神様は残酷で気紛れだ   作:マスターBT

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悩んだ結果、今回は赤也SIDEの話です。





「ほらほら」

 

「チッ」

 

右腕で掴みかかろうにも、揺らめく炎の様に、掴む事が出来ない。

ああくそっ。終始、ニヤニヤとした笑みで避けられ続けられるのは腹が立つ。

勢いよく、本音と共に戦いを始めたが、俺も本音も正直、遊ばれている。

 

「専用機を持っていながらこの程度か?」

 

「このぉ!」

 

本音とMの戦いも、Mが慢心してるが故に本音が押し切られる事はないが、勝ち目が薄いのは分かる。

どうにか俺がスコールをぶっ飛ばして援軍に行きたいが…

 

「気が散ってるわよ?」

 

言葉と共に飛んできた火球をクローダで防ぐ。

視界が塞がるが、右目のお陰で問題はない。だが、炎の鞭が両側から向かって来る。

 

「貴方の右腕は、掴まれると厄介でしょ?でも、これなら掴めない」

 

ああそうだよ。

上昇して鞭を避ける。右腕で掴める武装なら、掴んで破壊するんだが、掴めない炎を使われるとジリ貧だ。

なにせ、サードオニキスには、遠距離武装がない。牽制用のバルカン?威力が低すぎる、論外!

 

「クッソ、相性悪いな…」

 

「ふふっ。ほら、諦めなさい?貴方はこちらに来るだけの素質があるのよ。

その才を活かすには、良い場所よ」

 

「しつこいな…!その誘いは断った筈だ」

 

急降下しながら、右腕を振り下ろすが、避けられる。

輻射波動を発動させたままの一撃だった為、地面が派手に爆ぜる。

その煙幕を利用し、クローダをブチ当てる。ガチンッという、金属音が聞こえるが、吹き飛ばした手応えはない。

 

「少しだけ驚いたわ。良い策よ」

 

「チッ……悠々受け止めておいてよく言う」

 

ISの尻尾を利用して、受け止められている。

ガチガチと、尻尾とクローダが火花を散らす。炎の鞭を遊ばせた状態でこのぶつかり合い。

しかも、スコールは両手がフリーだ。明らかに、俺が不利でいるこの状況。

 

「ふふっ」

 

余裕なツラしやがって、ぶん殴りてぇ。

俺如きでは、自分を傷付ける事はないと分かりきっているのだろう。だが、その慢心に隙がある筈だ。

セシリアの時の様に、意表さえ突ければ…

 

「きゃあ!?」

 

「…なんだ、つまらん」

 

本音の九尾ノ魂が地面に叩きつけられる。

その衝撃で、未だに立てない本音の頭を踏みつけるM。

 

「本音!!」

 

「力、抜けてるわよ?」

 

腹部に強い衝撃が襲い、吹き飛ばされる。

本音に意識を割いた瞬間に、尻尾がクローダをすり抜け、俺の腹部に攻撃してきた様だ。

 

「……なるほどね。彼女は貴方にとって大切なのかしら?」

 

腹部を押さえながら、近づいてきたスコールを睨みつける。

くそっ、どうやって本音を助け出せば良い…俺が巻き込んでしまったあいつを…

 

「目は口ほどに物を言う。貴方は特に顕著ね」

 

「あ?」

 

嫌な笑みを浮かべながら、俺を見るスコール。

 

「今まで抑えてきた反動なのか、貴方の目は感情を色濃く現わすわ。

そうね、今は動揺と私に対する嫌悪ってところかしら。少しはポーカーフェイスを覚えた方が良いわ」

 

「…はっ、だからなんだ」

 

「獣の様に牙を尖らすのは、結構。敵とみなせば、一切容赦なしそれも素晴らしい。

自分の身体が機械へと置き換えられていても、正気を保つ異常性。どれをとっても私好みよ」

 

なんだ、こいつ。

俺は口説かれてるのか?こんな気色の悪い口説きなんてされたくなかった。

 

