大学でスマホ使いながら書いたから、少し変なところありそう。
「はぁ…」
物凄く憂鬱な気分が俺を支配する。手に持つ携帯に表示されてる文字は、端的に『親』とだけ書かれている。
親指を動かして、通話ボタンを押せば繋がる。そんな簡単な行為すら憂鬱だ。
とはいえ、折角、千冬が部屋を出て行き俺を一人にさせてくれたというのに、本題から逃げてたら意味がない。
「…シャルロットにあんだけ言って、俺が逃げるのもあれだよな……はぁ」
溜息が止まらない。
それでも使命感で指をゆっくりと動かす。それでもあと少しで液晶に触れるというところでまた止まる。
情けねぇ…情けねぇぞ俺…
自分の情けなさに、地味にメンタルをやられる。
「あかやん〜お邪魔するよぉ〜!」
「うおっ!?」
本音が勢い良く部屋に入ってくる。俺はびっくりして声をあげる。千冬のやつ、鍵開けたままにしたのか。
一瞬の沈黙が部屋を支配する。そして、その沈黙は一瞬にして破られる。
『プルルルル、プルルルル』
驚いた拍子で通話ボタンを押してしまった……
「えっと…手伝いを頼もうと思ったんだけどぉ〜電話するなら、私戻るね?」
「い、いや居てくれ本音……情けないが頼む」
俺の声が震えているのに気づいた本音が、トコトコ歩いてくる。
そのまま、俺の右側にストンと座り、俺の右腕を弄りながら、ふわりと笑う。
不思議なことにそれだけで、憂鬱な気分が軽くなる。
さっきまでは重かった左腕もすっと持ち上がり、耳に携帯を当てることができる。
しばらく、コール音が続いたあとガチャリと音がする。
『随分と遅い連絡ね。あんた』
「……色々あって連絡が遅れた。母さん」
久しぶりの母親の声だ。相変わらず、男の俺と話すのが嫌なのか不機嫌なトーンだ。
ただまぁ、出るだけ驚きだが。
『ふん。それより何の用?』
「すでに知ってると思うけど、ISを動かした。その件について、なんかあるんだろう?
今なら時間があるから、応答できる」
『そう。なら、用件は簡単よ、そのISを桃花に渡してあんたは国の発展のために研究所にでも行きなさい。
良いわね?それとも、私に逆らうつもりかしら?』
予想通りの言葉をどうもありがとう。やっぱり、俺はこの人に愛されていなかったようだ。
研究所。その言葉の意味が分からないほど、うちの親は馬鹿ではないだろう。
「死ねと。俺に言うのかあんたは」
『口の利き方がなってないわね!?』
あぁ、始まったこのヒステリックは何度聞いても慣れない。
まともに受け取る必要はない。そう分かっていても、トラウマは簡単には払拭できない。
「……ふぅ、今はあんたより俺の方が力がある。この意味くらい分かるよな?」
『はぁ!?ISを動かしたぐらいで良い気にならないで!!
あんたは男。この世界の圧倒的な弱者なのよ!そもそも、あんたがISを動かさなければ、私達はバラバラにならずにすんだのよ!』
その私達に、俺と父さんは含まれていないのだろう。
だって、もう家族なんてバラバラじゃないか。
「責任転嫁だと思うが?」
『白奈との連絡が取れないのよ!あの子はISに乗りたがっていたのよ。でも、適性がなくて漸く諦めがついたって時にあんたのニュースよ。私にはあの子が憐れで仕方ないわ』
白奈姉さんまで、姿を消したのか。
変にプライドの高い人だったから、弟が動かしたことに絶望でもしたのか?
