神様は残酷で気紛れだ   作:マスターBT

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遅くなりました。
何度も書き直しをいれて、漸く完成しました。


心配をかけない方法を初めて知りたいと思えた

「…さて、起きたんだが動けない」

 

サードオニキスに見送られて、現世って言いかただと俺が死んだみたいでアレなんだが。

まさか開幕こんな障害が待ってるとは思わなかった。

 

「…すぅ…」

 

「……」

 

呼吸をしているから、生きてると分かるぐらい憔悴しきっている本音が俺の左腕を枕にして、気持ちよさそうに寝ており動けない。

それならと右腕を動かそうとすれば、こんな鉄の腕を枕にして何が良いのか神楽が静かに寝ている。

両手に華というやつなんだろうけど、ちょっと動けない。

 

「まぁ、こいつらをこんなに心配させた俺の罰か」

 

いつも俺の隣でニコニコしてた本音と神楽。

二人ともそんな余裕はなさそうだ。多分、いや確実に心配をかけたのだろう。

 

「…こんな死人を気遣う必要はないんだが…この二人は学園に来てからの俺しか知らないっか。

サードオニキスのやつ、余計な事を言いやがって…」

 

今までは全力で押し殺せてきた。

だけど、それはあくまで自分しかそういう考えに至らなかったからだ。自分以外に言われてしまっては、押し殺すのが難しい。

何故なら、頼りたいと思う事がいけない事だと思えなくなるからだ。

あぁ……全力でこの二人に頼りたい。可能なら千冬にもだ。苦しい、助けてと頼ってしまいたい。

自分の中で傾く天秤。

しかし、それは熱の一切が伝わってこない右腕の冷たさで戻る。

 

「……いつ消え去っても可笑しくない命の重みを背負わせる意味はない。

この考えは間違ってない。あぁ、いずれ屍と鉄屑に変わる身だ。人ですら無い存在の重さはこの二人の人生に必要ない」

 

自分でも驚くほど冷え切った声を出している。

感情を殺し、理性だけで発した熱のない言葉。まるで、自分の右半身の様だ。

 

「…赤也さん。その言葉、認められません」

 

「聞いてたのか。神楽」

 

「はい。私は本音さんほど疲れ切っていませんから。赤也さんが起きたのを喜ぼうと思ったら、先ほどの言葉。

私は今、貴方が起きてくれたことに対する安堵と喜び。そこに、先ほどの言葉に対する怒りと悲しみでぐちゃぐちゃです」

 

身体を起こし、真っ直ぐ俺を見る神楽。

感情がぐちゃぐちゃだと言うが、その表情は無表情に近い気がする。

 

「…私は貴方を友だと思っています。

自らの時間を削っても、共有する時間が苦痛ではない楽しめる相手だと。赤也さんにとっては違うのですか?」

 

「違わない。本音や神楽と過ごす時間はとても楽しいさ」

 

「では、そんな存在の命が。私にとって、大切な時間をくれる存在が自ら、必要ないと言ってるのを聞いてなにも思わないと思いますか?」

 

「それは重みを背負わせる事であって…」

 

「私は弱いですよ。力のないただの一般生徒です。

有事の際は、専用機持ちの方々に守ってもらう事しか出来ません」

 

握りこぶしを作りながら神楽は話す。

自分に力がないことを悔いているのだろうか。目を閉じ、全身の力を抜き、神楽は俺を見る。

 

「前に私は言いました。しっかり戻ってきて欲しいと。

勝手に消えたら、私が満足するまで殴ると。先ほどの言葉を聞いて、これでは足りないと思い至りました。

私は、貴方が死んだら悲しみます。きっと、心が裂けるほどの痛みを味わうと思います。だから、後悔したくないのです。

あの時、こうしていたらなんて思いたくないのです。重みと言いましたね?」

 

「……あぁ」

 

「貴方が背負わせたくないのなら、勝手に背負います。寧ろ、既に背負っています。

貴方という存在は、とうの昔に私の人生に刻まれています。今更、勝手に消せると思わないでください」

 

