神様は残酷で気紛れだ   作:マスターBT

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大学に行く前の朝にどうにか書き上がったです。
今回は、平和回。場面がコロコロ変わることだけ注意です。


丸一日、自由行動ってある意味凄いよな

バスに揺られて数時間。

俺は、海に来ていた。授業をサボってる訳じゃない。そもそも、授業の一環だ。

臨海学校。IS学園という特殊な学校でも、一般的と呼べるイベントだ。

まぁ、二日目はIS尽くしの日程なのだが。

 

「おぉ〜、海だぁ〜」

 

窓際に座る本音が景色に感嘆の声をあげる。ちらりと、海を見て視線をすぐに前に戻す。

別に海が嫌いという訳じゃない。それより気になる事があるのだ。

俺の斜め前にいる篠ノ之。元々、仲が良い訳じゃないし、なんなら織斑との一件以降、会話していない。

そんな奴が、今日はやたらと視線を向けてくる。殺気のようなものをセットにして。正直、鬱陶しい。

 

「(面倒ごとにならないと良いが……もうこの考え自体がフラグにしか感じねぇ)」

 

思わず溜息を吐きそうになる。

 

ムニっ

 

「ほんへ?どふした?」

 

「あかやん暗い顔してる〜笑顔笑顔〜」

 

そう言って、ダボダボの服で器用に俺の頬を引っ張る本音。

何が楽しいのか笑顔で引っ張り、無理やり俺の口角を上げる。

なんだろう…なんだか、無性にやり返したいぞ。

 

「うわわっ、このぉ〜」

 

左手で本音の頬を軽く引っ張り、その柔らかさに驚く。

なんだ、この柔らかさは。いつまでも弄っていたくなる。

ムニムニと互いの頬を弄る俺と本音。

気づけば、篠ノ之の事など頭から抜け落ち、全力で本音を弄っていた。

 

「んんっ、お前ら良い加減にしておけ。到着したぞ」

 

千冬が咳払いと共に現れる。

 

「全く、こういうのは四十院の役目だと思っていたんだがな。まぁいい。

仲が良いのは結構だが、周りが見えなくなる癖は直せよ。何度、到着したと呼んだことか」

 

頭を押さえ、やれやれといった感じの千冬。

そんなに長いこと本音と遊んでいたのか。時間というのは経つのが早いな。

 

「えへへ〜ごめんなさーい」

 

「気をつけるようにするぜ。千冬」

 

「赤也、一応全員降りてるが、私の呼び方には気をつけろよ。私が言えたことではないがな」

 

「特大ブーメラン感謝です。織斑先生」

 

揶揄うと振り下ろされる手刀を、ヒョイと避けて立ち上がる。

流石に稽古で散々見てるからな。初動ぐらいは掴める。

 

「チッ、避けられたか」

 

「教師してくださいよ。織斑先生」

 

「ふっ。ほら、お前達で最後だ。とっとと降りろ」

 

まーた、イケメンスマイルで誤魔化してるよこの人。

仕方ない。大人しく降りますかね。

本音と一緒にバスを降りる。入り口には、神楽とシャルロットが待っていた。

 

「あ、来た」

 

「本音さん、私達と同室なんですから、ほら、行きますよ」

 

「ごめんごめーん。しゃるるんに、かぐっち〜」

 

本音がトコトコと二人に合流し、頭を下げる。

あの三人が同室なのか。

 

「もぅ、ラウラは先に部屋に行ってるよ。随分とノリノリだったから、今頃海に行ってるんじゃないかな?」

 

「えー、ほんと!急がなくちゃ〜」

 

「……急ぐ気あるのですか?本音さん」

 

わちゃわちゃと盛り上がりながら、旅館の中に入っていく三人。やっぱり、女子が集まると賑やかだ。

 

「何をボーッとしている。こっちだ」

 

ぐいっと引っ張られる。半ば引き摺られる様に、連行される。

抵抗する間もなく、旅館内部へと連行され、部屋に案内(強制)される。

 

「…旅館でも俺と千冬が相部屋かこれ?」

 

「そうだ。文句があるなら、織斑と同室にしても良いんだぞ?」

 

「やめてください。死んでしまいます」

 

千冬の言葉に謝罪しながら、荷物を下ろす。

織斑と相部屋にされたら、ストレスとかでお互い得しない。敵対視されてるし。

 

