こっちは、風が凄いぐらいで被害はありませんが、気は抜けません。
みなさんも、十分に気をつけてください。
「ハァ…ハァ……何度やっても勝てねぇ…」
山田さんに負けた後、無理を言って試合を続けたが、30戦0勝30敗北。みるも無残な結果になっている。
最後の方は、サードオニキスにも慣れてきたのか攻撃を当てる回数も増えたのだが、敗北。
「さ、流石に疲れましたぁ……教師になってこんなに動かす事になるなんて思っていませんでしたよ…」
山田さんも疲れているようで、ゆっくりと降りてくる。
いやぁ、意地に付き合わせて申し訳ないですっと心の中で謝罪しておく。
『いい運動になっただろう山田先生。西村も、もう満足しただろう。戻ってこい』
気のせいでなければ、楽しげな声の織斑千冬。エネルギーを補給するために、ピットまでフラフラと飛んでいき、サードオニキスを右腕に戻す。
「いっつ……サードオニキスも疲れてるのか?」
27回目辺りから、サードオニキスを右腕に戻す度に、僅かな痛みが右肩から伝わってくる。
何度も戦うのに付き合わせたし、文句を言われてもおかしくない。
「十分すぎるほどのデータが手に入った。これなら、学園長も満足するだろう」
右肩の痛みに、疑問を抱いていたら、織斑千冬が現れる。そういや、すっかり忘れてたけどサードオニキスのデータ集めでしたね。
山田さんと戦うの楽しくて、忘れてたけど。
ただ、やはり力があってもそれだけじゃ駄目だと改めて認識させられた。少しは、やれるかもしれないと思っていた自分をぶん殴りたい。
「今の所、第三世代機に見られるイメージインターフェースの様なものは、見受けられないが、第二世代としては、各部性能が高すぎる。
よって、利便上、サードオニキスだったか?それは、第三世代機とする」
「あの、俺が男だってこと忘れてます?そんな、専門知識を言われてもまっっったく、分かりませんよ」
男のIS分野理解なんて、整備士や開発者を目指していない限り、分かるわけがないだろう。
「そう言うと思っていた。これを読んでおけ」
ドンという音ともに、置かれるタウ○ペー○のごとく厚さがある本。
ISの教本。しかも、初歩中の初歩を集めたものだろう。いや、読めと?
「読め。1週間後には、IS学園での授業が始まる。そのために準備しておけ」
「あんたは鬼か!?この厚さを1週間で覚えろってか?」
ふざけんな、横暴だー!!っと心の中で追加しておく。
え?なぜ、言葉にしないかって?そりゃ、お前。
「……ん?」
すっごい、目が笑ってない殺気溢れまくりの世界最強の顔なんて見たら言えませんよ。
「そういや、俺、どこで寝泊まりすれば良いんすか?」
ここにきて、あのクソ家族のところになんか戻されたくねぇぞ。
IS動かせます、なんてバレたら俺の右腕は、無くなって俺も多分、死ぬ。
「一人目の部屋を無理やり都合した結果、現在、余裕がないし、教師陣も疲れ切っている。
余裕が出来るまでは、私と同じ部屋だ」
え、世界最強と同じ部屋なの?んー……サードオニキスに慣れるための情報を貰えるとしたら、良い利点か。
ただ、なんとなく俺の直感が告げている。こういう、外面が凄い奴って大概、内面が酷い。
だから、一つだけ質問をしてみよう。俺の生活に関わってくる。
「部屋、綺麗か?」
「……」
無言で明後日の方向を向く織斑千冬。
ギルティ、これは確定だ。ゴチャゴチャしてるな、確実に。
「貰ってばかりってのも、嫌だから対価だ。
俺はあんたに、住むところとISについて教えてもらう。その代わり、あんたの部屋の掃除とそうだな、家事を俺が受け持つ。
これでどうだ?悪くない提案だろう」
女尊男卑の風潮に拍車をかけた様な人だから、腹も立つし恨みもあるが、今は恩義の方が勝る。
そもそも、俺はこの人みたいな強い人は苦手だ。つい条件反射的に返事には同意を返してしまうし、逆らう気力が削がれる。
「なに、それは大いに助かる。あの、空き缶の山と味の変わらないツマミから解放される」
こういう人が見せる嬉し気な顔もまたズルイと思う。
「うわぁ、そんなにゴミ部屋なのか……早く案内してくれ。片付ける時間が無くなる」
「む?そうか。こっちだ、案内しよう」
それだけで、なんだか全てがどうでも良いと思えてしまうから。
はぁ、やっぱり好きなように生きるって難しい。
特にこれといったイベントがあるわけではなく、俺がIS学園の一生徒ととしての生活が始まる日がきた。
千冬と山田さん、以外の教師陣には相変わらず絶妙な距離感が存在しているが、まぁ、仕方ない。
ん?織斑千冬と呼ばなくなったのかって?
