なんだか、とても難産でした。
Mに関して自己解釈と独自設定が足されています。苦手な方はご注意を。
背後には気絶している本音。正面には殺気を凄まじく向けてくるM。
俺自身も、相変わらずサードオニキスの影響で意識を手放しかねない。だが、ここで引くわけにもいかない。
「…M」
「分かっている。だが、今どうしてもこいつをぶん殴りたい衝動を抑えられる気がしないんだブレイン。
お前は生身だ。スコールと一緒に逃げても構わん」
「逃げんよ。だが、制限時間が迫っている事は頭に入れて置いてくれ。
スコール、我々は傍観で良いな?」
「…はぁ、良いわ。こうなった責任は私にもあるしね」
俺を舐めているのか?……いや、違うな。そんな感じの雰囲気じゃない。
まぁ、なんでも良い。俺もこのまま、素直に引き下がる気は無い。
ブレードを展開し、斬りかかってくるMに合わせ、小型化したクローダで受け止める。
「貴様は!……自分が居るべき場所を失っても、その場所を取り戻す気は無いのか!」
「…あぁ?それが復讐がどうとかって話に繋がるのか?」
クローダでブレードを弾き飛ばし、テールブレードを振り回す。
この姿になったときに、使い方は無理やり脳に叩き込まれたが、思念操作ってのはやり辛いな。
案の定、荒い動きでMを捉える事はできず、両手に展開したサブマシンガンを撃たれる。
「ぐっ!」
本音に当たらないように、右腕を突き出し輻射波動を広域で放つ。
輻射波動に触れた銃弾は膨張し、本来進むべき方向とは別の場所へと飛んでいく。
「そうだ!自分が居る場所、居るべき場所を奪われ、なぜ何も思わない!」
「そんなIFを考えた所で意味が無いからだ。その居るべき場所に居る俺が居るかもしれない。
もしかしたら、そこでなんの不自由もなく生きてるかもしれない。だがな!俺はそうならなかったんだよ!!」
あぁそうだ。
あのテロに巻き込まれてなければ。篠ノ之束がISなんてものを生み出さなければ。
身体が機械になる事もなく、平和に生きたかもしれない。だが、今の俺は違う。
「その理不尽に抗う気は無いのか!」
「さぁな。少なくとも、俺は今を手放す気にはならない。
あり得た幸福を幻視したところで、意味なんかないんだよ。どうせ、この目に映る景色は変わらん」
右腕とブレードが激突し火花を散らす。
俺とMも至近距離で睨み合う。
「この…腑抜けが」
「あぁ?」
その言葉にイラっとする。無意識のうちに眼つきが更に悪くなる。
「現状に満足して、いや貴様の場合は諦めか?
まぁ、どちらでも良い。自分を偽るだけの理由を見繕う。ふん、その姿は実に腑抜けだ。現状に満足して先を求めない。
その生き方は、楽だろうな。なぁ、死人?」
……死人か。
あぁ、その言葉は否定出来ない。事実、俺はそう思ってこの場にいる。
すでに死んだはずの俺がサードオニキスによって、生かされている。もっと言えば篠ノ之束に。気紛れでも起こせば死ぬだろう。
なにせ、モルモットだ。
「確かに俺は死人だろうよ」
死人と自分を定義しているからこそ、俺はあり得た幸福なんて求めていない。見てすらいなかった。
過去も本音のお陰で、決別した。俺はいずれ死ぬ。サードオニキスが俺を食い尽くすか、篠ノ之束が俺の電源を切るか。
まぁ、何であれおおよそ普通の死に方ではないだろう。
だから、俺には此処に至るまでの過去もなく、いずれ辿り着く未来もない。今という事実だけが俺を俺として定義している。
「だがな、死人にも欲しいものがあるんだ。無いとは思っていても、続いて欲しいと思う今があるんだ。
…俺は俺を斬り捨てる方法しか知らんがな。例え、これがお前の言う腑抜けであろうと、俺はそれを否定する。
そして、否定ついでにお前をぶっ飛ばす」
小型化したクローダごと、左腕をMの腹部に放つ。
距離を取ろうとするMのブレードを右腕で掴み、逃がさない様にし、輻射波動を放つ。
さぁ、好きな方を選べ。殴られるか輻射波動か。
「このっ!!」
右眼が知らせる予測は、輻射波動の回避。
ブレードを手放し、輻射波動が伝わない様にする。だが、睨み合うほど至近距離にいたんだ。
拳を避ける余裕はない。
「舐めるなよ」
右眼の予測が現れるのと、ほぼ同時に動き、身体を捻る様にして至近距離で俺の殴りを避ける。
チッ、流石の操縦能力だな。だが、まだだ。俺にはまだ、やれる手が残っている。
クローダのアームを開く。拳を避けたが、ギリギリで避けようとしたため距離はさほど開いていない。その隙間を狙いアームを通す。
「捕まえたぞ」
