迫る拳を、受け流し、左手で握り拳を作り打ち出す。少し、テンポをズラし、回避先に回し蹴りを放つ。
だが、左手は簡単に避けられ、回し蹴りも俺の足を置き場に使われ、飛び越えるように回避される。
しかし、それは見えている。右腕を伸ばし、着地後の僅かな硬直を狙う。それでも、千冬は伊達じゃなかった。
俺の内側に入り込み、押し倒される。
「いたっ」
「ふぅ、その右目中々にヒヤヒヤさせてくれるな」
壁ドンならぬ、床ドンを千冬にされる。
ほんと、イケメンですね貴女。そう簡単に出来ませんよ床ドンなんて。
いつもの千冬との放課後稽古。右目の事は当たり前のようにバレていたので、稽古でも存分に使えと言われている。
誰か来たらどうすんだ?とは、思ったが、ここ関係者以外立ち入り禁止になってるらしい。
「いや、ヒヤヒヤって。こいつの性能は話しましたよね?」
眼帯を外して、露わになっている右目を指差す。
「あぁ。ハイパーセンサー並みの視界と予測による相手の行動の可視化だろう?」
馬鹿にするなと言わんばかりの態度の千冬。いや、だってねぇ。
「なんで、予測と重なる様に動けるんだよ!予測が意味を成さないって初めて知ったわ」
予測で現れる千冬と実際の千冬が重なって迫ってくる。
見えてても意味がない。対処のしようが無い。
「なに、予測されていると分かるなら、そう判断した上で動けば良いだけのことだ」
イケメンスマイルを披露してくれる千冬さん。
あんたはどこの愉悦神父だ!簡単に言ってるけど、誰でも出来る事じゃないぞ!?
「改めて、あんたが人外だと認識したわ」
「ほぅ」
手を伸ばし、床ドンされて身動きの取れない俺の頭部を鷲掴みする千冬。
どうしよう、右目が嫌な予測を教えてくれる……ついでに、俺が逃れられない事も教えてくれる。
「誰が人外の化け物だって?ん?」
「そこまではイタタタタタッ!?割れる!?頭、割れるって千冬!?」
凄まじい力でアイアンクローされる。めっちゃ痛い。
サードオニキスで痛みには慣れてると思ったけど、痛い。
「はっはっはっ」
愉しげに笑ってるんじゃねぇぞ…いてて。
しばらく、そんな感じで遊ばれた後、休憩時間になった。
ちょうど良いから、千冬に聞いてみるか。
「なぁ、一つ質問して良いか?」
「なんだ?」
「ラウラになにをしたんだ?千冬」
あの様子からして、相当は衝撃がラウラには千冬と出会ってあった筈だ。
昼、俺たちの会話を聞いてたんなら、俺がこれを聞く理由は分かるだろう。千冬も気まずそうにしている。
「まぁ、そのなんだ。少し、長いぞ?」
「ちょうど休憩時間だからな。休みながら聞くさ」
そうか、と言い千冬は話し出す。
自分がモンドグロッソの二冠を逃したのには理由がある事、詳しくは省略するがその時、ドイツ軍に世話になった事。
その恩義で、一年間、ドイツ軍の教官として鞭を振るっていた事。そして、その時にラウラに出会っていた事。
「私はあの時、唯一の肉親である一夏と一年も会えず、知らず知らずのうちに鬱憤を抱えていた。
教官としても甘かった私は、一人一人をまるで見れていなかった。当時、落ちこぼれだったラウラの精神状態なんぞ一切、考えず鍛え上げた。あいつは、その結果一部隊を率いるまでに成長した。そのせいだ、ラウラが力に執着してしまう様になったのも、私にあんなにも依存しているのも何もかも、私が失敗した事だった」
スポドリを飲みながら、千冬は後悔している声で言う。
ラウラの言葉から推測するに、二冠を逃した理由ってのは織斑にあるのだろう。強い千冬に傷をつけた、だから織斑が気に食わないそんな感じか?
