「いたた……やはり、ぶっつけ本番はわたくしには向いていませんわ…」
無人機を倒したあとのセシリアとラウラ。
偏光射撃を本番で使った代償に、凄まじい頭痛がセシリアを襲っており、先行したシャルロット達に合流出来ずにいた。
「だが、本番でいきなり使えるだけセシリアは優れていた。その証明だろう」
「そのあと、こんな頭痛に襲われなければ完璧でしたのに……ラウラさんは先にみなさんの援護に行っても良いのですよ?」
「無人機が一機とは限らん。今のお前が襲われて対処出来るのか?」
「うっ」
ラウラの呆れるような視線と言葉を受けて、何を言えなくなるセシリア。
現在の二人は、近くにあった孤島に着陸し、身を隠しているため、仮に無人機が居てもそう簡単に見つかる事はないが、それでも最悪の場合に備えるのが一番だろう。
「ん?おい、セシリアこの反応は」
ラウラがレーダーをセシリアと共有する。セシリアがそれに目を通すと、そこには一機のISコアの反応があった。
その反応は、彼女達の友人がいる旅館から福音方向に一直線に向かっていた。
「白式?…一夏さんは動ける様な状態では無かったはず…」
それにしても速度が速い。
仮に今から、ここを離脱してもおそらく追いつけないとセシリアは思う。こんなに白式は速かっただろうか。
「動けるかセシリア?あの半端者が、戦場に来れば余計な被害が出かねない。
私達が行ったところで、それを防げるとは限らんが、シャルロットの負担を減らしてやる事はできるだろう……それに」
言葉を不自然なところで止めるラウラ。
「もちろん動けますわ……それで続きは?」
「…いや、なんでもない。動けるのなら行くぞ」
言うが早く飛び出すラウラ。
言葉の続きが気になりながらも、置いていかれる訳にもいかないセシリアは痛む頭を我慢し、ラウラを追いかける。
(教官から送られてきた『赤也の反応が消えた』という言葉。
我がドイツのレーダーを使っても同様だった…なにか起きていると言うのだ)
「…最優先事項は福音だ。だから、頼んだぞ本音」
心配と信頼の篭ったラウラの言葉は、大海原へと溶けていった。
彼女はまだ結末を知らない。
「ちょっと!?箒!!」
鈴が悲鳴にも似た叫びを上げる。シャルロットに窘められてから、彼女は自分が冷静になるまで大人しくしていた。
もちろん、シャルロットが危険になればすぐにフォローに入れるように気を抜いてはいなかった。
だが、流石に目の前で行われている光景は予想していなかった。
「…私の戦いの邪魔になるな」
「がっ……」
箒の刀が勢いよく振るわれ、背後からがら空きのシャルロットの背中を攻撃していた。
第四世代のフルパワーが乗った一撃だ。その衝撃がどれだけシャルロットにダメージを負わせたかは想像に難くない。
事実、箒の一撃を食らいシャルロットは、弾き飛ばされている。その勢いは止まることなく、近くにあった島に叩きつけられた。
「……」
それを無機質な目で見送り、箒は福音へと斬りかかる。
暴走している福音すら、唐突の行動に驚いたのか回避が遅れる。その結果、福音は防御を選択した。
とはいえ、福音にはシールドの類は搭載されていない。その両腕を装甲の硬さにものを言わせ、刀を受け止める。
ガキンッ!と派手に火花が散り、福音の腕と箒の刀は拮抗したように見えた。だが、それは余りにも刹那な時間だけだった。
「フン」
腐っても紅椿は篠ノ之束謹製の、第四世代機なのだ。
軍用とはいえ、並み居る凡人もしかしたら、天才も混ざっていたかもしれない。だが、天災を甘く見ることなかれ。
現行ISを凌駕する性能とは正しく、それらと篠ノ之束の差を表しているのだ。
刹那の拮抗は崩れ、福音は飛ばされる。腕の装甲は砕けこそしなかったが、ヒビが入った。もう一度、攻撃を防げば砕け散るであろう。
「La!!」
それは許されない。
福音のコアの僅かに残った理性が働く。その理性は、大好きな乗り手を、今現在自分の暴走に付き合わされ、意識を失っている乗り手を守るために使われた。吹き飛ばされた福音がとった行動は、光弾をばら撒きその速度にものを言わせた離脱。
「逃げられると思ったか?」
だが、展開装甲を用いた高速移動により追いつかれる。