「あまりやりたくないけど、貴方のその脆さは命取りよ。M」

 

「おい、スコール」

 

「加減をしなさい。大丈夫よ、ブレイン。やりすぎたら、私が止めるわ」

 

何をする気だ。

Mの方を恐る恐る見る。スコールとプライベートチャンネルで会話しているのか、口を動かしている。

溜息を吐いた後、足蹴にしている本音を見る。

 

「悪いな。これも作戦だ」

 

シールドピアーズを右腕に装着したM。

それを本音の腹部に押し当てる。

 

「や、やめろ!!!」

 

「ダメよ」

 

尻尾が開き、押し付けられる。

パワータイプのサードオニキスでもビクともしない。なら、輻射波動で…

ガチっと右腕から音がなる。肩が尻尾に押さえつけられ、動かせない。

 

「このぉぉ!」

 

有線式ビットが九尾ノ魂から放たれ、Mへと向かうがあっさり避けられ、アサルトライフルで破壊される。

身体を捻って、Mから逃れようとするが、叩きつけられた時のダメージが抜けきっていない本音では、脱出が出来ない。

 

「あの子がこれから追う被害は貴方のせいよ。貴方が弱いから、貴方の警戒心が足りなかったから、貴方が分かりやすかったから」

 

パチンッと指を鳴らすスコール。

同時にMのシールドピアーズが本音に突き刺さる。

 

「ガッ」

 

ドンッ!

 

「ぐっ」

 

ドンッ!

 

「あぐっ」

 

ドンッ!

 

やめろ…やめてくれ……本音が苦しい声を上げる。

 

「…ぐふっ」

 

ドンッ!

 

「やめろ……」

 

辛そうな声を上げる本音に何も出来ない俺の心の方が限界を迎える。

自分の中の何かが折れてしまう…そんな感覚を味わう。

 

「…だい…じょうぶだよ…あかやん」

 

聞こえてきた本音の声に反応し、勢いよく、本音の方を見る。

そこには、苦しい筈なのに。痛い筈なのに。優しい顔で、俺を見ている本音がいた。

だが、それも一瞬で次の瞬間には振り下ろされたシールドピアーズの一撃により再び、苦痛に歪んだ。

俺は今、なに、安心していた?

あいつの大丈夫に一瞬でも、なに救われた気分でいた?

 

無力なままで俺はなにをしている?

 

右腕を見る。

そして、次の瞬間俺は真っ白い不思議な空間に立っていた。

 

「……なんだ、ここは」

 

「私の世界です。マスターの心が限界だったので、こうしてここに呼びました」

 

俺の目の前に、眼鏡をかけた赤髪の女性が現れる。

というか、この声はサードオニキスだよな。ってことは、こいつはサードオニキスか。

 

「……おい、サードオニキス」

 

「なんでしょうかマスター」

 

「力を寄越せ。俺を好きなだけ食っていい。だから、その代わり本音を救えるだけの力を寄越せ」

 

こいつがサードオニキスなら、それが出来るはずだ。

俺の身体を機械へと置き換え、常人では決して得ることのできない力を与えたこいつなら。

 

「よろしいのですか?これ以上は、マスターの負担が増えますが」

 

俺の提案に驚いた様な表情を見せるサードオニキス。

 

「構わない!本音は、俺が巻き込んでしまった。

俺の為に傷つくあいつは、もう見たくないんだよ……だから、既に死んだも同然の不甲斐ない俺一人の負担であいつを助けられるなら…こんな身体、どうなろうが知ったことか!」

 

「…なるほど。他者のためにその身を投げ出す。それは、貴方が嫌いなヒーローと何か違いはあるのですか?」

 

「あぁ?今はそんな」

 

「教えてください。私は、人を知りたい。

人の考え方、精神性。人が多種多様である要因を私は知りたいのです。なにせ、私は知識欲の塊ですから」

 

感情のない目で、淡々と告げるサードオニキス。

くそ、こんな問答をしてる暇はないっていうのに。だが、答えなきゃ延々とこいつは繰り返すそんな確信がある。

 

