「で、デュノアが女子だっていう事と、お前のその慌てっぷりはなんの関係があるんだ?」
「れ、冷静だな赤也」
いや、冷静も何も女子でしたって事実を俺に告げる為だけに拉致したとは思えないし。
驚いてはいるが、それよりも続きを早くしろって方に意識が割かれている。
「シャルル、俺から説明するか?」
「いや、良いよ。僕の口から説明する」
俺を置き去りに神妙な空気で話してる二人。
どうでも良いけど早くしてくれませんかね?あの、世界最強、腹減ってるのを待たせるとこっちが大変なんだぞ。
「実は、僕、愛人の子なんだ」
そう切り出し、デュノアは自分が男としてIS学園に来た理由を話す。
二年前に引き取られ、IS適性が高いことが判明。デュノア社のテストパイロットをやる事になった事。家族との仲が悪い事。
デュノア社の経営が悪く、広告塔としての宣伝材料と、同じ男として入学し俺や織斑のISと本人データを手に入れるのが目的だったという事。
ふむ、正直俺にこんな事を話してどうするんだって内容なんだが。
「それで、俺に何しろと?」
先の見えない話をされても、俺が拉致られた理由が分からん。
それとも、一応、男子で通ってるデュノアを含む男三人で対策でも練るつもりだったのか?それにしては、まるでそう言った提案がないが。
「なっ、赤也!なんとも思わないのかよ!」
織斑がキレた。
理由は、全く分からんが、声を荒げている。その目には怒りの感情がはっきりと浮かんでいる。
「思わない訳ではない」
デュノアにはデュノアの苦労があったのだろうし、それを俺が推し量れる訳でもない。
「ただ、今はそんな感情論は置いておいてどうするのかっていう話をするんじゃないのか?
まぁ、俺はデュノアの為にやれる事なんかないだろうし、する気もないが」
これが本音や神楽、千冬なら話は別だ。友人や師匠の為に力になってやる気も起きるが、関わりのない奴やそもそも嫌ってる奴の手助けなんぞ誰がするか。俺は聖人じゃない。なんなら、善人ですらないと自覚している。
それに一番、手助けしてやる気を削ぐものがある。
「大体、諦めている奴の手助けに価値なんてないだろう。
デュノア、お前は足掻いたのか?状況を変えようと自ら動いたのか?」
「…出来るわけないよ。デュノア社の力はそんな簡単なものじゃないんだ……」
俯いたまま、力なく話すデュノア。
ほら、これだ。こういう諦めは気に食わない。サードオニキスを手に入れる前の俺を見ているようだし、その時の俺だって状況を変えようと足掻きはした。デュノアと俺じゃ規模が違うから、比較もクソもないが気に食わないものは気に食わない。
「諦めているのなら、勝手にしろ。俺は、そんな奴に手を差し出すほど暇じゃない」
諦めて立ち止まった人間を、無理やり動かしたところで見えない場所で潰れるだけだ。
自分で動く覚悟のない奴は、いずれ野垂れ死ぬ。
「お前には心ってもんがないのかよ!」
殴りかかってくる織斑の拳を受け止め、捻りあげる。
お前の姉から武術は学んでいる。そんな軽い拳に当たるほど、弱くねぇ。
「ぐっ」
「……勘違いしている様だから言っておく。俺はお前らの友人になったつもりはない。
差し出された手を見境もなく掴む善人に俺が見えるか?」
「…それでも……困ってる奴を助けるのが……人ってもんだろ……赤也!!」
声と同時に、頭突きをしてくる織斑。避ける為に、捻り上げていた手を離す。
俺と織斑との間に距離が生まれる。まるで、俺と織斑が決して相容れない存在であると示すが如く。
「お前の偽善者面は結構。で、そんな偽善者さんは、悲劇のヒロインぶっているお姫様に何かしてあげられるのか?」
悲劇のヒロイン、俺がそう言ったのが気に食わないのか織斑の怒りが強くなる。
だって、そうだろう?自分から動きもせず、状況を受け入れ、挙句助けてくれる存在が現れたら、それに縋り付く。
「IS学園の特記事項二一、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。
本人の同意がない場合、それらの外的な介入は原則として許可されないものとする」
急に特記事項なんざ読みだしてどうした。
まさか、それを盾にするつもりじゃないだろうな。
「三年間なら、シャルルは自由の筈だ。その間に解決策を探す!」
本当にそれだったよ。
自信満々の織斑の表情に、呆れを通り越して笑いすら込み上げてくる。俺が笑みを抑えているのが分かったのか、織斑もデュノアも不審そうな顔で見てくる。
「本気で言ってるのか?それは、ただの問題の先延ばしだぞ。
三年間でただの生徒が、どうにか出来る問題だと思ってんのか?」