Mの腹部を挟むクローダ。
だが、俺の完全有利という訳ではない様だ。
「こちらのセリフだ」
顔に向けられるのは二丁のショットガン。
ISの絶対防御は、完璧ではない。衝撃や圧力はある程度操縦者にフィードバックされるし、エネルギーが切れたらまぁ、グロテスクなものが誕生するだろう。
ついでに言うなら、俺の方が不利だ。サードオニキスの反動が辛い。此処に追い討ちがくれば、あっさりと意識を手放す自信がある。
だが、後ろの本音の為に此処で意識を手放す訳にはいかない。
エムSIDE
私の頭の中は目の前の男。西村赤也が気に食わないという感情で一杯になっている。
こいつの過去を調べていた時は、なんて憐れな奴だと思うと同時に、私の同類だと感じた。
私は、
私という存在は、私を生み出した存在に支配され、当たり前の自由などなかった。だから、亡国機業のスコールやブレインに拾われて、任務以外は自由を与えられても、私の胸を支配している欲望は消えなかった。
『織斑千冬と織斑一夏。あの計画の成功例。それが、何にも縛られず当たり前の生活を享受している』
あぁ、巫山戯るな。なぜ、私とお前らはこうも違う。なぜ、私はそうなれなかった。
同じ、人工的に生み出された存在でありながら何故だ。
私にそんな幸福は与えられなかった。与えられたのは、落とすことの出来ない血の汚れと、ほんの僅かな優しさだけだった。
優しさをくれたスコール達には、悪いがこの原初の想いは消せない。
『私のあり得た未来をのうのうと生きているあの二人が、殺したいほどに憎い』
だから、あいつもそうだと思った。
私と同じようにとはいかなくても、復讐心はその身に宿していると。
そして、思った通りあいつは宿してた。私と同じ黒い感情を。あと少しで、こちら側に落とせると思った時にあの女が邪魔をした。
「あかやーん!どこー?
勝手に持ち場を離れると怒られるよぉ〜!!」
能天気な声だった。
お気楽で、甘ったるくてふわふわとした砂糖菓子の様な声だった。その声を聞いた瞬間、あいつの目は元に戻っていた。
それが憎かった。同類だと思った奴も、私が憎む当たり前の日常を得ていた。
だから、戦いであいつの本質を浮き彫りにしてやるのと同時に、苛立ちをぶつける事にした。
スコールとブレインにはやり過ぎるなと事前に言われているから、ある程度は抑えたが…
だが、今はお互いに我慢勝負をするしかない。掴まれているだけだが、これを振り解く気にはならなかった。馬鹿の一つ覚えの耐久戦に乗ってやる事にした。
「……一つだけ聞く。何故、お前の目は濁らない?」
銃口を向けてこんな質問をする私を不思議に思うのだろう。
顔を顰めるが、諦めた様に口を開く。
「知るか」
全く、こいつは微塵も私の質問に答える気がない。
だが、こいつの本質は見えた気がする。私とこいつは似ているが、同じじゃない。あの砂糖菓子の様な女を守る為に、一歩も動かないこいつは同類ではない。私なら、捨てておく。そこまでして守りたいと思える存在など居ないからな。
「「アァァァァァッ!!」」
ほぼ同時に叫び声をあげ、攻撃を始める。
同類ではないが、こいつの殺意に満ちた獣の様な眼は好きになれそうだ。そんな事を考えながら、私は引き金を引き続けた。
「…時間だ。これ以上は引き延ばせない」
ブレインの声と同時に、スコールが動き俺とMを引き剥がす。
そして、驚く様にあっさりと引いていく。あんまりにも綺麗に引き上げるものだから、身じろぎひとつ言葉も発さずに見送ってしまった。
よくよく考えればそんな余裕が無かっただけかもしれないが。
「…っとそうだ。俺も早く戻らねぇと」
後ろを向き、気絶している本音を背負う。
一歩、踏み出すとサードオニキスが解除された。エネルギー切れを起こしたのだろう。重くなるが、気合いで耐える。
ゆっくり、ゆっくりと歩き、旅館へと戻る為に俺は足を動かす。俺を引き止めてくれた大切な暖かさを感じながら。
「……やっぱり気合いってのも続かない……ものだな…」
サードオニキスによって繋がれてた意識が途切れ始める。
何か通信が入っているが、もはや何も聞こえず俺は遠ざかっていく意識の中、本音を潰さない様に前のめりに倒れる事だけを考え続けた。
次に目を覚ませば、全てが終わっていた。
はい、赤也くん気絶です。
彼は置いてきた。この戦いには着いて来れそうにない。
サードオニキスによる弊害とかはまた、どこかで。
感想欄で悪魔と表現されてて凄くしっくりきた私でした。
感想・批判お待ちしています。