一緒の部屋で暮らすのに、呼ぶのが楽だったのと、綺麗にしても綺麗にしてもゴミを生成する千冬にブチ切れて、呼び捨てで呼んだらそのまま定着したという訳だ。
「赤也、私が呼んだら入って来い」
当然、千冬も俺の事を呼び捨てにする。元々、距離感を無視する方が千冬的に楽なんだろう。
「了解。あ、そうだ。一応、生徒がいる前では織斑先生と呼ぶけど、良いよな?千冬」
俺が礼儀を気にする性格なのは、知っているから度々、織斑先生と呼ぶのだが、その度に笑いを堪えたり、そもそも反応しなかったり。
反応しない時は、千冬と呼ぶしかないため、山田さんに散々、説教させられた。
「ん?そうか。私は別に、千冬と呼ばれても構わんぞ?」
「おうこら。あんたの悪戯好きは分かったから、ちゃんと教師モードになれや」
ほんと、この世界最強の事がよく分からん。堅物なのか悪戯好きなのか。
まぁ、言えることはお互いにこの関係を悪く思っていないということだ。だから、ついつい軽口が増える。
「ふふ、分かっているさ。中に入れば織斑先生で構わんよ」
話を終えると同時に、教室の前に到着する。
千冬が、俺の背中を叩き、入って行く。なんで、叩いていったし。
しばらく、教室が騒がしくなる。ほんと、外面はしっかりしてますね、千冬。
「訳あって遅れてた生徒を紹介する。入って来い!」
さてと、合図だな。
自動でスライドする便利な扉を開け、教室へ入る。
「……え?男?…」
「それになに……あの右腕……機械?」
ボソボソと聞こえる言葉。そして、奇異なものを見る視線。
分かっていたが、やはりこの右腕が気になるか。まぁ、どうでも良いや。
「西村赤也。そこの一人目の後に見つかった男性IS操縦者だ。
まだ報道されていないのと、ここに来るのが遅れたのは、事故で意識を失って検査が遅れたことと、俺が事故で失った右腕の代わりになるコイツの最終調整をしたからだ。男だからと、見た目が違うからと俺を避けるなら勝手にしてくれ。
そんな連中はこっちから願い下げだ。このクラスがまともである事を祈る。よろしく」
一応、最後に頭を下げておく。
まぁ、この挨拶で俺の印象なんて最悪以下になってるだろうから、この行為をしたところで焼け石に水だろう。
「くっくっく」
だから、笑うな、千冬。ほら、怖い笑い方をするから、周囲の女子がビビってるぞ。
「俺の席はどこでしょうか?織斑先生」
座る場所が分からないから、千冬に質問をする。なお、女子たちは俺の自己紹介と千冬の笑いによって完全に沈黙している。
もう一人の男子?それなら、俺の正面で固まってるよ。
「ん?あぁ、布仏の隣だ。赤也」
布仏と呼ばれた生徒の場所が分かりやすく光る。
ただ、その前にちょっと待てこら。なんで下の名前で呼んだ。
「え、今、千冬様、名前で呼んだ?」
「しかも、呼び捨て!」
「もしかして、そういう関係だったりするの!?」
ワイワイと盛り上がり始めるクラスメート達。
その原因である千冬は相変わらず、楽しげに笑っているし、俺の正面にいる男はめっちゃ、殺気みたいなものを飛ばして来るし……
厄介ごとが向こうから寄って来るようなそんな新生活の始まりになった。恨むぞ、千冬。
千冬さんを呼び捨てで呼ぶメンタル強い赤也くん。
こうなるとは、予想していなかった。