四十院神楽という友人は、前から自分の意思が強かった。

織斑にクラスの大半が惹かれ、特に興味のない連中もそういう空気だからとなっているあのクラスで、最初から興味ないというスタイルを一貫していた。自分の感情に考えに嘘を吐く事が出来ない。俺はそういう彼女をよく知っている。

 

「私は弱いですよ。

でも、友達が重い荷物を持っているのなら、それを分けて持ってあげる事ぐらいは出来ます。友達が泣いているのなら相談に乗ってあげるぐらいは出来ます」

 

するりと神楽の白い綺麗な指が俺の顔に触れる。

優しい手つきで、俺の目元を拭う指。別に俺は泣いていない。涙も流していない。それなのに、何か掬われた様な気がした。

 

「あまり、私を馬鹿にしないでくださいね?赤也さん」

 

そう微笑む彼女は、眩しくそして格好良く見えた。

 

「強いな神楽は」

 

「弱いですよ私は」

 

互いに目を見て笑う。

あぁ、忘れていたな。友達ってのは、気楽に笑い合う事が出来て、支え合う事が出来る存在だった。

 

「既に背負っているか……重いと思ったらすぐに降ろして良いからな?」

 

「はい。その辺は友達だから簡単に出来ますよ。つまり、私が友達でいる限り背負っていると思ってください」

 

ここで簡単に降ろせるって言える辺りが神楽だよなぁ。

何というか俺という存在の思考回路が透けて見られてるみたいな気分になる。もし、ここで降ろせないと言われれば、俺はまた自分の中で押し殺す様にしただろう。だが、降ろせると言われれば一種の気楽さが出てくる。

背負う背負わないは、神楽自身が決めるというのだから。

 

「さてと、本音さん。いつまで寝たふりをしているのですか?」

 

神楽の言葉に、眠っていたと思っていた本音がビクッと動く。あれ、もしかして今までの話しを全部聞かれてた?

 

「大方、私達が真剣な話しをしていたのと、赤也さんが起きた事で手入れを怠った自分の姿を見られる事に恥ずかしさでも今更、感じて寝たふりをしていたと、いう所でしょうか」

 

ビクビクッと、本音が動く。

どうやら図星の様だ。いや、隠すの下手か本音よ。

 

「お、おはよう。あかやん」

 

「おう。心配かけたな本音」

 

顔を上げた本音を見て、やはりかなりの心配をかけたのだと思う。普段の本音らしさは何処かに行っている。

だけど、顔を赤くしながらも俺を見る目はよく知る本音のものだ。そこに酷く安心する。

 

「えっと……えっと……」

 

安心したのも束の間。

ポロポロと涙を流し始める本音。

 

「…本当に心配をかけた。だが、俺はこうして生きている。俺だけじゃ、あいつらにどうする事も出来なかった」

 

「違うよ…私のせいであかやんは…そんな身体に…」

 

「本音」

 

このままだと永遠と自分を責めそうな本音に呼びかける。

亡国機業に復讐を囁かれた時の事を俺はしっかり覚えている。

俺はあの時、本音が居なければ今この場に居ない。

 

「俺を繋ぎ止めてくれてありがとう。あの時、お前が来てくれなかったら、俺は今この場に居なかった」

 

本音を左腕で、抱きしめる。

まだ熱を持つ俺の左半身に本音の頭を当てる。

 

「…自分を責めるのはやめてくれ。俺はこの結果が最善だったと信じている。こうして、また友と居られるからな」

 

この結果が最善でなかったとしたら、一体何が最善だったというのか。俺達より明らかに格上の相手を前に、俺が半身を失うだけで済んだのだから。

 

「…馬鹿ぁ…あかやんが犠牲になってるよ。

私は、あかやんも居てかぐっちもいる場所が好きなんだよ?