そもそも、その特記事項、国家代表候補生やデュノアの様な企業のテストパイロットをやってる生徒に当てはまるのか疑問なところがあるぞ。企業に言われ、IS学園に入学している。これは、すでに企業の力が関与している。なら、企業が介入する事だって可能ではないのだろうか?だって、デュノアは企業の策略に同意して、IS学園にいるのだから。この時点で特記事項の一部が息をしていない。
「どうにかしてみせるさ!」
その自信がどこから湧くのか不思議でしかないが、織斑は答える。
ちらりと、視線をデュノアに向ければ、まるで自分を救ってくれる王子様でも見ているかの様な目をして織斑を見ている。
いや、少し違うか。そうであって欲しいと言うデュノアの願望か。
「勝手にしろ。とりあえず、黙っておいてやるよ、ただそれ以上助力を俺に期待するなよ」
もう話す気はない。今回のことで俺と織斑が相容れない存在だと言うことも十分に理解した。
扉に手をかけ、外に出て行く。
「……そんな薄情な奴だと思ってなかったよ」
扉が閉まる直前に織斑の呟き声が聞こえた。俺に何を期待してるんだあいつは。
俺からすれば、足掻こうとすらしていない人間を助けようとするお前がどうかしてるよ。
織斑とデュノアに対する強い苛立ちを抱えたまま、俺は廊下を歩く。
このまま、戻ってもイラついた状態では、千冬にバレる。そういや、作り置きが少しあったか。
携帯を取り出し、千冬に夕飯は作り置きを温めてくれ。とメールして、頭を冷やす為に寮の外に出る。
「……個人が出来る規模を通り越してるってなんでアイツは気づかないんだ」
夜空を眺めつつ、思い出すのは先ほどのやり取り。
デュノアを救えると信じてやまない織斑と、そんな織斑に自分は何もせずもたれ掛かる気でいるデュノア。
三年間で解決策が生まれる案件じゃない。力のある大人なら出来るかもしれない。でも、たかだか高校生にどうにか出来るわけがないだろう。
「おや、こんな時間にどうしましたかな?」
俺の目の前にヨレヨレの用務員服を着たおじさんが立っている。
確か、この学園で唯一、俺らを除いて男性の轡木さんだったかな。
「あ、いえ、少し頭でも冷やそうかと」
「数少ない男で抱える鬱憤でもあったのですかな?
この老いぼれに話してみるが良い。少しは、気が楽にかもしれんよ」
こうやって話すのは初めてだが、なんだか不思議な雰囲気の人だ。
声を聞いているだけでどこか安心するというか。気が緩んでくるというか。
「そうですね……轡木さんは、自分の力ではどうにも出来ないと分かりきっている相談を、誰かから持ちかけられたらどうします?」
デュノアや織斑の話ではないとバレない様に、ボカしつつ轡木さんに聞いてみる。
しばらく、轡木さんは考えた後、口を開く。
「そうですね。私なら、その問題が自分にとって大切な人のものなら、形振り構わず、色んな人に知恵や力を借りようとしますかね。
大切な人のためなら、動く強さは人間にとって必要な事ですから」
柔和な笑みを浮かべて、答える轡木さん。
織斑にとってデュノアは大切な人なのだろうか。それで、俺に相談を持ちかけた?
でも、俺にとってあいつらはどうでも良い存在だ。
「もし、大切ではなかったら?」
勝手に口が動いてそんなことを聞いていた。
「必要最低限の協力はするでしょうけど……積極的に動くかと言われたら微妙ですね」
俺と同じ考えか。そう思った時だった。
轡木さんが、ですがと言い、言葉を続けた。
「人の縁と言うのは、奇妙なものです。今は、どうでも良いと思っていても、未来に大切に思う日が来るかもしれない。
だから、必要最低限の協力をしつつ、気が向いたら手を差し出してあげる事も良いと私は思いますよ。西村くん」
気が向いたらっか。
それぐらいなら、俺にもあるかもしれない。織斑は無理だが、デュノアが自分で行動を起こせば、気が向くかもしれない。
まぁ、デュノアが悲劇のヒロインから卒業しない限り、無理だが。
「少々、上から目線かもしれませんが。まぁ、老人の戯言だと聞き流して貰って構いませんよ」
「いえ、参考になりました。轡木さん」
別に考えが変わった訳ではない。俺は単に内心のイライラを誰かに吐露したかったのだ。
そして、轡木さんはそれを聞いてくれ、かつ俺が考えてもいなかった選択肢を教えてくれた。
「いえいえ、では私はこれで。なにか、あれば用務員室でお話を聞きますよ」
「ありがとうございます。轡木さん」
礼をして轡木さんが去るのを見送る。
……あれ、そういやあの人、どこから現れた?意識を飛ばしてたとはいえ、右目で全方位見えてるんだが。
そんなどうでも良いことを考えられるぐらいには轡木さんと話して落ち着けた。
シャルロットさんに良い感情は持ち合わせていない赤也。
これは、シャルロットアンチになるのだろうか?
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