「んっ……あぁ、また気を失ったか俺は」
目を開き、慣れてしまった起きれば起きる前の記憶がない感覚。
それと同時に心地よいベッドの柔らかさはない。あるのは、硬い床の感覚。でも、目に移る景色は真っ白。
あー…サードオニキスの空間か此処。
「察しが良くて何よりですマスター」
「また用事か?それとも俺を食い足りなかったのか?」
「いえ、今回の分は十分に頂きました。ただ、そのせいで貴方は私であり私は貴方になったようです」
「はい?」
さて、サードオニキスの言っている事がよく分からない。
俺はこいつでこいつは俺?んん?つまり、どういう事だ。
「今はまだ、覚醒していないから分からないと思いますが、此処から現実に戻った時、マスターの身体の半分は私に置き換わっています。
産みの親の意向で、マスターの身体を侵食していましたが私自身効率良い方法だと思っています。
貴方は、対価として力を貰い私は貴方を通し、人を知る事が出来るので」
相変わらず淡々と告げてくるやつだな。
最初は言っている意味が分からなかったが、そういうことか。要は完全に半身になったわけだ。
身体がISに置き換わってるのは知ってたが、こいつ自身と置き換わってたってか。ん?つまり、思考が俺のものかこいつのものか分からないって事になり得るのか?
「いえ、そういう事はあり得ません。私はあくまで人を知りたいのです。
そこに干渉する気はありません。現実に戻っても、貴方の意思で貴方は動きますよ。ですが、貴方から求められた場合と、気絶し命の危機がある時は私が表面に出ましょう。まだ、貴方に死なれては困るので」
死なれたら困るね…どうせ、こいつの事だから人を知れなくなるからとかだろう。
俺を情報ツールの一つとしか見てないんだろうな。
「それにご不満が?貴方も私を武器として見ている。そこに違いはないでしょう」
「…さっきからしれっと考えを読み取るな。まぁ、確かに違いはないな。
むしろ、唯一無二の相棒として見られていたら驚きだ。それで、俺はいつ向こうに戻れる?」
俺が気になるのはそこだけだ。
俺の身体がどうとか、半身がサードオニキスとか興味ない。そんな事より、本音や神楽の所に行きたい。
「今、起きると痛覚で再び、気絶しますよ。半身になったせいで痛覚を共有する可能性があるので、大人しくしていてください」
「それ、どう考えてもお前側の都合だよな?」
「えぇ。そうですが?マスターにも利点はありますよ、あちらで心配なさっている方々に一瞬の安心を与えるよりは、マシだと私は推測しますが。あぁ、お気になさらず。これはただ、貴方を説得するのに一番良い方法を考えたまで。私が気を使っているとか考える必要はありません」
「……あぁ、確かに今の言葉で起きる気は取り敢えず無くなったよ。
だけど、お前一言多いぞ。後半を言う必要はないだろ……」
互いの都合を押し付け合う俺らの関係。
他のISコアがどうかは知らないが、少なくとも俺らのように利害関係だけで成立している所はいないんじゃないだろうか。
まぁ、余計な心配もされないから楽で良いんだが。
「他のコアの事が知りたければ教えましょうか?」
「何を対価にする気だ?」
「一問一答。それでどうでしょう?」
「分かった」
何もない空間と言うのは、落ち着かないけど、適当に座ってサードオニキスと向かい合う。
しかし、こいつの見た目はどこから来たんだ?赤髪にメガネ、ついでに分厚い本をか。別に俺の趣味って訳じゃなさそうだが。
「オルコットのコア人格」
「メイドですね。主に仕えるのを至上の喜びとするコア人格です。
そう言えば以前、お礼が来てましたね。マスターのお陰で主が変わったとか昔に戻ってくれただとか。興味なかったので聞き流しましたが」
聞き流すなよ!
それ、俺への伝言とかじゃなかったのか。あーいや、こいつの事だ。コア人格だからどうでも良いと思ってたな。
「では、私から質問です。人はなぜ、他者を利用したりするのですか?」
「…また、面倒な質問だな」
人が人を利用する理由か。
単純に自分の穴を埋めるために必要だからか?いや、貶めるやつもいるしな。俺の家族だったやつら宜しく、恩義なんて欠片もなくこき使う奴らもいるし。
「あー、そうだな。弱いからだろ、人は。一人じゃ出来ないから、他人を使う。
稀になんでも熟せる奴がいるが、そういうのは大抵食い潰されて終わりだ」
悪い言い方をすれば、他者と協力するという事だって利用になる。
集団の中にずば抜けた奴がいれば、みんなしてそいつを頼る。結果、そいつはいずれ自分の許容を超えて潰れる。
全員が全員とは言わないが、人って生物はそんなもんだろ。
「なるほど」
本を開き、 いつの間にか取り出したペンで書き込むサードオニキス。
あの本はあいつのメモ帳みたいなものだったのか。
しばらく待っていると、パタンと本を閉じて俺を見る。次の質問はって事か。
「ラウラのコア人格」
「ネジの外れやすい心配性なお姉さんという所でしょうか。普段は、少々大人しい感じですが、操縦者の事が大好きでして。
彼女とコンタクトを取れる日を今か今かと待ってますね」
あー…何というかあいつにはうってつけのコア人格だな。
その調子でドイツの副官とやらに汚染される前に、コンタクトを取ってくれ。
「コア人格との対話は、中々に大変なのでどうでしょうか」
「だから考えを読み取るなって……ん?それなら俺とお前はかなりあっさり話してると思うんだが」
「一問一答のルールを守ってください。次は私からです」
「あ、はい」
気になること言っておいて酷くね?