結局、守られてるだけの私だけど、今度は貴方を犠牲にしない結果を得てみせる」

 

……あぁ、神楽に言われたばかりじゃないか。

俺の命は彼女達に既に乗ってしまっている。だが、俺は俺を切り詰める以外の方法が分からない。

 

「…そんな顔をしないであかやん。

私もかぐっちと一緒だよ。貴方に死んで欲しくないの。だから、私は強くなるよ。君が頼ってくれる様になる為に」

 

「無茶はしないでくれよ」

 

そう返す事しか出来なかった。

本音の言葉に偽りがないのは分かったし、覚悟も感じ取ってしまった。

 

「「貴方に言われたくない」」

 

「同時に言わなくても良いだろうに…」

 

思わず項垂れる俺。

まぁ、これでぐらい言われてしまうのは仕方ないか。あー、学園に戻ったら千冬に何を言われるか…ん?千冬?

 

「あっ」

 

急に思い出した様な声を出した俺を不思議そうに見る二人。

俺がずっと意識を失ってたって事は、汚部屋生成のプロ、千冬が一人で部屋を使ってた事になるよな。

 

「…なぁ、すぐに学園に戻る事って可能か?」

 

「多分、検査とかあると思うけどぉ〜どうしたのあかやん?」

 

これは千冬の名誉の為に言わない方が良いのか?

いや、咄嗟の嘘がこの二人に通用するとは思えないし、あー…バラす二人ではないか。

 

「千冬だけだと部屋がヤバい。

恐らく寮長室が、全くと言って良いほど整理されない書類と脱ぎっぱなしの服、さらに酒とつまみ。

何かしら間食していたらそのゴミも放置されてる。生活力がないんだ千冬は」

 

「…ふむ。そういう事なら連絡しておこう。彼女らと一緒に行くといい」

 

「アルベールさん!?なぜ」

 

「此処は私がいや、デュノア社が貸切にしている場所だからな。

そんな事より行きたい場所、居るべき場所に行くと良い。護衛も車も用意しておく」

 

それだけ告げて部屋を出て行くアルベールさん。

貸切ってマジか。んー、これはでかい恩が出来てしまったな。とりあえず、身体を起こし立ち上がる。

サードオニキスが判断しただけあって、身体に不調はない。右側も普段通り動く。

 

「…いや、スムーズすぎない?」

 

よく見れば鉄の色はなく、見慣れた肌色をしている。

近づいて見てみれば、それが機械だとは分からないだろう。まぁ、右腕は相変わらずの鉄なんだが。

 

『置き換わる前のデータは十分にありましたので、そこから最適になる様に設定しました。

見た目に関しても、侵食されている事がバレない様に表面を薄く覆う膜で人間と大差ない様になってます。腕に関してはめんどういえ、既に広まっているので問題ないかと』

 

「おい、本音」

 

「うん?」

 

俺の言葉に本音が反応して振り返る。なにー?とでも言いたげな表情と首を傾げる動作は可愛い。

って、そうじゃない。そうか、サードオニキスの声は聞こえていないんだった。

 

「いや、気にしないでくれ」

 

『私との会話で音声を出す必要はありませんが?……いえ、人とは言葉でやり取りをするものでしたね』

 

周りに人がいる時は、心の中で思うことにする。

とりあえず、着替えるか。病人用の服をいつまでも着てるわけにもいかないし。

 

「本音、神楽、一旦外で待っててくれ。着替えるから」

 

「分かりました。そこに学園の制服ですが、入っていますので」

 

神楽が箪笥を指差す。ほんと、準備が良いな。

本音達が出て行った後に制服に腕を通す。意識を失っていただけだが、随分と久し振りに感じる。

色々と巻き込まれ、行く事になった学園だが、今考えれば別に悪くない。ストレスになる元はあるが、それでも今まで生きてきた中で最も笑えている気がする。

 

「仮初めだなんだ言っても、結局俺は生きているのか」

 

呆れる様に自分を責める様に呟く。

どうせ、真っ当に生きる事なんて出来ないこの身体で、俺は繋がりを得て生きる意味を見出そうとしている。

もう、そんな当たり前に生きる権利なんて無いというのに。

 

「…あいつらが生きろという限りは足掻いてみるか。悲しむ顔が見たい訳じゃないしな」

 

扉を開けて外に出る。

 

「着替えるだけにしては少し、遅かったですね?赤也さん」

 