光弾は障害にすらならなかった。これが第四世代、紅椿の性能だ。恐怖か福音はヒビの入った腕を咄嗟に振るってしまう。
箒はただただ、無感情にその手を打ち払う。直後、ヒビの入った装甲が砕け散り、内側の人の腕が露出する。
「なっ!?……人が乗ってる…暴走って聞いて勝手に乗ってないと思ってたけど」
鈴が驚く。だが、それも仕方がない。
彼女は無人機という存在を知っているし、セシリア達が無人機と戦っていた事も知っていた。
そして何より、依頼を出した国も人が乗っているとは一言も言っていないのだ。その可能性を捨てていた。
「…La…La…」
福音は砕けた腕の装甲を見て、怯えるような声を出す。
もはや、光弾を打ち出す事もなく、箒に背を向けて逃げ出そうとする。だが、それは余りにも無謀だ。
「背中を晒すとはな……愚かな」
箒の刀が振るわれると、福音の背部ウィングが切断される。
バランスを失った福音はふらふらと、堕ちる。トドメと言わんばかりに、その背中を貫くように刀を下にし勢いよく降下する箒。
「何やってんのよ!!!!」
鈴は咄嗟に動いた。
その結果、鈴の双天牙月はギリギリで箒の刀を受け止められる。
「…邪魔だ。今はお前を相手する時ではない」
「くっ…なんて力なの……箒!あんたどうしたのよ!?」
鈴の叫びにも箒はその表情を変えない。
無機質な目で鈴を見て、首を傾げる。
「私は別に普通だが。私の意思の赴くまま、戦いを求めているに過ぎない。貴様の相手もしてやるとも。
だが、今はその時ではない。まずは、アレにトドメを刺してからだ」
「トドメって……あんたも気づいてるでしょ!?福音には人が乗ってるの!
なんでそのISがそこまで馬鹿力なのかは知らないけど、そのまま攻撃してたら中の人ごと斬るわよ?」
「それの何が悪い?戦いとはそういうものだろう」
箒の返答に鈴は絶句する。
様子がおかしいとは思っていた。だが、これは異常だ。殺人を容認している。
「……チッ」
箒は舌打ちとともに、片手で刀を振るう。
火花が散り、箒を狙って飛んでいた銃弾が切断される。そのまま、息つく暇もなく飛んでくる銃弾を箒は切り落とす。
「…覚悟しろとは言ったけどさ。味方ごととは言ってないよ?」
「……」
銃弾が止み、シャルロットが少し離れたところで話しかける。
だが、その言葉に箒が返事することはなく、ただシャルロットを睨むのみ。
「どうやら正気じゃないみたいだね……鈴、箒を大人しくさせよう。幸い、福音はもう動けないようだし」
ちらりと福音を見ると、島に着地し怯える子供のように身を丸くしている。
誰がどう見ても戦意があるようには見えない。
「えぇ、そうね。……箒、一体何があったのよ」
「どうやら貴様らはやる気の様だな。ならば、相手しよう」
鈴の言葉は箒には聞こえず、箒は武器を構える。
シャルロットの銃声が合図だった。箒が先ほどの様に、斬り落とし戦いは始まる。
鈴は衝撃砲を放ち、シャルロットは距離を詰める。右手に装着したシールドピアーズを当てに行く。だが、鈴の不可視の弾丸はまるで見えている様に避けられ、シールドピアーズも刀で受け流されてしまう。
「この!」
高速切り替えで、サブマシンガンを呼び出し放つ。
いくら紅椿が早いとはいえ、至近距離で銃弾は躱せないという判断のもとだった。
「……ふん。甘く見るなよ?」
だが、展開装甲により阻まれる。紅椿に搭載されている展開装甲は、一夏の零落白夜とは違って多方面に使える。
そして最も効率よく調整されたソレは、一回の使用でエネルギーをアホみたいに使うなんて事はない。
圧倒的なエネルギーの壁が銃弾を防ぎきっていた。
「なっ!」
「弱いな。貴様」
二刀がシャルロットには視認できない速度で振るわれる。
そして、それを受け切れる訳もなくシャルロットは海水に堕ちていく。救いだったのは、ISのシールドエネルギーが僅かに残っていた事だろう。
「シャルロット!!」
激昂した鈴が双天牙月を勢いよく振るう。
箒の持つ刀より大きいそれは、あっさりと二刀で捌かれる。箒に当たる事はない。
「なんでよ……なんでなの箒!!私達は一夏で譲れない事があった!でも、シャルロットにはそれがなかった!!