「そうだったのか。単純明快が故に陥りやすい依存だな」
「あぁ。幻滅したか?今、お前を教えている私はそういう女だ」
疲れ切った弱々しい顔の千冬が俺を見てくる。
はぁ、この人は背負いすぎたし不器用すぎる。
「千冬、ラウラがああなったのは確かにお前の責任もある。それは誰が見ても明らかだから否定しない。
俺とラウラは似た考えを持ってるから、アイツの考え方が間違えてるとは言えない。
それでも、あんたはラウラの教官で俺にとっては先生だ。教え子ってのは、誰でも上に憧れるもんだ。だから、ラウラも俺も千冬に幻滅することはないさ。学年別トーナメントの後にでもラウラと話する時間でも取ってみろ」
ここまで世話になって、そういう側面を知ったから幻滅しますなんて、俺にはできない。
そもそも、幻滅するなら一緒に暮らしててもっと色々あったよ。今更、千冬の過ちを知ったところでな。
「なぜ、学年別トーナメントまで時間をかけるんだ?」
目に力が戻ってきた千冬が俺に質問してくる。
そんなもの決まってるさ。
「師匠が姉弟子に変わってくれと望むなら、その手伝いをするのが弟弟子ってもんでしょ」
勝手に師匠認識したが、許せ。ほぼ毎日稽古してれば、そんな気にもなってくる。
言ってから恥ずかしさが込み上げてきたので、目線を千冬から逸らす。
「そ、それにだ。今、話したってラウラは聞き入れない。学年別トーナメントで今の千冬に教わった俺がアイツを倒した方が、聞く気になるってもんでしょう」
早口で捲したてる様になってしまうが、続きを話す。
「……ふっ、くくく」
千冬が笑みをこぼす。
そして、立ち上がり、俺の背中を勢いよく叩く。
「いて!?」
「アイツは強いぞ。間違い無く、今の一年生最強だ。今のお前で勝てるか?馬鹿弟子」
ほんと、楽しそうですね千冬。
俺も立ち上がり、千冬と目を合わせる。
「勝つさ。その為に、稽古をつけてくれよ?師匠」
ここまで格好つけて負けたら、相当ダサいな俺。
でも、強くなる。俺は、ラウラを倒せる様になってみせるさ。
「なら、もっと厳しくいくぞ。ほら、準備をしろ」
「おう」
スポドリを片付けて、少し固まった身体をほぐす為に準備運動を行う。
「……ありがとう。赤也」
あーあー、聞いてません。恥ずかしそうにしてる千冬なんて見てませんし、その顔で言ったすごく優しい声の感謝なんて聞いてません。
たく、ズルイ。気の強い人が見せる弱みってのは、ズルイとは前々から言ってるけど、師匠の言葉ってのもズルイ。
堪らなく、弟子である俺をやる気にさせるのだから。
言葉通り、厳しくなった稽古を今までとはどこか違う気持ちで臨んだ。もちろん、体力も精神力もゴリゴリと磨り減ったが、何処と無く、満足感が俺を支配した。
ボーデヴィッヒやデュノアが転入してきて、5日が過ぎ、土曜日。
俺は本音と一緒に整備室で作業をしていた。
「西村くん!5番と6番のパーツ持ってきて!」
「了解!」
「あかやん、ついでにジュースも〜」
「それは休憩の時な」
本音のIS作製の手伝いをしていた。とはいえ、整備的な知識は一切ないので、整備科の人達の指示を聞いて、物を運ぶのが俺の仕事だ。
少し前から、教室で図面を弄っていた本音だが、漸く目処がつき、作製を行なっている。実は、俺が稽古している間にも作っていたらしい。
今日は予定が重なったから手伝っている。
「装甲班、加工が済んだ装甲持ってきました」
「あ、受け取ります。それと、これが次の依頼です」
「うわっ、西村くんだ。やばいやばい、顔に汚れとか付いたまま来ちゃったよぉ」
時々、運ばれてくる加工パーツなどを受け取るのも俺の仕事なのだが、まぁ、大概こういうやり取りが起きる。
「気にせずに。それに整備科なら誇る勲章だと俺は思いますよ」
「え、そ、そうかな…えへへ」
「あかやん〜〜!装甲早くぅ!」
本音が急かしてくる。話も打ち切り、依頼を書いたメモを押し付け、その場を去る。
受け取った装甲を本音のところまで運ぶ。
「ほらよ」
