはどうも」
「イギリスの代表候補生と戦っている映像を見た時、私は思った。不意打ちだろうが何だろうが自らの使える物は使って勝とうとする意思のあるものだと。それと、同時にお前のその無気力な眼の奥にしっかりと見たぞ。勝つ事への強い欲望を」
ナイフを俺の左目に向けるボーデヴィッヒ。俺と向き合う右目には、勝利する事への欲望と何かに対する狂気的なまでの崇拝を感じた。
確かに俺はあの時、なにがなんでも勝ってやると思っていたし、実際、勝利した。
「お前は私の同類だ。勝つ事、即ち、強者でいる事に絶対の重みを置いている。違うか?」
ボーデヴィッヒの言葉に目を閉じて、少し考える。
強者でいる事……それに関して俺は執着していない。俺はただ、好きなように生きたいそれだけだ。
それを成すのに力がいるなら、受け入れる。それが失われるのなら、身体すら捧げて力を得る。
今までは自由に生きるための選択がそれだった。だが、その結果が、強者でいる事に繋がるのだろうか。
全部が全部そうだとは言えない。サードオニキスを手に入れたから、俺は生きているしクソ家族から解放された。
だが、力を持っているせいであの居心地の良い空間を作ってくれる本音や神楽を危険に晒した。俺がなんの力も無ければアリーナから出れず、二機目の無人機に遭遇することは無かった。
「否定はしない。確かに俺は力に執着しているさ。
力がなかった頃の俺は、自由がなく生きたまま死んでるようなもんだったからな」
「やっぱりか」
俺の言葉に嬉しそうに笑みを浮かべるボーデヴィッヒ。
「だが、もし俺は力を失う代わりに、やりたい様に生きて好きな奴らと過ごす権利が与えられるのなら、それを手放すだろう」
今、それをするのに力が必要なだけだ。手放した方が良い結果になるのなら、俺は手放す。
「なんだと?お前は弱者に成り下がっても良いと言うのか?」
鋭い目つきで睨んでくるボーデヴィッヒ。地雷を踏み抜いたか。
それでも言葉は続けさせて貰うぞボーデヴィッヒ。
「そうだ。俺にとって力は何かを手に入れる為の過程に過ぎない。
力がある事で、それを失うと言うのなら、俺はそんなものいらない。ボーデヴィッヒ、俺はお前にとっての力を知らない。
だが、先ほどのISの捉え方と同様だ。人それぞれなんだよ。力の重要性ってのはな」
俺の言葉に驚いたような、納得がいかないと言った感じの表情を浮かべるボーデヴィッヒ。
同類と、言っていた。なら、こいつにとっては力が全てなんだろう。
だから俺の言葉が理解できない。もしくは、許せないのか。
「何故だ……私には理解できない!」
「お前の考えを否定する気はない。
力が絶対だと信じるなら、そう信じていれば良い。それは、お前にとって揺るがない、否定の出来ないものなんだろう?」
「そうだ!私は、あの人の様に強くありたい、弱者であることなぞ許容できない!」
何か枷が外れた様に喋るボーデヴィッヒ。さっきの狂信的な崇拝の正体はこれか。
千冬……お前、何したんだ?
「なら、これ以上の話は無意味だ。互いに譲れないものを話ししていても、決着のつかない論争になる。
それとあまり熱くなるなよ?周りの視線が凄いぞ」
ボーデヴィッヒが力説を始めるから、声が響き、食堂にいる人間の視線が集まっている。
「うぐっ……そうだな」
俺の言葉と周りの視線で渋々、落ち着くボーデヴィッヒ。
「お前は私と同じだと思っていたんだがな……」
どこなく寂しげに言うボーデヴィッヒ。
急にしおらしくなるなっての。
「100%自分と同じ人間なんているわけが無い。それと、ボーデヴィッヒ、勘違いしている様だから言っておくぞ?」
「なんだ?」
下げていた顔を上げ、俺の目を見てくるボーデヴィッヒ。その目には力がない。
どんだけ同類が欲しかったんだこの子。
「確かに俺は力を捨てる事もできる」
「あぁ、だから私はーー」
「話は最後まで聞け」
「いたっ!?」
途中で喋ろうとするボーデヴィッヒをデコピンで黙らせる。
「だが、今の俺がそうだとは一言も言っていないぞ?力に執着がある事も、否定はしていないしな」
あまり俺を甘く見るなよという意味を込めて、ニヒルに笑ってみせる。
ぽかんと口を開けて、アホヅラを浮かべるボーデヴィッヒ。
そして、少しの時間固まり、少しずつ大きな笑い声を上げていく。
それはそれでまた、周りの目を集めるが、ボーデヴィッヒは気にせず笑う。しばらくして、笑った事によって出た涙を拭いつつ、俺を見る。
「ふはは、やはり興味深い奴だ。西村赤也、私と同じ結論を持ちながら見ている場所が違う。
ふふふ、お前の言葉を覚えておこう。理解は今の私には無理だが、それでも面白い事に変わりはない」
何やら満足いったご様子のボーデヴィッヒ。
まぁ、それならそれで良いんだけど、これさらに厄介な事になってないか?俺。
「楽しそうで何より。そういや、ボーデヴィッヒ」
「ラウラで良い。日本では同じ釜の飯を食べたら友人なんだろう?」
いや、そうだけど誰だそのなんとも半端な情報を教えたやつは。
「まぁ、否定するのもめんどくさい。
じゃあ、ラウラ。一つ、聞きたかったんだが、その眼帯はなんだ?」
話してて全然食べてない昼食を急ぎ目に食べつつ、ラウラに質問する。
俺の眼帯デビューとダブったのは地味に気になってた。
「これか?これは、我が部隊シュバルツェ・ハーゼの証だ!」
「マジモンの軍人だったのか……」
雰囲気とか千冬を教官って呼んでた事からなんとなく思ってたけど、本物さんだったのか。
あれ、軍人に目をつけられるとかほんとにめんどくさそうじゃね?
思わぬ事実と、新しい友人が出来た昼休みだった。全然、精神休んでない。
この話をしている時、近くの席で聞き耳全開の本音、神楽、千冬がいたと報告しておきますね。
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