話してくれると思うじゃん。食い気味で、俺の言葉を遮らなくても良くないですかねサードオニキスさん。
「人はなぜ、他人を憎むのですか?愛することも出来るのに。人を愛していた方が、争いも起きず平和だと思うのですが」
サードオニキスの言葉に頭掻いて、溜息を吐いてから口を開く。
人を憎む理由?そんなもん単純だろ。
「自分は危害を与えられない、なんの不安もなく生きていられると思ってるから。
だから、その安全を脅かした者を憎む。何故なら、それが分かりやすいからな」
対岸の火事。昔からある諺、基本的に人はこれだ。
自分だけは大丈夫だろう。と思っている。だから、火事が起きれば野次馬になるし災害が起きても避難しない。
その害意が自分に向けられるとは微塵も思わないから。そして、数多ある害意が自分に牙向き、生き延びた時、人はそれを憎む。
人が人に向けた害意は対象が分かりやすい。戦争がいい例だな。
「そりゃ、誰も彼も愛する事が出来れば、争いは起きない。
だけど、そんな事出来る奴は人じゃないと俺は思う」
「なるほど」
再び、メモを取っていくサードオニキス。
その真剣な様子を見ながら、本当に人を知りたいんだなと思う。とは言え、俺の考えを聞くだけで何か得になってるとは思えんが。
「…確かにマスターから得られる人という情報は、酷く歪んでいると思いますが私としては有意義です。
産みの親は破綻しており、以前私と話していたコア人格からは、人の美しさをたくさん語られました。故に、マスターの様な視点を求めていたのです」
「人が美しいね……そんな訳ないだろう」
「それはマスターの周囲にいる本音や神楽、千冬にも言える事ですか?」
「ッッ…」
まっすぐ俺を見るサードオニキスの言葉に何も言えなくなる。
あいつらは……確かに俺が今まで会ってきた連中とは違う。本音のゆるゆるの笑顔、神楽の上品な笑顔、千冬のイケメンな笑顔。 それ以外の表情を次々と浮かんでいく。その光景はとても美しいと感じた。
「言えないな。あぁ…言えないとも。俺はあいつらの美しさに惹かれたから、一緒に居たいと自分を削ってでも居たいと思えたんだ」
「…やはり人とは面白い。どんなに厚い本を読んでも、私の好奇心がここまで満たされ、そして刺激された事はなかった。
故に私は知りたい、解き明かしたい。複数の感情という私達機械には生まれないものを持ち、その感情ゆえ矛盾をその身に抱えながらも、歩んでいける人という生物を」
淡々としていた今までのサードオニキスが嘘の様に熱が入っている。
正直、俺でもちょっと引くぐらいだ。だってもう、目がやばい。熱に浮かされて、俺が見えてる?ってレベルだ。
「失礼、少々取り乱しましたね。先程のコア人格との対話に関する説明をしましょうか。
単純にマスターと私の距離感が近いからです。物理的に接続されているから、容易に対話が出来ているのです」
「スッと冷えるな怖いから……」
「ISの待機状態が持ち運びしやすく、かつ装飾品になる理由がこれです。
可能な限り操縦者との距離を詰めるため。もし、ISがただ乗り込むだけの機械なら今になっても二次移行というものは発見されていないでしょう。それだけ、距離というものは私達ISに重要なものです」
「なるほどね。物理的に接続されてるし、今は半身になってるレベルだからこんな簡単に話せてるって訳か」
「はい。なので、先程お話しした条件が必要になる訳です」
「漸く理解できたわ」
にしても結構話してるがこの空間から解放される兆しが一向にない。
一応、こっちで覚醒したんだし身体も回復してくれて良いと思うんだが。
「まだ此処から出れないのか?」
「起きた直後にまた、意識を失いたいならどうぞ」
ですよねー。はぁ、この空間真っ白すぎて目が痛いんだよな。
「では質問です。マスターはヒーローは嫌いですよね。それは、自分を助けて貰えなかったからですか?」
「……あぁ」
「ヒーローがいるなら、自分を助けてくれた筈だ。自分は苦しかった辛かった。
だから、ヒーローなんて居ないと思わないとやっていけなかった。自分で、自分を救うしか方法を見出せなかった」
……いきなりなんだ。
俺のトラウマを抉って楽しいのかサードオニキス。
「いえ別に。ただ、常々疑問でして。なぜ、周囲に助けを求めなかったのですか?