「うぇ〜い、ありがとう〜あかやん」
ガチャガチャと操作をしながら、装甲を取り付けていく。
その工程の意味はさっぱり分からん。ISを物理的に弄っている本音数名と、ケーブルでISコアになにかを入力しているのが三名ほど。
入力係は、リボンの色から三年生で構成されてると分かる。
ブザーが鳴り、休憩時間を合図する。みんな、一斉に手を止め、くつろぎだす。
「あかやん〜」
「ほら、ジュース」
用意しておいたジュースを蓋を緩めてから、本音に渡す。ゴクゴクと勢いよく飲んでいく本音。
かなり疲れている様だ。
目の前に鎮座しているISを眺める。まだ、半分も出来ていないが、白い装甲が多いIS。
「元がラファールには見えないな」
「私が使ってた〜ラファールのコアを使ってるからねぇ〜最初の手間が省ける分楽だよぉ〜」
「あの時のラファールなのかこれ」
「かなりダメージが蓄積してたからねぇ〜修理の意味も込めて使って良い許可が出たのだ〜」
何処と無く嬉しそうな本音。
あの戦いで随分とラファールに愛着が湧いていた様だ。見た目は変わってしまうが、コアが一緒なのは嬉しいのだろう。
「名前はもう決めてあるのか?」
「あるよぉ〜『九尾ノ魂』って名前をつけるのぉ〜」
「九尾とはまた……」
九尾の狐と言ったら、悪名がすごい妖怪。
純真無垢な本音とは対極だとは思うんだが、本人が気に入ってるなら良いか。なんか、名前聞いたら禍々しく見えてきたぞこのIS。
「むぅ〜あかやん、九尾って聞いて悪いイメージ抱いたでしょぉ〜」
「い、いや?」
「九尾は神獣なんだよぉ〜良い面だってちゃんとあるんだからねぇ〜」
「そうなのか?初めて知ったな。本音は物知りで偉いな」
よしよしと頭を撫でてやる。
えへへ〜っと笑顔を浮かべて、気持ちよさそうにする本音。うん、かわいい。
「よぉーし!やる気入ったぞぉ〜!」
しばらく撫でてると、本音がやる気をだす。
俺たちを微笑ましそうに見守っていた周囲も本音のやる気に引き摺られ、動きだす。俺も手伝うをしようかね。
筋トレになれば良いと思って引き受けた手伝いだが、かなり筋トレになった。
日が落ちて、山田さんが整備室に来て、男子の風呂が解禁された事を告げに来るまで、作業は続いた。
「あかやんは先に戻ってて良いよぉ〜あとは、整備科の仕事だから〜」
「そうか?じゃあ、先に失礼するぞ」
「うん〜バイバーイ」
手を振る本音に振り替えしつつ、整備室を後にする。
しかし、整備科って凄いな。あんな文字の羅列を淀みなく処理できるし、気持ち悪いぐらいあるコードをすごい速さで繋げていくもんなぁ。
そういや、サードオニキスのメンテとかした事ないけど……まぁ、良いか。右腕になってるやつをどうやって整備するの?って話だし。
そんな事を考えながら、歩いていると寮までの道は短く、すぐに着く。
寮に着いた俺は、料理をなにしようかと考えながら、歩いていると扉がいきなり開き、手が伸びて来て俺を拉致する。
「あぁ!?誰だ!」
右腕を俺を拉致した輩に向ける。
「お、俺だ赤也!」
「お前かよ……で、拉致してまで何の用だ?」
焦った顔の織斑を間近で見る羽目になった。
なんだ、ホモ。堪えきれず俺を襲うのか?お前の姉から学んだ武術で抵抗するぞこら。
「奥に来てくれ」
「……変なことしたらぶっ倒すぞ」
織斑と一定の距離を取りながら、部屋の奥に入る。
そこには、髪を下ろし長髪になったデュノアがベットに腰掛けていた。
気のせいでなければ、男にはない膨らみがある。え、女だったのこいつ?
「良いか、落ち着いて聞いてくれ。それと、これから話すことは絶対に誰にも言うなよ?
シャルルは、女子だったんだ!」
織斑が鬼気迫る表情で俺に告げる。
これはどう考えても面倒ごとに巻き込まれる気がする。そんな嫌な予感が全身を駆け巡った。
一夏が打ち明けた真実に赤也はなんと返すのか。
それは次回ですね。
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