「男にも色々とあるんだよ」

 

扉を開けて反対側の壁に少し寄りかかりながら俺を待っていた神楽と軽口を交わす。

そんなことをしていると横っ腹から衝撃が来る。

 

「ぐふっ…本音…いきなりなにしやがる…」

 

「えへへ〜久しぶりでしょ〜」

 

「確かに久しぶりだけども…まぁいいか」

 

体当たりして満足そうに笑っている本音を見て何かをいう気力が失せた。

普段なら餌付けもといお菓子があるんだが、生憎気絶してた人間にそんな貯蓄はない。

適当に学園であった事を話しながら、此処の出口まで歩いていく。とりあえず、戻ったらオルコットの奴は弄っておこう。

 

「来たか。既に迎えは来ているぞ。まぁ、学園からほとんど離れていないから車も本来なら必要ないんだが」

 

スーツ姿のアルベールさんが立っていた。

はぁっとため息を吐くその姿は、かなりの疲労が見て取れる。

 

「男性IS操縦者の置かれてる現状は、どうにも芳しくない。

行動や言動には注意してくれ赤也くん。我々が否定しても、君の発言には敵わない」

 

真剣な顔で言うアルベールさんに対し、俺は頷く事でしか反応できない。

そもそも、気絶してて最近の情勢など知らないのだ。

 

「万が一、どうしようも無くなったら、自由国籍では無く、フランス国籍を選んでくれれば、私の動ける範囲が広くなる。だが、それは奥の手だ。君の道は君が選んでくれ」

 

そう言って、俺の頭を撫でるアルベールさん。

なんとなくその姿に蒸発してしまった俺の父親の姿を重ねた。

 

「…勿論ですよ、アルベールさん。世話になりました、ありがとうございます」

 

「これぐらい大人の責務さ」

 

静かに笑みを浮かべるアルベールさん。なるほど、確かにこの人はモテる。

男の俺から見ても格好良い人だ。アルベールさんに見送られ、外に出る。

身体はずっと陽の光に当たっていなかったからか、少し眩しさと頭痛を感じつつ、目の前を見る。黒い車が止まっていた。

 

「…ふっ、遅いぞ赤也」

 

その前にいつもの黒いスーツを着た千冬が腕を組みながら立っていた。

黒い車に千冬。まぁ、なんというか。

 

「ヤクザみたいだな」

 

「ほぅ?折角、迎えに来てやったというのに随分な言葉だな。これは、稽古のメニューをもっと厳しくしてやるか」

 

「げっ、それは勘弁してくれ千冬」

 

両手を合わせ、頭を下げながら千冬へ近づく。

 

「……まぁ、なんだ。無事で良かった」

 

目を逸らし、顔を赤くして言う千冬。

なんとも歯切れの悪いその姿に思わず、固まる。千冬も固まった俺をチラチラと見ながら、何も言葉を続けない。

沈黙は駄目だろうとなんとか口を動かす。

 

「た、ただいま。千冬」

 

いや、なんでただいま!?馬鹿なのか俺は。

無事で良かったに対して、ただいまはおかしいだろ。なんで、全く発していなかったこの言葉が今、このタイミングで出た。

ほら、目を丸くして千冬も俺を見てるよ。神楽と本音に至っては笑いを堪えてるし。

 

「ぷっ…くっはははは!

ただいまと来たか。そうだな、その言葉に相応しい返しがあったな」

 

大笑いをする千冬。

なんだか恥ずかしくなりながら、千冬を見る。すると、ふわりと優しく抱きしめられる。

 

「ーーお帰り。赤也」

 

優しい声でそっと、背中に手を回して耳元で言われる。

あぁ……千冬は俺を待っててくれたのか。いや、本音も神楽もみんなこんな俺を待っててくれたんだな。

あの時、亡国機業の誘いに乗らなくて良かった。此処が、俺の居るべき場所なんだ。

 




自分で書いてて、ほんと面倒くさい主人公だなと思えた。
まぁ、私の作品のオリ主はだいたい面倒くさいんですが。

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