「……そこまで嫌か」

 

言葉の割にショックを受けていない顔の千冬。俺と織斑の相性が悪いのはよく知っているのだろう。

 

「俺とあいつは、根本的に相性が悪い。

それはどうあがいても変わらない。仮にあいつが、強くなってもな」

 

千冬に背を向け、海に行くための荷物を用意する。

 

「私はな赤也。弟と弟子には仲良くして貰いたいと思っている。

どっちも私にとって可愛い存在だ。その両者がいがみ合っていては悲しくなる。ただ、私にも責任はあると自覚している。

弟との時間が少な過ぎるが故に、私はどう接したら良いのか分からなくなっているんだ」

 

「……俺が言えるのは一つだけだ。本音を言えない家族なんてすぐに崩壊するぞ。

海の用意が出来たから、行ってくる。千冬も後から来るんだろ?遅くなりすぎないようにな」

 

スッと立ち上がり、部屋を出る。

その時、千冬の顔は見れなかった。俺は既に家族なんて絆を捨てた。

だから千冬の悩みにどう答えて良いかなんて分からない。でも、後悔のない選択をしてくれると信じてる。

 

「…アルベールさんもそうだが、家族に悩みのある人多くね?」

 

揃いも揃って俺の周りに集まりまくってんなぁ。

 

「まぁ、捨てた俺に繋ぐ努力をしてる人に言えることはないな」

 

更衣室へと向かう途中で、暑苦しい熱をプレゼントする太陽を睨みながら零す。

俺の選択が愚かだと判断する人もいるだろう。

だが、そういう奴は至って幸福な人生を送っている。所詮、持ってる人間は持っていない人間の考えを理解しない。

 

「…既に死んだような人間が思う事じゃないか」

 

更衣室に入り、荷物を置き着替える。

少し思考が鬱になりかけていた。海で遊んで気分を変えよう。神楽に選んでもらった暗い赤色の水着に着替え、これまた暗い赤色のパーカを羽織る。この右腕……もはや腕以外の所にも侵食が進んでいるが、海水で錆びないよな?

いや、今までも普通に風呂とか入ってたし、大丈夫だろ。

自分の相棒を信じて、外に出る。眩しいくらいの日差しに目を痛めながら、歩く。

女子達の楽しげな声を邪魔しないように、ゆっくりと声の方には極力視線を向けないようにする。

そして、目に飛び込む着ぐるみ。

 

「は?」

 

「おー?」

 

俺が首をかしげると同じように連動して、首をかしげる着ぐるみ。もとい、本音。

いやいや、それ水着か?センスがぶっ飛んでるのは知ってたが、ここでもか。

 

「変わった水着だな。本音」

 

「ふっふー、可愛いでしょう?あかやんも、格好いい水着だねぇ」

 

可愛いか可愛くないの二択で言えばたしかに可愛いが、その水着は機能的にどうなんだ?

溺れたら助けに行くの大変なんだが。

 

「溺れないよぉ〜。私、ちゃんと泳げるもん〜」

 

「さらっと心読まないでくれませんかね。本音さんや」

 

「あかやんの考えてる事ぐらいお見通しなのだぁ〜」

 

ぶいぶいと言いながら、ダボダボの水着?でおそらくピースを作る。

はぁ、まぁ本音は本音だ。気にするだけ無駄か。

 

「意思疎通が便利だな。それと、ほら飲んどけ、喉渇いてるだろ?」

 

やっぱりふつうの水着よりは暑いのだろう。

本音の勢いが少し、ほんの少しだけ弱い。多分、喉が渇いてるのだろうとアタリをつけて持ってきたスポドリを渡す。

 

「あかやんも私のことわかってるぅ〜」

 

右手の肘で俺の脇腹をつつきながら、スポドリを受け取る本音。

そりゃまぁ、分かるさ。

 

「本音に出来て俺に出来ないわけがないだろう?過ごした時間は一緒なんだからな」

 

「たまーに、態とやってるかと思うよ〜あかやん」

 

ん?何がだろうか。

ゴクゴクと勢いよくスポドリを飲む本音をぼけっと見ながら、飲み終わるのを待つ。

やっぱり、喉渇いてたんだな。

 

「ぷはっ〜ありがとう、あかやん」

 

「おう」

 

