神様は残酷で気紛れだ   作:マスターBT

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無人機戦の完結と、福音戦の2回目ですね。
ほんとは、無人機戦も完結するはずはなかったんですが、筆がのりました。


少女達の想いと覚悟

IS学園、一年生の専用機持ち。布仏本音・西村赤也・更識簪・織斑一夏を除いた彼女達は今、海を飛んでいた。

先頭を突っ切るのは、中国代表候補生の凰鈴音……では、無かった。

今回の作戦違反の行動を立案・メンバーの説得まで行った彼女の頭は、感情よりずっとずっと冷えていた。

想い人を意識不明の重体に追いやった敵。

いの一番にでも、そいつをぶっ倒してやりたい。彼女のそんな激情は、理性と友への信頼で押し込まれていた。

 

「……」

 

箒には一発叩くだけで済ませた。

本当は、後悔してISを捨てるまでぶん殴ってやりたい。でも、しない。そんなことは、想い人が望んでいない。

だから堪えた。第四世代なんて規格外の力は必ず必要になるから。

福音へと向かう彼女達を遮るかのように、海面から正体不明機が現れる。

 

「…頼んだわよ。セシリア、ラウラ」

 

自分より前を飛んでいる二人。セシリアとラウラに正体不明機の相手を託す。

この二人は別に織斑一夏が堕ちた事への仇討ちに来た訳ではない。

あのとき、自分達が不意を突かれたとはいえ、手間取り救援に行けなかった。その後悔の尻拭いに来たのだ。

 

「同じ手で不意打ちとはな!!」

 

「芸がありません事よ?」

 

ラウラが正体不明機に接近し、投げ飛ばす。復帰に戻ろうとするところを、セシリアがビットで攻撃する。

壁は一切、役目を果たす事なく、鈴、箒、シャルロットを通過させる。

 

「さぁ、わたくしと踊ってくださるかしら?」

 

ビットを背に従え、優雅に微笑むセシリア。

しかし、その目には爛々とした闘志の炎が宿っている。

 

「踊りの作法なんか知らぬが、なに。礼砲ぐらいは送ってやろう」

 

レールガンを正体不明機に放ち、不敵な笑みを浮かべるラウラ。

その目は獲物を狙う獣の如き、鋭さだ。

 

「「いきますわよ(いくぞ)、無人機!!」」

 

令嬢と軍人が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

福音まで残りわずか。

傷の回復でも狙っているのか、身体を丸め、活動を停止させている。

それを視界に捉えた鈴、箒、シャルロット達。

特に鈴は我慢の限界が近いのか、その眼光は殺気に満ちている。

 

「鈴、手筈通りに行くからね」

 

「…えぇ。そういえば、シャルロット。あんたは、別に一夏が好きなわけじゃ無かったよね?」

 

「僕が参加してるのがそんなに不思議?」

 

ロケットランチャーを展開し、静止するシャルロット。

 

「えぇ。もちろん」

 

「あはは、確かに異性として一夏が好きなわけじゃない。

でも、僕は彼に救われたんだ。赤也が用意してくれたものとは違って、まやかしでいずれは壊れてしまう様な救いだったけど、それでも確かにあの時、僕の心は救われたんだ」

 

照準がゆっくりと福音に合っていく。

それが重なり、トリガーに指をかけながら、シャルロットは口を開く。

きっと、赤也が現れなければ一夏に惚れていた…その言葉は心の奥へとしまう。

 

「だからかな。僕はこうして今、ここにいて君達に協力してるんだ」

 

トリガーを絞る。

カチッという音ともに、ロケットランチャーは福音へと放たれ、休息状態にあったため、直撃し爆音と共に黒い煙幕を生み出す。

 

「狼煙は上がったよ!僕が援護する。だから、戦って鈴、箒!」

 

二丁のアサルトライフルを展開し、煙幕を突き抜けて現れる福音へ放つシャルロット。

シャルロットの言葉に目を丸くしていた鈴だったが、気を取り直し、双天牙月を構える。

 

「あんたに言われるまでもないわよ!!」

 

シャルロットの射線を邪魔しない様に意識しながら、瞬間加速で福音へと急接近し、斬りかかる。

 

「こちとら、もう我慢の限界なんだから!!」

 

犬歯をむき出しに、吠える鈴。

その勢いは、今までのどの彼女よりも苛烈なものだ。

 

「うっわぁ、バーサーカーみたい……」

 

「聞こえてるわよ!?シャルロット」

 

「ひぇぇ」

 

思わず呟いた言葉をしっかり聞き取っていた鈴。

その迫力に思わず、怯むシャルロット。味方同士でやっていいことではない気がするが、問題なく連携を取れているから良いのだろう。

 

「……」

 

未だ、迷いを断ち切れない紅き少女は動けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無人機の動きは変わらない。

正面から向かってるラウラを受け流しながら、人間には出来ない動きでセシリアの攻撃を躱す。

そして、攻撃は牽制程度のビーム攻撃。明らかに時間稼ぎが目的の動きだ。

 

「つれないですわね…」

 

今、現在の自身の限界であるビット三機を並行させながら、自分でも攻撃を行うセシリア。

口では余裕そうだが、内心では防戦に徹する厄介さに舌を巻いていた。

偏光射撃が使えればAIの処理に隙を作れる気もしれない。だが、今に至るまでセシリアは偏光射撃を一度たりとも発動させていない。

この本番で失敗したら、許されない状況。ぶっつけ本番で会得するしかない。

 