「ここで会話をしていても、現実世界ではほとんど時間経過はありませんよマスター。

コンピュータが簡単な数式を20ほど並列して、演算する程度の時間しか経ちませんから。マスターが人間をやめてるお陰ですね」

 

「そうかよ。だが、長々話す気はない。

ヒーローは人を選別しない。ただ、目の前の命をがむしゃらに救おうとするだけさ。だが、俺は本音だから助けたいと思う。

今、目の前にいるのが織斑や篠ノ之なら俺は見捨てる。あぁ、オルコットなら嘲笑うな」

 

「では、マスターの様な行動を取る人をなんと呼ぶのですか?守ろうという行為には違いはないはずです」

 

ほんと、こいつめんどくせぇな。

 

「さぁな。人は、不特定多数を大切に思える精神構造はしてない。

俺は俺が大切だと思える奴を守れればそれで良い。人間に残された獣性ってところだろうよ」

 

不特定多数を大切に思える精神性が人間に備わっていれば、戦争なんて起きないだろう。

自分の夢や、自分の大切な人のためなら、容易に人は他者を傷付ける。

それは、獣と何も変わらないだろう。だが、俺はそれで良い。

 

「なるほど。では、マスターは獣なのですね」

 

「……なんで、俺はどこに行ってもそういう扱いなんだろうか」

 

「知識は得ました。では、マスターの望む力を差し上げます。

ですが、私の力には対価として」

 

「構わんと言ったはずだ」

 

「……分かりました。では、また話せる時を楽しみしています」

 

視界が真っ白に染まり、俺は現実の世界に引き戻される。

そして、同時に右腕から凄まじい激痛が走る。

 

「ガッ…アァァァァァ!!」

 

「ッッ!?西村君!?」

 

「スコール離れろ!この反応は……二次移行に一番近いか…全く、君の考えは彼のトリガーを引いてしまった様だぞ」

 

右腕から発せられる紅い光に視界を覆われる。

意識を手放したくなる激痛を、本音を救いたいと言う一心だけで耐える。

何かが作り変えられていく感覚に吐き気を催しながら、耐えていると紅い光が収まる。

 

「……本音を離せ」

 

「なっ!?」

 

Mを左腕に装着され、クローの様になった小型クローダで挟む。

同時に、新しく増えたテールブレードをスコールへと放つ。ふむ、中々に距離が伸びて使いやすい。

 

「ぐっ……離せ!!」

 

「断る」

 

暴れるMの顔面の前により鋭くなった右腕をかざす。

そして、広範囲に放てる様になった輻射波動を放つ。そのまま、乱暴に左腕を振り抜き、スコールへと投げ飛ばす。

 

「……まるで獣ね」

 

Mを受け止めたスコールの言葉は的を得ている。

鋭くなった両腕、両脚。それに尻尾。空を飛ぶISと真反対を行く、地を走る獣のごとき姿。

装甲は多少増えた様な気がする。

 

「本音、無事か?」

 

「…あか、やん?」

 

「あぁ。すまないな、俺が弱いばかりに」

 

「そんな……私は……」

 

なにかを言いたそうにしていたが、本音は気絶した。

本音を横にし、キュルキュルと音を立てながらテールブレードを引き戻す。

 

「これ以上はやらせないぞ……亡国企業」

 

さっきの激痛の所為か、嫌な汗が止まらないし、意識も飛びそうだが俺は右腕を敵に向ける。

 

「チッ、甘ちゃんが…」

 

敵意全開で俺を見てくるMと視線で火花を散らす。

どうやらこいつをどうにかしないと、逃げられない様だ。

 




本音を助けるために、赤也は力を欲し、対価を捧げた。
二次移行を果たした彼だが、なにを失うことになるのだろうか。

今回、かなり悩みながら書きました。
色々と私の趣味を詰め込んで形になりましたね。哲学的な考えするの大好きなんです。

感想・批判お待ちしています。

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