半分ぐらいになったスポドリを受け取る。

ちょうどそのタイミングで、ボールが飛んでくる。ビーチボールか。

神楽がこっちに向かって来てるから、神楽が使っていた物だろう。タイミングを合わせ、ボールを神楽の方へ飛ばす。

 

「うわっ…声ぐらいかけてくださいよ」

 

「上手くキャッチしてるから良いだろう?」

 

ジト目で見てくる神楽。

着ている水着は、俺が選んだ黒のハイネックビキニだ。やっぱり、似合ってるな。

 

「こっちでビーチバレーでもしましょう。本音さんと同じチームにしますから」

 

「お、おう。なんで本音と同じチームにするのか分からんが、別に良いぞ」

 

「…本音さんが下手すぎて」

 

「察した」

 

動作が緩慢過ぎて、本音がいるだけで大変なんだろう。

うん。凄く想像できる。

本音と神楽と一緒にビーチバレーが行われている場所に移動する。そこには、シャルロットとラウラ、あと数人のクラスメート達がいた。

 

「よぉ、シャルロット、ラウラ」

 

「あ、赤也もこっちに来たんだ。本音と一緒にいるってことは、僕達とは敵チームだね」

 

「姉の威厳を見せる良い機会か」

 

「だから、姉辞めろって……」

 

相変わらずのラウラにいつものようにツッコミを入れる。

 

「……しれっとわたくしを省くとは、良い度胸ですわね西村?」

 

「おおっーと、居たのかオルコット。すまんすまん、見えてなかったぜ」

 

かなりのオーバーリアクションでオルコットへと返す。

え?煽ってるのかって?もちろん。それ以外の目的なんてない。

 

「…ふふ。そうですかそうですか。わたくしも西村とは別のチーム。

特別に、念入りに相手しますわ」

 

「ほー、代表候補生の腕前に期待ですねぇ…」

 

試合が始まる前から火花を散らす俺とオルコット。

互いに睨み合ったまま、対面のコートに入る。俺のチームは、本音と神楽。

対して、オルコット、シャルロット、ラウラの西欧チーム。

 

「行くぞ!」

 

「行きますわよ!」

 

このあと、本音が凡ミスしたり、ラウラがルールを理解していなかったりで似た通ったかの点数の取り合いをし続け、途中で乱入して来た千冬によって俺もオルコットも惨敗した。

千冬……強すぎ。

ボールに弾き飛ばされるってどこのスポーツ漫画だよ……

楽しい時間と云うのは圧倒的に早く流れ、すでに夜。1日と云う時間が終わりに近づいていた。

 

「…身体を動かすとやっぱりねみぃ…」

 

布団で横になり数分で意識が途切れ途切れになる。

 

「赤也?すでに眠ってるのか?」

 

「…ん?……まだ起きてるが…眠い…」

 

「そうか。なら、おやすみ、明日は大変だぞ」

 

おう。おやすみと俺は返事を返せただろうか。

微睡んだ意識ではもうそれすら分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬SIDE

 

寝息を立て気持ちよさそうに眠る赤也を見ながら、明日のことを考え溜息を零す。

 

「あいつが来るのか……何も起きないでくれと願うのは相手が間違えているか」

 

束が面倒ごとを連れてこない訳がない。ましてや、妹へのプレゼントを持ってくるのだ。

絶対に何か厄介ごとを起こす。そんな直感が私にはあった。

 

「……一夏はまだ束から認識されている。箒も酷い目に遭わされることはないだろう。

だが、それ以外の一般生徒やモルモットと称されてる赤也は別か」

 

教師として私は生徒を守る責務がある。

それは例え、友人の天災からでもだ。

 

「これぐらいは許せよ赤也」

 

寝ている赤也の髪を少し上げ、露わになったおでこにキスをする。

 

「私の覚悟のようなものだ。あぁ、それ以外に他意はないさ。

おやすみ、赤也」

 

誰に言い訳をするのか、まるで分からないことを言い、布団で横になる。

存外、私も疲れていたようですぐに眠気がやってくる。

目に浮かぶ己の友人の幻影に、何もするなよっと願いつつ、私は意識を手放した。

 

 

ーだが、そんな淡い希望は天災には通じなかったー

 




次回は、いよいよ天災が登場します。
いやぁ、何が起きるのでしょうかね(棒)

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