「賭け事は嫌いなんですが……」

 

「なんだ?策でもあるのか」

 

ラウラがセシリアの横に並ぶ。

足止めが目的であるため、この無人機。攻撃や福音の方に進むといった特定の行動をしない限り、襲ってこない。

ゆえに、こうして話をする暇がある。

 

「…無いわけではありませんが、成功率はほぼ無いに等しいですわ」

 

理論主義者であるセシリアからすれば、成功率が低いというだけで、竦んでしまうものだ。

ここで無人機を早く倒さなければ、先に行かせた者達の負担が大きくなることは、理解している。

だが、それでも、数字という見える結果に彼女は怯えてしまう。

 

「ふむ。お前が何を考えているか私には分からないが、私達は尻拭いに此処にいる。

これが終わったら、私から赤也に伝えておこう。セシリアは、臆病者の腑抜けであったとな」

 

安い挑発だ。

だが、セシリアの感情に発破するには十分すぎるものだった。

 

「わたくしが西村に腑抜けと思われる?……ははっ、そんっなの我慢できませんわ!!

優雅で気品あるわたくしが、あの獣馬鹿に、下に見られる?……考えただけで吐きそうになりますわね」

 

何もそこまで思わなくてもっと思わず、出かけた言葉をラウラは押し込む。

彼女の直感が、今のセシリアには余計な事は言わない方が良いと、告げていた。

セシリアの苛立ちに反応したのか、無人機がビームを放つ。それを綺麗に避ける二人。

 

「ラウラさん!」

 

「な、なんだ?セシリア」

 

セシリアの気迫に引きながら答えるラウラ。

そんなラウラの様子など知らんと言ったばかりに、口を開くセシリア。

 

「徹底的に叩きますわよ。合わせて下さいな」

 

自分の限界数のビットを使いながら、狙撃銃を乱射するセシリア。

対する無人機も流石に、一斉攻撃を食らっては堪らないと言わんばかりに、身体のあらゆる部分を捻り避ける。

 

「……やはり、未だにセシリアと赤也の関係性がよく分からんな」

 

動きの変わったセシリアを見て、ラウラは呟く。

自分にとっての力を追い求める彼女には、まだ人の感情の理解などといった方面への理解が薄い。

 

「……ああもぅ、ちょこまかと」

 

一斉攻撃も、気色の悪い動きで避け続ける無人機。

やはり、通常の攻撃手段では分が悪い。遠距離武器というのは、相手の間合いに入る事なく、攻撃できる便利なものだ。

だが、武器から放たれた弾丸は、直線上の軌道しか辿らない。

近接武器の使い手達のように、複雑な攻撃は余程の領域にいるガンナーではないとできない。

 

「…それをわたくしのブルーティアーズなら可能とする…」

 

避けた弾が曲がり、自分を襲ってくる。

相手からしたら、やられたくない攻撃だ。しかも、任意に曲げることが出来れば、曲がるか曲らないかの二択を相手に押し付ける事ができる。その迷いは戦闘において、命取りとなり得る。

 

「私が時間を稼いでやろう」

 

ラウラがセシリアの横を抜け、無人機へと格闘戦を仕掛ける。

それを見て、ビットを自分の周囲に戻すセシリア。

右手を自分の胸に当て、左手でビットの一つを優しく摩る。

 

「…ブルーティアーズ。

わたくしが不甲斐なく、西村相手に壊され、無様な敗北を与えてしまいました。

いずれ、西村にはリベンジを果たすつもりです。ですから、貴女の力を貸してくださいな」

 

目を閉じ、優しく声をかけるセシリア。

この時は、ラウラと無人機の戦闘音、波の音。何もかもが彼女の耳には届いていなかった。

 

『どうぞ、セシリア様。私の力を自由にお使いください』

 

そんな声がセシリアには聞こえた気がした。

目を開き、ビットを全て操作する。自らは動けなくなるが、今までのどの動きよりビットは早く動いた。

ラウラの邪魔をしないように放たれたビットのレーザー。それは、今までの同じように回避される。

だが、セシリアに焦りはない。

 

「…曲がりなさい」

 

そう、静かに命じる。

直後、レーザーが全て曲がり、無人機へと当たる。避けたはずの一撃、それがあり得ない方向から自分に当たった事に、無人機のAIは処理落ちを起こす。

 

「やれば出来るではないか」

 

目の前で動きを止めた、無人機に至近距離でレールガンを放つラウラ。

爆発音と共に、無人機は吹き飛び、近くの小島へ勢いよく叩きつけられ、再起動しようとしたところをレーザーの雨に焼かれ、機能を停止させた。

 

「ッッ…!?頭痛い……」

 

ふらふらとしながら、ビットを呼び戻すセシリア。

頭を押さえ、苦痛に顔を歪めているが、どこか嬉しそうであった。

 

「ふふっ……やりましたわね。ブルーティアーズ」

 

そのセシリアの言葉に反応するように、ブルーティアーズは薄く蒼色に発光した。

 

 




次回は、どっちだろう。
意識不明の一夏君の精神世界話か、赤也の方か。
多分、筆がのったほうになるかと。

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