自分で自分を救うのではなく、周囲に手を伸ばせば良かったんじゃないですか?そうすれば、誰かは助けてくれた可能性もあったでしょう」
は、ははっ、あの状況で誰に手を伸ばせと?
父親が消えて、母と姉妹は俺をおもちゃのように扱い、学校でも虐められる。周囲の人間や教師すら見ない振りだった。
女尊男卑に染まったクソみたいな奴らに、何もかも奪われた俺にただ耐え、いずれ脱出する為の準備をする以外のどんな方法があったって言うんだ!!
「…なるほど。マスターは早々に周囲を諦めた訳ですね。助けての三文字が言えなかった。
そして、その諦めは未だ貴方自身を縛っている。だから、余裕が無くなった時には必ず自分を切り詰める。
その術を私はどうでも良いと思いますが、苦情を貰ったので一応言わせて貰いますね」
「…苦情?誰にだよ」
「九尾ノ魂。本音のISですよ。あのコア人格は自己犠牲ってものが大変嫌いでして。
操縦者とマスターの自分を鑑みてない様子が癪に触る様子。九尾ノ魂の言葉をそのまま、伝えさて貰います。『貴方の主人の自己犠牲辞めさてくれません?もっと周りを特に本音ちゃんを頼るように言い聞かせて。貴女なら余裕でしょう?』だそうです。
確かに見舞いに来ている本音の様子は悪化の一途を辿ってますからね」
…ならどうしろって言うんだ。本音を助けたいと思った時に、俺しか居ない状況で、俺より圧倒的に強いやつを相手する。
そんなの俺を斬り捨てるしかないじゃないか。どうせ、気紛れで手に入った二度目の人生なんだから。
「マスターがそう思っても、本音や周囲の人はそう思わないのでは?
だって、彼女らは今の貴方しか知らないのですよ。まぁ、貴方の体の半分を頂いた私が言うのもあれですが」
「本当にお前が言うかって内容だな……そりゃ、俺だってな本音達なら頼っても良いんじゃないかって思うさ。
だけどな、俺は篠ノ之束の気紛れでしか生きてない。いつ、物言わぬ死体になってもおかしくないんだよ。
1秒後には死んでしまうかもしれないやつが、今を生きてる奴らに頼れるわけがないだろ。そんなの余計な重みを背負わせるだけだ」
本音達が俺に抱いてる気持ちにも気づいてる。人の感情を見抜くのは得意だ。
だけど、それに答える訳にはいかない。その一線だけは踏み越えちゃダメなんだ。
必死にその気持ちに気づかないふりをして、騙し続ける。
スッと、俺を見ているサードオニキスの目が細くなる。ここにきての、まともな表情変化だ。
「恐怖ですか。他者に怯えるのではなく、他者に重みを背負わせるのに怯える。
なるほど。マスターの様に頼らない生き方をしてきた人は、どう他人に頼って良いか分からない。そこに非常識な状況が合わさってしまった。損得の混ざった利用なら出来るのに、これはこれで興味深い感情ですね……っと、そろそろあちらに戻れる様ですね。
意識が覚醒へと向かっています。ここに引き止めておくのも限界になりました」
身体が引っ張られる感覚とともに、睡魔が襲ってくる。
多分、ここでの意識を一旦落とすつもりなのだろう。
「…チッ、好き勝手言っておきながらあっさりと送るんだな」
「えぇ。既に情報は得ましたから。そもそも、私には誰かを思い遣るなどという機能は備わっていないので」
「だろうな。そんなものがあったら、ここまで踏み込んでこない筈だ」
視界がぼやけ、サードオニキスが見えなくなってくる。
くそっ。あと、一言だけは言ってやる。
「自分と向き合えた良い機会になった。ありがとう」
そう言って俺の意識はこの場所から消えていった。
サードオニキスとは起きればいつでも話せるようになるんだろうけど、顔を見て言う機会はそうそうないだろう。
出来れば人の内側を散々荒らしていった礼に、驚いた顔をしている事に期待する。全く、ぼやけてて見えないが。
「この私にお礼?……やはり変なマスターです」
一夏が甘えるの下手なら、赤也は頼るのが下手です。
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