いや、そんなことするなら俺に盛大な嫌がらせをするはずだ。
「そうか。母さん、今まで育ててくれた事には感謝する」
『当たり前よ!』
「でもそれだけだ。父さんも俺も白奈姉さんも、家から出ていったんだ。もう、家族として終わりだろう」
『な、何を言ってるの?赤也』
……ここまで来て漸く、俺の名前を呼んだか…
そんな縋る様な情けない声で呼ばれたくなかったよ。
「分からないか?もう、俺は貴女の家族でいるつもりはない。さようなら、せめてこんな別れ方にならないことを祈ってたよ」
騒ぐ声を無視し、通話を切る。
携帯を放り投げ、着信音が五月蝿い携帯を遠ざける。
「あかやん」
「…付き合わせて悪かった。そっちのー」
最後まで言葉にすることが出来なかった。
本音が背伸びをして、俺の頭を優しく撫でたからだ。
くすぐったい感覚と共に心地よい安心感が、俺を支配する。
「あかやんは、一人じゃないよ。大丈夫」
本音の優しい声が、暖かい手が俺の目を熱くする。
涙が出そうだ。
「辛いときは泣いていいんだよ。今なら、私しか居ないから…ね?あかやん」
膝から力が抜けて崩れる。
どうやら、体も精神も疲労しているようだ。
「…あの家族とはいずれ、離れるつもりだった。
でもいざそうなったら、この様だ…」
「うん」
「情けないよな…別れを切りだそうとしたら、恐怖心や孤独感以上に、幸せだったときの事が頭を過るんだよ…何度も、何度も散々な目にあってるのにな…」
「情けなくないよ。あかやんに命を助けて貰った私やかぐっちは、そんなこと思ってないよ」
本音に頭を撫でられながら、俺の体はゆっくりと本音の方に倒れていく。
そのうち、俺は頭を本音の胸に当てるように抱きしめられる形になる。
あぁ…今俺は人の温もりを求めていたのか。
「…少しだけ甘えても良いか?」
本音の方を見るのが、何故かとても恥ずかしくそのまま声をかける。
「良いよ。あかやん」
耳元で囁かれた優しい声に、俺はついに耐えることが出来なかった。
涙が俺の意思を無視して、流れだし声を圧し殺しても呻くような声が出た。
本音の胸を借りて、俺は情けなく泣いた。その間、ずっと本音は俺の頭と背中を優しく撫で続けた。
「…本音、ありがとう。もう、大丈夫だ」
極力、本音の顔を見ないようにして、スッと離れる。
ぐぅぅ、思いっきり泣いてしまった。
「もう良いのぉ?」
「あぁ、大丈夫だ」
「残念だぁ~あかやんが泣いてるの可愛かったのにぃ~」
えへへと笑う本音。
男に可愛いとかいう要素を求めないでください。お願いだから。
「そ、それより本音、なにか俺に手伝ってほしい事があったんじゃないのか?」
「そうだったよ。九尾ノ魂の起動テストに付き合ってほしいの」
「もうそこまで組み上げたのか……分かった」
ISスーツと簡単な荷物だけパパっと用意する。
千冬から預かったカギで施錠し、本音とともにアリーナへ向かう。
道中で弄られつつも、アリーナに到着する。
「じゃじゃーん、これが完成した九尾ノ魂です~」
白が多めの紅白なISがたたずんでいた。特徴的な非固定の背面ユニットとスマートな装甲が格好いい機体だ。
整備科の技術力の結晶、それが九尾ノ魂。
「格好いいな本音」
「そうでしょ~」
誇らしげに胸を張る本音。あぁ、全く格好いいな。
機体もこれを作り上げた本音や整備科の人達も。
『あー、私たちだって手伝ったんだからねー!』
アリーナのスピーカーから、整備科の人であろう声が聞こえる。本音が管制室の方を向いてごめーんと手を合わせる。
『時間もそこまでありませんから、起動テストを始めますよ』
「はぁーい」
布仏先輩だと思われる人の声に敬礼し、本音は九尾ノ魂へと触れる。
「いくよ。九尾ノ魂」
その声と同時に九尾ノ魂が光輝き、本音の身体に装着される。すでに設定は済んでいるため、本音は感覚を確かめるように動く。
「うん、問題ないかなぁ~」
『分かったわ。では、実戦テストを始めます。
西村君、準備して』
起動テストって聞いてたんだけどなぁ。
まぁ、良いか。適度に本音と戦う様にしよう。
目を閉じて、右腕に意識を集中させ、サードオニキスを展開する。
「よぉーし、いくぞぉ!」
「適度に頼むぜ。本音」
この日は本音のテストにずっと付き合った。
少し疲れたが、母親との会話で荒んだ精神には癒しだった。なにかしら、本音に礼を用意しないとな…
九尾ノ魂完成!
これからは、本音さんも戦いの場に……赤也のメンタルが削られそう。
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