なのに、私の我儘に付き合ってくれたのに!!どうして…今回の事で一番、当人のあんたがその想いを踏みにじってるのよ!!!!」
「…ギャンギャン喚くな煩い」
鈴の言葉に取り合うことはなく、双天牙月を鈴の両手から弾き飛ばす箒。
武器が吹き飛び隙だらけの彼女を斬ることはなく、わざわざ刀をしまい、首を掴む。
「ぐっ…かはっ…」
「一思いに終わらせてやろうと思ったが、先ほどので辞めた。このまま、首を絞めてゆっくり苦しませてやる」
無機質な目で残酷な笑みを浮かべる箒。
ゆっくりと鈴の首を締め上げていく。その度に呼吸が浅くなっていく鈴。
「な……んで……なのよ……この…ばか…」
自分が死ぬかもしれないそんな時に、鈴は自分の事ではなく、急変した箒の事を考えていた。
だが、その言葉も想いも今の箒には届かない。姉により戦う事しか考えられなくなった今の箒には。
いよいよ、意識が薄れだす。ISとて万能ではないのだから。
「(あぁ……死ぬなら一夏に想いを告げておくんだった…あの唐変木め……でも、今ならあいつの唐変木な言葉すら聞きたいと思っちゃうな…やだなぁ…死にたくないな。友人を殺人者にして、想い人には何も言えず…惨めすぎる)」
涙を流し、抵抗すら辞めその瞬間を待つ鈴。
すでに彼女の心は限界を迎えていた。落ち着く暇すらなかったのだから。
「何やってんだよ!!箒ぃぃ!!」
そのボロボロの精神に光が宿る。もう二度と、聞くことはないと思っていた想い人の声だ。
白い流星が箒の手から、鈴を奪い去る。
「ゲホッゲホッ!……いちか?」
抱きかかえられた鈴が自分を抱えている人物に声をかける。
身体が酸素を求めており、その声はひどく掠れていたが。
「あぁ。俺だ、鈴」
凄く優しい声だった。鈴を思い遣る優しい声。
それは限界の鈴には心地よく、今まで限界に張っていた鈴の糸を容易く緩める。ボロボロと涙を零し、鈴は一夏をただ見つめる。
「心配かけたな。俺は大丈夫だ、箒を元に戻してみんなの所に戻ろう」
ボロボロと泣く鈴の頭を優しく撫でる。
「シャルロットを頼めるか?」
一夏の言葉に鈴は無言で頷く。
それを確認して、笑みを浮かべて一夏は鈴を離す。鈴はゆっくりとだが、海面に浮かんでいるシャルロットを助けにいく。
「箒」
「……次はお前が敵か」
一夏の言葉ですら箒には届かない。
ヒーローになると覚悟した一夏。その最初の敵は大切な幼馴染だ。
「……俺は絶対、お前を救う。それがヒーローだからな」
言葉とは裏腹に手は震えている。
今は正気を失っているが、箒は一夏にとって大切な味方である。ヒーローになると覚悟したその直後、味方にその剣を向けなければならない。まだ青いどころか芽吹いたばかりの彼の覚悟は酷く揺れていた。
「…来い」
それに対して、冷静な箒。
正気ではないが為に、迷いのない彼女を未熟なヒーローは救う事が出来るのだろうか…
やっぱりBGMあった方が手が動きますね。
さて、いよいよ一夏さんの初戦です。相手は福音ですらなく、箒さんですが。
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